Employee Experience(EX)とは?概要や導入事例、実践方法を解説
近年、企業が従業員の満足度やパフォーマンスを引き出すために重要視されるようになったEX。「Employee Experience(EX)」とは、従業員の満足度やエンゲージメントを向上させるのを目的とする概念です。今回のコラムでは、EXの概要から企業での取組事例、EX向上に有効なEmployee Journey Mapなどについて詳しくご紹介します。
このコラムを読んで分かること
- Employee Experience(EX)の歴史、CX・UXとの関係
- Employee Experience(EX)が注目されるようになった3つの背景
- Employee Experience(EX)向上施策に取り組む企業事例3選
【目次】
- Employee Experience(EX)の概要
- Employee Experience(EX)が注目されるようになった背景
- Employee Experience(EX)の向上に注力する企業事例
- EX向上を目指すためにはEmployee Journey Mapを作成しよう
- まとめ
Employee Experience(EX)の概要
まずは、Employee Experience(EX)の意味や歴史、CXやUXとの関係性などの概要をご紹介します。
Employee Experience(EX)とは
「Employee Experience(EX):エンプロイー・エクスペリエンス」とは、従業員が働くことを通じて得られるすべての経験・体験のことです。ここで指す経験や体験には、業務を行うことで得られた経験やスキルだけではなく、職場内や組織内で経験することすべてが含まれています。
例えば、以下のような項目もEmployee Experience(EX)であると言えます。
- 従業員の満足度
- 個人としてのスキルアップ
- 健康状態
- 福利厚生、報酬のような待遇
- 経験を通じて従業員が感じたこと、考えたこと など
このように、心理的や精神的な側面といった要素も含まれています。
Employee Experience(EX)の歴史
近年、広く人事分野で注目されるようになったEXですが、まだ歴史はそこまで古くありません。EXは、組織に対する愛着心や深い繋がりを意味する「エンゲージメント」に替わる形で、ここ数年でトレンドワードとなりました。
最近では様々な企業でEXが取り入れられており、SNSを運営するアメリカの企業では人事関連の部署名を「Employee Experience」に変更しました。そのほか、HR(Human Resource)リーダーの名称を、CEEO(Chief Employee Experience Officer)に変えるなどの動きも見られます。
CXやUXとの関係性
EXの考え方は、顧客満足度をはかるための考え方である「User Experience(UX):ユーザー体験」や「Customer Experience(CX):顧客体験」というマーケティングの概念を、人事領域に当てはめたものであると言われています。
基本的な考え方は、EX・CX・UXすべてで共通しており、違いは対象・主語が従業員であるか顧客であるかです。
EXの考え方の根底には、「従業員に働きやすい環境を提供できない企業が、お客様に満足していただく商品・サービスを作れるはずがない」というものがあります。つまり、EXとCX・UXの考え方には関係性があり、EXを向上させることは今後の企業経営においてとても重要だ、ということになります。
Employee Experience(EX)が注目されるようになった背景
様々な時代の変化によって、企業ではEmployee Experience(EX)が注目されています。ここでは、注目を集めることとなった主な3つの背景をご紹介します。
人材の流動性の高まり
従来、終身雇用制度がある日本では、ひとつの会社で勤めあげることが一般的でした。しかし、人生100年時代と言われる現代では、自分らしい働き方の実現や、自身の市場価値向上を目指して転職する人も少なくありません。
また、採用や組織構成の中心になりつつあるミレニアル世代(1980年〜1990年半ばに生まれた世代)は、企業の売上や利益、規模よりも、価値観や方向性が自身の考えと一致しているかを意識しています。そのため、一致しないと判断されれば転職を厭わないという側面もあります。
そうした人材の流動性の高まりを受け、同じ企業で長く働いてもらうためにも、従業員満足度を高める取組が注目されています。
労働力の減少
様々な業界で人手不足が叫ばれていますが、今後さらに労働力の減少が深刻化すると予想されています。パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」によると、2030年には644万人分の労働力が不足するとの推計結果も出ています。
対策として、シニアの雇用や外国人労働者を増やすなどが考えられていますが、労働力不足を補うためには、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化することも大切になってくるでしょう。
そのパフォーマンスを最大化させるためのカギのひとつになるのが、EXなのです。
情報の透明性の向上
インターネットが普及したことで、企業の情報が簡単に調べられるようになりました。給与や福利厚生の待遇面といった従業員の働く環境についてはもちろん、口コミサイトでは職場の雰囲気までわかるようになっています。
求職者のなかには、実際に働いた人の声を重要視する方も多いため、EXの向上に取り組む企業とそうでない企業では、人材確保に差が出る可能性があります。
Employee Experience(EX)の向上に注力する企業事例
人材の流動性の高まりや労働力の減少などによって、Employee Experience(EX)の向上に注力する企業は増えてきています。ここでは、様々な方法でEXの向上に取り組む企業の実例をご紹介します。
コーヒーチェーン
アメリカ発の世界最大のコーヒーチェーンでは、EXの向上を目指し、雇用形態に関わらず全従業員に学習の機会を提供。大学の学費支給をはじめ、アリゾナ州立大学と提携し、80コース以上の授業をオンラインで受講可能にしています。
こうした取組によって従業員の満足度を高めながら、スキルを伸ばすことにも成功。同社は、「世界で最も賞賛されている企業2022」でTOP10に入っています。
通信機器メーカー
アメリカに本社を置くコンピューターネットワークの制御機器を扱うメーカーでは、働き方改革のひとつとして、EXを高める様々な施策を打ち出しています。
特徴的なのが、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)活動の本格始動です。従業員それぞれのあり方やライフスタイルを大切にできるように、在宅勤務やリモートワークなど、多様なワークスタイルの推進や、優秀な女性社員の獲得・育成・維持などを行っています。
こうした取組が評価され、2022年版 日本における「働きがいのある会社」ランキングでTOP5に。一般的にはなかなか感じてもらいにくい、「仕事に行くことを楽しみ」だと答える従業員が多い点も、この企業の特長です。
ホスピタリティー企業
世界的なホテルチェーンを展開するアメリカの企業では、世界で最もサービス精神の高い企業になることをミッションに掲げています。そして、素晴らしい従業員こそが最高峰のホスピタリティーを提供できるという信念のもと、「従業員へのホスピタリティーの徹底」を掲げました。
EXの向上を視野に入れた取組であり、従業員専用カフェの設置やロッカールームの拡大など、従業員が使用するバックハウスエリアのリニューアルなどを実施。
結果的に、「最も働きがいのあるベスト企業100」で2年連続1位に選ばれました。
EX向上を目指すためにはEmployee Journey Mapを作成しよう
今後の企業経営において、Employee Experience(EX)の向上が重要であることをお伝えしてきましたが、具体的にどのように進めれば良いのでしょうか。
EXを向上させるための手順として実施すべきなのが、「Employee Journey Map(エンプロイー・ジャーニー・マップ)の作成」です。
Employee Journey Mapとは、ひとりの従業員が入社をしてから退職をするまでに経験するだろう出来事を、時系列で書き出した表のことです。
Employee Journey Mapを作ることで従業員の成長過程や、いつどんな時に困難に直面するのかなどが可視化されます。従業員の目線に立って考えることができ、企業としてどういった点をサポートすべきか、不足している対策がないかなどを知ることができます。
ここではEmployee Journey Mapの作成手順をご紹介します。
1.ペルソナを設定する
まずは基準となるペルソナ、つまりモデルとなる従業員像を設定します。
従業員の人物像を詳細に設定することで、従業員それぞれに対してより効果的なEXの向上施策を講じることができます。
2.フェーズを洗い出す
次に、定めたペルソナをもとに、従業員が「入社してから退職をするまでに歩むフェーズ」を記入します。一般的には以下のようなフェーズがあります。
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企業によって歩むフェーズは異なりますので、自社の従業員が歩んできた、あるいは歩むだろう流れを考えて書き出しましょう。
3.ペルソナの希望を予想・整理する
フェーズの記入が済んだら、設定したペルソナがフェーズごとに感じる心情や、取るだろう行動、要望・期待値を予想します。モチベーションの変化や期待していることだけでなく、経験するだろう困難も予想して挙げておくと良いでしょう。
なかなか考えが浮かばない場合は、現在働いている従業員からフェーズごとに感じていたことなどをヒアリングするのもおすすめです。
4.分析結果に基づいてEXを向上させるための施策を考案する
これまでのステップを終えれば、EXを充実させなくてはいけない箇所が段々と見えてくるでしょう。明確になった課題に基づいて、どうすれば従業員満足度を向上できるのか、具体的な施策を考案していきましょう。
まとめ
今回は、Employee Experience(EX)の意味や歴史、導入事例、実践方法までを詳しくご紹介してきました。
<このコラムのPOINT>
- Employee Experience(EX)とは、従業員が働くことを通じて得られるすべての経験・体験のこと
- 経験を通して従業員が感じたこと、福利厚生や報酬のような待遇、健康状態など、業務に直結しない部分もEXには含まれている
- EXを向上させる取組を行うためには、まずEmployee Journey Mapを作成し、現状の課題把握から具体的な施策を見つけることが大切
今回ご紹介した企業事例を参考に、実際に自社でのEX向上施策を検討するのもよいでしょう。
働き方が変化し人材も流動するのが当たり前になりつつある今、EXの向上や充実を図ることは最終的には企業の業績やブランド力向上につながります。
ユーザー・顧客目線ももちろん大切ですが、併せてEXの向上にも注力することで、顧客に望まれる企業へと成長できるはずです。
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