パーパスとは?定義からパーパス経営・ブランディングに取り組むポイント、実例まで紹介
気候変動や貧困、不安定な世界情勢など様々な課題に直面している現代において、「パーパスを軸にした企業経営」が注目されています。
このコラムでは、パーパスの定義から注目されている理由、パーパスに基づいた経営やブランディングの方法をご紹介。また、パーパス経営やパーパスブランディングを実践している企業の実例も併せてご紹介します。
このコラムを読んで分かること
- 企業におけるパーパスの定義、類義語、パーパス経営が注目される理由
- パーパス経営が企業に与える3つの効果と実際に行う時のポイント、注意点
- パーパス経営・ブランディングで成功している企業事例
【目次】
- パーパスとは?定義や類義語との関係性
- パーパス経営・ブランディングが注目される理由
- パーパス経営・ブランディングが企業に与える効果
- パーパス経営・ブランディングを実施するときの3つポイント
- パーパス経営・ブランディングで避けるべき2つのポイント
- パーパス経営・ブランディングの企業事例
- まとめ
パーパスとは?定義や類義語との関係性
新たなビジネスモデルのトレンドワードとして耳にすることが増えた、「パーパス」。パーパスとは、企業経営における「存在意義・志」を意味します。まずは、パーパスの定義や似たような解釈をされがちな言葉との違い、関係性についてご紹介します。
パーパスの定義
パーパス(purpose)は直訳すると、「目的」「目標」「意図」などと訳されます。しかし、ビジネスの場面では少し異なっており、「存在意義・志」を意味する言葉として使われます。企業経営において、「自社は何のために存在するのか?」という根本的な存在意義への問いかけに対する答えが、パーパスであるといえます。
例えば、企業が困難な場面に遭遇したり、事業成功の分岐点に立たされたりするときにも、決して揺らぐことのない芯としてパーパスが位置付けられます。
パーパスの類義語
企業経営における存在意義を意味するパーパスの類義語として、ミッションやビジョンを使うことがあります。しかし、これらとパーパスは意味が異なります。
パーパスは、「自社は何のために存在し、何ができるのか」という問いに対する「答え」です。対してミッションは、パーパスの実現に向けた「戦略や行動方針」を意味します。また、パーパスを実践していくなかで、「企業が目指す先、あるべき最良の姿」がビジョンになります。
これら3つの言葉は互いに関連しており、パーパス(存在意義)によってミッション(行動方針)が明確になり、その結果として企業のビジョン(あるべき姿)が定まるという流れです。そのため、企業経営におけるパーパスがあることによって、一貫性のある戦略が立てられると言えるでしょう。
パーパス経営の発端
企業の存在意義を意味するパーパスを指針とした「パーパス経営」の概念は、いつ誕生したのでしょうか。明確ではありませんが、2010年前後だと言われています。
ニューヨークに本社を置く、世界最大の資産運用会社の会長兼最高経営責任者(CEO)が、2018年に「A Sense of Purpose(パーパスという意識)」と題した年次書簡を投資先企業の経営者に送りました。この書簡の中で、企業経営におけるパーパスの重要性を以下のように訴えました。
企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません。 |
パーパス経営・ブランディングが注目される理由
企業の存在意義を軸にした「パーパス経営」や、パーパスという考え方をブランド戦略の中心に据えて展開する「パーパスブランディング」は、時代を追うごとに注目度が高まっています。なぜ注目されるようになったのか、主な理由を3つ紹介します。
サステナブルな世界への取り組み
私たちが暮らす世界は、温暖化や貧困、紛争など様々な問題を抱えています。こうした問題がさらに深刻化することがないよう世界目標として定められたのが、SDGs=持続可能な開発目標です。
2030年までに達成するべき17の目標の中には、経済や社会に関する観点での目標も掲げられており、企業が先導すべき目標も含まれています。
また、今後企業が成長するためには、EGS(世界的な問題・課題に対して、企業が長期的に成長するために取り組むべきこと)を重視しているかが注目されています。投資家もこのEGSを注視しており、サステナビリティ性を重視した企業経営・活動が必要なのです。
このような背景から、サステナビリティな経営が重要視されています。そして、サステナブルな経営を実現するためには、パーパスを明確にさせ、どのような舵を切っていくかが重要になっているのです。
労働者や消費者の価値観の移り変わり
時代の変化に伴い、労働者や消費者の価値観が大きく変わったことも、パーパスが注目される理由の1つです。
特に、幼い頃にバブル崩壊を経験した「ミレニアル世代(1980年〜1990年半ばに生まれた世代)」では、就職先を判断する基準として社会への貢献度、企業文化などを重視するというアンケート結果がでています。
つまり、企業の売上や利益、規模よりも、価値観や方向性が自身の考えと一致しているかを意識しているのです。また、若い世代ほどブランドの価値観やストーリーに共感を持った上で商品を購入したい、という考えが強い傾向があります。
パーパス経営は、これからの社会を担う若手世代へ向けたメッセージであり、未来につなぐ一歩でもあるのです。
DXの広がり
企業にとって非常に関心が高いワードである、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。
DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」(「DX推進ガイドライン」経済産業省:参照)と定義されています。
DXの本質は変革や新たな企業価値の創出ですが、「自社は何のために存在し、何ができるのか」が明確になっていなければ、どう変革したいのか、何を新たに創出したいのかが見えてきません。
真のDXを推進していくためには、自社の在り方や社会に対する貢献の仕方、つまりパーパスを見つめ直し、パーパスが企業内に浸透することが必要です。
パーパス経営・ブランディングが企業に与える効果
価値観の変化や、DXの広がりなどによってパーパス経営やパーパスブランディングが注目されていることがわかりました。では、パーパス経営・ブランディングが企業に与える効果とは、一体どのようなものなのか、具体的にご紹介します。
ビジネス戦略
企業経営の「存在意義」を意味するパーパスは、いわば揺らぐことのない経営軸となるものです。そして、ビジネス戦略とも直結します。自社の付加価値をアップデートし、社会に価値を提供し続ける企業のあり方を伝えていくことは、ブランディング効果にもなります。
組織領域
パーパスを定義することによって、従業員の意識が統一され、ベクトルが揃います。その結果、社会や顧客にどのような価値を提供すれば良いかという課題に対し、部署などの垣根を越えた意見やアイデアが生まれ、組織のあり方にも良い変化をもたらすことができるでしょう。
多くの日本企業で取り入れられている生産効率を追い求めた縦割り組織から、イノベーションが発生しやすい組織への移行が期待できます。
人事領域
上記でもお伝えしたように、ミレニアル世代は就職先を判断する基準に、社会への貢献度、企業文化などを挙げる人が増えています。そのため、企業としてパーパスを掲げることで、それに共感した人材を獲得することができるでしょう。
また、パーパスが影響を与えるのは新たな人材の採用だけでなく、既存従業員も同様です。パーパスを定め働く意義を明確にすることで、従業員は誇りをもって主体的に行動するようになります。その結果、モチベーションの向上やエンゲージメントの向上といった効果をもたらすでしょう。
パーパス経営・ブランディングを実施するときの3つポイント
実際にパーパス経営やパーパスブランディングを行うときには、いくつかポイントがあります。ここでは具体的に3つのポイントについて紹介します。
(1)パーパスを明確にする
1つ目のポイントは、自社のパーパスを明確にすることです。
パーパスは単純な企業の存在理由や活動のトリガーではなく、何かしらの価値や意味を生み出す企業・個人の存在意義のため、「自社は何のために存在するのか?」という問いに答えることこそが、明確な自社のパーパス決定につながります。
自社の存在意義を追求しパーパスを決定するコツは、以下に挙げるような条件を意識しましょう。
- 社会的な問題解決に貢献できるか
- 自社ビジネスの強みを活かせるか
- 内容は現実的か
- 従業員の共感・共鳴を得られるか
(2)パーパスを言語化する
2つ目のポイントは、パーパスを具体的に言語化し、ステートメントを作成することです。パーパスステートメントとは、その名の通り、パーパス(存在意義)を具体的にまとめたステートメント(声明)のこと。パーパスを策定している多くの企業では、パーパスステートメントをホームページなどで公開しています。
パーパスステートメントを作成するときには、シンプルで覚えやすく、できれば自社にしか作り出せない独自の言葉を使うことが大切です。
(3)パーパスステートメントの実行
パーパスステートメントの作成・表明をした後は、実行するのみです。しかし、ただパーパスを作成して実行しなさいでは意味がなく、きちんとミッション(行動方針)やビジョン(あるべき姿)にまで落とし込むことが重要です。従業員がすぐにでも行動を起こせるよう、行動を明確化しましょう。
そして、企業全体で推し進めるためには、まずは経営陣がパーパス実現のために何をすべきかを考え、率先して実行しましょう。パーパス実現のためには新たな組織体制作りやシステムの構築、資金調達なども必要になるかもしれません。これらを従業員任せにせず、経営陣がリードして行動する姿勢を見せることも大切なのです。
パーパス経営・ブランディングで避けるべき2つの注意点
上記で紹介したパーパス経営・ブランディングを実施するときのポイントと合わせて押さえておきたいのが、パーパス経営・ブランディングを行うときの注意点です。双方からパーパス経営・ブランディングを理解することで、リスクヘッジができるでしょう。
(1)ターゲット顧客を狙ったパーパスの決定
まずは、ターゲット層を限定しないことが重要です。
パーパスは、単に顧客の注目を集めるためのキャッチコピーではありません。「こんなパーパスを掲げたら、自社のターゲット層は好感を持ってくれるだろう」という安易な考えは捨てましょう。パーパスは、自社の社会的な存在意義を示すものなので、ターゲットを具体的に絞るのではなく、社会全体に目を向けて決定することが大切です。
(2)行動が伴わないパーパスの策定
2つ目の注意点は、行動が伴わないパーパスの策定です。
掲げただけで満足してしまい、実際に何の取組も行わないとなれば、顧客だけでなく従業員からも不信感を抱かれる恐れがあります。パーパス経営・ブランディングで重要なのは、すべての企業活動がパーパスと一貫性を持たせることです。素晴らしいパーパスを掲げても、行動が伴わなければ意味がありませんので、注意しましょう。
パーパス経営・ブランディングの企業事例
時代の変化に応じて、パーパス経営やブランディングに取り組む企業は増えています。その中でもパーパス経営・ブランディングに取組み、成長している企業がいくつかありますので、ここでは成功事例をご紹介します。
総合電気メーカー
ある有名総合電機メーカーでは、2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げています。
また、このパーパスを顧客・従業員と共有し認識相違がなくなるよう、このパーパスを掲げている理由が伝わる約3分の動画と価値観が併せてオフィシャルサイトで公開されています。
コロナ禍でスムーズな業務が難しくなった際にも、パーパスの策定によって従業員の意識や向かう先が統一されていました。その結果、揺らぎのない経営が実行され、2020年は過去最高益を記録しています。
また、2020年4月には、コロナウイルスの影響を受けたクリエイティブコミュニティー(イベント業界など)をサポートするために支援基金を設立。この取組は、まさしく同社の掲げたパーパスを具体化したものであり、社会的な意義のあるパーパス経営・ブランディングの見本とも言えるでしょう。
消費財メーカー
ある世界的な消費財メーカーでは、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」をパーパスに掲げています。併せて、地球が悲鳴を上げることなく、誰もが豊かに暮らせる世の中にするためには、これまで当たり前とされてきたビジネス方法やライフスタイルを変える必要があると述べています。
この消費財メーカーでは、パーパスを実現するべく「地球の健康を改善する」、「人々の健康、自信、ウェルビーイングを改善する」、「より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する」という3つの軸で、様々なアクションを実行しています。
例えば、地球の健康改善で挙げられていたのが、プラスチック包装の削減です。2025年までにパッケージに使用する未使用のプラスチックの量を100,000トン以上削減することを目標にしました。2018年には711,000トンだったプラスチック包装が、2021年には599,000トンまで削減されています。
まとめ
今回は、パーパスの概要やパーパスを活用した経営・ブランディングに取組むためのポイントなどについてお伝えしてきました。
本コラムの要点を改めて、以下にまとめます。
<このコラムのPOINT>
- ビジネスでのパーパスとは、企業経営における「自社は何のために存在するのか?」という根本的な存在意義や全社的な指針を示すもの
- パーパスを活用した経営やブランディングが注目されるようになった理由は、サステナブルな世界への取り組みや、労働者や消費者の価値観の移り変わり、DXの広がりなどがある
- パーパス経営・ブランディングを実現させるためには、明確なパーパスを決定し、言語化、行動することが大切
日本でも古くから「三方よし」という商人の理念があります。パーパスは、三方よしと考え方が非常に似ています。どうしても目に見えやすい視点でビジネスを捉えてしまいがちな現代ですが、今一度、古くからの教えにも耳を傾け、社会における自社のあり方を見つめてはいかがでしょうか。
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