仮想デスクトップを実現する「DaaS」、VDIとの違いとは?
DaaSは、IaaS・PaaS・SaaSといったクラウドサービスのひとつで、仮想デスクトップ環境をクラウド上に構築し提供するサービスです。初期費用カット、業務の効率化、テレワークの推進にもつながるDaaSは近年特に注目を集めており、リサーチ会社の調査では「2023年までに国内企業におけるDaaSでのパソコン利用率が35%程度まで広がる」という予測も立てられるほどです。
そこで今回は、注目を集めるDaaSの基礎知識やメリット・デメリット、同じように仮想デスクトップ環境を使用するVDIとの違いについて解説していきます。
そもそもDaaSとは?
DaaSとは「Desktop as a Service」を略した言葉で、IaaS・PaaS・SaaSなどと同じクラウドサービスのひとつです。IaaSはインフラ、PaaSは動作環境、SaaSはソフトウエアをインターネット経由で提供するサービスであるように、DaaSは仮想デスクトップ環境をサービスとして提供するものです。
例えば、通常、クライアント端末で文書を書こうとした場合、クライアント端末にはOSや文書作成用ソフトウエアがインストールされていなければなりません。しかしDaaSでは、必要なOSやソフトウエアはクラウド上に存在するため、手元にある端末からインターネットを通して仮想デスクトップ環境に接続すれば、文書を作成することが出来るのです。「目の前のパソコンはただの箱で、インターネットを通じて別の場所にあるパソコンを動かしている」とイメージするとわかりやすいかもしれません。
DaaSを取り入れるメリット・デメリット
DaaSが近年注目されている背景には、企業にとって多くのメリットがあることが考えられます。ここでは、DaaSを利用することによって得られるメリットだけでなく、デメリットについても見ていきましょう。
メリット
(1)初期費用の削減につながる
例えば、従業員が使用するクライアントPCを入れ替える場合、最新のOSがインストールされたPCを用意するとなると、多額の費用がかかります。しかし、DaaSでは業務に必要な機能をクラウド上に集約するため、操作を行う端末自体は必要最低限のスペックがあれば問題ありません。つまり、初期費用を大きく抑えることができます。また、サービスを利用するという考え方のため、利用数の増減に関しても柔軟に対応できる点もコストを抑えられるポイントです。
(2)デスクトップ管理がしやすい
通常、OSのアップデートやアプリケーションの配布は端末ごとに行う必要があり、時間や手間がかかってしまいます。一方DaaSでは社内全体のデスクトップ環境を一箇所で管理できるため、OSのアップデート対応やセキュリティーソフトのバージョン管理が一括で行えます。そのため、運用管理への負担を削減することが可能です。また、サーバーなどインフラの保守・運用をすることなく環境を利用できることも、運用管理者の負荷軽減になります。
(3)リモートワークに移行しやすい
DaaSへはインターネット経由でアクセスすれば利用できるため、場所を選びません。また、専用の端末を必要としないため、自宅のPCからでも同じデスクトップ環境にアクセスすることができます。そのため、リモートワークへ非常に移行しやすいと言えるでしょう。
(4)セキュリティーに強みがある
DaaSの場合、データはサーバーで管理されています。そのため、たとえパソコンを紛失した場合もデータが外部に漏れてしまう危険性を低くすることが可能です。また、多くのクラウドサービスは強固なセキュリティー対策を施しているため、外部からの攻撃による情報流出の心配も少ないと言えます。
(5)事業継続に役立つ
大規模な自然災害などにより事業の継続が困難になることもあります。特に日本は自然災害の被害の多い国としても知られており、東日本大震災や西日本を襲った豪雨による被害は記憶にも新しいはずです。
DaaS環境が構築されていれば、端末とネットワーク環境があればオフィス外でも事業を継続することが可能となります。「自然災害によってオフィスが使用できない」「交通網の乱れによって通勤が困難」といったリスクにも柔軟に対応することができるのは大きなメリットと言えるでしょう。
デメリット
(1)動作が遅延する可能性がある
ネットワークを通じて仮想デスクトップで行った作業がパソコン上に展開されるため、通信環境によって動作に遅延が生じる可能性があります。また、クラウドサーバー側に高い負荷がかかっている場合も動作が遅延することがあります。
(2)サーバーに障害が起こった場合広範囲に影響が及ぶ
DaaS環境を提供しているクラウドサーバーに障害が発生した場合、そのサーバーを利用しているすべてのデスクトップ環境に影響が及んでしまいます。
(3)インターネット環境がなければ使用できない
DaaSではインターネットを介してデスクトップ環境へアクセスするため、インターネット環境がなければ使用することができません。外出先や自宅でエクセルやパワーポイントを編集したいという際も、当然のことながらインターネット環境が必要となります。
DaaSの提供形態
DaaSには以下の3つのタイプがあり、それぞれ特徴が異なります。DaaSを導入する際はそれぞれの特徴を見極めたうえで、自社に合ったタイプを選ぶようにしましょう。
● プライベートクラウドタイプ
プライベートクラウドタイプは、サービス事業者が用意したその企業専用のクラウド環境を利用したDaaSです。企業ごとにクラウドが独立しているため、セキュリティー性が高く、安定して稼働できる点がメリットです。OSやソフトなど自由に設定できるため、カスタマイズ性に優れています。
● バーチャルプライベートクラウドタイプ
バーチャルプライベートクラウドタイプは、サービス事業者が提供するIaaSやPaaS上に構築されたデスクトップ環境を利用するタイプです。IaaSやPaaS上に構築されているため完全に独立しているわけではありませんが、他の企業が同じDaaS環境を利用するわけではないため、ある程度のセキュリティーの安全性は確保されています。また、カスタマイズ性もあります。
● パブリッククラウドタイプ
パブリッククラウドタイプは、サービス事業者がクラウド上に用意したDaaS環境を契約しているすべての人が共有して使用するタイプです。上記2種類は各企業専用に用意された環境であるのに対し、パブリッククラウドタイプは複数のユーザーが同一環境を利用するため、カスタマイズ性は低くなります。また、上記2種類に比べるとセキュリティー性が高いとは言えません。しかし、3つのタイプの中では最も安価で提供されており、OSのアップデートといった運用管理が不要なため、手間がかからず簡単に仮想デスクトップ環境を利用できる点がメリットです。
VDIとの違いと比較
DaaSと比較されるものとして、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)が挙げられます。これらはどちらも「クライアント端末からネットワークを通じてデスクトップ環境を呼び出し利用する」というものなので、考え方という意味での違いはありません。また、利用するクライアント側から見れば、差異がないと言えます。しかし、「デスクトップ環境がある場所と提供している人」において違いがあります。
<デスクトップ環境がある場所>
- DaaS:外部のサービス事業者が提供しているクラウド上。提供者ももちろん外部。
- VDI:自社が運用管理するサーバー上。提供者も自社となり、運用者が社内に必要。
DaaSと似て非なるものと言えるVDI。メリットやデメリットは、基本的にDaaSと同様です。VDIの場合は自社のサーバーで運用を行うため、自社の運用に合わせたカスタマイズ性がDaaSより高いと言えるでしょう。
しかしVDIの場合、自社でサーバーを用意し運用しなければいけないため、それだけのコストや手間がかかります。具体的には、大容量サーバー、仮想化ソフトウエア、ネットワーク、セキュリティー対策、耐障害性向上のための各種二重化などを揃える必要があり、DaaSよりも多額の初期費用がかかるでしょう。また、環境を用意するための知識を持った人材も必要です。
VDIとDaaS両者のメリットとデメリットを踏まえたうえで、導入を検討してみましょう。
デスクトップ環境 | メリット | デメリット | |
---|---|---|---|
DaaS | サービス事業者が提供しているクラウド上に存在 | 初期費用が低く、事業継続もしやすい |
|
VDI | 自社のサーバーで運用 | カスタマイズ性や信頼性が高い |
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まとめ
クライアント端末に特定のソフトウエアをインストールする必要なく、ネットワークを通してクラウド上にある仮想デスクトップ環境で業務を行うことができるDaaS。リモートワークを実現する方法の1つとしても注目されているサービスです。
サービス事業者が提供しているクラウド上に仮想デスクトップ環境を構築するDaaSは、導入までの期間が短く、初期費用カットにもつながるサービスです。仮想デスクトップを導入する上で、インフラ運用の負荷を下げたい、迅速に導入したいとお考えであれば、DaaSは大きな力となってくれることでしょう。
メリットとデメリットを踏まえ、自社として何に重きをおくかを明確化した上で、導入を検討されることをおすすめします。
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