介護事業者の経営情報の提出が義務化!負担を減らすスマートな管理方法とは?

2025年1月から、介護事業者における経営情報の公表が義務化されました。介護事業者は損益計算書などの経営情報を公表する必要があります。

経営情報の公表が求められる背景には、高齢化社会の進行による介護需要の増加に伴い、経営を効率化する必要性が高まったことや、業界全体において経営の透明性が求められていることが挙げられます。

しかし、その実施には、現場における人手不足や会計知識の不足、システム導入の難しさなどの課題があります。そこで、本記事では経営情報公表の概要と、情報を提出する業務負担を低減するポイントについて解説します。

経営情報公表の義務化における概要

日本の社会保障システムには、少子高齢化の影響を踏まえた事業者支援や、制度の持続可能性が求められています。そのため厚生労働省は「介護経営実態調査」を3年に1度実施しています。

しかし、調査対象は中・大規模事業者が中心であり、さらに回答率は全事業者の半数を割っている状況です。そのため、介護報酬改定直後の経営状態や小規模事業者の経営状態が調査に反映されにくいという課題がありました。

今後は、物価上昇や災害、新たな感染症などに直面するリスクを踏まえて、適切な支援策の検討が求められています。

そこで2025年1月以降、介護事業者は「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書を含む財務諸表」の公表が義務化されます。経営状況は、電子開示システムを通じて報告します。

財務状況の報告は2種類

財務状況の報告は「介護サービス情報公開システム」と、今回解説する「介護サービス事業者経営情報データベースシステム」があります。

前者は、サービス利用者が介護事業者を選択する際に、情報収集できるようにすることが目的です。そのため、詳細な経営情報が公開される可能性があります。提出内容は損益計算書、貸借対照表及びキャッシュフロー計算書が原則です。資産、負債及び収支の内容が分かるデータが必要とされています。

後者は、事業所が提出した情報そのものは公表されません。厚生労働省が事業所の属性ごとに情報を分類・分析して、公表します。

いずれの場合も財務状況が公開されるため、経営の改善が求められます。会計ソフトの利用にとどまらず、IT・介護ロボットの活用などによる生産性の向上が重要です。

介護業界の現状

介護業界は少子高齢化に伴い、サービスの需要が急増している反面、介護現場における人手不足の深刻さが増しています。そのため、2024年の介護報酬改定では介護職員の処遇改善が優先されました。しかし、財源には限りがあるため、全体の適正化を図ることが急務です。

社会保障の財政は、全世代対応型の持続可能な制度の構築を目指しています。そのため、介護事業者には経営効率と透明性の向上が、これまで以上に求められます。

報告が必要な情報

報告が義務化された事業者は、以下表の通りです。

名称
訪問介護 複合型サービス
(看護小規模多機能型居宅介護)
訪問入浴介護 居宅介護支援
訪問看護 介護福祉施設サービス
訪問リハビリテーション 介護保険施設サービス
通所介護、通所リハビリテーション 介護医療院サービス
短期入所生活介護 介護予防訪問入浴介護
短期入所療養介護
(則第14条第4号に掲げる診療所に係るものを除く)
介護予防訪問看護
特定施設入居者生活介護
(養護老人ホームに係るものを除く)
介護予防訪問リハビリテーション
福祉用具貸与 介護予防通所リハビリテーション
福祉用具貸与 介護予防短期入所生活介護
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 介護予防短期入所療養介護
(則第22条の14第4号に掲げる診療所に係るものを除く)
夜間対応型訪問介護 介護予防特定施設入居者生活介護
(養護老人ホームに係るものを除く)
地域密着型通所介護 介護予防福祉用具貸与
認知症対応型通所介護 特定介護予防福祉用具販売
小規模多機能型居宅介護 介護予防認知症対応型通所介護
認知症対応型共同生活介護 介護予防小規模多機能型居宅介護
地域密着型特定施設入居者生活介護
(養護老人ホームに係るものを除く)
介護予防認知症対応型共同生活介護
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護

経営情報の提出が不要となる場合は2つあります。まず1点は「年間収入が100万円以下」の場合で「長期休業や稼働日数の少ない」場合、または「みなし指定で稼働率が低い」場合です。もう1点は、自然災害の被災により報告が困難な場合です。

報告期限は当該介護サービス事業者の毎会計年度終了後、3ヶ月以内に行うこととされています。ただし令和6年度の報告に限り、期限は令和6年度末までとなっています。

具体的な項目

具体的には、以下の項目の公表が求められています。

事業所、または施設の名称・所在地その他の基本情報
事業所又は施設の名称
法人等の名称
法人番号
介護事業所番号
介護事業所で提供しているサービスの種類
法人等の会計年度末
法人等の採用している会計基準
消費税の経理方式
事業所、または施設の職員の職種別人数、その他人員に関する事項
次の職種ごとのその人数
(常勤・非常勤別)
●管理者
●医師
●歯科医師
●薬剤師
●看護師
●准看護師
●介護職員(介護福祉士)
●理学療法士
●作業療法士
●言語聴覚士
●柔道整復師・あん摩マッサージ師
●生活相談員・支援相談員
●福祉用具専門相談員
●栄養士・管理栄養士
●調理員
●事務職員
●その他の職員
●上記のうち介護支援専門員・計画作成担当者
●上記のうち訪問介護のサービス提供責任者

<参考>
厚生労働省「介護保険最新情報 介護保険法第 115 条の 44 の2の規定に基づく介護サービス事業者経営情報の調査及び分析等に関する制度に係る実施上の留意事項について

実施に向けた現場の課題

経営情報の提出が義務化されたため、介護事業所では以下のような課題が発生すると想定されます。

人手不足と業務負担増

介護業界は人手不足が深刻化しており、特に小規模事業所においては新たな報告義務が現場の負担をさらに増加させる可能性があります。

会計事務所に依頼する場合にも、手間と費用が必要です。また、提出業務に多くの時間を割くことにより、本来の介護サービスの質が低下する可能性も考えられます。

会計知識の不足

システムに直接データを入力する際に、勘定科目などの会計知識が乏しければ、報告を誤るリスクが増加するかもしれません。

経営情報の提出方法

経営情報の提出は「GビズID」を通じて行います。GビズIDは、法人・個人事業主向けの共通認証システムです。

アカウントを取得すれば1つのIDとパスワードで、補助金の申請や社会保険の手続きなども含め、複数の行政サービスへ効率的にアクセスできるようになります。

そのため、厚生労働省は介護サービス事業者に対してGビズIDアカウントの取得を呼びかけています。

経営情報の提出は、以下の手順で行います。

1.介護サービス事業者経営情報データベースシステムにログインする。

2.『メニュー』画面から『経営情報データ登録』を選択する。

3.画面項目に沿ってデータを登録する。
 損益計算書等データ登録
 届出対象事業所データ登録
 事業所連絡先登録
 追加情報登録
 確認
 完了

3-の損益計算書等データ提出は、直接入力する方法と会計ソフトを利用する方法があります。

システムへの直接入力

直接入力する場合の手順は以下の通りです。必須項目と任意項目に分かれていますが、全て入力するとかなりの項目数があります。

1.「画面より登録」ボタンをクリックすると『損益計算書等データ表示・編集』画面が表示されます。

2.会計基準を選択すると「損益計算書等データ詳細」に対応する勘定科目が表示されます。

3.各項目を入力します。

<参考>
厚生労働省「介護保険最新情報 介護サービス事業者経営情報の報告等に関する システムに係る運用マニュアル等の発出について(事務連絡)

提出に対応した会計ソフトを利用

会計ソフトからのファイルの取り込みは、 損益計算書などの各種データ及び届出対象事業所データの2つで可能です。事業所連絡先及び追加情報データについては、手入力でのみ登録可能となります。

ファイル取り込みによりデータを登録する場合は、以下の流れで進めます。

1.会計ソフトから出力された損益計算書等のデータファイルの用意が必要です。

2.ファイルを選択する画面が表示されますので、取り込みたいファイルを選択後、「開く」をクリックします。

3.ファイルを選択後、「取込」をクリックします。

4.「損益計算書等データ登録状況」に取り込んだファイルの内容が表示されます。

5.届出対象事業所データなどの入力に続きます。

<参考>
厚生労働省「介護保険最新情報 介護サービス事業者経営情報の報告等に関する システムに係る運用マニュアル等の発出について(事務連絡)

会計ソフトを導入するメリット

業務の効率化

会計ソフトを導入することにより、手作業での報告業務を自動化できます。ITツールを活用して労働生産性を上げることで、経営改善に確かな効果をもたらします。

迅速な経営判断

会計ソフトの導入により、リアルタイムで経営情報を確認できます。そのため、スピーディな経営判断が可能です。

セキュリティーの強化

会計ソフトには、データ保護や自動バックアップ機能が備わっており、紙での管理に比べて情報漏洩や紛失のリスクが軽減されます。

介護サービスの質の維持・向上

経営情報の提出業務が簡素化されることにより、会計担当の職員が他の業務に集中する時間を確保できます。介護職員が経営情報の提出を担っている場合、介護サービスの時間を削減することなく、経営情報の提出が可能となります。

まとめ

介護事業者における経営情報の提出の義務化は、介護経営における透明性の向上と政策支援の強化を目指した重要な取り組みです。しかし、現場では業務負担の増加や会計知識の不足といった課題が発生する可能性があります。

こうした課題を解決するためには、会計ソフトの活用が効果的です。会計ソフトを導入することにより、負担を軽減しながら生産性を確保し、介護サービスの質を維持できます。介護事業者が安定的かつ持続的な運営を実現するために、業務効率化を図りながら、新制度に柔軟に対応していくことが重要です。

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著者プロフィール

梅木 駿太
合同会社Re-FREE 代表/経営パートナー/医療経営・管理学修士(MHA)

理学療法士として医療・介護の現場を経験したのち、管理職として部門運営を経験。その後、複数の介護事業所を有する医療法人の事務長として医療介護経営に従事。現在は特に50床以下の小規模病院・クリニック・介護事業所を中心に、経営支援を行っている。長期的な戦略に基づいた、実効性の高い支援内容に定評がある。

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