海洋プラスチックごみ問題について考える。個人、企業としてできる対策は?

最近、ニュースや新聞で「海洋プラスチックごみ」という言葉を耳にしたり、目にしたりする機会が増えてきました。プラスチックは、私達の生活のあらゆるシーンで活用されているだけでなく、多くの産業で用いられていますが、この身近で便利なプラスチックが、海の環境に大きな影響を与えているのです。
このコラムでは、「海洋プラスチックごみ」が世界的な環境問題であることを前提に、この問題を放置することで起きる問題や、解決に向けどのような取組が始まっているのかについてご紹介します。

なぜ海洋プラスチックごみが問題となっているのか

ペットボトルや食品容器、家庭用品に至るまで身の回りにある様々なものに使用されているプラスチック。軽くて加工がしやすく耐久性に優れている特徴から、プラスチックは第二次世界大戦後急速に普及しました。

しかし、便利である一方で、正しく処分されなかったプラスチック製品が「ごみ」として年間800万トンも海に流れ込み、「海洋プラスチックごみ」として今、大きな問題になっています。プラスチック製のレジ袋が完全に自然分解されるまでには1000年以上の年月がかかるというデータもあり、そのままの状態のプラスチックごみが海流に乗ったり海底に沈みこんだりしているのです。
また、海洋プラスチックごみは、単に「ごみ」であるだけでなく、海洋生物の生命を脅かしています。実際に、海洋プラスチックごみをクラゲと間違えて飲みこんだウミガメが腸閉塞になって死んでしまうということが起こっています。また、海岸に打ち上げられたクジラの胃から餌と間違えたプラスチックが大量に出てきたということも。
このように、海洋プラスチックごみは海洋生物に大きな影響を及ぼしています。しかし、海洋プラスチックごみの存在は、人間にも大きな影響を与える可能性があるのです。

海洋プラスチックごみが人体に及ぼす影響を知るうえで理解しておきたいのが、「マイクロプラスチック」の存在です。これは、海などに捨てられたプラスチックが、波や紫外線の影響を受けて、5mm以下にまで細かく砕かれたものを意味します。マイクロプラスチックを、海の小さな生物が飲み込んだ結果、魚や海鳥の胃からもマイクロプラスチックが大量に見つかるようになりました。こうしたマイクロプラスチックは食物連鎖を通じて人間の体内にも蓄積されているのではないか、と考えられており、1週間で一人あたり平均5gのプラスチックを体内に取り入れているという報告もされています。現時点では、体内のマイクロプラスチックによる健康被害は「調査中」の段階です。しかし、海上のマイクロプラスチックは海水内の有害物質を吸収しやすいとも言われており、将来的に人体に影響が及ぶ可能性は十分考えられるのです。

海洋プラスチックごみに対する世界の取組

海洋プラスチックごみが今後も増え続ければ、2050年には海で生きる魚と同じ量にまで達すると言われています。こうした状況を受け、世界各国で海洋プラスチックごみ対策が話し合われています。ここでは、現在までの経緯と世界各国における主な取組をご紹介します。

世界的な流れ

海洋プラスチックごみが世界的な問題として認識されたのが、2015 年6月に行われたG7 エルマウ・サミットです。首脳宣言の中に海洋ごみがはじめて取り上げられ、附属書として『海洋ごみ問題に対処するための G7 行動計画』が策定されました。その直後(2015年9月)には、国連にて『持続可能な開発目標(SDGs)』が全会一致で採択されました。17ある目標のうち、14番目に「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」と盛り込まれました。
そして、2017 年 7 月に開催された G20 ハンブルク・サミットでは海洋ごみ問題が G20 として初めて取り上げられ、首脳宣言の附属書として発生抑制、持続可能な廃棄物管理の構築、調査等の取組を含んだ『海洋ごみに対するG20行動計画』が策定されました。その後、2018年6月に行われたG7シャルルボワ・サミットにて、カナダ及び欧州各国は自国でのプラスチック規制強化を進める『海洋プラスチック憲章』に署名しました。

「海洋プラスチック憲章」の内容(一部)
  • 2030年までにすべてのプラスチック用品を再生可能、若しくはリサイクル可能なものにする。
  • どうしても再利用・リサイクル不可能なものは熱源資源等、ほかの用途への活用に転換する。
  • 2030年までに、プラスチック用品の再生素材利用率を50%以上にする。
  • プラスチック容器の再利用、リサイクル率を2030年までに55%以上、2040年までに100%にする。
  • 海洋プラスチック生成削減や既存ごみを清掃するための技術開発分野への投資を加速させる。

最近の話題としては、今年2019年6月に行われたG20大阪サミットにて、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指すとした『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』が盛り込まれました。しかし、法的な拘束力がないことや、2050年では遅すぎるといった意見も聞こえていることから、今後、法的拘束力のある国際的な協定設立に向けた働きかけが、世界各国に求められています。

欧州圏における動き

イギリスやフランスなどのヨーロッパ各国は、特に積極的に取組を行っている地域です。
EUでは、「循環型経済(サーキュラー・エコノミー)における欧州プラスチック戦略」と題した政策文書を公表。2030年までに、全てのプラスチック包装のリサイクルの徹底を目指すと表明しています。この戦略では、廃棄物の削減や海洋への投棄抑止だけでなく、プラスチック産業全体の投資機会と雇用の創出を図ることを掲げているのが特長です。
またフランスでは、グラスや皿、ストロー、カトラリー、ドリンク用マドラーなど、様々な使い捨てプラスチック製品の使用を2020年1月から禁止することを決めています。

アジア諸国における動き

これまでアジア諸国では、安価な廃プラスチックを輸入し再利用する流れがありました。大量に輸入された廃プラスチックを加工し消費した結果、不法に廃棄されたプラスチックが海に流れこんでしまうという負の流れが出来てしまったのです。現在、海洋ごみの排出ワースト上位をアジア諸国が占めており、1位は中国という結果が出ています。この負の流れを止めるため、中国では2017年から非工業由来の廃プラスチックを、2018年からは工業由来の廃プラスチックの輸入を、それぞれ禁止しました。
またインドでは、2022年までに全ての使い捨てプラスチック製品の製造・使用・輸入を禁止する取組が進んでいます。

日本における動き

日本は一人あたりのプラスチック容器包装(※)廃棄量が、アメリカに次いで2番目に多い国だと言われています。また、廃プラスチックのリサイクル率は27.8%に留まっており、あまり進んでいるとは言えません。このような背景から、今年2019年5月に政府として『プラスチック資源循環戦略』を策定しました。基本原則を、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3R+Renewable (持続可能な資源)と定め、重点戦略の1つとして海洋プラスチック対策を盛り込みました。具体的には、

  • 2020年までに洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロビーズの削減を徹底するなど、マイクロプラスチックの海洋への流出を抑制する
  • 海で分解される素材(紙、海洋生分解性プラスチック等)の開発・利用を進める

といった取組を進めるとしています。
また、来年7月から全ての小売店に対し、プラスチック製レジ袋の有料化を義務付ける方針をまとめています。

一度使用した後にその役目を終え、再利用されていないプラスチック容器包装を指す

個人・企業でできる取組とは

海洋プラスチックごみ問題を少しでも解決するため、最近は個人や企業にて様々な取組が行われています。ここでは、実際に行われている取組の一部をご紹介します。

個人でできる取組

便利であるが故に増えてしまったプラスチック製品ですが、消費する立場として出来ることはたくさんあります。まずは、私達一人ひとりが日々暮らしの中で「Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3R」を意識し、行動することが重要です。

個人でできるプラスチックの「3R」
Reduce
(リデュース)

ごみになるものを減らすこと。
(例)

  • マイバッグを持参してレジ袋を貰わない
  • 使い捨て食器やプラスチック製ストローの使用を控える
Reuse
(リユース)

繰り返し使うこと。
(例)

  • シャンプーや洗剤は詰め替えられるものを使い、ボトルを再利用する
  • マイボトルやマイ箸を持ち歩く
Recycle
(リサイクル)

原材料として再利用すること。
(例)

  • 再生プラスチックの製品を積極的に使う
  • 使用済のインクカートリッジを回収箱に入れる

また、一旦海洋に流れていってしまったプラスチックゴミについても、できるだけ回収することが、さらなる海洋汚染を防ぐ方法です。例えば、ボランティアとして清掃活動に参加することも、個人として大きく貢献できる1つの取組になります。

このような行動を一人ひとりが実践することで、プラスチックごみの自然界への排出量そのものの削減に貢献できるでしょう。

企業の取組

プラスチック廃棄物による海洋汚染を受け、企業レベルでの改善に向けた取組も進んでいます。製品や梱包材の省資源化やリサイクル、事業活動でのプラスチックの使用削減などを推進するといった取組を、多くの企業が導入しています。

ある大手コーヒーチェーン店では、2020年までに世界の全28,000店舗でプラスチック製ストローの使用を廃止することを決定しました。世界中で出店している同企業がプラスチック製ストローの使用を止めれば、年間10億本以上ものストロー廃棄を削減できる計算です。プラスチック製ストローやマドラーの廃止は、ファストフード店やテーマパークでも導入されており、その多くではプラスチック製ストローに代わり紙製のものを導入する予定です。

また、ある大手自動車メーカーでは、2019年末までに世界中の同社のオフィス、社員食堂、イベントで使用する使い捨てプラスチックを廃止することを決めました。さらに、2025年までに同社のすべての新車種で使用するプラスチック部品の25%以上を再生素材に転換することも発表しています。事業活動と提供する製品の両面から、脱プラスチックを目指していくそうです。

このように、大手企業がプラスチックごみの削減に向けた取組を実施することは、消費者の意識改革にもつながると期待されています。

まとめ

海洋プラスチックごみは、海洋生物の生命を脅かすだけでなく、私達人間の健康にも影響する可能性がある問題です。海洋プラスチック問題は今や地球規模で広がっており、一人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量が世界2位である日本は、強い当事者意識を持ってこの問題の解決に乗り出すべきと言えます。そのためにも個人レベルだけでなく、企業として取り組めることはないかを、ぜひこの機会に考えてみてはいかがでしょうか。

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