「ジタハラ」を避けるための企業の対策方法とは
「セクシャルハラスメント(セクハラ)」「パワーハラスメント(パワハラ)」「モラルハラスメント(モラハラ)」など、近年ではあらゆるハラスメントが叫ばれ問題となっています。そうした中で、最近問題視されるようになったハラスメントが「時短ハラスメント(ジタハラ)」です。
ジタハラとは、簡単に言えば定時帰りや残業削減を「強要」すること。働き方改革関連法が施行され、従業員の長時間労働の是正が求められるようになってから聞かれるようになったハラスメントです。長時間労働に関しては働き方改革関連法によって罰則が定められているため、働き方改革とハラスメントの板挟みという問題に頭を悩ませている経営者も多いのではないでしょうか。そこで今回は、ジタハラの概要や起きる原因・対策についてご紹介していきます。
ジタハラとは
「ジタハラ」とは「時短ハラスメント」を省略した言葉を指します。その意味は、長時間労働削減の具体策がないままに「定時帰り」や「残業禁止」を呼びかけることです。
「定時帰りや残業禁止を呼びかけるのは良いことなのでは?」と考える方もいるかと思います。しかし、ここで問題になっているのは、長時間労働を削減する具体策がないという点です。仕事量も求められ、成果も変わらないのに、「ただ労働時間だけを短くしろ」ということが問題視されています。
こうしたジタハラは、企業の経営に長期的な悪影響を及ぼす可能性もあるとされています。以下でご紹介するのは、そうした事例の一部です。
・隠れ残業による収入低下やモチベーション低下
仕事量が変わらないにも関わらず労働時間を短くするよう指示された場合、従業員は企業の勤怠管理外で仕事を行う、いわゆる「サービス残業」を行う必要に迫られます。今までは正当に計上されていた残業がサービス残業となってしまうと、実質的な給与のカットとなります。また、こうした納得感のない収入の低下はモチベーションの低下を招くことにもなるでしょう。
・業務クオリティの低下
「残業禁止!」などを方針として打ち出し、長時間労働を表面上是正することは可能です。しかし、何も対策を講じないままでは、次第に必要不可欠なコミュニケーション・工数・手順が簡略化され、業務全体のクオリティを低下させる恐れがあります。
・中間管理職への負担増加
強制的に労働時間を削り仕事が追いつかなくなった場合、カバーするのは中間管理職です。過去には、部下の仕事を自身が抱え込み負担が増加した中間管理職が心身ともに追い詰められ、労災認定されるという事例もありました。
なぜジタハラは起こるのか
さまざまな問題を引き起こすジタハラは、なぜ起こってしまうのでしょうか。
原因としてまず挙げられるのが、「ただ労働時間を短く抑制するだけ」という「具体的対策の欠如」です。何の対策もなしに「品質は保ちながら、成果を伸ばし、労働時間は減らす」と求めるのは無理な要求と言わざるをえません。企業には、業務時間内に終わらない仕事をどう埋め合わせするか、具体的な対策を立てることが求められているのです。
さらに、企業内に部下の労働時間が上司の査定に響くといった考え方がある場合も、原因になり得ます。本来、生産性が向上したかどうかで判断すべき上司のマネジメント力が、間違った解釈となっている結果ではないでしょうか。
働き方改革を正しく推し進めるために
働き方改革を正しく推し進めるためには、業務改善を形だけのものにしないことが重要です。企業組織が一体となり、適切な業務の仕分け・効率化・従業員の確保など対応策を図っていく必要があります。そのためには、従業員の声をしっかりと拾い、仕事量や待遇面を正しく把握しなければいけません。
企業において経営のトップや人事労務担当者は、現場の事情を把握しにくい側面もあるでしょう。しかし、現場の声を無視した時短施策はハラスメントにつながってしまいます。そのため、経営側の求める数値や指標と現場の声を鑑みて、バランスの取れた対応を検討しましょう。以下では働き方改革を推し進めるにあたって有効な取組手順(事例)をご紹介します。
(1)業務仕分けを徹底する
長時間労働を是正し総労働時間を減らしたい場合、業務のクオリティをいかに維持するかを検討することが急務となります。そのためには、現在の仕事に優先順位をつけ、優先順位の低いもの・やめても支障ないものは、思い切ってやらない判断をすることが重要です。企業全体で業務仕訳を行い、優先度の高い仕事を集中して行いましょう。
このとき注意しなければならないのは、仕事の優先順位づけを従業員個人に任せてはいけないということです。個人の判断で仕事を仕分けると、従業員間や部署間がうまく連携できず、業務が停滞してしまう恐れがあります。そのため、事業仕分けには組織全体が一丸となって取り組みましょう。
(2)業務を効率化する
優先順位の高い仕事を洗い出せたら、それらの業務を効率的にこなすためには何を・どう変えたら良いかを検討し、実践しましょう。例えば、以下のような改善案が考えられます。
- 同じ業務でも人によって手順が異なり非効率なやり方をしている人がいたならば、業務マニュアルを作成し業務を平準化する
- 前述で業務を仕分けた際に、「実は同じデータ集計作業などを複数の人がしていた」ということが分かったのであれば、数名に業務を集中させる
- 経理や総務などのバックオフィスの業務量が多いのであれば、ITツールなどを利用する
また、文書管理の方法(ペーパーレス化)、オフィスレイアウトなどを見直すことで業務のムダを排除する方法もあるでしょう。ほかに、無駄な会議やメールの回数を減らす、TV(Web)会議システムやチャットツールを導入し外出先から戻らなくともコミュニケーションが取れるようにすることも、時間を生み出す方法の1つです。
業務効率化も仕分けと同様、従業員個人が取り組むのではなく、企業全体が一丸となり、企業の「仕組み」そのものを中長期的な視野で変えていくことが重要と言えます。
(3)人材を確保する
業務を効率化し、従業員一人あたりの労働時間を減らしたら、次に行うことは労働力の確保です。採用難が叫ばれる昨今、シニアやフリーランスの力を借りて労働力を確保するのもひとつの手段です。あるいはRPA(Robotic Process Automation)などを導入し、集計、計算、転記などの作業を自動化してしまう方法もあります。しかし、現状ではRPAが担える業務は単純な作業がほとんどであるため、業務の中からどの作業をRPAに任せるかを洗い出すこともポイントとなるでしょう。
まとめ
働き方改革による長時間労働是正の動きを受け、現状を見直し対策を立てることもなく定時帰りや残業の禁止を強要する「ジタハラ」。経営者や管理側の立場であれば、労務管理の観点からも働き方改革を一刻も早く進めたいと考えるのは当然のことだと思います。しかし、ただ数字を改善するだけの形骸化した改善政策ではハラスメントと従業員に捉えられてしまいます。また、長期的に見て経営の悪化を招く可能性があり、企業にも従業員にも悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
ジタハラを避け、本当の意味での働き方改革を行うためにも、数字や指標だけでなく全体を見直す業務改善を、企業・組織が一丸となって行っていくことが重要ではないでしょうか。
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