DX推進のカギを握るSaaS入門 - 総務・情シス担当者のための活用術
「DXを推進したいが、何から始めればよいか分からない」「システム導入のコストが心配」。そんな中堅・中小企業の担当者の声をよく耳にします。
本記事では、初期投資を抑えながらDXを実現できるSaaS(Software as a Service)について、基礎から活用方法まで、実務担当者の目線で分かりやすく解説します。
また、サービス選定のポイントから導入後の運用まで、具体例を交えながら紹介していきます。
ビジネスを変えるSaaSとは

クラウドサービスの一つであるSaaS(Software as a Service)は、ソフトウエアをインターネット経由で利用するサービス形態です。従来のようにサーバーを自社で保有し、ソフトウエアをインストールして運用する形式と異なり、必要な機能を必要な分だけ利用できる柔軟な仕組みです。
特に中堅・中小企業にとって、初期投資を抑えながらDXを推進できる有効な手段と言えるでしょう。サブスクリプション型の料金体系により、高額なライセンス費用や専用サーバーの構築コストを不要にします。
SaaSの最大の特長は「スピード感をもって始められる」点にあります。導入に数ヶ月を要する従来型システムと異なり、契約後即日から利用可能なサービスもあり、ビジネス環境の変化に素早く対応できます。
また、提供元によるアップデートやセキュリティー対策が自動的に行われるため、IT担当者の負担も大幅に軽減されます。
SaaS市場の現状と展望
SaaS市場は、近年急速に拡大を続けています。特にコロナ禍をきっかけとしたデジタル化の加速により、あらゆる業種・規模の企業でSaaS導入が進んでいます。
AI技術が進歩するにつれて、SaaSなどのクラウドサービス(インターネットを通じて利用するシステム)の利用が増えています。2025年には、SaaS, PaaS, IaaSを含むパブリッククラウドサービスの世界市場規模が21.5%拡大すると、世界で代表的なベンダーであるGartner社が予測しました。
総務省の「令和6年度版 情報通信白書」では、SaaS, PaaS, IaaSを含むパブリッククラウドサービスの国内市場規模が2026年に5兆円を超え、うちSaaS市場の規模は1.7兆円超に伸びると予測。DX推進の主要ツールとして、業務効率化やコスト削減・顧客体験向上のためのSaaS導入が活況です。
筆者としても、今後はリモートワーク支援ツールやAIの導入やデータの利活用を進めたいニーズの高まりから、データ分析・可視化プラットフォームなどが注目されていくと予想します。また、API(システム間のデータの転送技術)の発展によって、複数のSaaSを連携させることも容易になり、SaaS同士のデータ連携の利用は今後も増えていくでしょう。
【出典】
総務省「令和6年度版 情報通信白書 第Ⅱ部 情報通信分野の現状と課題 - 第1章 ICT市場の動向 第8節 データセンター市場及びクラウドサービス市場の動向」
クラウドサービスの種類とSaaSの位置づけ
クラウドサービスには様々な種類があり、それぞれの特徴や用途を理解することが効果的な活用の第一歩となります。この項では、主要クラウドサービスの形態とその特徴について解説します。
クラウドサービスは「IaaS」「PaaS」「SaaS」の提供形態に分類されます。これらは「〇〇 as a Service(サービスとしての〇〇)」のように表現され、企業が自社で管理する範囲と、サービス提供者が管理する範囲の違いを示しています。
最も基盤レベルのサービスであるIaaS(Infrastructure as a Service)は、仮想サーバーやストレージ、ネットワーク機能などのインフラを提供します。例えば「Amazon EC2」や「Google Compute Engine」などが該当し、ユーザーは提供されたインフラ上に自由にシステムを構築できる反面、OSやミドルウェアなどの管理は自社で行う必要があります。
一方、PaaS(Platform as a Service)は、アプリケーションを開発・実行するためのプラットフォームを提供します。「Microsoft Azure」や「Google App Engine」などが代表例で、ユーザーにとってはインフラ管理の手間を省き、アプリケーション開発に集中できるメリットがあります。
そして、最も利用しやすいSaaS(Software as a Service)は、完成したアプリケーションをインターネット経由で提供するサービスで、ユーザーはブラウザさえあれば専門知識がなくてもすぐに利用できます。「Microsoft 365」や「Google Workspace」、「Salesforce」などが広く知られています。
SaaS・IaaS・PaaSの特徴
IaaSはサーバーやネットワークなどのインフラを、PaaSはアプリケーション開発・実行環境を、SaaSはインターネットでWebブラウザからアプリを提供します。
こうした違いを例えると、IaaSは“土地を借りて自分で家を建てる”、PaaSは“建物を借りて内装を自分で決める”、SaaSは“家具付きの完成した住居を借りる”ようなものと言えるでしょう。
SaaSサービスの基本的な特長
前述のとおり、SaaSは完成されたアプリケーションをインターネット経由で利用するサービス形態で、最大の特長は「スピード感をもって手軽に使える」という点にあります。
サーバー構築や複雑なインストール作業が不要で、契約後すぐにブラウザからアクセスして利用できます。また、サービス提供者側が保守・管理・アップデートを担当するため、ユーザーはIT運用の負担から解放されます。
料金体系は、月額・年額のサブスクリプション型が一般的です。初期投資を抑えられるだけでなく、利用状況に応じて柔軟にユーザー数を増減可能です。
SaaSのビジネス価値とメリット・デメリット
SaaSの導入は、ビジネスに大きな価値をもたらす可能性がある一方で、考慮すべき課題もあります。ここでは、SaaS導入による具体的なメリットとデメリット、そして課題への対応方法について詳しく見ていきましょう。
SaaS導入のメリット
SaaSの最大のメリットは、初期投資を抑えながら最新のITサービスを利用することができる点です。
サービス提供者側でシステムの維持管理が行われるため、常に最新の機能やセキュリティー対策が適用されたソフトウエアを利用できます。また、自社でサーバーの構築や管理が不要なため、社内のIT管理負担が軽減されます。
インターネット環境さえあればどこからでもアクセス可能で、ビジネスでは特にリモートワークやグローバル展開においてメリットを享受できるでしょう。ソフトウエアのアカウント数を柔軟に調整できるため、ビジネスの変化に迅速に対応できることも大きな魅力です。
SaaS導入のデメリットと対策
一方で、SaaSの主なデメリットは、自社独自の業務フローに完全に適合させることが難しい点にあります。月額料金を支払い続ける長期利用時のコスト増加や、外部サーバーへのデータ保管に伴うセキュリティーリスク、サービス障害による業務停止リスクも懸念されます。
こうした各種のデメリットには、業務プロセスの見直しやAPI連携(データの連携技術)の活用、定期的なコスト評価と利用状況に応じたプラン見直しが有効です。
また、セキュリティーリスクについては、SaaS事業者の認証取得状況確認や、データ暗号化、自社バックアップ体制の構築が有効です。明確なSLA締結と代替手段確保で、サービス障害リスクも最小化できます。
成功のカギを握る適切なサービス選定
SaaSの導入を成功に導くためには、適切なサービスの選定が不可欠です。SaaS導入の成功確率を高めるために、評価すべきポイントを見ていきましょう。
選定時の重要な評価ポイント
SaaS選びで最も重要なことは、自社の課題解決に最適なサービスの見極めです。闇雲に導入せず、解決したい課題や達成したい目標を明確にした上で選定プロセスを進めましょう。
機能面での要件整理はもちろん、既存システムとの連携可能性も重視すべきです。APIの提供状況やデータ連携の柔軟性を確認し、情報の二重管理や煩雑な手作業が発生しないよう検証することも欠かせません。
また、データセキュリティー対策も必須の評価ポイントです。暗号化対応や認証取得状況、アクセス権限の細かな設定機能などを確認し、情報漏洩リスクを最小化します。
トラブル発生時のサポート体制も重要です。日本語対応の有無、対応時間、問い合わせ方法など、スムーズに問題解決できる体制が整っているか事前に把握しておきましょう。
将来を見据えた選定のポイント
将来の事業拡大を見据えた拡張性は長期的なSaaS活用の鍵となります。現時点の要件を満たすだけでなく、3〜5年後の自社ビジネスの姿をイメージし、長期的な視点でサービスを評価することが重要です。
具体的には、ユーザー数増加時のコスト変動、上位プランへの移行の容易さ、カスタマイズ機能の充実度などをチェックポイントとして、柔軟なスケーラビリティとビジネス成長に合わせた機能拡張が可能かを確認しましょう。
また、提供企業自体の将来性も重要な判断材料です。スタートアップ企業のサービスは革新的である反面、継続性にリスクがあることも考慮すべきです。利用企業数や成長率、資金調達状況などから安定性を判断し、自社の重要業務を委ねるパートナーとして適切かどうかを見極めることが、長期的な成功につながります。
将来的なビジネス環境の変化にも柔軟に対応できるサービス選びが、持続的な競争優位性の確保に貢献します。
スムーズな導入のためのステップ
SaaSの導入を円滑に進めるには、計画的なアプローチと適切な社内展開が重要です。多くの場合、導入に失敗するケースは準備不足や展開方法の誤りによるものです。効果的な導入プロセスを以下のステップで進めましょう。
▼導入目的の明確化
業務効率化、コスト削減、顧客体験向上など、具体的な目標を設定しましょう。次に、必要な機能や連携すべき既存システムを整理します。この段階で現場の声を取り入れることが、後の定着に大きく影響します。
▼サービス選定
複数のSaaSを比較検討し、自社に最適なサービスを選びましょう。無料トライアル期間を活用した実証実験も効果的です。
▼導入計画策定
スケジュール、必要なリソース、教育計画、リスク対策を盛り込みましょう。特に教育計画は利用の定着に重要です。
▼導入~展開フェーズ
小規模な限られたメンバー導入から始め、成功事例を作ることが重要です。社内のキーパーソンを巻き込み、利用促進の核となる「SaaS推進チーム」を組織することも効果的です。
▼評価・改善
定期的な利用状況の確認と改善サイクルを確立しましょう。導入は終わりではなく「継続的な改善の始まり」と捉えることが、DX推進の成功につながります。
段階的な導入アプローチ
SaaSの導入を成功させるには、段階的なアプローチが効果的です。大規模な変革を一度に行うのではなく、小さく始めて徐々に拡大する戦略をとることで失敗リスクを低減します。
まずは、小規模な部門や業務範囲から始めて、効果を検証しながら徐々に範囲を広げていく方法を推奨します。例えば、総務部の1チームや特定のプロジェクトチームで試験的に運用(パイロット導入)し、そこで得た知見や改善点を次の展開に活かします。
パイロット導入では、操作性の確認だけでなく、業務プロセスとの適合性や既存システムとの連携状況も検証します。また、ユーザーからのフィードバックを収集し、必要に応じてカスタマイズや運用ルールの調整を行います。
このような段階的アプローチにより、初期投資を抑えながら確実に効果を積み上げていくことが可能になります。
社内への展開方法
SaaSツールの導入は単なるシステム入れ替えではなく、業務プロセスや組織文化の変革も伴います。成功のカギは、効果的な社内コミュニケーションと段階的な教育にあります。
導入目的や期待される効果を明確に伝える説明会を部門別に実施し、各部門の業務に即した活用事例を紹介すると良いでしょう。「なぜ、今このツールが必要か」という背景共有が変化への抵抗感を軽減します。
教育計画や研修は基本操作の入門編から業務別活用法の応用編、管理者向け詳細設定編まで段階的に行うことが効果的です。少人数制のハンズオン形式とeラーニングを組み合わせることで、柔軟な学習環境を提供できます。
併せて、具体的な業務シナリオに基づいたマニュアルの整備もできると良いでしょう。スクリーンショットを多用した視覚的な説明やFAQを含めることで、ユーザーの不安を取り除き、新ツールへの前向きな姿勢を育むことができます。
まとめ
本記事では、DX推進におけるSaaSの基礎理解から効果的な導入方法までを解説しました。SaaSは初期投資を抑えながら最新のITサービスを利用できる一方で、カスタマイズの制限やセキュリティー懸念などの課題も存在します。
成功のポイントは、自社業務に適したサービス選定と段階的な導入アプローチにあります。選定時には機能面だけでなく、セキュリティー対策やサポート体制、将来的な拡張性も重視すべきです。導入においては、小規模な試験運用から始め、効果検証しながら範囲を広げていくアプローチが効果的です。
また、社内展開では従業員への丁寧な説明やキーパーソンの巻き込み、研修、使いやすいマニュアル整備が効果的です。継続的な効果測定と改善サイクルを回すことで“真のDX推進ツール”としてSaaSを存分に活用できるでしょう。
サービス選定や導入を考えている方へ
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また、複数メーカーの製品をまとめて購入することも可能です。従来であれば個別に契約手続きが必要だった異なるベンダーのサービスも、一括で導入できるため、契約業務の大幅な効率化が実現します。
中小企業の限られたリソースを有効活用しながらDXを推進したい担当者にとって、信頼できる商品ラインアップは大きな安心材料となるでしょう。
AnyCOMPASS ECストアのメリット2:ゼロから安心して相談できるコンシェルジュ
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AnyCOMPASS ECストアのメリット3:導入後の契約管理を省力化
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従来のように個別のベンダーとのやり取りや、契約満了日の異なる複数サービスの管理から解放されるため、担当者の業務負担を大きく軽減できます。また、統合されたダッシュボードで利用状況の可視化も実現し、コスト最適化にも役立ちます。
さらに契約更新のアラート機能により、更新忘れや意図しない自動更新を防止。計画的な予算管理も容易になります。
まずは「AnyCOMPASS ECストア」で、貴社のニーズに合ったSaaSを是非ご検討ください。
著者プロフィール

原田 正和
ITコンサルタント/エンジニア
東京大学卒業後、多彩なキャリアを通じてIT・DX分野の知見を蓄積。Big4コンサルティングファーム(監査法人)でのITコンサルタント、ITスタートアップでのエンジニア、エネルギーファンドでのシステム部長を歴任。SaaS導入支援やデータ基盤構築のコンサルティングを手がける。Microsoft365/Azure/Power Platformのエンジニアとしても活動中。マニュアル動画視聴システムの個人開発・販売実績を持ち、各種SaaS導入支援やDX伴走支援を通じて、企業のデジタル化を支援している。
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