疑義照会の医療費への貢献度

明治時代に導入された医薬分業の制度は、導入から1世紀近く経った1977年に、当時の厚生省が37のモデル国立病院に対して完全分業(院外処方せん受取率70%以上)を指示して以降、急速に進みました。2015年には全国の医薬分業率が70%を超え、同年1年間に全国で発行された処方せん数は7億8,818万枚、調剤医療費は7.9兆円に達しました。

医薬分業の目的と意義

医薬分業の主な目的は次の3つになります。

・医療サービスの質の向上
・患者さんの安全を守る
・医療費を適正にする

医師は医学の専門家であり薬物療法を熟知しています。一方、複数の薬を服用した際に現れる相互作用や容量を増やした際に起こる副作用などは、薬に精通した薬剤師の専門分野です。薬剤師が患者さんの服用している薬をきちんと把握し、処方薬の説明をしっかりと行うことで、過剰投薬や飲み間違い、飲み合わせによる薬害などの問題を防ぐことができます。

このように重要な役割を担う医薬分業ですが、近年この意義や薬局薬剤師の職能に対する議論が起こっています。特にコストの面で、医薬分業は期待していたほど医療費の抑制につながっていないのではないか等の声が上がっています。

疑義照会の発生率とその内容

医薬分業を薬局の現場で実現する重要な業務として、薬剤師による疑義照会があります。疑義照会は、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師等に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」(薬剤師法第24条)と法律で定められた、薬剤師の義務です。

日本薬剤師会は、2015年度に医薬分業における疑義照会の有用性を調査しました。この調査では薬剤師が行う疑義照会の内容を明らかにし、中でも薬学的疑義照会が、医療経済的な面で有用なのかどうかが検証されました。

疑義が発見された経緯は「処方せんの内容より」が一番多く、このほか「患者・家族等へのインタビュー(服薬指導)により」や「薬歴の内容により」、「お薬手帳の内容により」などからも発見されました。

調査対象中の疑義照会率は処方せん枚数ベースで2.6%、件数ベースでは2.7%でした。そのうち記載事項の不備である「形式的疑義照会」は疑義照会総数の21.9%、薬学的知識による判断を要する「薬学的疑義照会」は78.1%という割合でした。薬学的疑義照会の内容は「用法・用量に関する疑義」が31.2%と最も多く、次いで「安全性上の疑義」が25.9%、「日数・回数・総数に関する疑義」が25.7%、「服薬コンプライアンス・QOL改善の伴う疑義」が9.1%でした。

疑義照会による医療費の節減

この調査結果をもとに、日本薬剤師会は全国の薬局薬剤師が行う疑義照会による年間薬剤費節減額を推定しました。薬学的疑義照会6,350件の中から「処方の記入漏れ(過去の処方との比較による)」を除いた5,960件の薬剤費の変化を薬価にて計算した結果、約383万3,408円が減額されていました。1件あたりに換算すると約643円の節減になります。

日本薬剤師会はこの数値をもとに、2014年度の処方せん枚数8億831万枚から、薬局薬剤師が行う疑義照会による年間薬剤費節減額を割り出したところ、約102億8,990万3,927円という結果を算出しました。
さらに薬学的疑義照会により重篤な副作用を回避できたと推察された場合、副作用の重篤化確率を6.7%と仮定して年間の医療費節減額を試算した結果、約133億326万8,949円の減額になるという結果が出ました。

まとめ

この調査の結果、日本薬剤師会は「疑義照会は、薬物療法における有害事象を回避し、患者の安全を確保するとともに、医療費抑制効果も得られる大変有益な薬剤師業務である」と結論づけました。医薬分業の中でも重要な疑義照会は、医薬品の適正使用を導き、医療経済的な面でも有用な効果を得ていると言えます。

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