デジタルインボイスとは?概要や国が普及を進める背景、標準仕様「JP PINT」について解説
公開:2023年05月24日
2023年10月1日よりインボイス制度が開始されます。正式には「適格請求書等保存方式」といい、買い手である課税事業者が仕入税額控除を受けるための要件が記載された請求書や領収書を、適格請求書(インボイス)と呼びます。
このインボイスを紙やPDFで取り扱う場合、計算ミスや不正の発生、経理処理に掛かる時間やコストが、売り手・買い手双方の負担になることが懸念されます。こうした懸念を解消し、バックオフィス業務全体の効率化を可能にするのが「デジタルインボイス」です。
本コラムでは、デジタルインボイスの概要、デジタル庁が標準仕様(JP PINT)を策定した理由など、デジタルインボイスに関する基礎知識について詳しく解説します。
このコラムを読んで分かること
- インボイス制度の概要
- デジタルインボイスの概要と仕組み
- 「JP PINT」の概要
- デジタルインボイスの効果
- デジタルインボイス普及のための課題
【目次】
- そもそもインボイス制度ってなに?
- デジタルインボイスってなに?
- 日本のデジタルインボイスの標準仕様「JP PINT」
- デジタルインボイスの効果
- デジタルインボイスが日本でデファクトスタンダードになるための課題
- まとめ
そもそもインボイス制度ってなに?
インボイス制度とは正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、課税事業者が仕入税額控除を受けるための要件を記載した、請求書や領収書を交付・保存する制度を指します。インボイス制度の導入目的は、正しい税率・税額を確認できるようにすることだといわれています。インボイスの発行は紙・電子データのどちらでも可能ですが、経理処理や保存の利便性からも電子化の動きが進んでいます。
【関連コラムのご紹介】
インボイス制度について詳しく知りたい方は、コラム「2023年10月に導入されるインボイス制度のポイントを解説」をご覧ください。
デジタルインボイスってなに?
デジタルインボイスとは、2023年10月1日から開始されるインボイス制度に伴い、インボイスに関する企業間の煩雑なバックオフィス業務全体をデジタル化し、業務効率化を図る仕組みを指します。
デジタルインボイスの実現にあたっては、デジタル庁とEIPA(デジタルインボイス推進協議会)が連携してフラッグシッププロジェクトを進め、日本のデジタルインボイスの標準仕様「JP PINT」が策定されました。
デジタルインボイスはなぜ国を挙げて取り組まれているのか?
DXが叫ばれる中、企業のバックオフィス業務全体の電子化が進められているものの、その多くが勤怠管理や給与計算であることが、DX推進中の企業に勤めるバックオフィス部門の担当者を対象とした、とあるリサーチ企業のインターネット調査で明らかになっています。
一方、請求・支払管理をはじめとする業務は、依然として紙で行っている企業が半数以上あり、複雑かつ煩雑な業務プロセスが存在しています。この状況を解消するためには、紙を前提とした業務プロセス(印刷、押印など)の電子化だけでは不十分であり、業務プロセス自体を見直してデジタル化を果たすことが不可欠です。
そこで、請求・支払管理などの業務効率化と生産性向上の実現を目指し、国はデジタルインボイスの普及・定着に取り組んでいます。
デジタルインボイスの仕組み
デジタルインボイスにおけるインボイスデータのやり取りは、Peppolの「4コーナーモデル」と呼ばれる仕組みが採用されています。会計システムによる入金処理までを含めた例を参考に、デジタルインボイスの流れについてご説明します。
「4コーナーモデル」の仕組み
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(補足)
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日本のデジタルインボイスの標準仕様「JP PINT」
JP PINTは、企業間の取引で発生する文書のやり取り(注文書や請求書など)に関する国際標準仕様であるPeppolをベースとして考えられた、日本のデジタルインボイスの標準仕様です。
JP PINTが策定された背景には、 2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法と、2023年10月1日から施行されるインボイス制度が大きく関係しています。
インボイス制度では新たに「登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分けした消費税額等」の記載が必要です。この適用税率、消費税額等の計算作業は複雑かつ煩雑で人の手で行うとミスや不正の発生、業務負担の増加などの問題が起こる可能性が高く、多くの企業はこれらの問題をデジタル化により解決しようとすることが考えられます。
その際に、企業や業種ごとにデジタル化の方法が分かれてしまうと、取引先ごとに対応方法が分かれてしまい、業務を効率化できなくなります。そうならないよう、デジタル化による効果を最大限得るために、日本全体の標準仕様としてJP PINTが策定されました。
国際標準仕様の「Peppol(ペポル)」とは
Peppolとは、企業間の取引で発生する文書のやり取り(注文書や請求書など)をスムーズに行なえるようにするため、「文書仕様」「ネットワーク」「運用ルール」を定めた国際標準仕様です。OpenPeppolというベルギーの非営利団体が管理しています。現在、欧州各国の他、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなどの欧州域外の国も含め、30か国以上で利用が進んでいます。
~ちょこっとメモ:【何が違う?】電子インボイスとデジタルインボイス ~
電子インボイスとは、売り手が発行するインボイスを電子化したもので、「インボイスそのものの状態」を意味します(例えば紙の請求をPDFにしたものや、EDI取引上の請求データなど)。
デジタルインボイスとは、「標準化・構造化された電子インボイスのやり取りを行う仕組み」を指します。日本においてはJP PINTにより、売り手・買い手の双方が請求・支払いなどの経理処理を自動化する仕組みがデジタルインボイスです。
デジタルインボイスの効果
デジタルインボイスによってもたらされる効果は、煩雑なバックオフィス業務に掛かる手間を省き、スムーズなやり取りが行えることです。具体的な効果として以下の3点が挙げられます。
効果1:経理業務のプロセスを自動化できる
インボイスは売り手と買い手どちらも法人税法で7年間(※1)、所得税法は5年間(※2)の保存期間が義務付けられています。長期間のインボイスの保存は手間とコストが掛かりますが、デジタルインボイスは膨大なインボイスの保存を電子的に行えます。
※1 出典:帳簿書類等の保存期間(国税庁)
※2 出典:記帳や帳簿等保存・青色申告(国税庁)
また、売り手と買い手で異なるデータ形式のインボイスを取り扱う場合でも、デジタルインボイスなら自社の会計ソフトで処理できる形式のデータを受け取れるため、煩雑な経理業務のプロセスを自動化できるでしょう。
効果2:経理部門のテレワーク・在宅勤務が推進される
デジタルインボイスはインボイスデータの送受信をインターネット上で行えるので、勤務形態にとらわれる必要がありません。コロナ禍以降に普及が進んだテレワークや在宅勤務でも、経理処理ができる点は効果の一つです。
効果3:業務プロセスの「デジタル化」が進む
インボイス制度の対応は経理部門が行うものと考えられがちですが、商品やサービスなどを販売する販売・営業部門、原材料や商品などを購入する仕入部門も適切な対応が求められます。これらの販売や仕入れを管理する販売管理システムとデジタルインボイスを連携させることで、バックオフィス業務全体のデジタル化を図ることができます。結果、社内全体の業務効率の向上も期待できるでしょう。
デジタルインボイスが日本でデファクトスタンダードになるための課題
デジタルインボイスは国際標準仕様として既に多くの国々で導入されています。ですが、日本での認知・普及率はまだ低く、デジタル庁とEIPA(デジタルインボイス推進協議会)が連携し、デジタルインボイスの普及と定着を進めている段階です。多くの国々と同様にデファクトスタンダードとなるためには、現状の課題を解決しなければならないでしょう。
解決が必要な主な3つの課題について解説していきます。
課題1:デジタルインボイスの普及
デジタルインボイスの大きな効果は、従来の紙の書類に掛かる煩雑な経理業務の効率化ですが、普及するには課題があります。
デジタルインボイスの登場前から、デジタル社会の形成を目指し2021年9月に6つの関連法案からなる「デジタル社会形成基本法」が施行されました。その後、企業のデジタル化の普及を目的に2022年1月「電子帳簿保存法」など、さまざまな法改正が進められています。
これらの法律に対応するためには、新たなシステムの導入や運用ルールの制定など、一定のコストや手間が掛かります。
また、インボイス制度が開始されると、適格請求書発行事業者以外(免税事業者又は登録を受けていない課税事業者など)からの課税仕入れについては、仕入税額控除ができなくなります。一定期間は仕入税額控除ができるように経過措置が設けられますが、免税事業者は適格請求書発行事業者へ転換するか、取引先と十分に検討する必要があります。
こうした課題解決に、国はデジタルツール導入を補助する「IT導入補助金(デジタル化基盤導入枠)(※3)」や免税事業者を対象とした「小規模事業者持続化補助金(インボイス特例)(※4、5)」などの補助金や特例制度を設けています。
※3 出典:サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局ポータルサイト
※4 出典:小規模事業者持続化補助金<一般型>ガイドブック(商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金ウェブサイト)
※5 出典:インボイス制度、支援措置があるって本当!?(財務省ウェブサイト)
課題2:経理業務の属人化
デジタルインボイスが進まない理由のひとつに経理業務の属人化が挙げられます。
経理業務は、簿記や会計に関するさまざまな知識・経験が求められる業務であることから、特定のベテラン社員が単独で業務を任されるケースが少なくありませんでした。そのため、社員1人に対する業務量の偏りや、他の社員から業務内容が見えないといった「ブラックボックス化」が問題視されてきました。
こうした問題解決のためにシステムの導入が必要といわれていますが、システムの操作方法が分からない・デジタル化に抵抗を感じるベテラン社員も少なくありません。また、ブラックボックス化した業務内容を可視化するワークフローやマニュアルの整備も必要です。
どの社員でも業務が行えるように、教育環境の整備や業務指導の機会を設けて属人化を解消することが、デジタルインボイスの普及に欠かせないでしょう。
課題3:データの正当性や安全な通信環境の整備
デジタルインボイスは紙よりも利便性が高い一方で、改ざんや不注意によるデータ消去の可能性もあります。こうした問題を防止するための対策が必要になるでしょう。
具体的には真正性を保証する電子署名やタイムスタンプの発行、通信の暗号化などが挙げられます。総務省ではデータの真正性の証明に、組織の電子証明書であるeシール(Electronic seal)の発行を検討(※6)しています。
また、インターネットを経由するため、万全なセキュリティー対策が求められます。セキュリティー対策が不十分だと情報漏洩が発生し、深刻な問題につながる可能性があります。インボイスの発行元である売り手はもちろん、受け取る買い手側も取引先やインボイスごとの専用IDとパスワード管理の徹底も必要でしょう。
まとめ
2023年10月1日から開始されるインボイス制度とともに、新たに普及が進められているデジタルインボイスについて解説してきました。
本コラムのポイントを以下にまとめます。
<このコラムのPOINT>
- デジタルインボイスとは、標準化・構造化された電子インボイスのやり取りを行う仕組みのこと
- 電子インボイスとは、紙のインボイスを電子化したもの
- デジタルインボイスの目的は、経理業務を含めたバックオフィス業務全体の効率化と生産性向上
- JP PINTとは、国際標準仕様Peppolをベースに考えられた、日本のデジタルインボイス標準仕様
- 電子インボイスを扱うために新たなシステム導入や、デジタルインボイスに対応するための業務フローの見直しが課題
デジタルインボイスはバックオフィス業務全体の効率化を促進できる、利便性の高い仕組みです。しかし、取引先によっては紙の運用が必要な場合もあるため、デジタルと紙の両方の運用となり、煩雑さが増すかもしれません。デジタルインボイスに対応するかは、自社の状況と今後を踏まえ、慎重に検討したほうがよいでしょう。
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商品売買に関する情報や、仕入・在庫を一元管理するだけでなく、経営戦略に必要な情報を即座に把握することも可能。業務効率化や属人化の解消だけでなく、スピーディーな経営判断が可能となります。
もちろん今回のインボイス制度への対応など、制度改正への対応は万全です。
卸売業様、製造業様など、様々な業種のお客様にご利用いただいており、長年培ったノウハウ・経験で、お客様の商習慣にあわせたご提案をいたします。
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