パワハラ防止法の施行で企業に何が課されたのか?

企業内はもちろん、社会的にも大きな問題となっているパワーハラスメント(パワハラ)。パワハラは従業員の就業意欲の低下、健康被害、離職率の上昇だけでなく、企業イメージを著しく損なう可能性もあり、企業としての対策・対応を適切に講じる必要があります。しかし一方で、パワハラは教育や指導との線引きが難しいという側面もあり、境界線が難しいと感じるケースも少なくありません。
定義が難しいパワハラですが、人手不足が社会的な問題となっている日本において、パワハラの予防・解決に向けた取組は国としても重要な施策であると考え2019年5月に成立したのが、「改正労働施策総合推進法」、通称「パワハラ防止法」です。パワハラ防止法により、雇用管理上の必要な措置を講じることが企業に義務付けられました。これに伴って、今まで以上にパワハラへの対応の強化が重視されることは言うまでもありません。
そこでこのコラムでは、パワハラ防止法の基本的な情報や違反した際の罰則、企業で行うべき取組などについて解説します。

「パワハラ防止法」とは

「パワハラ防止法」とは、パワーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置を義務化した法律です。正式には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」といいます。大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年3月31日までの努力義務期間を設けたうえで、2022年4月1日から施行されます。

パワーハラスメントを取り締まる法律ができた背景のひとつとして、パワハラに関する相談が増加したことが挙げられるでしょう。
厚生労働省が公表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、厚生労働省が設置している総合労働相談コーナーに寄せられた令和元年度の総合労働相談件数のうち、民事上の個別労働紛争の相談件数は27万9,210件。そのうち、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は87,570件でトップ。これは2番目に多かった「自己都合退職」が40,081件ということを鑑みれば非常に多いことが分かります。さらに、いじめ・嫌がらせに関する相談は年々増加しており、前年度比5.8%増という結果でした。

[民事上の個別労働紛争|主な相談内容別の件数推移(10年間)(※)]

また、厚生労働省が行なった「平成28年職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間で「パワハラを受けたことがある」と回答した従業員は32.5%となっており、およそ3人に1人がパワハラを経験していることになります。

2020年6月に施行されたパワハラ防止法に伴い、事業主はパワハラも含めたハラスメントに対する相談体制の整備や研修の実施、社内ルールを定めることなど、雇用管理上必要な措置を講じることが義務化されました。また、経営者だけでなく従業員も含めパワハラに対する正しい知識をもち、言動などに必要な注意を払うよう努めなければなりません。
法律として定められたことで企業として適切な対応が求められると共に、当然ながら社会からの目も今まで以上に厳しくなったことでしょう。これまで無意識に行われてきた可能性があるパワハラが減るのではないかと、期待が寄せられています。

パワハラの3つの要件と6つの類型

パワハラ防止といっても、「そもそもどのような行動がパワハラにあたるのか」は明確にしておくべきでしょう。特に、ビジネスにおいては教育や指導が必要な場面も多く、教育とパワハラの線引きが曖昧になるケースも少なくありません。
厚生労働省は今回の法改正に伴って、「職場におけるハラスメント関係指針(※)」を公表しています。ここでは、その指針に基づいて職場におけるパワーハラスメントの定義「3つの要素」と、パワハラを判断するための「代表的な6つの言動の類型」について解説します。

職場におけるハラスメントに関する関係指針改正部分(抜粋)
パワーハラスメントの3つの要素

職場におけるパワハラは以下の3要件を全て満たしたものと定義されています。

1.「優越的な関係を背景とした」言動
言動を受ける側と行為者側の間が、抵抗・拒絶がしにくい関係にあることが背景となって行われるものを指します。
「上司から部下への言動」、「業務上必要な知識や豊富な経験を有している従業員から、協力を得なければ円滑な業務遂行が困難な従業員への言動」などが一般的です。

2.「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動
業務上で必要のないことが明白な言動、業務の目的から大きく外れた言動、業務遂行の手段として不適切な言動を指します。
例えば、会議に遅刻をした部下に対して、次回から遅れないよう注意をすることは教育としての意味合いが強いといえますが、「遅刻するようなやつは人間としても失格だ」のように人格を否定する言動が伴った場合などはパワハラに該当する恐れがあるため注意が必要です。また大勢の前で見せつけるように大声で叱責をするなどした場合にも、パワハラと判断されることがあります。

3.「労働者の就業環境が害される」こと
労働者が就業する上で、見過ごすことができない程の支障が生じることを指します。
例えば、上記1、2で示したような言動により身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者が能力を発揮することを妨げるような状態になったなどが該当します。行為者の言動によって就業意欲が低下したり、業務に専念できなくなったりなどの影響が生じるケースがこれにあたります。

代表的な6つの言動の類型

典型的な職場におけるパワハラの型が6つ紹介されています。ただし、6つの分類に該当しない場合でもパワハラとして扱われることもあり、あくまで目安として考えておく必要があります。

1.身体的攻撃
殴る、蹴る、物を投げつけるなど、目に見えてわかりやすい暴力や傷害を指します。会議資料やペンを投げつける、アポイントメントがとれるまで立ったまま営業電話をかけさせるなどもこれにあたることがあります。

2.精神的攻撃
パワハラの典型ともいえる、侮辱、暴言、名誉棄損、脅迫などによる精神的侵害がこれにあたります。人格を否定するような言動や、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと、従業員を罵倒するような内容のメールを本人に送るだけでなく、チームメンバーなども宛先に入れて送付するなどもこれに該当します。

3.人間関係からの切り離し
同僚に話しかけても集団で無視をされ孤立してしまう、担当業務から外され別室に隔離されるなどがこれに該当します。

4.過大な要求
業務上で明らかに達成不可能なノルマを課して強要する、新人に必要な教育もせず過剰なノルマを設定する、業務とは関係のない私的な雑用などを強制するなどが該当します。また、達成できない場合に暴言や暴力によるパワハラと同時に行われることも少なくありません。

5.過小な要求
過大な要求とは反対に、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れたレベルの低い仕事を命じることや、仕事を与えないなどの行為もパワハラに該当します。

6.個への侵害
個人の携帯電話を盗み見る、私生活について根掘り葉掘り聞く、センシティブな個人情報をほかの従業員へ暴露するなど、プライベートな内容に過剰に入り込む行為もパワハラに該当することがあります。また、女性に対してこの侵害を行なった場合、セクハラとしても扱われる可能性があります。

「パワハラ防止法」で課せられた企業の義務

厚生労働省が公表している「職場におけるハラスメント関係指針」では、企業が行うべき措置についても定められています。

■企業としての方針の明確化と周知・啓発
事業主はパワハラを防止するための方針を示し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発を行う必要があります。「社内報やホームページにパワハラの防止を明記する」、「研修・講習会の開催」、「パワハラへの対処方針を定め周知・啓発をする」などがこれにあたります。

■相談に適切に対応するための体制づくり
パワハラの相談窓口の設置など、適切に対処が可能な環境を整備していくことが求められます。相談に対応する人を決める、相談への対応を弁護士などの外部に委託する方法などが挙げられるでしょう。

■パワハラが発生した場合の迅速・適切な対応
パワハラに関する相談があった際には次のような措置を講じる必要があります。
 • 事実関係を迅速かつ正確に把握する
 • 事実関係が把握できた場合は被害者に対する配慮のための措置を行う
 • 事実関係が把握できた場合は加害者に注意や懲戒処分などの措置を行う
 • 再発防止に向けて改めて、方針の周知啓発を行う

■そのほかに併せて講ずべき措置
上記のような措置を行う際には、以下のような点に配慮した措置をとる必要があります。
 • 相談者、目撃者、行為者などのプライバシー保護
 • 相談者や事実確認等に協力した者がそれを理由に降格や解雇など不利益な取扱いをしないように定め、周知・啓発する

企業が「パワハラ防止法」に違反した場合の罰則

2020年10月時点では、パワハラ防止法に罰則規定は設けられていません。ただし、厚生労働大臣が必要と認めた場合、事業主に対して助言・指導及び勧告をすることができます。また、勧告を受けたものがこれに従わない場合には社名や事実が公表されることもあり得ます。
SNSなどが広く利用されている昨今では、こうした情報は広がりやすく、一度公表されてしまうと企業の信用を大きく損なう可能性も十分に考えられます。仮に社内でパワハラと思われるような事象が起きた場合には、放置せず、早い段階で細心の注意を払って対応に努めましょう。

まとめ ~ハラスメント対策は迅速に~

パワーハラスメントは今や社会的な問題です。パワハラ防止法施行によって、今まで以上にパワハラに対する社会からの目は厳しくなり、企業としてはより具体的な対策が求められるでしょう。これを機に、あらゆるハラスメント対策ができるルール作りや体制を構築しておくことをおすすめします。
働きやすい環境づくりが、生産性の向上や人材の確保にもつながります。繊細な問題であるからこそ、企業として積極的に対策に取り組んでいるという姿勢が、求められるのではないでしょうか。

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