個人の信頼性を表す「信用スコア」は日本で普及するのか?
公開:2020年05月12日
中国やアメリカで広まり、中国においては社会インフラと言えるまで普及しつつある「信用スコア」。近年、日本でも大手企業がサービスの提供を開始するなど、信用スコアをビジネスの1つとして取り入れる動きが見られるようになってきました。また最近では、メディアで取り上げられることもあり、信用スコアというワードを聞いたことがある、という方も増えているのではないでしょうか。そこで今回は、信用スコアとはどういうものなのか、概要と日本における普及状況をご紹介します。
信用スコアとは
信用スコアとは、簡単に言うと「この人がどれだけ信用できるのか」を数値化したものです。ビジネスに利用することを目的として作られた仕組みで、基本的にはこの数値が高ければ高いほど「信用できる人」と見なされます。数値は信用スコアを提供している運営会社によって変わりますが、2桁から4桁の数値で表現されることが多く、支払い能力・購買履歴・個人のプロフィールなどのパーソナルデータをもとに、AI(人工知能)が算出しています。
信用スコア先進国とも言われる中国では、信用スコアが社会に浸透しつつあり、中国社会に大きな影響を与えています。特に、通信事業を運営する超大手企業が提供している信用スコアが広く普及しています。こちらの信用スコアは個人特性や支払い能力、返済履歴、人脈などの指標により算出され、スコアが高いとシェアサービスなどのデポジット(保証金)免除や、出国手続きの一部簡素化など多くの恩恵を受けることができます。
では、日本ではどうでしょうか。
現在、メッセンジャーアプリ最大手の企業やイーコマース運営企業、さらには大手銀行の系列企業などが信用スコア事業に着手しています。
そのうち、メッセンジャーアプリ運営企業が行っている信用スコアサービスは、利用者の年収・職業情報・家族構成などから「信頼度」をスコア化しています。スコアが一定以上になると、同企業が提供しているスマホ決済サービスで最大5%のポイント還元を受けることが可能になります。また同企業個人向けローンサービスにおいて、有利な条件で借入することが可能です。
このように、日本でも信用スコアを算出することで、ユーザーがさまざまなサービスを受けることができるシステムが構築されつつあります。しかし、「信用スコア」と聞いても、明確なイメージが浮かばない人のほうが多いのも現状です。株式会社ネットプロテクションズが調査した「信用スコアに対する意識調査 2019年上半期版」によると、全体の認知度は約25%(前回より5ポイント上昇)でした。信用スコアは、日本においてはまだまだ浸透しているとは言えない状態です。
信用スコアのメリット・デメリット
中国を中心に広がりを見せる信用スコアですが、活用するとどのようなメリットがあるのでしょうか。また、反対にデメリットとは?以下では、信用スコアを利活用する立場ごとに「利用する側(スコアを見る側)」と「利用される側(スコアを見られる、活用される側)」に分け、メリット・デメリットを見ていきましょう。
信用スコアのメリット~利用する側~
- その人が信用できるかどうかが判断しやすい
- 損失を回避できる
- 不正行為が抑制できる
信用スコアは、その人がどれだけ信用できる人なのかを数値化したものです。そのため、フリマアプリやネットオークションなどのCtoC(個人間取引)市場においての活用が期待できます。つまり、顔の見えない相手とのやり取りにおいて、信用スコアは取引相手の信用度合いを測る上での判断基準になるのです。
また、金融機関がお金を融資する際の判断材料にも使うことができるでしょう。さらに、個人の信頼が様々なことに影響することがわかれば、「不正をしないようにしよう」という抑制力が働くことも期待できます。
信用スコアのメリット~利用される側~
- スコアが高ければ様々な優遇が受けられる可能性がある
- 自身の事業にプラスとなる可能性がある
信用スコアが高い人は、「信頼できる人=企業としても取引したい相手」とみなされるため、低金利でお金を借りられる、レンタカーなどのデポジットが不要になる、ポイント還元率のアップなど、さまざまなサービスで優遇を受けられるようになる可能性があります。
また、自営業やフリーランスの方であれば、この人は信頼できるから仕事を依頼しようとなる可能性もあるでしょう。
信用スコアのデメリット~利用する側~
- 信用スコアの根拠があいまい
信用スコアはAIによって作成されます。AIはデータ同士の相関関係も含めて分析し、算出します。分析のアルゴリズムは常時更新されており、そのデータ量は人では分析できないほど大量です。そのため、「AIが特定のデータを算出した理由」は開発者であっても把握しきれないということもあります。
こうした状況から起こるのは、別々のユーザーが同じようなデータを提出しても、信用スコアの数値に違いが出る可能性があるという問題です。信用スコアを見る側は、スコアの高い人を信用しがちですが、信用の「根拠」というのは実はあいまいなものである、と言うことができます。
「信用スコアを鵜呑みにしても、その人の本当の価値が分かるわけではない」ということを認識しておく必要があるのです。
信用スコアのデメリット~利用される側~
- スコアだけで判断されてしまう可能性がある
- 評価を気にするあまり、ストレスが増える可能性がある
- スコアが流出してしまう可能性がある
信用スコアが普及することで、人間性よりもスコアが重視されてしまうことが懸念されています。例えば採用活用をしている際、同じ技能を持っていても「スコアが低いから」という理由で不利になってしまう可能性もあります。このように、スコアの低い人が不当に差別を受ける可能性も不安視されています。また、どの指標でスコアを算出されているかが決まっているわけではありません。そのため、日々他者からの評価を気にしながら生活するストレスを感じることもあるでしょう。
信用スコアはあらゆる個人情報のもとで算出されるデータです。こうしたデータを扱う企業から、何らかの形で個人スコアやデータが流出してしまう危険がある点にも、懸念が集まっています。
信用スコアと個人情報保護との関係
信用スコアは、利活用する上でメリットもデメリットも併せ持つサービスですが、中でも注視しておかなければならないのが個人情報保護に関する部分です。
過去に、ある国内大手のポータルサイトの信用スコアサービスを巡り、「勝手に自分の個人情報が外部に提供されている」と批判が集まった事例がありました。そのウェブサイトを使ったオークション取引や通販を行うためには会員登録をする必要があるのですが、当時は登録の際に信用スコアの作成や自社サービスへの利用許可の設定が最初から「オン」になっていたことが原因でした。そのため、利用者が気づかぬうちに信用スコアが作られ、サービスに利用されていました。
現在の個人情報保護法では、特定した利用目的の範囲内で利用する必要があり、また個人情報の第三者提供には原則的にあらかじめ本人の同意が必要と定められています。上記の例であれば、同意を得たのだから良いのでは?と思われるかもしれません。しかし最初から利用許可の設定が「オン」になっていたことに、利用者側がきちんと気づける状態であったのか、という点がポイントとなるのです。
信用スコアは、いわば個人情報を集約したデータです。企業はそれを扱うにあたり、プライバシーポリシーや活用方針を明確にして、その説明責任をしっかりと果たし、データの保護を万全に行う必要があります。
また、個人においては、個人のデータがどのように扱われるのか、個人情報の利用目的などを十分に確認する意識を持つことが重要となるでしょう。
まとめ
「その人がどれだけ信用できるのか」を数値化した「信用スコア」。とくに中国では、社会インフラと呼ばれるほど広がりを増しています。
日本でも、官民一体となって信用スコアの活用方法を模索している段階です。しかし個人情報を預かる以上、事業者側には高度なデータ管理体制が求められるということもあるためか、一部の大手企業以外の動きは鈍いというのが現状です。
今後信用スコアがどのように扱われていくのか、世の中の動向をチェックしながら、自分にどのような影響が及ぶのかを考えておきましょう。
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