製造業発展の鍵を握る「産業用ロボット」とは

工場における労働力の確保や生産性の向上が期待できる産業用ロボットは、既に電子機器、家電、自動車などの生産ラインで活躍し、なくてはならない存在といっても過言ではありません。事実、日本は2019年に経済産業省の"ロボットによる社会変革推進会議"が発表した「ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性」の中で、2017年時点のロボットの導入密度が世界4位とされています。
しかし、中小規模の製造業の現場で産業用ロボットが積極的に利用されるまでには、導入コストや維持費、工場のスペースなど、様々な壁が残されているのも事実です。今後、より広がりをみせるだろうロボットの導入や工場の自動化の波に備え、今回は産業用ロボットの基礎知識や種類、産業用ロボットを取り巻く環境などについて解説します。

産業用ロボットとは

ロボットとは今日、「産業用ロボット」と「サービスロボット」の大きく2つに大別されます。
はじめに、産業用ロボットの定義やサービスロボットとの違い、導入するメリットなど、基礎的な情報をご紹介しましょう。

■産業用ロボットの定義
国際規格であるISOを満たした日本工業規格(JIS)によると、産業用ロボットとは「3軸以上の自由度があり、自動制御によるマニピュレーション機能又は移動機能をもち、各種の作業をプログラムによって実行できる、産業に使用される機械」と言われています。マニピュレーション機能とは人の手足のような動作を指す機能です。
産業用ロボットとは、製造現場における人員不足、生産量・品質の安定化、過酷・危険な作業の代替を目的として多く用いられるロボットです。一方のサービスロボットは、介護現場での食事支援や災害時の人命救助、空港やショッピングセンター内の案内など、人間の作業を助ける役割を担うロボットです。つまり使用する「目的」によって扱いが異なるといった違いがあります。産業用ロボットとサービスロボットの明確な区別はなく、産業用ロボットが人の生活をサポートした場合もサービスロボットとして扱われます。

■産業用ロボットを導入するメリット
ここでは、産業用ロボットを導入するメリットについて解説します。

業務の効率化と運用コスト削減
産業用ロボットを導入するメリットでまず挙げられるのが、「業務の効率化と運用コストの削減」です。生産工程をロボットが担うことで作業員を減らし、より重要な作業に最適な人員を配置することができます。少子高齢化社会によって労働力人口が減少し、人材の確保が困難になっている今、産業用ロボットの活用はさらなるメリットをもたらしてくれる可能性があります。

24時間安定した生産が可能
作業効率が変わらない産業用ロボットを活用することで、最小限の人員又は無人で24時間体制の生産も可能です。また、産業用ロボットにカメラシステムを取り付けて位置検出や検査を可能にするロボットビジョンシステム(マシンビジョン)を併せて導入することで、品種識別、画像検査、ティーチングなども自動化できるため、さらなる生産性の向上が見込めます。

ヒューマンエラーを最小限に
生産現場で起こるトラブルの原因は、ヒューマンエラーが多いとされています。産業用ロボットを導入することでヒューマンエラーを最小限に抑えるとともに、作業品質や製品品質の安定化を図ることが可能です。

1台で様々な作業に対応可能
業務の見直しと人員の削減を意味する省人化によって作業効率アップと生産性向上が求められる昨今は、産業用ロボットが一箇所で複数の作業を行うセル生産方式へとシフトしています。
従来のライン生産方式で多く利用されていた専用機器や従来の産業用ロボットは、汎用性が低く単純作業を得意としていました。しかし、産業用ロボットの技術革新やロボットビジョンシステム、センサー機能の進化などにより、部品や治具の変更なく1台のロボットで複数の作業に対応することも可能となりました。この進化により多品種生産に対応することが容易となるだけでなく、生産工程の最初から最後までを自動化することも可能となるでしょう。

産業用ロボットの4つの種類

産業用ロボットは、溶接や塗装、製品の組立、パーツや完成品の搬送など、産業分野によって対応する作業は様々です。ここでは代表的な産業用ロボットの種類についてご紹介します。

垂直多関節ロボット
垂直多関節ロボットは、人間の肩・肘・手首などの関節にあたる軸があり、人の腕のような複雑な動きが可能です。汎用性が高く、溶接や塗装をはじめとして、あらゆる現場で導入されています。垂直多関節ロボットは4~6軸可動のものが多くみられますが、近年では7、8軸可動のものも増えてきました。人間の腕は7軸の自由度があるといわれ、ロボットも可動軸が増えるにしたがって人の腕と同様に柔軟な動きが行えるため、自由で複雑な作業にも対応できるという利点もあります。

水平多関節ロボット(スカラロボット)
水平多関節ロボット(スカラロボット)は、1つの上下運動と3つの回転運動を持つ4軸構成タイプのシンプルなロボットです。関節の回転軸が全て垂直に揃っているため、アームの先端が水平の状態で移動できます。制御がしやすく高速な作業や精度の高さが特長で、基盤の組立や運搬作業で活用されることが多いロボットです。

パラレルリンクロボット
パラレルリンクロボットは各パーツを並列に配置・制御して動作させる「パラレルリンクメカニズム」を採用した4~6軸タイプのロボットです。主にモーターとベアリングから構成されており、シンプルな構造なので産業用ロボットのなかでは比較的コストを抑えて導入できます。構造がシンプルなため、メンテナンスがしやすいというのもメリットの一つといえるでしょう。また、パラレルリンクロボットは「高速で精密な動作」「高いトラッキング性能」が特徴で、ピッキングやプレス加工では大きな成果が期待できるロボットです。

直交ロボット
直交ロボットは、2軸から4軸の直交するスライド軸を持ったロボットです。可動範囲は前後の直線のみと限定的ですが、比較的低価格で制御が容易な点が特長です。重量のあるものや搬送距離が長くても対応できるという点から、搬送や移動作業に活用されています。高速かつ高精度な動作も得意としていることから、電子部品や半導体など基板の組立て作業にも多く使われています。
さらに、直交ロボットは多関節ロボットなどと組み合わせて利用できるなど、応用がききやすいという点も魅力の1つです。「同一ライン上で複雑な作業は垂直多関節ロボットが行い、搬送は直交ロボットが担う」など、活用シーンに合わせて設計が可能なところが大きな強みといえるでしょう。

産業用ロボットの市場動向

経済産業省の“ロボットによる社会変革推進会議”が発表した「ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性」によると、世界で利用されているロボットの6割弱が日本製であり、販売台数は今後も年平均14%の増加が見込まれています。また民間の調査会社の調査によると、2019年は産業用ロボット関連の収益が2017年と比べて4.3%の減退が予測されたとしながらも、2020年以降は上向きに転じると記されています。このように、先々のロボット市場の広がりが期待されており、今後のさらなる発展は想像に難くないと言えるでしょう。
2020年においては、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行によって世界的な経済の低迷が引き起こされ、産業用ロボット市場にも大きな打撃を与えました。しかし、ニューノーマルな生活様式が叫ばれる今、「ロボットの導入による密の回避」「限られた人員での生産性維持・向上」といった観点からも、ロボットのニーズはより一層高まると考えられます。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が公表した「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」では、製造・生産現場におけるイノベーション像として「モノづくりのデジタル化による省人化」が掲げられていることからも、産業用ロボットの導入やデジタルシフト、DX化の推進は製造・生産現場にとって今後の重要なポイントとなるでしょう。

まとめ ~自動化に向けた段階的な取組を考える~

労働力不足解消や生産性向上において期待される産業用ロボット。現在は2013年12月に労働安全衛生規則が緩和されたこともあり、一定の条件を満たせれば産業用ロボットと人間が同じ空間で働くことが可能となりました。これにより、産業ロボットは人間と共同で作業を行う「協働ロボット」へと進化し注目を集めました。今では20社を超えるメーカーが協働ロボットを取り扱うようになっています。
製造業における自動化の流れは、今後ますます加速することは想像に難くありません。ロボット導入の際には、導入する目的を明確にしたうえで情報収集し、専門業者へ相談するなどのステップを踏みましょう。また、導入後のリスクを最小限にするためにも様々な角度からロボット導入時のイメージを固め、繰り返しシミュレーションすることも重要なポイントとなります。今後のニューノーマルな働き方への対応という観点からも、産業用ロボットによる製造工程自動化に向けた段階的な取組を検討してみてはいかがでしょうか。

「ITトレンド」の最新記事

このカテゴリの記事一覧を見る

メールマガジン登録

上記コラムのようなお役立ち情報を定期的に
メルマガで配信しています。
コラム(メルマガ)の
定期購読をご希望の方はこちら

メールマガジン登録 お客様の課題解決に導く情報をいち早くお届けします! メールマガジン登録 お客様の課題解決に導く情報をいち早くお届けします!