IT業界を変える可能性を秘める「ノーコード(NoCode)」とは

最近話題になっているのが、「ノーコード」という言葉です。ウェブサイトやアプリケーションを作成するにはプログラミング言語を使用し、ソースコードを記述する必要がありますが、ノーコードは読んで字のごとく、コード不要でウェブサイトやアプリケーションを作ることができます。
今回の「デキるビジネスマン養成講座」では、さまざまなビジネスや業界に影響を与える可能性を秘めた「ノーコード」についてご紹介します。

プログラミング不要の開発ツール「ノーコード」とは

ノーコードとは、読んで字の如く「No-Code」。本来開発のために必要とされていたプログラミング言語を使って記述する「ソースコード」を書かずともウェブサイトやアプリケーションを開発することができる手法のことです。

ノーコードの最大の特長は、プログラミング言語の知識がない方でもウェブサイトやアプリケーション開発ができることでしょう。イメージとしては、ブロック遊びのように矢印や矩形といった視覚的に表現されたパーツを自在に組み合わせていけば良いため、直感的に操作することが可能です。従来のプログラミングよりも格段に速く作業できるので、人によっては数時間程度で開発できてしまうことも。そのため、開発コストの削減につながると期待されています。
また、使い方さえ分かれば小学生でもアプリを開発できるのではないか、とまで言われています。プログラマーやシステムエンジニアといった専門知識を持つ人でなくともウェブサイト・アプリケーションを開発できるとなれば、幅広い職種の方でも新しいビジネスにチャレンジできるため、今後のビジネスシーンも大きく変わっていくと予想されます。

開発するための専用ツールには「Bubble」、「Adalo」、「Glide」など、さまざまな種類があり、いずれもグラフィックベースでプログラミングができるUI(ユーザーインターフェース)となっています。大規模なウェブサイトやアプリケーション開発のための機能が充実した有料のツールを用いれば、社内で共有して使用することも可能です。また、個人や小規模向けの無料プランを提供しているツールもあり、比較的簡単にノーコード開発の利用を開始することができます。
実は、これまでもコードを必要としない開発ツール自体は存在していましたが、かつては「100%コーディングなしでは完成できない」、「単純なことしかできない」と言われていました。しかし、近年の専用ツールではフロントエンド(画面に表示されるボタンや文字の部分)だけでなく、バックエンド(ユーザー登録、決済など「機能」の部分)も設定することができるようになり、開発の幅が大きく広がった点が注目されることとなった一因といえるでしょう。
現在、ノーコード開発によって創出されたアプリケーションを企業や個人が販売したという事例は、まだ大きく取り上げられていません。ですが、ノーコードを用いて画期的なアイデアを落とし込んだアプリが開発されれば、今後、BtoB、BtoC問わず販売されていく可能性もあります。
海外では、2020年1月、米国のIT業界最大手企業がノーコードの開発プラットフォームを提供している会社を買収したことが話題になりました。この出来事により、IT業界におけるノーコードの注目度は日増しに高まっているのです。

ちなみに、「ローコード」という似た名称もありますが、こちらはノーコードとは別物で、従来のコーディングとノーコードを併用する開発手法を指します。ノーコードに比べて制作できるものの自由度は高いですが、プログラミングの知識は必須となります。

国内外で大きく注目されるノーコード

近年注目されているノーコードやローコードという手法は、RAD(Rapid Application Development)と呼ばれる超高速開発ツールのひとつとして世界中で開発が進んでいます。民間の調査会社によると、2018年には78憶ドルであった世界のRAD市場が2023年には462憶ドルに成長するという予測が立てられており、今後数年での市場規模拡大が見込まれている状況です。
ノーコードに注目しているのは海外の企業だけではありません。国内においても、ノーコード開発ツールで開発された「Web説明会やオンライン面談のプラットフォーム」が就職支援事業を行っている企業に買収され、注目を集めました。新型コロナの影響により採用プロセスの大部分がオンライン化したことで、集客に苦しむ企業や就活が捗らないといった学生からの悩みを耳にした企業による、日本初のノーコードアプリケーション買収案件と言われています。

スピーディーな対応が求められている現在のビジネスシーンにおいて、ノーコードは今や見逃せないトレンドとなっているようです。実際に、ノーコードの活用はIT業界以外にも広まっています。以下に、国内での成功事例をご紹介しましょう。

事例1:市役所職員が作成した独自の特別定額給付金申請フォーム
ある市役所では、今年6月、一律10万円を支給する「特別定額給付金」の申請業務における問題を抱えていました。多くの自治体でも聞かれた話ですが、郵送方式では手作業による事務処理が職員の負担となってしまい、支給までに時間がかかっていました。さらに、当初簡単と言われていたマイナンバーカードを利用したオンラインの申請方式でも入力ミスが多く見られ、結果的に職員の手作業による確認が必要な状況でした。
この状況を改善すべく立ち上がったのは、エンジニア経験のない市の職員でした。ノーコード開発ツールなどを使って、数日間で「郵送方式とオンライン方式を組み合わせた独自の申請フォーム」を作成。内製してから5日後には市のホームページで公開しました。完成した申請フォームは、入力する項目を極力減らしたことで入力ミスが減り、職員の確認作業の手間が非常に抑えられたそうです。また、マイナンバーカードを持っていない方でも身分証明書や通帳の写真をスマホで撮影してアップロードすれば申請が完了するといったシンプルな作りとしたことで、オンライン申請数も増え、結果的に郵送で受け付けた際に必要だった職員によるデータ入力作業などの時間が削減されました。
市民の方にとっても簡単に申請ができ、市役所職員にとってもスムーズに手続きを行える環境が構築されたことで、オンライン申請対応に要した事務処理時間は郵送申請と比較して1/5にまで削減できました。

事例2:現場が自ら開発した棚卸し専用アプリケーション
国内大手の電気機器メーカーでは、物流倉庫での棚卸し作業の際に紙のリストを使っていました。約40万点もの在庫を毎日紙のリストで棚卸をしていたそうですが、棚卸し報告用紙の受け渡しには事務所と在庫間を移動しなくてはならず、棚卸しのたびに往復10分以上の時間を取られていました。加えて、システム上の在庫数と棚卸し時の実在庫数が合わないと、棚卸しの担当者は事務所と在庫間を何度も往復する必要があったそうで、書類での管理では非効率という課題を抱えていました。
そんな時、倉庫現場で普段から利用しているスマホに注目した新入社員から「棚卸しのためのアプリケーションを作りたい」という声があがり、ノーコード開発ツールを導入。棚卸し用アプリを現場主導で、なんと数時間で開発しました。ペーパーレス化・端末によるデータの共有に成功し作業を効率化できただけでなく、在庫制度の向上にも繋がりました。

ノーコードがもたらす未来とは

「ノーコード」ツールを使用してアプリケーションを開発するには、高度な専門知識やスキルを必要としないため、ツールの使い方を習得できればだれでも開発を行えます。職種を問わず開発が可能になれば、これまでプログラマーやIT技術者を雇用していなかった企業や、IT人材不足に悩んでいた企業の問題解決につながるでしょう。

プログラマーやIT技術者不足の解消
「ノーコード」ツールを使用してアプリケーションを開発するには、高度な専門知識やスキルを必要としないため、ツールの使い方を習得できればだれでも開発を行えます。職種を問わず開発が可能になれば、これまでプログラマーやIT技術者を雇用していなかった企業や、IT人材不足に悩んでいた企業の問題解決につながるでしょう。

プログラマーやIT技術者の業務改善
従来のコーディングは、バグや書き間違えなどによるエラーがつきものでした。しかし、ノーコードではコードを書く必要がなく、あらかじめ用意された機能を組み合わせて使うため、チェックのために必要な工数やバグのリスクを減らせます。開発後にウェブサイトやアプリケーションを機能拡張したくなったときも、機能追加が容易です。そのため、業務負担が重かったプログラマーやIT技術者の労働環境も改善が期待できるでしょう。

社内、部署内でアプリが開発できる
これまで外部の専門業者や社内の開発部門に依頼していた案件なども、自分たちの部署内で制作することが可能になり、部署や個人単位でも業務効率化のためのアプリケーションが作成できます。紙やExcelで行なっていた定型的な業務をアプリとして開発することで、自らの手で働きやすい環境を構築することも可能でしょう。

アプリケーション開発ビジネスの拡大
ノーコードを使うことで企業はもちろん、個人での開発もより手軽になるため、アプリケーションを使用したビジネスがさらに拡大していく可能性があります。開発を行うことに対する敷居が下がったことで、人々のニーズを満たすためのアイデアから生まれた便利なアプリケーションが今後増えていくのではないでしょうか。そして参入障壁が下がるという意味では、アプリ市場での競争が激化することも予想されます。
ただし、ノーコードを使ったウェブサイトやアプリケーションはまだまだできることが限られているのが現状で、ノーコードだけでは実装できないアルゴリズムも存在します。将来ノーコード開発ツールの市場が成長したとしても、人の手によるプログラミング開発の需要は一定数存在し続けることも予想されます。

まとめ

ノーコードは、市場規模的にも技術的にもまだまだ発展途上の分野です。しかし、アプリケーションビジネスの拡大が見込まれる点、個人や部署単位での開発が可能な点などを考えると、業種を問わず注目しておくべきとも言えるでしょう。新型コロナウイルスの影響で社会が大きく変化していくなかで、思い立ったときにすぐ開発が行えるノーコードは、引き続き注目のキーワードとして話題になることが予想されます。
今回ご紹介しました通り、ノーコード開発によって作られたアプリケーションが企業内で利用され、業務効率化を実現した事例もあります。ノーコードツールは無料プランから有料プランまで数多く展開されていますので、個人や少人数規模であれば試しに無料プランのツールを導入してみても良いでしょう。
ノーコード開発ツールの導入は今後、企業の業務改善やビジネス拡大、個人のスキルアップなどに活かされる可能性を秘めています。ぜひ今後の動向もチェックしてみてください。

「キャリア・スキルアップ」の最新記事

未来人材ビジョンとは?求められる人材やどんな取組が必要なのかも解説

キャリア・スキルアップ

2023年06月21日

未来人材ビジョンとは?求められる人材やどんな取組が必要なのかも解説

デジタル化の推進やカーボンニュートラル実現などの世界的な取組により、これまでの産業構造や労働需要、人材政策のあり方が変わっていくと予想されています。また、経済産業省は、日本の生産年齢人口が2022年の7,400万人から、2050年には5,300万人まで大きく減少するという予測も出しています。 未来に待ち受けるこのような状況に対応するために、経済産業省は2030年、2050年に向けた、今後の人材政策について検討するための「未来人材会議」を主催し、2022年5月末に「未来人材ビジョン」を公表しました。 公表から1年が経過し、国会でも「個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じる」との表明があっただけでなく、首相の別の発言には賛否両論が集まっているなど、様々な意味で注目が高まっています。 本コラムでは、改めて未来人材ビジョンの概要や公表された背景、未来人材ビジョンの具体的な施策等を解説していきます。将来必要とされる人材を輩出するための、雇用・人材育成や教育の方向性を知るためにも、ぜひ参考にしてみてください。

続きを読む

このカテゴリの記事一覧を見る

メールマガジン登録

上記コラムのようなお役立ち情報を定期的に
メルマガで配信しています。
コラム(メルマガ)の
定期購読をご希望の方はこちら

メールマガジン登録 お客様の課題解決に導く情報をいち早くお届けします! メールマガジン登録 お客様の課題解決に導く情報をいち早くお届けします!