製造業における品質管理とは?正確な品質管理を実現する「QC7つ道具」について解説
自社製品やサービスへの品質意識は、コンプライアンス遵守のもとで企業の内部・外部を問わず年々高まりを見せています。品質の担保には"正しい品質管理"の徹底が求められ、その積み重ねが自社製品への信頼やイメージの維持・向上に役立ち、ひいては業績にもポジティブな効果をもたらすでしょう。
その実現には"モノづくり"に関わる者すべてが品質管理への意識を高め、業務を推進する姿勢が不可欠です。このコラムでは、品質的不備を防止する正しい品質管理の実現に向けた"QC7つ道具"の活用を中心に解説します。
品質管理とは
品質管理(Quality Management)とは、顧客の要求に沿った品質の品物またはサービスを経済的に作り出す手段の体系です。品質管理を効果的に実施するためには、経営者をはじめ管理者・監督者・作業者など、すべてのメンバーの参加と協力が欠かせません。
市場調査、研究・開発、製品の企画、設計、生産準備、購買・外注、製造、検査、販売およびアフタサービスならびに財務、人事、教育など、企業活動の全プロセスにわたり実施される品質管理を『総合的品質管理』(TQM:Total Quality Management)といいます。
TQMにかかわる国際規格として『ISO9000』シリーズがあります。特に多くの企業が認証を取得する『ISO9001』では、トップマネジメントを起点とする方針・責任・権限のもとで業務プロセスを文書化・記録し、継続的なPDCAサイクルによって維持・改善していくことが品質管理における要求事項となっています。
つまり、ただ「不良品を作らなければいい」ということではなく、「正しいモノが正しいプロセスを経て作られているか」を可視化し、そのプロセスが体系的な改善サイクルでマネジメント(維持・管理)されていることが、国際的な品質要求といえます。
ここからは“モノづくりの本丸”であり、品質的不具合防止の“最後の砦”となる製造や検査における品質管理にフォーカスし、具体的な取り組みと代表的な課題、より正確で高度な品質管理を実現するための取り組みについて解説します。
QCサークル活動とQC手法
TQMを推進するために、多くの企業では『QCサークル』と呼ばれる手法が長年取り組まれています。QCサークルは“小集団改善活動”とも呼ばれ、職場で発生する大小さまざまな問題や課題に対し、
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といったQCストーリーに沿いながら、小さな組織内でPDCAサイクルを短期間で回す改善活動です。
QCサークルは、インダストリアルエンジニアリング(工程管理技術の1つ)や統計学などの工学的専門知識に詳しくないメンバーでも、上記のQCストーリーや後述する『QC7つ道具』と呼ばれる体系化された手法に沿って作業を進めながら、改善活動に参加できます。
特に製造業では、寸法や形状など製品そのものの品質特性をはじめ、生産性や工程能力などの工程品質を定量的なデータとして数多く得られます。こうしたデータを活用しながら改善活動の方向性を定め、その効果を定量的に評価する統計的管理手法は、QCサークル活動との親和性が非常に高いと言えるでしょう。
QC的な管理手法を直接的な製造業務に適用することで製品品質の向上を、そして間接的な製造業務にも適用することでプロセスの無駄を定量的に可視化し、より効率的に業務改善を推進可能です。結果的には納期短縮やコストダウンに直結し、顧客への価値提供にもつながります。
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『QC7つ道具』とは
製造工程では、不良数やサイクルタイムといった多くの定量的な数値データを日々得られます。こうした種々のデータを整理し、統計的な分析や管理に役立つ手法が、ここから紹介する『QC7つ道具』です。QC7つ道具は、QCサークルにとどまらず実際の品質管理業務でも広く活用されています。
1.特性要因図
特定の結果に対する原因系(要因系)を層別し、系統的に表した図です。その形状から“魚の骨”とも呼ばれます。
特性要因図は結果の要因を漏れなく洗い出せるため、QCに関わるメンバー全員でブレインストーミングを行う場合などに活用されています。
2.パレート図
データを項目別かつ出現度数の大きい順に並べ、累積和を表した図です。優先的に着手すべき重点項目を明らかにするために使用します。
例えば、不良件数に関するパレート図だとしたら、数値が大きい左側の不良項目から優先的に改善することで効果を得られます。
3.グラフ
データを折れ線グラフ・円グラフ・レーダーチャートなどの図に表し、データの傾向把握や状態変化を明確にします。
グラフの活用によりデータのトレンドや分布を視覚的に把握し、異常に気づきやすくなることがメリットです。
4.ヒストグラム
データを一定の区間に分割し、それぞれの区間における出現度数を並べたグラフです。データのばらつきや偏りを視覚的に読み取ることができます。
下図のような“離れ小島形状”ではデータの収集方法に問題があると考えられます(より正規分布に近いヒストグラムでは、データ元は安定していると考えられます)。
5.散布図
関連する2つの変数を横軸と縦軸にして、測定されたデータをプロットして作られる図です。点群の形状や傾向から、2つのデータ間の相関分析や回帰分析に使用されます。
本来、変数Aの品質を管理すべき場面において、量産などの生産状況から変数Aの観測が難しい場合、変数Aと変数Bが相関していれば、比較的観測が容易な変数Bを観測すればよいという判断材料にできます。
6.管理図
工程が安定状態にあるかを把握するために、管理限界値とともに表される折れ線グラフです。連続するデータの並びを分析し、工程が不安定になる兆候の予測にも使用されます。
7.チェックシート
点検記録や検査記録など、データや作業の記録を容易にするために記入項目や日付などがあらかじめ記入された記録用紙です。
QC7つ道具は、普段の品質管理や工程管理業務の場面でも活用され、特に1~5は事後的な分析系、6・7は管理や記録に使用されます。
正確な品質管理には、正確なデータ入力が必要です。ここからは、特に工程における管理の側面にて使われる機会が多い、管理図とチェックシートについての運用方法や正確なデータの重要性を掘り下げて考えます。
管理図の運用方法と正確なデータの重要性
長期間にわたり生産される製品の場合、製造ラインの立ち上げ時には安定していた品質特性が、時間の経過とともに変化してしまう場合があります。
こうした場合には、品質特性の時間的な変化をデータに基づいて分析し、工程が安定状態か異常状態かを判定し、異常状態の場合には即座に工程を改善し、安定状態に復旧する必要があります。
製造工程の状態を判定するための時系列的なグラフが管理図です。管理図の作り方や分析方法は多岐にわたり、それぞれに専門的知識を要するため、当記事では最も簡単な『np管理図』を例に解説します。
こちらは、とある工程で発生する日々の不良数量を示したnp管理図です。
上下の赤い点線は管理上下限です。赤い丸で囲んだ管理上下限への接近のトレンドや超過が、工程異常と判断できるポイントとなります(上記図面では、11/8~14は7区間以上での一方向への変化が見られる、また11/19は+3σを超過しているため、それぞれ異常値と判断)。
実際には、この管理図における管理上限値を求めるための母数は『12500個/日』の仮定であり、赤丸で囲まれたポイントに生産された製品も大多数が良品のため、普段に比べて不良が多いと感じる程度かもしれません。ですが、こうした図表にて可視化することで工程内の異常に素早く気づけるとともに、対策を講じるべき根拠となります。
一方で、仮に不良数データの集計ミスや入力ミスがあった場合、本来なら異常と判断し対策を講じるべき状態にもかかわらず、異常が見過ごされてしまいかねません。そのため、管理図にはより正確なデータ入力が重要となります。
チェックシートの利用目的と正確なデータの重要性
チェックシートは生産設備や検査機が正しく機能しているかの点検記録や、工程で正しい数量の部材が消費されているかなどを記録する場面で使用します。
先述した『ISO9001』では業務プロセスの文書化と記録が要求事項となっているため、チェックシートがISOの取得・更新監査時の要求事項についてのエビデンスとされる場合があります。
紙やエクセルで作成されているチェックシートは、定められたチェック項目に〇/×や数値を記入する運用が多く、「工程が設計通りの健全な状態で流動している」という記録を手軽に行うためのツールです。
一方で、その手軽さから、記録の書き換えや事後の穴埋めができてしまうのも事実です。
例えば、先ほど紹介した管理図では11/27の生産において前日に比べ、不良数が大きく下がっています。しかし、この日の検査機の点検記録が漏れており、月末の集計時に管理者からの指摘を避けるために作業者が点検記録を追記していたとしたら、11/27に良品と判定された製品が本当に良品だったのかは不透明と言わざるを得ません。
また、もし以前にも点検未実施や記載漏れなどによるチェックミスがあったとしたら、その検査機は正しく維持管理されていない可能性が強く、その検査機で判定された製品の結果にも疑義が生じるでしょう。
こうした事態を避けるためにも、チェックシートは正確な情報を正確なタイミングで遅滞なく記載する必要があります。
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QC的品質管理手法の問題点
ここまでは、QCサークル活動やQC7つ道具が製造現場での品質管理に活用され、製造業の品質レベル向上の一端を担っていることについて触れてきました。
一方で、データの収集分析や資料作成といった業務は、QC活動に参加するメンバーの職種によって、本来担うべき業務とは別に多くの手間を要します。
多くの企業が人手不足に悩む中では、本来の業務に占める時間が必然的に多くなり、製造プロセスに求められる品質改善や維持管理の目的を見失ってしまえば、QCサークルをはじめとする品質活動にはどうしても“やらされ感”が出てきてしまいます。
そうした状態ではQC活動が形骸化してしまい、緊張感の欠如などを原因に、QC資料を作成する際に結果ありきのデータ操作や改ざんを行なってしますなど、あってはならない行為に及んでしまう場合が見あります。
こうしたQC活動における不正行為に及ぶ原因には、“不正のトライアングル”と呼ばれる3つの要素があります。
▼動機・プレッシャー
納期やノルマに追われているなど、時間的な余裕がない状態
▼機会
属人的な作業環境でチェック体制が機能していないなど、不正が起きやすい環境がある
▼姿勢・正当化
組織的な不正が慢性化しているなど、不正を働く心理的ハードルが低い
上記3つの要素のうち、特に機会に関しては、意図的にせよ偶発的なミスにせよ、紙やエクセルによる運用のため誤ったデータを入力しやすい状況が起こりやすく、品質管理における属人的作業の多さに問題があるといえます。
正確な品質管理を実現するQC7つ道具の活用
データをグラフや図表により可視化し、管理図のように異常の発見や予測に役立つQC7つ道具の活用には、正しいデータの入力が前提です。
より正確なデータの取得および入力を行うには、属人的な作業からの脱却が不可欠です。その実現には『IoTの活用』や『品質管理システムの活用』が有効と考えられます。
IoTの活用
「モノをネットワークに接続し、データを活用する」IoTの活用例として、計器や検査機などから得られるデータを自動的にデータベースへと蓄積することで、効率的かつ正確なデータ運用が可能です。
また、自動的に収集したデータに対しAIなど先進的な技術の活用が今後広がれば、より高度な解析・予測が実現するでしょう。
品質管理システムの活用
今までエクセルで行っていたデータの加工・集計作業や管理を統合できる品質管理システムの導入は、多くのメリットがあります。
例えば、
▼ユーザー権限の設定などにより強固なデータ保護が可能
▼手間のかかるデータ集計やグラフ作成を自動化
▼レポート機能により、リアルタイムかつスピーディーに品質情報を共有できる
など、属人的作業の低減により、効率的かつ正確な品質管理を実現可能です。
まとめ
品質管理では、“QC7つ道具”をはじめとするデータ解析の手法が活用されており、正確な解析には「正しいデータが必要不可欠」かつ「品質の不備はミスや不正によって引き起こされる場合が多く、正しい品質管理の実現には属人的作業の低減が有効」です。
製品やサービスが、モジュール化および標準化されることの多い近年。もし品質的な問題が発生してしまえば、その影響は広範囲にわたることでしょう。自社やブランドの信頼を守るためにも、改めて品質管理のあるべき姿を見つめなおし、専用システムなどの新たな品質管理ツールも活用しながら、より正確な品質管理を推進していきましょう。
著者プロフィール
伊藤 慶太
技術士(機械部門) 専門:加工・FA及び産業機械
現在は情報機器メーカーの生産技術職として生産設備のIoT化やデータ活用に携わる、現役エンジニア。過去にはプレス加工企業でのNC加工機による部品加工や、産業向け機械要素メーカーでの工程自動化設備の導入計画、機械設計、電気設計、制御設計、製作、立ち上げ、量産導入、改善活動など製造業における自動化設備関連業務を幅広く経験。
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品質データをExcelで管理しているという中堅・中小企業の製造業は非常に多いです。
Excelは簡単に誰でも使えるという高い利便性がある反面、故意にデータを改ざんしたり削除できてしまうという危険性もあります。また、Excelにデータを投入したものの、そのデータを品質改善に活用できておらず、ただ蓄積しているだけというお声もよく聞きます。
HYPERSOL QMSは堅牢なセキュリティーとデータ保全により、改ざんや故意のデータ削除を防ぎ、品質保障体制の基盤を強化します。
また、品質管理に必要なQC7つ道具を含む12のテンプレートを実装していますので、QCサークル活動における「現状把握」「要因分析」にも導入直後から活用いただけます。
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