介護現場におけるAI活用の可能性を専門家が解説!導入時のポイントや事例も紹介
AIは人間のように考え、学び、判断する技術です。介護現場においてAIは、人手不足の解消や業務の効率化、高齢者のQOL(生活の質)向上など、さまざまな課題を解決しうる強力なツールです。
具体的には、見守りシステムによる安全確保、事務作業の効率化、送迎ルートの最適化、コミュニケーション支援など、活用の可能性は多岐にわたります。
上記を踏まえ、この記事ではAI活用の可能性や導入時におけるポイント(技術的な課題や倫理的な配慮など)について事例を交えて伝え、AIが介護の未来を支える存在となる可能性があることを示します。
【目次】
- AIとは何か?
 - AIによる介護の課題解決
 - 介護現場におけるAIの活用事例
 - AI導入時のデメリット(注意点と課題)
 - AI導入を成功させるための実践的アプローチ
 - まとめ:AIによる高齢者介護の未来
 
AIとは何か?
      AI(人工知能:Artificial Intelligence)とは、人間の知的機能をコンピューターにより再現し、思考・学習・判断などを行う技術の総称です。
例えば、推論、言語理解、創造性といった、従来は人間にしかできないとされてきた認知機能を機械が実行できるようにすることを目指しています。
身近な例としては、画像認識、音声認識、自動翻訳などが挙げられます。
AIによる介護の課題解決
急速に高齢化が進む日本では、介護サービスの需要増加と介護人材の不足が深刻な問題となっています。経営の観点からも、生産性の向上がますます重要になっています。
こうした状況において、AI技術はその解決策として注目されており、単なる人手不足の解消だけでなく、業務の効率化や介護の質の向上など、さまざまな側面での活用が期待されています。
介護現場におけるAI活用と政府の取り組み
厚生労働省は「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する中間とりまとめ(令和7年4月10日)」において、計画書(ケアプラン)やサービス担当者会議の議事録の原案作成に生成AIを活用することで、業務の効率化につながると明記しています。
国としても介護現場でのAI活用を積極的に検討するなど、今後ますます業界におけるAI導入が進むことが予想されます。
介護現場におけるAIの活用事例
見守りシステムによる安全確保
AI搭載の見守りシステムは、高齢者の安全を守り、異常の早期発見に役立っています。センサーやカメラが24時間体制で高齢者の動きやバイタルサインをモニタリングし、異常を検知すると即座に介護スタッフの端末へ通知。
例えば、離床・転倒・徘徊といった行動を早期に把握し、迅速な対応を可能にします。
健康管理のための予測分析
AIはリアルタイムで健康データや生活リズムを分析し、変化や異常の兆候を早期に把握します。これにより、重症化の予防や早期治療が可能となり、タイムリーなケアの提供につながります。
非接触型のバイタル測定や生活リズムの可視化なども、健康管理に役立つ重要な機能です。
AIによる事務作業の効率化と記録支援
介護現場では、事務作業が大きな負担となることが多く、AIの活用によってその軽減が期待されています。
シフト作成とスタッフ管理の自動化
1日に必要なスタッフの人数や月間の休日数、スタッフの希望などを基に最適なシフトを自動作成できます。これにより調整の手間が減り、スタッフ満足度の向上にもつながります。
音声入力や自動記録による記録業務の効率化
音声入力や自動検知により、介護記録の作成時間が大幅に短縮され、スタッフが本来のケア業務に集中できる環境が整います。
ケアプランや書類作成の支援
過去のデータを活用して、AIが利用者一人ひとりに合わせたケアプランを提案することが可能です。AIの導入により、作成にかかる時間を短縮でき、業務効率化を実現した事例もあります。
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三菱電機デジタルイノベーションで取り扱う「ほのぼのNEXT」は、ケアマネジャーが作成したケアプランを基に、1年後の要介護度の状態予測を行うこともできます。
【AIケアプランの強み】
◆悪化・維持・改善を数値化した根拠のあるプラン作成により、利用者やご家族から理解と納得を得やすくなる
◆ADL・IADL・認知症状などの予測、自立支援に必要なサービスプランの参照が可能で、重度化防止及び自立支援を考慮したケアプランを策定可能
◆経験が少ないケアマネジャーの育成ツールとしても活用可能
◆「ほのぼのNEXT」に登録した認定情報や居宅サービス計画ガイドライン、利用票・提供票の情報を基に、約1年後の要介護度の状態を予測
顔認証による本人確認
AIによる顔認証を活用することで、利用者やスタッフの本人確認を行うことが可能です。利用者の本人確認を行って服薬時に薬の渡し間違いを防止するとともに、スタッフの顔認証を行うことで、誰が服薬介助を行ったのかを管理することも可能です。
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三菱電機デジタルイノベーションで取り扱う「めでぃさぽ」は、顔認証で誤薬を防止します。また、薬の渡し間違いの防止、服薬介助における精神的な負担の軽減(働きやすさの向上)、服薬の正確な記録を実現可能です。
「めでぃさぽ」はQRコード不要で、簡単に導入できます。誤薬防止のシステムを検討したものの、薬局との調整(利用者やスタッフのQRコードの印字など)がネックとなり、導入を断念した企業様はぜひご検討ください。
その他の生成AIの具体的な活用事例
レクリエーション案の生成
利用者の興味・身体状態・認知レベルに応じたレクリエーション案を生成できます。例えば、画像生成AIでリハビリ動作をイラスト化したり、利用者の顔写真を使った「間違い探し」を作成したりと、楽しみながら脳を刺激する工夫を行えます。
送迎ルートの最適化
利用者情報や交通状況などを基に、AIが効率的な送迎ルートや時間を自動で計算します。使うほどに学習し、よりスムーズな送迎が可能になります。
外国人人材への翻訳支援
多言語翻訳機能を活用することで、外国人スタッフと利用者、日本人スタッフとの円滑なコミュニケーションを支援します。
マニュアルや記録の多言語化により、外国人スタッフも安心して業務に取り組めます。ある病院ではこの技術により、外国人補助者1人での夜勤対応が実現し、看護師の負担軽減にもつながっています。
AI導入時のデメリット(注意点と課題)
AIの導入は多くのメリットをもたらしますが、いくつかの課題や配慮すべき点も存在します。
技術的インフラと教育の必要性
AIの導入には専門知識や技術的な支援が不可欠であり、スタッフへの適切な研修も必要です。
研修は、段階的に進めていくことが重要です。まずはAIの基本知識や導入目的、プライバシー保護を学び、次にAIツールの操作方法の実践的な研修を実施します。
また、研修後も定期的に活用法を議論することがポイントです。必要に応じて、ベンダー(販売業者)やコンサルタントなど専門家の協力も積極的に仰ぎましょう。
データのプライバシー・セキュリティー・倫理面の課題
健康情報などの機密性の高いデータを扱うため、厳格なプライバシー保護やセキュリティー対策が求められます。
具体的には、匿名化やアクセス認証、システムの脆弱性診断、不正アクセスの監視を専門家と共同して行うことが重要です。
また、AIが提供する情報が学習に使われる可能性や、意思決定の責任の所在・倫理的な判断についても慎重に検討する必要があります。
人間的なつながりの重要性
AIが効率をもたらす一方で、人間の温かさや共感は代替できません。介護では心のこもったコミュニケーションが不可欠であり、AIを導入することによってこれらが損なわれないよう注意が必要です。
介護現場にAIが導入されることで、その役割はより明確になります。
AIが業務を効率化してくれるからこそ、介護スタッフには時間と心のゆとりが生まれます。そのゆとりを、人間ならではの温かいコミュニケーションに向けることが大切です。
コストと費用対効果
AIの導入には初期投資や維持費がかかります。中小規模の施設にとっては負担が大きく、導入前に費用対効果を十分に検討することが重要です。
初期投資に関しては、主に国や自治体による補助金・助成金制度があります。介護事業所が利用できる補助金や助成金を調べましょう。
代表的なものは「IT導入補助金」「介護テクノロジー導入支援事業」「介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策」です。
AI導入を成功させるための実践的アプローチ
AIの導入を成功させるための3つのポイントを解説します。
徹底したスタッフ教育
AIの効果を最大限に引き出すには、現場スタッフがその機能を正しく理解し、使いこなすことが必要です。導入初期の段階で、スタッフに対する十分な研修やサポートを行うことで、AI導入のスムーズな定着と効果の発揮が期待できます。
人間とAIの協調を促す運用体制の構築
AIの提案を現場で最適化するには、人間の判断が不可欠です。「AIはデータ分析・異常検知をする、介護スタッフは意思決定する」などの明確な役割を組織全体で決め、共有しましょう。
AI活用状況の評価・改善のサイクルを確立することで、AIが介護の質を高める強力なパートナーとなります。
定期的な効果測定と改善
AI導入の効果を把握し改善につなげるには、業務効率・スタッフの負担・利用者満足度などを定期的に測定し、データと現場スタッフの声を基に評価・改善を行うことが必要です。
具体的には、記録時間などの業務効率、残業時間や疲労度といったスタッフの負担に関するデータを測定します。また、心理的安全性の高い環境での1on1などで現場スタッフの“生の声”に耳を傾けましょう。
データやスタッフの声を活かすことで利用者への質の高いケアを実現するともに、AIが介護現場全体の成長をさらに促します。
まとめ:AIによる高齢者介護の未来
AIはコストや倫理、人間的ケアの維持といった課題がある一方で、介護現場の課題解決に大きく貢献できます。AIを活用する際には情報の正確性を保ち、プライバシーに配慮することが不可欠です。また、AIに任せきりにせず、人間が担うべき役割を明確にしておくことが重要です。
AIを介護現場でうまく活用することで、仕事の生産性を高め、より質の高いケアを提供できる可能性があります。
著者プロフィール
      梅木 駿太
合同会社Re-FREE 代表/経営パートナー/医療経営・管理学修士(MHA)
理学療法士として医療・介護の現場を経験したのち、管理職として部門運営を経験。その後、複数の介護事業所を有する医療法人の事務長として医療介護経営に従事。現在は特に50床以下の小規模病院・クリニック・介護事業所を中心に、経営支援を行っている。長期的な戦略に基づいた、実効性の高い支援内容に定評がある。
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