「工場の見える化」で製造の現場を変える
製造の現場では、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータなどの情報技術の導入が進んでいます。「第4次産業革命」とも呼ばれるこの流れの中で、工場の「見える化」はその第1段階であると言えます。なぜなら、「見える化」によって得られたデータの分析結果をもとに、より効率的な制御を行えるようにAI等を活用していくためです。
では、この工場の「見える化」を進めるためには、どのようなことが必要になってくるのでしょうか。本コラムでは、工場見える化の概要・メリットから、想定される課題と必要な手順、事例まで徹底的に紹介します。
【目次】
- 工場の見える化とは
- 見える化と見せる化の違い
- 工場見える化の目的とメリット
- 工場見える化をすすめる時に想定される課題
- 工場の見える化に必要な5つの手順
- 工場見える化の事例
- 工場見える化のまとめ
- おすすめ商品
工場の見える化とは
「工場の見える化」とは、生産現場や生産体制・工場運営に関する様々なデータを「見えるようにすること」を指します。「工場の見える化」を進めることにより、経営者や管理者が現場の動向を正確に把握でき、業務効率化や生産性向上のために解決すべき課題を明確化することができます。
例えば、工場における照明や空調、設備などで使用される「エネルギー使用量」という情報を見える化するケースを考えてみましょう。時間別のエネルギー使用量をモニタリングした結果、「残業時間に無駄な電力が使用されている」ことに気付くことができ、オペレーションの改善につなげられます。
このように、工場の見える化によって業務効率化・生産性向上を図るためには、「何を」「どのように」見える化するか、目的を明らかにすることが大切です。「効率化したいことは何か」「改善したい点は何か」などの明確な目的を持つことが、見える化により事業を成長に導く鍵となるといえるでしょう。
見える化と見せる化の違い
工場の見える化に取り組む上で重要なポイントとして、「見せる化」との違いを理解することが挙げられます。
■「見える化」と「見せる化」の違い
見える化 | 見せる化 | |
---|---|---|
取り組みの目的 | 必要なデータや情報を可視化し、現場が抱える課題を発見する取組 | 業務に関するデータや情報を常に見られるような環境にしておく取組 |
期待できる効果 | 各工程の「ムダ」「ムリ」「ムラ」を見つけ、業務効率や業務環境の向上につなげられる | 遠隔での監視やモニタリングが容易になる |
工場の業務効率や生産性の向上を図るためには、データや数値を眺めるだけでなく、意識的にデータを見て分析する「見える化」の取組が重要です。
工場見える化の目的とメリット
工場の見える化を行う最大の目的は、工場内でトラブルや不具合が発生した場合に、今後の対応を判断するスピードを上げることです。データに基づいた的確な判断を行うことにより、工場運営の正常化や生産体制の再構築を早期に行えます。
さらに、工場を見える化することには、通常時の業務改善にもつながるというメリットがあります。
<工場見える化のメリット>
|
工場の見える化により、現場の状況を正確に把握できれば、気づけていなかった現場の「ムダ」「ムリ」「ムラ」などの課題を発見し、改善策を考えることができます。
また、業務プロセスを社内で共有して標準化することにより、生産性や品質の安定性を保つことも可能です。人材育成も行いやすくなり、業務の属人化も解消できるでしょう。
工場見える化をすすめる時に想定される課題
工場の見える化には様々なメリットがありますが、実践する際には注意すべき点もいくつか存在します。
ここでは、工場の見える化に取り組む際に想定される主な3つの課題について紹介します。工場の見える化をスムーズに実践するためにも、注意すべき課題について確認しておきましょう。
1.本来すべき課題発見に至らない
工場の見える化に取り組む過程で発生しやすい問題として、「課題発見に至らないこと」が挙げられます。
前述の通り、見える化の目的は「データに基づいた的確な判断のもと、工場運営の正常化やトラブル発生時の早期対応、生産体制の迅速な再構築」です。そのため、ただデータを取得するだけではなく、課題発見につながるアクションを起こさなければなりません。しかし中には、データを取得できたことで満足してしまい、工場運営や生産体制を再構築するために発見すべき課題が見つからないケースも多々あります。
さらに、工場の見える化に取り組む過程では、「必要なデータとは何か」を明確にすること自体が課題となってしまうケースもあります。必要なデータを取得するのみで分析・改善を行わなかったり、課題がすり替わってしまったりすると、本来進めるべき「工場の見える化」が進まなくなる恐れがあることに注意が必要です。
2.古い設備やシステムからのデータ取得
古い設備やシステムの場合、データがデジタル化されていない可能性があります。「カメラを取り付けて画像認識を行う」「IoTセンサーなどによるデジタル化を行う」など、設備やシステムをデジタル化するためのサポートが必要であることに注意しましょう。
場合によっては、古い設備やシステムを最新の設備・システムに入れ替え、デジタル対応させることも必要となります。導入に必要なコストや時間を考慮した上で検討を行いましょう。
3.部署毎の評価指標(KPI)設定
工場の見える化に取り組む過程では、複数の部署・部門における様々な評価指標(KPI)を見える化していきます。しかし、同じ評価指標でも計算方法や根拠が各部署・各部門によって異なるケースがあることに注意が必要です。
数字を見える化し評価するためには、社内の誰もが同じ認識ができるよう、分かりやすい共通の判断基準を設けることが重要です。計算方法や数値の根拠となる情報を標準化した上で、評価指標の見える化を行いましょう。
工場の見える化に必要な5つの手順
工場の見える化をスムーズに進めるためには、次の5つの手順に従って改善を進めることが大切です。
工場の見える化を進めるための5つの手順 | |
---|---|
(1) | 「見える化」の目的を明らかにする |
(2) | 「5S(整理・ 整頓・清掃・清潔・躾)」を推進する |
(3) | 分かりやすい共通の判断基準を作る |
(4) | ルール化と周知を徹底する |
(5) | 対応マニュアルを作成して再発防止に努める |
工場の見える化を進めるための5つの手順 | |
---|---|
⑴ | 「見える化」の目的を明らかにする |
⑵ | 「5S(整理・ 整頓・清掃・清潔・躾)」を推進する |
⑶ | 分かりやすい共通の判断基準を作る |
⑷ | ルール化と周知を徹底する |
⑸ | 対応マニュアルを作成して再発防止に努める |
ここでは、それぞれの手順の概要を紹介します。
(1)「見える化」の目的を明らかにする
工場の見える化を円滑に進めるためには、見える化の目的を明確にすることが大切です。
見える化の主な目的は、現場が抱える課題を明らかにして改善することです。情報を可視化するだけに留まらず、可視化した情報を分析し、課題解決を図れるような改善策を考えることを常に意識して見える化の取組を進めましょう。
(2)「5S(整理・ 整頓・清掃・清潔・躾)」を推進する
工場内に不要なものがあると、見える化を行う際に本来の問題点が隠されてしまう場合があります。「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」を推進し、見える化を導入する現場の整理整頓を行いましょう。
5S活動 | |
---|---|
整理 | 不要なものを処分する |
整頓 | ものを所定の場所に置く |
清掃 | 身の回りや職場を清掃し、きれいな状態にする |
清潔 | 整理・整頓・清掃をキープし、職場を清潔な状態に保つ |
躾(しつけ) | ルールや手順を守ることを習慣づける |
5S活動 | |
---|---|
整理 | 不要なものを処分する |
整頓 | ものを所定の場所に置く |
清掃 | 身の回りや職場を清掃し、きれいな状態にする |
清潔 | 整理・整頓・清掃をキープし、職場を清潔な状態に保つ |
躾 (しつけ) |
ルールや手順を守ることを習慣づける |
(3)分かりやすい共通の判断基準を作る
工場の見える化を成功させるためには、社内の誰もが分かりやすい共通の判断基準を作ることも大切です。
各部署・部門ごとに評価指標(KPI)の根拠となるデータが異なっていたり、人によって判断基準が異なっていたりする場合には、社内で共有して標準化することからスタートしてください。同じ情報を見て、従業員のすべてが同じ認識となるような判断基準を策定しましょう。
(4)ルール化と周知を徹底する
工場を見える化することにより、工場内で異常や問題が発生した場合の基本的な対応策や方針が定まります。トラブルを迅速に解決し、早期の業務正常化を図るためにも、トラブル発生時の対応をルール化し、従業員全員への周知を徹底しましょう。
課題を従業員自身で解決することは、従業員たちの成功体験となります。現場の対応力がアップするだけでなく、仕事に対するやりがいやモチベーションアップにもつながるでしょう。
(5)対応マニュアルを作成して再発防止に努める
トラブルが発生した場合には、トラブル解決後に、発生した異常や問題の根本的な原因に対する処置・対応のマニュアルを作成することも重要です。
トラブルが発生した部門の従業員に展開して再発防止を図るとともに、他部門の従業員にも水平展開を行い、従業員全員が共通して認識できるような体制を整えましょう。
工場見える化の事例
工場の見える化への取組は、何らかの課題が発生することによってスタートします。ここでは、「納期短縮を図る」ことを目的として見える化に取り組んだ事例について紹介します。
A社では、顧客から「納期を短くできないか」と希望されたため、納期短縮を目的として工場業務の見える化に取り組みました。その中で、在庫管理のシステムが統一されておらず、受注部門と生産部門で業務の重複(ムダ)が生じていたことが明らかになりました。
A社では、見える化の取組を機に、生産管理と販売管理を一元化でき、マニュアルさえあれば従業員の誰もが対応できる新しいシステムを導入しました。
その結果、複数の部門にわたる業務の重なりの大部分が解消され、業務効率が大幅に向上しています。属人化されやすい業務を誰もが担えるようになったことで、対応がスムーズになり、納期短縮という目的も達成できました。一元化されたデータが可視化されたため、営業部門でも顧客対応がスムーズになったとされています。
工場見える化のまとめ
ここまで、工場見える化の概要・メリット、想定される課題と必要な手順、事例まで解説してきました。改めて、今回のポイントをまとめます。
<このコラムのPOINT>
- 工場の見える化とは、業務に関する様々なデータを「見えるようにすること」。
- 的確な判断を行えるようにし、業務効率化や生産性向上を図ることが見える化の目的。
- 課題や適切な手順を把握した上で見える化に取り組むことが大切。
工場の見える化では、設備や製造工程からどのようにして情報を集積し、分析を行うかも重要になります。
三菱電機システムサービスの生産ライン監視制御システム「SA1-Ⅲ」は、工場全体のエネルギー使用量の計測や、各装置の監視・制御だけでなく、在庫・生産進捗管理といった分析も可能です。さらに、弊社がご提供する生産管理システム「Factory-ONE 電脳工場MF」とデータ連携することで、手軽にスマート工場を実現できます。生産現場だけでなく、経営層が求める情報を見える化し、課題の早期発見と迅速な改善対策を行うことが可能です。
また、三菱電機インフォメーションネットワークのデータ分析フレームワーク「AnalyticMart」は多種多様な大量データを統合・蓄積・分析するデータ分析基盤です。 高性能データベースエンジンを搭載しているため、大量データを高速に検索することが可能です。見える化によって集積された大量データの分析にご活用いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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