部下を育てるために必要なコーチングとは?

コーチングはビジネス界で効果的なマネジメント手法としてすでに定着しつつあります。時代の変化が激しく、価値観が多様化している現代においては、一人ひとりの社員が迅速にアクションを起こさなければ競争に勝ち残ることは困難であり、コーチングの持つ「相手の自律性を育て、発揮させる」という側面に期待が集まっているからです。

そこでこのコラムでは、コーチングの目的や部下を育てるために必要な5つのコーチングスキル、コーチングの効果的な利用法についてご紹介します。

コーチングとは?

コーチングとは、
「人は誰でも無限の可能性をもっている」
「人が必要とする答えはその人のなかにある」
「答えに気付くためにはサポートが必要である」

という3つの柱を基本として、相手をサポートするものです。
具体的には、

  • 相手が自分の可能性を最大限に発揮できるようにする
  • 相手が達成したい目標をより早く達成できるようにする

自分で考えて行動できるように、相手の取るべき手段を引き出すコミュニケーションサポートのことをいいます。

コーチングの目的は?

コーチングの目的は、目標達成に向けて、習慣化された行動やパターンを変えることにあります。頭では別のやり方が効果的であるとわかっていても、実際に行動に移せない、あるいは、今までのやり方をなかなか変えることができない、ということはよくあることです。

頭でわかっていることを「実際に行動に移す」ために必要な知識やスキルを棚卸しして、それを相手に身につけさせる、これがコーチングでのプロセスとなります。

コーチングにおける会話の3原則

コーチングにおいては、「聞く」「質問する」ことが重要な要素として考えられていますが、その根底には次の3つの原則があります。

(1)双方向のコミュニケーションであること

日常を振り返ると、多くの場面で一方的に指示をしたり、一方が話していて相手は次に何を言うかを思案していたりするなど、一方的なコミュニケーションが見られます。相手が話したことを聞き、それについて自分も話す、といった繰り返しがここでいう双方向のコミュニケーションといえます。

(2)継続的にコミュニケーションを交わすこと

コーチングでは、相手が自発的に行動を起こす、あるいは今までの行動パターンを変えることを目的とします。継続的にコミュニケーションを交わす、というのは、一度サポートして終わりではなく、相手が実際に行動を起こすまでサポートし続けることをいいます。

(3)相手にあったコミュニケーションスタイルをとること

十人十色という言葉があるように、人それぞれ物事のとらえ方や感じ方は違います。ある人に通じたやり方や言い方が、他の人にも同じように効果的とは限りません。相手の受け取りやすい言葉で伝えたり、相手が実行しやすいやり方を提案する、これも非常に大切ですね。

部下を育てるために必要な5つのコーチングスキル

コーチングスキルと聞くと特別に訓練する必要があるというイメージを抱くかもしれませんが、実は特別なものではなく、ビジネスの場で実践された成功事例です。
そして、コーチングには様々なスキルがありますが、それらはすべて

  • 相手の自律性を促す
  • 相手の力を最大限に発揮させる
  • 相手の自発的な成長を促す

という3つの目的が基になっています。

では、具体的にはどのようなスキルがあるのでしょうか?ここでは、ビジネスシーンにおいて部下を育てるために必要な5つのコーチングスキルついて見ていきます。

その1:信頼感や安心感を築く

上司が部下に対して指示などする際、部下が快く行動に移すか、内心不満を持ちつつ行動するかは、多くの場合、部下との間に信頼関係が築けているかによって異なります。
部下との間に安心感や信頼感を作り出すには、

  • 共感してくれていると感じてもらうために、部下が使った言葉を自分も使う
  • 「聞いてくれている」と安心感を持たせるために、部下が言ったことを「それは、こういうことですね」と繰り返したり、適度に相槌を返したり、うなずく動作をする

などが効果的です。
なお、書類やパソコンに向かいながら等、別の作業を行いながら話を聴くのはタブーです。信頼されていないという印象を与えてしまう場合がありますので、視線を合わせ身体も部下に向けて聴きましょう。

その2:意識的に聴く

人の話に注意を向けずに聴いてしまうことがあります。
意識的に聞かないと、

  • 次に自分が話すことや提案、アドバイスを考えている
  • 話の展開や結論を自分の想像で聴いたり、話の続きをせかしたりする

といったことがよく起こります。人は話を聴いてもらえないと感じると不安になり、逆に聴いてもらっているという安心感は、自由な思考や自発的な行動につながります。
話の途中で口を挾んだり、結論を先取りしたりせずに最後まで聴くことで、部下が自分で自分の発想や考えに気づいたり、話す前には気づかなかった解決策を思いつくことにもつながるのです。

その3:オープンクエスチョンを使う

質問には大きく分けて、はい、いいえで答えられるクローズドクエスチョンと自由に答えられるオープンクエスチョンの2種類があります。相手に考えさせ、自発的な行動を促すためには、オープンクエスチョンを使用すると効果的です。
例えば、

  • 部下の視点を変えるために
    「もしあなたが相手の立場であったらどのように行動しますか?」
  • 選択肢を広げるために
    「他にはどんな対策が考えられますか?」

などが挙げられます。確認や単なる情報収集の際にはクローズドクエスチョンを、相手から情報やアイデアを引き出す際にはオープンクエスチョンを増やすなど、目的に応じて使い分けると良いでしょう。

その4:相手に提案したり要求する

コーチングでは、どちらかというと「相手を受け止める、合わせる、待つ」といった受身的な面が重視されますが、必要と感じるときや効果的なアイデアがある場合には提案や要求という形で積極的に相手に働きかけることも重要です。
ただし、その際の提案や要求は、

  • 上司側の都合ではなく、部下に新しい視点を提供し、その部下の行動、成長や成功をサポートする
  • 提案する際に、なぜ提案が必要か、提案を実行するか否かの選択肢を与える
  • 自分の考えや行動の枠から一歩外に出た可能性に気づかせる

ということを意識して行うようにしましょう。

その5:相手を受け入れて承認する

承認とは、相手の変化や違い、成長や成果にいち早く気づき、それを言葉にしてわかるようにはっきり伝えることです。他人から成長や変化を認めてもらうことで、人は次の行動やチャレンジに向けて意欲を持ちます。

そして、承認をする際には、
「結論から話すようになりましたね」
「業務に関することを、自分でも色々勉強していますね」
「ここのところ、目標を達成し続けていますね」

など、「部下自身がまだ気づいていないと思われること」を先に気づいて伝えることが最も効果的といえます。そうすることで、部下自身が自分の成長を実感できると同時に、「自分のことを見ていてくれているんだ」と、上司への信頼も生まれます。
承認には、

  • 名前を呼んで目を見て挨拶する
  • 仕事を任せる、意見を聴く、相談する
  • 相手が前に言ったことを覚えている

など、日頃の職場で簡単にできることも含まれますので、普段から実践していきたいものですね。

コーチングの効果的な利用法

コーチングはどんなときでも、また誰に対してでも効果的なわけではなく、相手や場面に合わせて使うことが大切です。では、どのようなときにコーチングが効果的なのでしょうか?

従来のティーチング型育成法には、短い時間で一度に大勢の人数を画一的に育成できるメリットがあります。反面、教えられる側の個性が活かされず受身になる、教える側の知識や経験の影響が大きいなどのデメリットがあります。

一方、コーチング型育成法は、「知識を教える」のではなく、「一緒に学ぶ」という形で能力開発する取り組み方なので、相手の自発性を育て可能性を引き出す、相手の個性を活かすなどのメリットがあります。
反面、

  • 育成する時間が長くかかる
  • 1対1のコンサルティング方式が主流になるので、一度にたくさんの人を育成できない
  • 相手の個性を尊重するので、マネジメントが複雑になる
  • 相手にそれなりの知識と経験がないと、効果が発揮できない

などのデメリットがあります。
したがって、ティーチングとコーチングを使い分けることが重要です。では、具体的に見てみましょう。

その1:能力が高く、経験も豊かな部下が重要な案件のプレゼンを行う

この場合、部下には充分な能力と経験があるので、コーチングが適しているでしょう。

  • プレゼンの対象と目的は何か?
  • 聴衆からどのような反応を引き出せたら成功か?

などを質問してよりゴールや目的を明確にすることで、成功イメージを植え付け、部下の能力と知識を最大限に活かすことが可能です。ただし、プレゼンの内容が部下にとって初めてのものである場合には、その内容に関する知識を教える必要があり、その際はティーチングを用います。

その2:新しい社内規定を部署内全員に早急に徹底させる

この場合には、

  • 新しい規定を一律に、全員に徹底させる
  • 緊急性が高い

ことから、ティーチングが適しているといえます。同時に、「継続的に規定を確実に実行させるにはどうするか?」といった点では、個別にコーチングを用いて指導することも効果的です。

その3:経験や能力がある部下をマネージャー候補に育てる

この場合には、ティーチングとコーチングの組み合わせが効果的です。部下には、すでに経験や能力があり、自分がやるべき業務はすべて自分の力で実行できますが、マネジメントについては、まだ経験も知識もあまりありません。

まずは、コーチングを使って、

  • どんなマネージャーになるか?
  • マネージャーになるには、今の自分に何が足りないと思っているか?
  • 自分の持っている能力のうち、どのような部分を活かすと効果的か?

などを明確にします。
今後伸ばすべきところ、新しく身につける知識や経験を明確にしたうえで、それぞれティーチング型、コーチング型のどちらが効果的かを整理します。

まとめ

ここまで、コーチング基礎から効果的な利用法など、いくつか事例を交えご紹介しました。既存の育成手法を補完するような形でコーチングを取り入れることが、現実的かつ、効果的な導入方法といえますね。

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