GX(グリーントランスフォーメーション)とは?言葉の意味やカーボンニュートラルとの違いを解説

2022年2月に経済産業省は、クリーンエネルギーを活用するための変革や実現に向けた活動を目指す「GXリーグ基本構想」を発表しました。2020年には「カーボンニュートラル」が政府より宣言されていますが、この2つの言葉「GX(グリーントランスフォーメーション)」と「カーボンニュートラル」は地球環境を考える・変えていくという点で関係の深い言葉です。
そこで本コラムでは、「GX」についての意味や基礎知識、また国内・世界の最新動向を解説します。後半では企業の事例も紹介しています。
政府が推し進める「GX」とは何か、理解を深めるためにも、ぜひ本コラムを参考にしてみてください。

【目次】

  • GX(グリーントランスフォーメーション)とは|カーボンニュートラルとの違い
  • GX(グリーントランスフォーメーション)が注目された背景
  • GX(グリーントランスフォーメーション)における国内の最新動向
  • GX(グリーントランスフォーメーション)における世界の最新動向
  • GX(グリーントランスフォーメーション)の推進によって企業が受けるメリット
  • GX(グリーントランスフォーメーション)を推し進める企業事例
  • GXを実現するにはDXの推進が必要不可欠
  • まとめ

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、カーボンニュートラルとの違い

GXとは、脱炭素社会にむけ再生可能でクリーンなエネルギーを利用する・転換していく取組や活動のことで、グリーントランスフォーメーションの略称です。

産業革命以降、石油や石炭などの化石燃料を使い、さまざまなエネルギーに変換して経済を成長させてきました。しかし同時に、二酸化炭素などの温室効果ガスも排出されており、地球温暖化などの問題につながっています。

一方、太陽光や水素などの再生可能なエネルギーを積極的に活用した場合、温室効果ガスの排出を削減できるなどの大きなメリットが期待できるのです。また、石油や石炭などの限りある資源の消費も抑制できます。

経済産業省の「GXリーグ基本構想」には、一企業単位の狭い範囲ではなく、企業群ひいては経済社会システム全体を変革していくことがGXであると記載されています。
また、GXによって生まれた価値で新たな市場が創造されるだけにとどまらず、生活者の意識・行動の変容を促し、それが巡ってさらに企業の意識・行動を変えていくといった循環構造の実現が必要だと提唱しています。この循環構造により、生活者の幸福・地球環境への貢献などを実現するところまでを、日本は目指しています。

GXはカーボンニュートラルよりも広い構想

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引いてゼロにする活動です。2020年10月に政府は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標を掲げました。

どちらも脱炭素社会を築くための取組ではありますが、カーボンニュートラルは企業や製品を生み出す際の温室効果ガス排出量をゼロにすることに重点を置いた施策です。
そのため、カーボンニュートラルはGXを実現するための取組の1つと捉えると良いでしょう。

▼関連コラムのご紹介:2050年、脱炭素社会の実現に向けた取組について

GX(グリーントランスフォーメーション)が注目された背景

GXが注目された理由や、背景についても確認しましょう。

地球温暖化

GXが注目されている一番の理由は地球温暖化です。
世界の平均気温は、化石燃料が多く使われるようになった工業化以前から2020年までで、1.09℃上昇しました。この数値は、少なくとも過去2000年の間にわたって経験したことのない速度で上昇しています。
「1.09℃上昇」と言われても、どれほど深刻なことかピンとこないかもしれません。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、世界の平均気温が1.5℃上昇してしまうと地中海の平均的な夏の山火事による焼失面積は、今よりも41%増加するそうです。また世界の平均海面推移は28~55cmも上昇。南太平洋に浮かぶ島が沈むかもしれないとも言われています。

地球温暖化により疾病のまん延や生態系の崩壊、海面上昇の脅威といった気候変動による破滅的な影響が起こると危惧されているため、二酸化炭素の排出削減が急務となっています。

「新しい資本主義に向けた計画的な重点投資」の対象

GXは、日本政府が重点的な投資を実施する対象です。
2022年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の項目、「新しい資本主義に向けた計画的な重点投資」の対象としても「GX」が含められています。
「2050年カーボンニュートラルの実現に向け、今後10年間で、150兆円規模の官民GX投資を目指す」と示されているとおり、GXは注目すべき事業分野といえます。

GX(グリーントランスフォーメーション)における国内の最新動向

日本では政府主体の取組として、GX実行会議とGXリーグを開催しています。どのように方針を決めて積極的なGXの活動を促しているか、それぞれ紹介します。

1.GX実行会議

GX実行会議は内閣官房が開催しており、GX実行のために必要となる方策を政府として策定しています。

2022年7月に第1回の会議が実施され、「日本のエネルギーの安定供給の再構築に必要となる方策」そして、「それを前提として、脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革への今後10年のロードマップ」を議論しました。
GX達成に向けた国としての施策を検討する役割を担っています。

2.GXリーグ

「GXリーグ」は、2050年カーボンニュートラル実現と社会変革を見据えて、GXヘの挑戦を行い、現在および未来社会における持続的な成長実現を目指す企業が同様の取組を行う企業群を官・学と共に協働する場です。経済産業省が主導しており、GX実現を目指す企業が多数参画しています。
GXリーグの基本構想」には、GXが必要である背景や策定の目的などが具体的に記載されています。
企業間交流の場を設けたり企業担当者向けへのオンライン説明会を開催したりするなど、GX実現にむけた推進部隊としての役割を担っています。

GX(グリーントランスフォーメーション)における世界の最新動向

GXは世界的な取組になっています。ここでは、アメリカ、中国、そしてEUでの動向を紹介します。日本と比べてどのような違いがあるのかを確認しましょう。

出典:経済産業省『【第131-3-1】カーボンニュートラルに向けた各国の政策の方向性』
出典:経済産業省『【第131-3-1】カーボンニュートラルに向けた各国の政策の方向性

(1)アメリカ

アメリカは積極的にGXに取り組んでいる国の1つです。
2022年8月に成立した「インフレ抑制法」では、インフレ抑制と同時に気候変動対策強化を盛り込んでいます。気候変動対策として約3,910億ドル(約57兆円)の予算が充てられており、クリーンエネルギー導入にともなう税額控除に充てられています。
電気自動車やハイブリッド車などのクリーンビークルの新車販売台数が伸びているなど、制作の効果が現れています。

(2)中国

中国は、二酸化炭素排出量削減にむけ「2060年までにカーボンニュートラルを実現する」として、GXを実行しています。特に力を入れているのは水素エネルギーです。
中国政府は2022年3月に「水素エネルギー産業発展中長期規画」を発表しました。北京市、上海市などのモデル都市群を選定し、2025年までに水素エネルギー供給システムの初歩的段階を確立するとしています。水素燃料電池自動車保有台数を5万台、水素製造を年間10〜20万トンにするといった内容を盛り込んでいます。

(3)EU

EUは、国単位ではなく加盟国一体となってGXに取り組んでおり、2020年に欧州グリーンディール投資計画を発表。2050年までに気候中立を達成するために、10年間で1兆ユーロ(約100兆円)以上の投資を行うとしました。

また、2021年に「欧州気候法」を公布。2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指すEUの政治公約を法制化しました。この中で2030年までに温室効果ガス排出を1990年比で少なくとも55%削減するとした中間目標も設定しました。法的拘束力をともなう目標にしており、環境問題の取組に関する本気度がうかがえます。

さらに、ロシアによるウクライナ侵略以降、ロシア産化石燃料依存からの脱却をはかるべく、2022年に「REPowerEU計画」を発表しています。再生可能エネルギーへの移行を加速させるべく、EUが一丸となって取り組んでいることが伺えます。

GX(グリーントランスフォーメーション)の推進によって企業が受けるメリット

ここからは企業がGXを推進することによるメリットについても確認しましょう。

企業ブランドの向上

GXに取り組むことで、企業ブランドの向上につながります。
「環境問題に関心を持ち、積極的に取り組んでいる企業である」という印象が消費者や投資家に伝わることで、投資や採用の面で優位たてる可能性があります。
また、環境問題に関心が高い消費者も増えており、製品への信頼度を高める効果も期待できます。

コスト削減

GXに取り組むことで、コストを削減できる可能性があります。
例えば、太陽光パネルを設置し発電した電気を自ら消費するだけでなく、不要な電気を消して消費を減らす・空調設備利用を見直すといった取組もGXの1つといえます。また、自家発電であれば原油価格高騰などの影響を受けにくいといったメリットもあります。
設備導入等の費用は発生するものの、中長期的な視点で考えるとコスト削減につながる可能性があります。

GX(グリーントランスフォーメーション)を推し進める企業事例

ここでは、GXを推し進める大手グローバル企業3社の事例を紹介します。

1.自動車メーカー

世界的な日本自動車メーカーは、経済産業省が主導しているGXリーグに参加している企業の1つです。
国の宣言とは別に、2015年に「持続可能な社会の実現に貢献するための新たなチャレンジ」を発表しています。企業独自で6つのチャレンジ目標を定め、ものづくりの分野だけでなく、循環型社会の構築や自然保全活動といった活動を推進しています。

2.コンピューター・通信機器メーカー

GXを推し進める有名な企業には、世界的なコンピューター・通信機器メーカーも挙げられます。
2018年以降、44か国にあるすべてのオフィス、直営店、データセンターの電力をすべて再生可能エネルギーとしています。
また、グローバルサプライチェーンに対して、2030年までに脱炭素化することを求めました。すでに200社以上のサプライヤーが、製品の製造に風力や太陽光などのクリーン電力を使うことを確約しています。

3.電気・電子機器メーカー

国内大手電子機器メーカーは、2022年に長期環境ビジョンを策定。2030年までに全事業会社におけるCO2排出量を実質ゼロとする目標を掲げました。

再生可能エネルギーだけで工場の電力を賄う実証の推進や、大気中の熱を利用した温水暖房器の普及促進など、さまざまな面でGXを進める姿勢が見られます。環境・GXへの投資を、長期的な企業競争力強化に向けた大事な要素だと捉えています。

GXを実現するにはDXの推進が必要不可欠

温室効果ガスの削減や環境問題に取り組むGXには、DXの推進が欠かせません。
DXとは、データとデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革することです。GXも環境問題への積極的な取組を通して、経済社会システムの変革を目指しています。つまり、地域や社会・生活をより良い方向へと導くという点で共通しているのです。

DXの最もイメージしやすい例の1つは、デジタル技術によるペーパーレス化です。資源の節約はGX実現の第一歩といえます。また、IoT、AIなどの技術を活用した自動化・省人化によるエネルギー利用量削減も、GXに繋がります。

このように、結果としてDXの推進がGXにつながるケースは多いでしょう。

▼関連コラムのご紹介: 各企業が向き合うべきデジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

まとめ

ここまで、GX(グリーントランスフォーメーション)についてご紹介してきました。

<このコラムのPOINT>

  • GXとは脱炭素社会にむけ再生可能でクリーンなエネルギーを利用する・転換していく取組や活動のこと
  • GXに取り組むと企業価値の向上やコスト削減につながる
  • GXはDXと深い関連がある

脱炭素社会への移行は、世界共通の課題です。日本においても政府や企業が一体となって、持続可能な社会を実現するために積極的に活動を進めています。
GX推進は企業にとって経済成長のチャンスでもあり、今後は企業価値を高める上で注視すべき取組といえます。大企業だけでなく、中堅・中小企業にとってもGXは注目していただきたいワードです。サプライチェーンを担う企業として、GX取組の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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