今だからこそ向き合うべき企業のメンタルヘルス対策

「ストレス社会」という言葉が定着し、ストレスが蔓延している状態とも言える現在の日本。企業の責務としてストレスケアやメンタルヘルス対策を講じている企業も徐々に増えてきましが、新型コロナウイルスの流行によってテレワークや在宅勤務など働き方が大きく変化し、メンタルケアの在り方にも変化が求められています。従業員の精神面の不調はモチベーションの低下や生産性の悪化、優秀な人材の減少をも招く恐れがあります。そうした状況を避けるために企業として取組むべきメンタルヘルス対策とは何でしょうか。
このコラムでは、今新たなメンタルヘルス対策が求められている理由やメンタルケアの基礎、具体的な取組事例など、対策の見直しにも有効な情報をご紹介します。

新型コロナウイルスの流行で生まれた「コロナうつ」

世界中で爆発的に感染が広まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。日本でも緊急事態宣言が発令されるなど、大きな衝撃をもたらしました。緊急事態宣言が解除された現在も、まだまだ予断を許さない状況が続いています。このような大きな環境変化により、
「コロナウイルスに感染してしまうのではないか…」
「不況が長く続いたらこの先どうなるのか…」
といった不安やストレスを感じている方も多いのではないでしょうか。

新型コロナウイルスによる急激な環境変化により、今までに感じたことのない不安やストレスにさらされている現在、危惧されているのが「コロナうつ」です。

あるニュースによると、感染が話題になり始めた1月中旬から4月末頃までのSNSにおける新型コロナウイルス関連の投稿を分析した結果、メンタルヘルスの悪化を思わせるワードが急増。緊急事態宣言が出された4月には約80倍以上にまで増えていたとされています。長引く自粛による自粛疲れ、将来への不安、感染の恐怖などネガティブな感情が高まることで、精神に不調をきたす人が増えたことは確かのようです。こうした状況を鑑みれば、コロナうつに対するメンタルヘルスケアも重要なコロナウイルス対策のひとつといえるのではないでしょうか。

従業員へのメンタルヘルスケアの重要性

新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、在宅勤務・テレワークを取り入れた企業も多いかと思います。通勤ストレスからの開放や家庭との両立というメリット面も感じられた一方で、慣れない在宅勤務によってストレスを溜めてしまい、心身のバランスを崩してしまった方も増えていることをご存知でしょうか。
テレワークストレスの原因として挙げられるのが「生活リズムの変化」や、「人と会わないことによる孤独感」、「成果へのプレッシャー」などです。また、テレワークの導入で周囲とのコミュニケーションが減ったことにより、小さなメンタルの不調を上司や周囲のメンバーが気付きにくくなったという点も、原因のひとつといえるでしょう。

企業にとって、従業員が心身の健康を保ち充実した生活を送ることはとても大切なことです。メンタルヘルス対策を行うことにより、社会的な責任を果たすとともに職場の活性化や生産性の向上も期待できます。2015年には、労働安全衛生法改正により労働者が50人以上いる事業場おいてストレスチェックの実施が義務化されており、既に多くの企業でメンタルヘルス対策が講じられています。しかし、仮にストレスチェック制度を導入したからといって、不調を訴える従業員が減るとは限りません。また、これまでと同様の対策ではコロナうつやテレワークストレスを見落としてしまう可能性もあります。ニューノーマルな生活が進み始めている今だからこそ、メンタルヘルスの重要性を受け止め、時代に合わせた対策に見直すべきではないでしょうか。

厚生労働省が推奨する4つのケア

厚生労働省は、平成18年3月に定めた「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中で、メンタルヘルス対策を効果的に進めるために必要なケアを4つ推奨しており、それぞれの観点から継続的かつ計画的に従業員のメンタルケアを行うことで、効果を発揮するとされています。ここからは4つのケアについて具体的にご紹介します。

(1) セルフケア
「セルフケア」とは自分自身で行うケアのことで、従業員だけでなく管理監督する立場の方も含めた全社員で取り組みます。自らの身体や心の状態を把握し、変化を自分自身で気づき、予防をしたり軽減に向けた取り組みを行うことを目的とします。セルフケアに必要な正しい知識と情報を提供するための支援を、事業者が行うことが重要です。
具体的な支援例としては、以下のような方法があります。
 • メンタルヘルス対策の研修会を行う
 • 社内広報で情報発信を積極的に行う
 • ストレスチェックツールを用いて自己確認を行う

(2) ラインによるケア
「ラインによるケア」とは、管理監督者による日常的なケアのことで、日ごろからコミュニケーションを取る上司部下の関係だからこそできるケアを行います。例えば、部下の行動や言動を気にかけたり、残業や遅刻が増えているなど出勤状況を確認するなど、日々のささいな変化に目を配ると共に、部下からの相談に応じるなどが具体的な取組です。他にも、職場環境の改善やメンタルヘルス不調の部下の職場復帰への支援なども求められます。
管理監督者が部下の「いつもと違う」にいち早く気づくことができるかが重要となるため、管理監督者向けの研修を設けるなどの対応も事業者として考えておくと良いでしょう。

(3) 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
セルフケアやラインによるケアが効果的に働くように、事業場にいる産業保健スタッフが従業員や管理監督者への支援・連携を行うケアです。「事業場内産業保健スタッフ等」には、産業医や保健師、衛生管理者などがおり、メンタルヘルスケアの基本的考え方である「心の健康づくり計画」の実施に当たって、中心的な役割を担うことになります。
具体的な支援には、以下のようなものがあります。
 • 労働者及び管理監督者からの相談に応じる
 • セルフケアやラインケアの研修、教育を行う
 • 職場環境の改善に必要な助言をする
労働者が50人未満の事業場の場合は産業医の選任義務はないため、産業保健スタッフがいないということもあります。そのような場合は、衛生推進者又は安全衛生推進者を「事業場内メンタルヘルス推進担当者」として選任し、事業者や人事労務担当者等と相談、協力できる体制を作ると良いでしょう。

(4) 事業場外資源によるケア
専門的な知識を有する機関や専門家を活用したケアのことです。産業保険総合支援センターや地域産業保健センターへの相談、外部の従業員支援プログラム(EAP)活用などが挙げられます。
研修の相談やカウンセリング、復職支援などをサポートしてくれるため、人事労務担当者の負担軽減にもなります。また、外部の専門家に相談できるため、従業員が相談しやすいという利点もあります。特に小規模の事業場においては、地域産業保健センターなどの外部資源を積極的に活用することをおすすめします。
ただし、外部資源を活用する際は専門機関に頼りきるのではなく、事業場の担当者や産業保健スタッフが間に入って主体的に連携を進めていくことが大切です。

企業のメンタルヘルス対策取組例

ここからは、メンタルヘルス対策を行う際に取り入れたい具体例についてご紹介します。

管理職へのメンタルヘルス研修を制度化

先程ご紹介した「ラインによるケア」で重要な役割を果たすのが、管理職です。ラインケアを的確に実践するためにも、管理職がメンタルヘルス対策の重要性などを理解しておく必要があります。そこで、管理職に向けたメンタルヘルス対策の研修を制度化されてはいかがでしょうか。
まずは新任の管理職に向けてメンタルヘルスの基礎知識や、ラインケアの重要性を理解するための講義を受けてもらいましょう。コミュニケーションスキルを磨くために傾聴訓練を取り入れるなどもおすすめです。その後も年に1回など継続的に管理職向け研修を行い、管理職同士の情報共有の場を設けましょう。別の職場での課題解決事例を知ることで水平展開ができたり、他の管理職も同じような悩みを抱えているのだなと気づくことで管理職自身の負担やストレス軽減にもつながるはずです。

チャットツールやWeb会議システムの導入と環境作りを行う

在宅勤務・テレワークという新たな環境下だからこそ、部下の「いつもと違う」を発見するためには定期的な相互間のコミュニケーションが重要となってきます。そのためのコミュニケーションツールとして、チャットツールやWeb会議システムの導入を検討しましょう。ツールはただ導入して終わりでなく、ツールの活用方法についてチーム間や組織単位で話し合い、ルールを決めておくと良いでしょう。

(テレワーク時のコミュニケーションルール例)
 • 毎朝の朝礼をオンラインミーティングで行い、お互いの顔を見て話す時間を設ける
 • 業務開始、終了時には必ずメールやチャットで連絡をする
 • ちょっとした確認事項はチャット利用、急ぎの内容やじっくり相談したい場合はWeb会議を利用する
 • 雑談専用の時間を週1回30分設ける

ポイントは、ツール等の導入が過度な干渉を目的としたものではないことを認識してもらうことです。そして、適度な距離感を保った接点が必ず用意されているという安心感を作ることも大切です。困った時に相談できる窓口がきちんと用意されていることを情報発信する、身近な人だけでなく産業医や保険医などとの連絡手段を周知するなどの取組も有効です。

ストレスチェックを効果的に活用

ストレスチェックは、メンタルヘルスの不調に自分自身でいち早く気づき、未然に防止する効果があるセルフケアの1つです。しかし、ストレスチェックはセルフケアや高ストレス者の面談指導に利用するだけではなく、その結果をいかに活用するかが重要になります。
ぜひ取り組んで頂きたいことは、部署毎や職務毎、年代別などに分類した集団分析の実施です。
集団分析を行うことで高ストレス者の多い集団を見つけ出すことができ、どこから改善に取り組むべきかを可視化できます。また、ストレスと関係性が高い職場環境や勤務条件があるのではないかといった分析を行うこともできます。結果を元に、部署の体制変更や仕事配分など職場環境の改善につなげることも可能です。
定期的なストレスチェックと共に分析、改善、評価を繰り返すことが、従業員一人一人のメンタルヘルス意識を高めると共に、予防の取組強化へとつながります。

社会保険労務士を活用

企業内にメンタルヘルスの知識や経験があるスタッフがいない場合、メンタルヘルス対策の知識を有する社会保険労務士に支援を頂くのもひとつの手です。社会保険と労務の専門家である社会保険労務士の観点から、メンタルヘルス対応に必要な就業規則の整備や快適な職場作りへの助言、復職や退職時の適切な対応などのアドバイスなどをもらうことができます。人事労務担当者の相談窓口として、支援いただいても良いのではないでしょうか。

まとめ ~今こそ本格的なメンタルヘルス対策を~

新型コロナウイルスの流行とともに生まれた「コロナうつ」。企業として従業員の心身の健康を維持することは重要なミッションのひとつです。メンタルの不調は身体的な不調に比べ気づきにくいことが多いため、従業員の変化に早く気付くことが出来る仕組みの整備や、日ごろからメンタルヘルスケアの意識を高めることが求められます。
メンタルヘルス対策を行うことが結果的には従業員のエンゲージメントを高めることや、生産性の向上にもつながるはずです。「まだメンタルケア対策が十分ではない」「行なっているが不安を感じている」という場合は、この新型コロナウイルスの流行で生活の在り方が変わりつつある今を契機に、自社にあったメンタルヘルス対策へ着手、または見直しをしてみてはいかがでしょうか。

厚生労働省「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」のご紹介

厚生労働省「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」は、こころの不調や不安に悩む働く方や、手助けをするご家族の方、職場のメンタルヘルス対策に取り組む事業者の方などの支援や、役立つ情報の提供を目的に作られた、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトです。
動画やeラーニングで学ぶこともできますし、ストレスチェック質問票や職業性ストレス簡易調査票、厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムも提供していますので、活用されてはいかがでしょうか。

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