空飛ぶタクシーの実用化に向けて~日本での取組は?~
公開:2019年11月06日
渋滞にはまってしまったとき、「空を飛んで目的地まで行けたらなぁ」と思った経験はありませんか?アニメや映画の世界では頻繁に見かける、いわゆる「空飛ぶ車」ですが、私達が生活する現実世界ではまだまだ「空想のもの」というイメージがあります。しかし、昨今の技術革新により「空飛ぶタクシー」という新たな交通手段が現実のものになりつつあるということを、ご存知でしょうか。
このコラムでは、空飛ぶタクシー実現化に向けた国内外の取組や、実現した場合私たちの生活がどう変わっていくかについて、見ていきましょう。
空飛ぶタクシーの形態について
「空飛ぶタクシー」とひと口に言っても、その形態は「ドローンタイプ」「車タイプ」「軽飛行機タイプ」など様々です。以下では、各タイプの特徴や、現在どのような研究が進んでいるかについてご紹介します。
ドローンタイプ
最も開発が進んでいるのが、このドローンタイプと言われています。ドローンを大型化し、人の搭乗を可能にしているのが、このタイプの特徴です。一般的なドローンと同じように、コントローラーを使い遠隔操作をして飛行させます。ドローンタイプには、2人乗り小型自動車とドローンを合体させ、陸と空両方を移動できるものなどがあります。
車タイプ
通常時は自動車として利用し、格納型のプロペラや翼などを使うことで、空を飛ぶことができるタイプです。車タイプは自動車メーカーが開発に関わっていることが多く、ドイツの自動車メーカーでは既に2018年にプロトタイプを公開しています。
軽飛行機タイプ
電動エンジンを動力に垂直離陸が可能なタイプです。小型の飛行機のような見た目ながら、エンジンの向きを調整することでホバリングをすることもできます。ドイツのスタートアップ企業では、既に座席が5つある試作機で垂直離陸の実験に成功しています。同社はテール、舵、プロペラ、ギアボックスをなくすことで機体の軽量化に成功しており、次は水平飛行の実験にチャレンジする予定とのことです。
実用化に向けた世界の動き
空飛ぶタクシーの実用化に向け、自動車メーカーやスタートアップ企業、ヘリコプター開発企業などが既に実験に着手しています。
例えばアメリカのスタートアップ企業では、翼幅11mの翼に12個の独立型ローターを備えた2人乗りの空飛ぶタクシーを開発しました。この機体は時速180kmで地上約150m~900mの間を約100km飛行することができます。この機体を使用した実験はニュージーランドで実施されており、ニュージーランド航空と提携することで、航空規制の状況を見ながら開発や設計を今後も続けていく予定です。また、ニュージーランド政府の協力も受けており、空飛ぶタクシーの実用化に向けて、企業と国が二人三脚で歩んでいることが伺えます。
また、ドイツの自動車メーカーでは、車体部分のモジュール、利用者が乗り込む搭乗カプセル、空を飛ぶためのモジュールのそれぞれを組合せたプロトタイプを開発しています。搭乗カプセルを車体部分のモジュールと組みあわせれば「自動運転車」として、搭乗カプセルを飛行用のモジュールを組合せれば「空飛ぶタクシー」として利用できる分離独立型になっており、「空飛ぶタクシー」という枠を超えて、さまざまな活用が可能なつくりになっています。
今回作成したプロトタイプは4分の1のスケールですが、今後、実物大のプロトタイプを飛行させることも検討しており、早ければ10年以内に空飛ぶタクシーのサービスを開始する考えとのことです。
このように、各国の企業では国や航空会社などの協力を得ながら、空飛ぶタクシーを実用化する流れが着実に進んでいます。私達が実際に空飛ぶタクシーに乗り、移動するようになる日は近いかもしれません。
日本での取組について
ここまで世界における空飛ぶタクシー実用化に向けた取組を見てきましたが、日本ではどのような取組が展開されているのでしょうか?
経済産業省は、国土交通省と合同で日本における「空飛ぶクルマ」の実現に向け、官民の関係者が一堂に会する「空の移動革命に向けた官民協議会」の会合を2018年に開催し、「空の移動革命に向けたロードマップ」を取りまとめました。
このロードマップの中では、2019年から事業者による試験飛行、実証実験の開始が目標とされています。まず、事業者がビジネスモデルを提示し、ヘリコプターやドローンなどの事業者がフィードバックを行います。次に、必要な制度(運送・使用事業の制度整備、技能証明、離着陸場所・空域・電波の調整・整備など)を国が整え、最後に安全性や信頼性を確保できる技術の開発など、機体や技術の開発を進めていくというのが大筋になっています。
こうしたステップを経て、2020年代半ば(目標は2023年)に事業をスタートし、2030年代から官民一体となって実用化を拡大していくというのが、日本における空飛ぶタクシー実用化に向けた取組とされています。
しかし、筋書き通りに開発を進めたとしても、開発過程ではさまざまな問題の発生が予想されます。実際に使用する機体を開発するにしても、航空機と同レベルの安全性や静かさが確保される必要があるため、高レベルの操縦支援や、回転翼の騒音を減らすための技術開発などが求められるからです。また、試験飛行をする際も、継続的な離着陸が可能な場所の確保や、技術開発に応じた安全性基準や審査方法の見直しなどが求められるでしょう。国内での空飛ぶタクシー開発には、国外の取組と同じように官民が一体となって、問題を解決していくことが求められそうです。
まとめ ~空飛ぶタクシーが実現した未来の世の中は?~
空飛ぶタクシーが実用化された場合、真っ先に思い浮かぶのは「渋滞の解消」です。住宅や建物の間を縫って走行する必要がないので、目的地まで最短距離でたどり着けるでしょう。実際にアメリカでは空飛ぶタクシーの実現によって、ラッシュ時は車で1時間以上かかる距離を8分で移動するような計画も立てられています。このように、交通や流通を取り巻く環境は激変することが予想されます。
そして環境が変わると、その環境に適応した新しいビジネスが誕生することが経済社会の常です。もしかしたら、そのビジネスの一翼を担うのは、あなたが働いている会社かもしれません。
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