変形労働時間制とは?導入の方法やメリットなど

変形労働時間制という働き方は、労働時間を繁忙期や閑散期に合わせて調整することができるという特徴があり、労働者側にとっても雇用者側にとってもメリットがある制度として注目を集めています。

今回は、導入を検討されている企業の経営者や担当者の方に向け、変形労働時間制の基礎知識ならびに導入にあたってのポイントを詳しく見ていきます。

変形労働時間制とは?

変形労働時間制とは、労働時間を週や月、年単位で調整できる働き方のことです。
労働時間は、業種や職種によっては閑散期や繁忙期があるなど、一定の期間の中で変動することも少なくありません。業務内容によって忙しくない時期もあれば忙しい時期もあることが一般的で、業種に限らず繁忙期には残業が増えがちです。

そこで、忙しくない時期の所定労働時間(※)を減らし、忙しい時期の所定労働時間を増やして、月や年単位で総労働時間を調整するのが変形労働時間制です。これにより、繁忙期や閑散期に合わせて労働時間を調整することが可能となります。繁忙期も閑散期も一律に1日何時間という働き方ではなく、週や月、年でトータル何時間という働き方を可能にする制度です。

変形労働時間制には1ヶ月、1年単位などの種類があります。

<1ヶ月単位の変形労働時間制>
1ヶ月の間で繁閑の差が激しく、月末や月初など月の特定の時期に業務が集中する職種が適用に向いています。
例:経理などの事務職、運送業、医療機関など

<1年単位の変形労働時間制>
1年を通して見た時に、一定の期間における業務の繁閑がはっきりとしている職種が適用に向いています。
例:人事総務などの事務職、季節物の商品を取り扱っている企業など

<1週間単位の変形労働時間制(1週間単位の非定型的変形労働時間制)>
あまり一般的ではありませんが、特定の曜日が忙しい「小売業、旅館、料理・飲食店の業種」で、かつ「常態として30人未満の労働者を使用」という適用条件を満たせば、1週間単位の変形労働時間制を利用できる制度もあります。また、常態として30人未満の労働者を使用しているという適用条件があります。

労働時間を弾力的に調整できる制度としては、「フレックスタイム制」があります。フレックスタイム制も変形労働時間制の1つで、一定の清算期間内における総労働時間を労使協定で決め、その範囲内で各日の労働時間をある程度、労働者が自由に設定できるという制度です。
各勤務日毎の勤務時間(始業時間・終業時間)を一定の範囲内において労働者自身が決めることができる点が、フレックスタイム制の特徴とも言えます。反対に、変形労働時間制では、各勤務日毎の勤務時間はあらかじめ決められています。

所定労働時間とは・・・就業規則や雇用契約書に記載されている始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を引いた時間のこと

変形労働時間制のメリット、時間外労働の考え方について

変形労働時間制を会社が取り入れるメリットとしては、まず業務の繁忙期・閑散期に合わせて労働時間を調整できることが挙げられます。

労働時間は原則として1日8時間・週40時間までであり、これを超える労働は時間外労働として扱われます。例えば、週休2日で1ヶ月4週とすると、1ヶ月のトータルの労働時間は40時間×4週=160時間です。
これを1ヶ月間の変形労働時間制にすると、所定労働時間が1日5時間勤務の日もあれば1日10時間勤務の日があってもよく、1ヶ月のトータルの労働時間の枠(今回の例であれば160時間)を超えなければよいことになります。
つまり、1日10時間勤務した場合、原則であれば「超過した2時間分」は時間外労働にあたりますが、1ヶ月間の変形労働時間制であればトータルの労働時間枠を超えない限り、時間外労働とはなりません。
これにより、業務に合わせた効率的な人員配分ができ、余分な残業時間に伴うコストを削減できるというメリットが期待できます。

変形労働時間制は労働者にとってもメリットがあります。忙しくなく余裕がある時期は通常よりも短い所定労働時間で勤務することが可能なため、時間を持て余すことがなくなります。無駄に働く時間を減らすことで、プライベートな時間をより多く持つことが期待できます。また、休暇の予定も立てやすくメリハリのある働き方が実現できるようになるでしょう。

注意点としては、変形労働時間制の場合は「どこから時間外労働になるのか」という認識が曖昧になりがちです。変形労働時間制を導入するにあたっては、就業規則に定める必要のある「対象となる変形期間における日や週の労働時間」を元に考えることになります。例えば7時間と定めた日に9時間労働した場合は2時間の時間外労働となりますが、9時間と定めた日に9時間労働しても時間外労働にはなりません。

変形労働時間制の導入基準や必要な書面

変更労働時間制を導入するためには、使用者と労働者の間で労使協定を交わすか、就業規則に準ずる書面に必要事項を記載する必要があります。1ヶ月単位、1年単位の変形制、1週間単位の3種類に応じて、それぞれで必要書類を作成・交付しなければなりません。

■導入基準について
1ヶ月単位の変形制は、1ヶ月以内の期間の平均労働時間が週40時間を超えないよう、特定の週や日の労働時間を設定しなければなりません。法定労働時間は1日8時間・1週間40時間です。ただし、時間従業員が10人未満で一定の業種に相当する事業所(特例措置対象事業場)の場合は、1日8時間・1週間44時間となります。

労働時間は以下の計算式で求めます。
  上限時間=1週間の法定労働時間×対象期間の歴日数÷7
そこで
・法定労働時間が1週間40時間
・月の暦日数が30日
のとき、上記計算式に当てはめると
1週間40時間×30日÷7 = 上限時間 171.4時間
となります。
次に、月末に忙しくなる想定で労働時間を振り分けてみます。
・休日は8日間
・月末の5日間を1日10時間
5日×10時間=50時間
とすると、残りは17日間で、7時間を所定労働時間とすると
17日×7時間=119時間
となり、119+50=169時間ですから、上限時間171.4時間以内となり有効です。このような形で労働時間を定めていきます。

1年単位の変形制は、1ヶ月を超える期間~1年以内で期間を定め、その期間の平均労働時間が週40時間を超えなければ、特定の週や日の労働時間を調整して働くことができる制度です。

1週間単位の変形制は、厚生労働省令で定める一定の事業(小売業、旅館、料理店および飲食店)であること、1日ごとの業務に著しい繁閑の差があり日ごとの労働時間を特定することが難しく、常時雇用の労働者数が30人未満であること、1週間の所定労働時間として40時間以内の時間を定めることが要件となります。これに該当する場合は、1日10時間までの労働時間が可能です。


■必要な書面について
1年単位の変形制と1週間単位の非定型的変形制は、労働基準法が定める事項について必ず労使協定で定め、書類を作成し、労働者へ交付することが必要です。

1ヶ月単位の変形制は、労働基準法が定める事項を労使協定、就業規則、就業規則に準ずるもの、のいずれかで定めます。その上で、労使間で締結し、書類を作成し、書面を労働者に交付しなければなりません。労使協定により定めるか、就業規則により定めるかは、会社の判断で決めることができます。

また、締結した労使協定ならびに変更した就業規則(常時労働者が10名以上の場合)は所轄労働基準監督署への届け出が必要です。

まとめ

ここまで、変形労働時間制のメリットや導入に必要な書面などについてご紹介してきました。

変形労働時間制は、業務の忙しさに合わせた柔軟な働き方ができる点で、会社にとっても労働者にとってもメリットがある制度です。ただし導入する際には、導入後は以前とは違った勤怠管理が必要になり、給与計算の方法も変わるなどバックオフィス業務の負担が増える場合があることや、繁忙期のメンタルケアを今まで以上にしっかりと行う必要があるなど、場合によってはデメリットもあることを知っておきましょう。

変形労働時間制を導入し働きやすい職場作りを行うためには、企業側の都合だけで決めるのではなく、現場で働く労働者の現在の業務状況や負荷状況など実態を正確に把握し、どの単位の制度を導入することがベストであるかを確認した上で、導入を行う部門や対象となる労働者を決めていくという手順を踏むようにしましょう。
また、労働者側も制度や導入にあたっての企業側の方針について理解し、納得した上で導入を進める必要があります。

導入後にトラブルとならず、ワーク・ライフ・バランスを推進していくためにも、双方が制度について理解を深めた上で、協力しながら導入を進めていきましょう。

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