介護を理由に退職する「介護離職」を防ぐためには?

最近、新聞やニュースなどでも注目を集めている「介護離職」という言葉。介護をする側の当人にとって、介護の大変さや離職後の収入源をどうするか?など、非常に頭を悩ませる問題ですが、40代・50代の従業員を抱えている企業にとっても、働き盛りの戦力が離職してしまうリスクという点から、決して無視はできないキーワードです。

従業員の介護離職を防止し、介護と仕事の両立を可能にするため、企業はどのようなサポートができるのでしょうか?また、国はどのような対策を取っているのでしょうか?
介護離職者の実態をしっかり理解し、家族の介護が発生した場合でも従業員が安心して働ける環境づくりを目指してみませんか。

介護離職者の実態について

いつ必要となるかわからないのが、家族の介護です。介護をする側の人が、介護に対する知識のない状態で模索しながら介護を行い、さらにこれまでと変わらず仕事をこなすことは、到底容易ではありません。さらに、少子高齢化が進む昨今、「自分しか親を介護する人がいない」という状況に陥る人は、今後も増えることが予想されます。

総務省が発表した「平成 29 年就業構造基本調査の結果」によると、2016年10月~2017年9月の1年間に介護・看護のために離職した人は99,000人にのぼることが報告されています。

では、介護のために離職せざるを得なかった人たちの理由は、何だったのでしょうか。

仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」(平成24年度厚生労働省委託調査:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)によると、介護離職経験者1,000人が回答した介護離職理由の第1位は「仕事と「手助・介護」の両立が難しい職場だったため」で、約6割を占めており、「自分の心身の健康状態が悪化したため」が第2位という結果でした。
また、離職時の就業継続の意向を聞いたところ、男女ともに5割強が「続けたかった」と回答しており、働き続けたかった人が多いことが分かりました。

介護しながら働くための国の支援制度について

働きたいけど辞めざるを得ない・・・。このような事態を避けるため、国は介護をしながら働き続けられるよう支援する制度として「育児・介護休業法」を定めており、休業や休暇、勤務時間の短縮に関する制度を設けています。

介護休業制度

要介護状態の家族1人につき、通算して最大93日間介護のための休業を申請できる制度で、最大3回まで分割して取得することが可能です。一般的には事業主を経由して申請することになります。なお、雇用保険に加入しており、一定の条件を満たしている場合は、国から介護休業給付金が支給されます。

介護休暇制度

前述の介護休業制度とは異なり、一日もしくは半日単位で休暇を取得することができる制度です。介護が必要な家族1人につき最大で年間5日間、2人以上につき年間10日間休暇を取ることが可能です。通常の有給休暇とは別に付与されるため、通院などの付き添い時に利用できるのが特徴です。

所定労働時間の短縮措置

その名の通り、介護のために所定労働時間を短くして働くことができる制度です。介護休業とは別に、制度の利用開始から3年間の間で2回以上利用することができます。
従業員が介護による勤務時間短縮を求めた場合、企業は「所定労働時間の短縮措置」「フレックスタイム制度」「始業・終業時間の繰り上げ・繰り下げ」「労働者が利用する介護サービス費用の助成」などといった選択的措置義務のうち、いずれか1つを選択し対応する必要があります。

所定外労働・深夜業の制限

要介護状態の家族を介護するため、残業や深夜業務の免除が受けられる制度です。
所定労働時間を超えての残業を免除されるタイプと、制限時間(1か月24時間、1年150時間)を超える時間外労働については免除されるタイプ、午後10時~午前5時までの深夜帯業務を免除されるタイプの3種類があります。利用できる期間などに違いはありますが、いずれも、請求できる回数に制限がないことが特徴です。


また、介護を社会全体で支える仕組みとして、国は介護保険制度を設けています。
介護保険制度とは、簡単に言えば介護を必要とする人に必要なサービスが受けられるよう、また、その費用を一部負担する制度のことです。介護を必要とする家族が要介護認定を受けると、以下のようなサービスが受けられます。

  • ケアプランの作成や家族の相談対応などの支援サービス
  • 入浴や排せつのお世話といった訪問介護、施設や病院などでリハビリを行うデイケアなどの居宅サービス
  • 特別養護老人ホームなどに入居する施設サービス
  • 介護ベッド、車いすなどのレンタルサービス
  • 自宅に手すりを設置したり、バリアフリー化するための工事費用の補助 など

このように、働きながらでも介護ができるための選択肢が、かつてより充実してきているのも事実です。しかし、「介護が必要になった場合に使える制度について詳しく知らない」方が多いという実情もあります。
ある企業の社内アンケート調査では、「公的介護保険制度の対象やサービス利用時の自己負担割合など、基本的な内容を知っている」と答えた人は、なんと3割程度という低さでした。企業は、この現状を認識しておく必要があると言えます。

介護離職を防ぐための企業の取組について

介護を理由に離職せざるを得ない従業員を減らすために、企業としてはどのような取組が考えられるでしょうか?そのヒントになるべく、2つの事例をご紹介します。

事例1:エンジニアリング業の例

ベテラン社員を積極的に活用しているA社。社員全体の6割が40歳以上となっており、介護離職者が増え始めたことをきっかけに、経営トップの判断の下、人事部門として本格的な対策の検討に着手しました。
最初の取組として、社員が困った時に参照できる「介護の手引き」を作成しました。その後、介護に関する実態把握を目的とした社内アンケートを実施。既に介護に関与している社員が多くいるものの、介護休業を1人も申請していないという実態が浮き彫りとなりました。

そこで、これまでもトライアルとして実施していた「在宅勤務」の要件を見直し、制度化に踏み切りました。また、外部の介護支援専門会社と契約し、全国どこからでも電話やメールで専門家によるサポートを受けられる窓口を開設。2等親以内の家族も利用可能としました。さらに、社員がやりがいをもって働ける取組として「なんでも相談窓口」を設置。プロのカウンセラーが電話やメールであらゆる相談に応じる体制を整えました。
制度の周知に向けては、労働組合と連携し、組合側からも自社の取組についての情報発信をしてもらいました。

今後は、相談しやすい職場作りのため、セミナーなどの場を活用しながら職場の理解を深める対策を行う予定です。

事例2:金融業の例

2016年度から人事運営の抜本的改革に取り組むB社。介護両立支援として、これまでも介護休業制度、時差勤務、時短勤務制度を導入していましたが、加えて「介護離職ゼロに向けた取組」と「介護両立者を支える社員への配慮」の2つのポイントで、介護に関連した制度を充実させました。

「介護離職ゼロに向けた取組」としては、週に1~2日休める制度として「短日勤務制度」と、過去に付与された年次休暇のうち取得せず残してきた休暇を180日まで積み上げられる「介護積立休暇」を新設。また意識改革として、管理職層が年2回実施する賞与面談の際に、面談する社員の介護に関する内容も確認し実態を把握することで、両立しやすいチームマネージメントの実践を促しています。

もう1つのポイントである「介護両立者を支える社員への配慮」は、介護両立者を支える社員側からの不満の声が寄せられたことをきっかけに取り組んだ施策です。理由は、支える社員側の負担感が一方的に重くなっていることでした。
まず、経営トップが介護両立者を支える社員についても認知し、報いていくことを発信しました。これにより支える社員たちの取組が「認知」されたことに対する喜びの声が多く寄せられました。
具体的な「報いる」取組としては、自分の仕事以外に突発的な休暇者や時短勤務取得者の仕事をサポートした社員を対象とした、賞与の上乗せ措置。さらに、介護の事由がない社員の積立休暇を買い取る仕組みを導入しました。また、両者間のコミュニケーションが重要であると考え、「支える側」の業務内容についても「支えられる側」にシェアしました。その結果、互いに分担し合える業務が見つかり、結果的に支える側の社員も早く帰宅することができるなど、チームとして業務効率化が進みました。

介護との両立は「自分事」として受け止めてもらうために、今後も経営トップから反復的にメッセージを発信すると共に、チーム内に介護両立者がいる場合のマネージメント能力を管理職に身に着けてもらうための研修を導入する予定です。

まとめ

介護離職を防ぎ、介護と仕事を両立させる為には、従業員自身の意識改革も大切ですが、安心して両立できる職場環境の整備や体制作りが重要です。

これから企業として介護と仕事の両立支援を検討されるのであれば、まずは従業員の介護に関する実態やニーズの把握から始めてみてはいかがでしょうか。
実態を把握した後、情報提供の仕組み作りや、相談窓口の整備、誰でも利用しやすい両立支援制度作り、そして制度利用時に後ろめたさを感じさせない職場作りなどの対策を進めてみましょう。
「介護と仕事の両立」について、全ての従業員が自分の事として学び、活き活きと働き続けられる企業を目指してみてはいかがでしょうか。

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