リスキリングとは?DXとの関係性や先駆者の成功事例を紹介

ビジネス環境の変化とともにデジタル技術の進化もあいまって、将来産業構造が大きく変わることが予想されています。そんな中、新たなビジネスやサービスに対応するために新しい知識やスキルの習得を行う、「リスキリング」が求められおり、近年ではDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応するための人材戦略としても注目されています。
本コラムでは、リスキリングとは何か、メリットや導入方法、DXとの関連性などをまとめて解説しますので、ぜひご一読ください。

このコラムを読んで分かること

  • リスキリングの意味
  • リスキリングとDXの関連性
  • リスキングの導入事例

【目次】

  • リスキリングとは
  • リスキリングを行うメリット
  • リスキリングを導入するためのステップ
  • リスキリングを行った企業事例
  • まとめ

リスキリングとは

「リスキリング(reskilling)」とは、「学び直し」「新しいスキルの習得」を意味する言葉です。企業が社会の変化に対応するために、今後業務上で必要となる新しいスキルや技術を従業員に再教育したり、習得を促したりすることを意味します。

リスキリングが注目されるようになった背景には、以下のような理由が挙げられます。

  • DX実現のためのデジタル人材不足
  • 技術的失業への対応

近年では、デジタル社会に向けたDXの推進が重要視されており、日本でも多くの企業がDX化に取り組んでいます。しかし、2019年に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査(概要)」によると、「2030年にはデジタル人材が約79万人不足する」との結果が示されているほど、需要と供給のバランスが大きく崩れているのが現状です。
そこで、外部から新たにスキルを持った人材を採用するのはではなく、内部でデジタル人材を育成する方法として、リスキリングが注目されています。

また、DXにより業務のデジタル化や自動化が進むことで、多くの労働者が今の職を失うことが予想されています。技術の進歩によって職を失う人が増えることは国際的にも懸念されており、2020年に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)では、「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」と題して、「2030年までに世界で10億人をリスキリングする」ことが発表されました。
岸田総理も2022年10月の所信表明演説で「リスキリングに関する人材投資に、政府が今後5年間で1兆円の投資を行う」と発表。経済産業省が開催している「デジタル時代の人材政策に関する検討会」においても、失われる雇用から新たに生まれる雇用へと円滑に労働力を移動できるように、企業が従業員のリスキリングを推進することを奨励しています。

このように「リスキリング」は世界的にも、日本国内においても重要な取り組みとして注目されています。

リスキリングとリカレント、OJTとの違い

「リスキリング」と似たような言葉として、「リカレント」や「OJT」があります。学ぶという共通点がありますが、それぞれには違いがあります。詳しく見ていきましょう。

リカレントとの違い

前述のとおり「リスキリング」とは、これから業務で必要となる知識やスキルを学ぶことで、会社で働きながら新しいスキルを獲得します。これに対して「リカレント」とは、一度仕事を離れ、大学などの教育機関に入り直し、新しいビジネススキルを学ぶことをいいます。
リスキリングは企業が主導して戦略的に新しいスキルの習得を促しますが、リカレントは基本的に自らの意思で新しいスキルを習得する考え方です。そのため、主体が企業側になるか、個人になるかという部分が大きく異なってきます。

OJTとの違い

「OJT(On the Job Training)」とは、上司や先輩の指導のもと、実際の業務のなかで実践しながら必要な知識やスキルを学ぶことをいいます。
つまり、将来的に必要になるスキルを学ぶリスキリングに対して、OJTは既存の業務に必要なスキルを学ぶという点が大きな違いです。

リスキリングを行うメリット

リスキリングのような人材投資を行うにはコストが発生し、時間もかかりますが、得られるメリットも多くあります。ここからは、リスキリングを行うメリットについて詳しく解説していきます。

新しいアイデアが生まれやすい

従業員がリスキリングによって、最新の技術や時代にあった新しいスキルを身につけることで、これまでにはない新しい発想やアイデアが生まれやすくなります。
労働の流動性が活発ではない日本の雇用形態では、リスキリングを行うことで、既存事業のマンネリ化の抑制にも役立ち、社内に新しい風を吹き込むことができるでしょう。それにより、新たなビジネスやサービスが創造され、企業を成長させることにも繋がります。

業務効率が上がる

リスキリングにより、新しいスキルや知識を習得し、既存の業務に応用すれば、業務の効率化につながります。
たとえば、業務フローの改善や業務の自動化を行うことで、作業時間が短縮できます。他にも、営業職の従業員がビッグデータやBIツールなど技術的なスキルを習得すれば、従業員自らデータの分析ができるようになり、それを営業活動に活用できるようになるでしょう。
このように、新しい業務や自分が担当してきた業務にもリスキリングによって獲得した知識やスキルを活かすことができ、業務効率も向上します。

従業員のモチベーションを維持しやすい

学びを活かしてやりがいのある仕事を任されたり、ステップアップを実感できたりすることで、従業員のモチベーションが高まります。
また、企業としてリスキリングを推進し、その目的や重要性を従業員と共有することができれば、双方の絆も深まり、結果的に従業員エンゲージメントを高めることにも繋がるでしょう。

既存社員をリスキリングすることで企業文化と社風を継承しやすい

必要なスキルを持った人材を外部から取り入れることもできますが、これまで培ってきた技術やノウハウ、自社の文化などが継承されない可能性があります。
しかし、自社の文化や社風を理解している既存社員をリスキリングすることで、企業文化を継承することができ、また自社の強みを生かした事業展開を行うことも可能になります。

リスキリングを導入するためのステップ

リスキリングを導入するにあたって、必ず行うべきことがあります。それは、リスキリングの目的や重要性を経営層と従業員でしっかり共有しておくことです。
目的なくリスキリングを行うと、スキルを習得しても社内にそのスキルを活かせる場がないケースがあります。そのような場合、従業員はスキルを活かせる他の企業に転職してしまう可能性もあるでしょう。
そうならないためにも、ここからはリスキリング導入ステップについて詳しく解説していきます。

1.必要なスキル、社内にある既存スキルを可視化する

まず、自社の経営戦略や事業戦略実現のために、今後どのようなスキルが必要になるかを洗い出します。必要なスキルを把握できたら、次は従業員がどのようなスキルを保有しているのか、社内にあるスキルの棚卸しを実施しましょう。そして、従業員の保有スキルを可視化できたら、企業が必要としているスキルとのギャップを確認し、その上で、リスキリングで何を習得するのかを決めていきます。
このように、必要なスキルや社員の保有スキルを可視化することで、より効果的にリスキングを進めることができます。

2.リスキリングの目的、現状とのギャップを従業員と共有する

習得すべきスキルが明確になったら、リスキリングをする目的・スキルを身につけることによるメリットを従業員と共有しましょう。従業員からの理解が得られなければ、成果が出にくくなるだけでなく、従業員の自発性を高めることもできません。
説明する際には、自社に足りない要素(現状とのギャップ)を明らかにした上で、必要なスキルを伝えましょう。そして、スキルを習得してどんな目標を達成したいのか、どのような人材像を描いているのかも伝え、その先にある企業としての経営戦略も共有すると良いでしょう。

3.リスキリングを効率よく習得できるプログラムを組む

習得すべきスキルが決まったら、次は教育プログラムを検討します。教育プログラムには、研修やオンライン講座、eラーニングなど様々な種類があります。
基本的な知識から専門知識の習得、自社の方向性にあったケーススタディーや実習など、従業員の理解度や習熟度にあわせて、教材や内容を変えたり、受講する順番を設定したり、効率よく習得できるプログラムを組むことが大事です。

企業内にリスキリングに詳しい人材がいない場合は、外部の専門家などにアドバイスをもらいながら、自社の経営戦略や事業戦略にあったスキルを効率良く習得できるプログラムを組むのも良いでしょう。

4.各従業員にプログラムに取り組んでもらう

プログラムの準備ができたら、従業員に取り組んでもらいます。
ただし、就業時間外に実施すると、従業員のモチベーション低下につながる可能性があります。できる限り就業時間内に受講できるように設定しましょう。
また、就業時間内であっても通常の業務と学習の両立は負担となり、ストレスを感じる従業員もいます。取り組みを強制するのでなく、従業員が就業時間内に自主的に取り組める環境作りが大切です。
さらに、人事評価と紐付けてキャリアパスを提案したり、スキル習得のインセンティブを提示したりといったリスキリング促進のための制度なども有効です。

5.新しく習得したスキルや知識を試す場を設ける

スキルを習得したあとは、実際の業務に反映させていきます。
学習だけで終わらせると、スキルが身につかないことがあります。実際に習得したスキルを使用して実践することで、学習の効果を高め、スキルの強化に繋がります。また、実践する場があることで、スキルを習得した目的を実感できるでしょう。

リスキリングは、学習を継続することで効果も高まるため、継続的に取り組める仕組み作りが重要です。

リスキリングを行った企業事例

ここからは、リスキリングを取り入れた企業がどういった背景で何を目的にリスキリングを行い、結果的にどうなったのか、成功事例をご紹介します。

通信業界大手のA社

アメリカにある通信・メディア系を中心とする複合企業のA社。以前はハードウェア技術が強い会社でしたが、将来ハードウェア領域の技術革新だけでは難しいと判断し、ソフトウエア事業に舵を切る大幅転換を決断しました。
2008年に社内調査を実施したところ、25万人の従業員のうち将来のビジネスに必要なスキルレベルを持つ人材が半数程度のみ。約10万人は、10年後には存在しないと予想されるハードウェア関連の業務スキルしか持っていないという、衝撃的な事実が判明しました。
このような危機的状況を回避するため、今後自社で必要なスキルを特定し、2020年までに10億ドルをかけて10万人のリスキリングを行いました。

社内のジョブ整理やスキルの明示化、スキルアップに対しての報酬などの制度を導入。また、従業員のキャリア開発支援ツール提供など、多岐にわたったリスキリングの取り組みを実施した結果、現在は社内技術職の80%以上が社内異動によって充足している状況です。
さらに、リスキリングプログラムに参加した従業員は、参加しなかった従業員に比べ、「1.1倍高い評価」、「1.3倍多い表彰」、「1.7倍の昇進」を実現しています。離職率においては、「1.6倍低い」という結果となっています。

電機メーカー大手のB社

電機メーカー大手のB社は、従来のものづくりからデジタル主体の経営へ転換を進めており、デジタル対応力を持つ人材の強化として、従業員のリスキリングに取り組んでいます。
従業員のリスキリングをサポートするシステムを導入し、1万6000もの講座や、英語を含む10言語の学習プログラムを受講できるようになっています。
また、B社はグループ企業を含めた全社員へのデジタル教育にも力を入れ、グループ会社と連携して社内教育を実施。デジタルスキルを持つ人材強化のため、グループ企業にも順次展開してDX研修を実施しています。
人材への投資を通じて「デジタル企業」としての競争力の底上げを図るだけでなく、蓄積した知見を活かしコンサルティングを通じて顧客の人材育成にも取り組み、学び続ける文化を社内外に発信しています。

まとめ

ここまで、リスキリングについての基本的な解説と導入方法、成功事例などを解説してきました。今回の内容を改めて以下にまとめます。

<このコラムのPOINT>

  • リスキリングとは、企業が今後業務上で必要となる新しいスキルや技術を従業員に対して再教育すること
  • リスキリングはデジタル人材不足、技術的失業への対応だけでなくDXに対応するための人材戦略にも有効で、国内外で重要視されている
  • 必要なスキルや社員の既存スキルを可視化することから始めることが重要

デジタル技術の進化により代替えできる業務が増える一方で、新たな業務、デジタル技術を使いこなす側の業務が増えています。特に最近では、DXの本質である既存のビジネスモデルからの転換をはかることも求められています。その際にリスキリングは有効な取り組みとなるでしょう。

岸田総理の演説にもあったように、政府も本格的なリスキリングによる人材投資に乗り出しました。ビジョンや目的を従業員と共有し、戦略的にリスキリングを推し進めてみてはいかがでしょうか。

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