デジタルデバイドとは?情報格差が誘発する問題と解決方法
公開:2022年10月14日
インターネットやパソコンなどの情報通信技術の広がりと共に、耳にするようになった言葉、「デジタルデバイド」。デジタルデバイドとは、インターネットやパソコンのような情報通信技術を使える人と使えない人の間に生まれる差、つまり情報格差のことです。社会課題や、IT関連のトレンドを学んでいるビジネスパーソンであれば、押さえておきたい言葉のひとつでもあります。
そこで本コラムでは、デジタルデバイド(情報格差)の概要や生じる原因、解消方法までまとめて解説します。
このコラムを読んで分かること
- 主な3種類のデジタルデバイド
- デジタルデバイドが生じる4つの要因
- デジタルデバイドを解消する5つの方法
【目次】
- デジタルデバイドの概要
- デジタルデバイドの主な要因
- デジタルデバイドによって懸念される問題
- デジタルデバイドを解消するための方法
- デジタルデバイド縮小の鍵になる公立図書館
- まとめ
デジタルデバイドの概要
まずは、「デジタルデバイド」の言葉の意味や種類などを紹介します。
デジタルデバイドとは
「デジタルデバイド」とは、インターネットやパソコンのような情報通信技術を使える人と使えない人の間に生まれる「差」のことです。この差とは、手にすることができる情報量や質の差、つまりいわゆる「情報格差」を指しています。
例えば、スマートフォンやパソコンを持っている人・持っていない人、有効に使っている人・使っていない人の間には、デジタルな情報にアクセスできる・できないといった差が生まれます。そして、その差により知り得る情報量や質に差が生じているということです。
インターネットが普及するとともに、スマートフォンやタブレットなどのIT端末や、SNS、動画ストリーミングの利用も当たり前になりました。しかし、様々な理由からデジタル化の波に乗れず、IT端末、SNSを使用できない人や苦手な人もいます。このように、情報を適切に入手できる人と入手できない人、SNSなどをうまく利用できる人と利用できない人の格差が生まれた結果、デジタルデバイドが着目されるようになりました。
デジタルデバイドの種類
デジタルデバイド(情報格差)は、「個人間・集団間におけるデジタルデバイド」、「地域間におけるデジタルデバイド」、「国際間におけるデジタルデバイド」の3種類に分類されます。ここからはそれぞれの特徴を解説します。
1.個人間・ 集団間におけるデジタルデバイド
個人間・集団間におけるデジタルデバイドは、企業や学校など一定の集団やグループ内で生じる情報格差のことを指します。性別や年齢、学歴、収入など、身体的・社会的条件の違いによって差が生じる場合があります。
ITに慣れ親しむ機会が少なかった高齢層や、収入の差によって所有しているIT機器が違うといった理由から差が生まれると考えられます。
2.地域間におけるデジタルデバイド
一つの国の中で、都市部と地方に生まれる情報格差のことを指します。都市部では快適なインターネット環境がある一方、地方ではネット環境が整っておらず、十分にサービスを利用できない所もあるためです。これは、世界各国だけでなく日本国内でも起こっていることで、過疎化地域ではインターネット通信のためのITインフラが充実していない傾向にあります。
3.国際間におけるデジタルデバイド
先進国と発展途上国など、国ごとの間に生まれる情報格差を指します。先進国では、インフラ整備が進んでいますが、発展途上国には不十分な場所も多くあります。また、国家予算の違い、教育の違いなども要因になっています。
デジタルデバイドの主な要因
デジタルデバイドが生じる原因は様々ですが、ここからは総務省が調査した「情報通信白書」などのデータをもとに、考えられる主な原因をご紹介します。
所得格差
「令和3年版情報通信白書」の「2020年における所属世帯年収別インターネット利用率」を見ると、年収400万円以上の階層では8割強である一方、200万円未満では6割という結果でした。年収が高ければ高いほど利用率は高い傾向となっています。
この結果から、インターネット環境が整っていて情報を得られる方の所得は上がり、環境が不十分で情報を得られない方の所得は上がりにくい、といった考察ができます。
年齢格差
「令和3年版情報通信白書」の「2020年における年齢階層別のインターネット利用率」を見ると、13〜19歳以降、50〜59歳までの層では90%を超えています。しかし、60歳から下降しており、70〜79歳の層は60%程度、80歳以上の層に至っては、30%弱と極端に下がっています。コロナ流行前の2018年と比較すると、2019年では高齢層での利用率が大きく上昇したものの、2020年になり低下してしまいました。
歳を重ねてからインターネットや情報端末が誕生・普及した世代では、インターネット利用の必要性を感じない層が一定数存在していることがわかります。
地域格差
地方部では、都市部に比べて高齢化や過疎化が進んでいます。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、令和3年現在の高齢化率は最も高い秋田県で38.1%となっています。対して東京の高齢化率は最も低く、22.9%です。また、東京や神奈川、大阪の人口と比べ、鳥取や島根など100万人未満が10県あるなど、人口も地域で格差が生まれています。
年齢格差でもお伝えしたように、年齢が上がるほどインターネット利用率は低くなります。そのため高齢化が進んでいる地域とそうでない地域では、自ずとデジタルデバイドが生じてしまう可能性が高いと言えるでしょう。
インターネット普及に向けて、通信各社が全国をカバーすべく基地局を設置していますが、人口密度の高い地域、必要とされている地域からネットワークの整備を進めているのが現状です。そのため、離島や山奥にある地域の普及が遅れる、万が一システム障害などが発生しても復旧が遅れる可能性あり、地域によるデジタルデバイドの可能性が考えられます。
障がい格差
身体的・精神的な障がいの有無も、取得できる情報に差を生むひとつの要因です。障がいを持つ人々がハンディーキャップを感じることなく、多くの情報に自由にアクセスできるようにするための利用環境の改善・情報端末の進化が求められています。
デジタルデバイドによって懸念される問題
デジタルデバイドが生じることによって、社会や経済にも問題が発生する可能性があります。ここではどのような問題が発生し得るのか紹介します。
教育格差
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、自宅でパソコンやタブレットなどを利用するオンライン授業が試行されました。しかし、インターネット環境やWi-Fi環境がない家庭では、教育の機会が失われる危険性があったことも記憶に新しいかと思います。また、IT端末を所有していても端末ごとのスペックの違いによって、教育の質に格差が生じる恐れもあります。
貧困による教育格差がさらに貧困を生んでいるという現状もあるため、学校や家庭におけるICT教育は今後さらに重要となるでしょう。
就業機会の格差
近年では、企業の採用活動もオンライン化が進んでいて、説明会や面接などの選考をWeb会議ツールで実施するケースも多くなっています。インターネットの利用環境が整っている人にとっては、移動時間や交通費の負担軽減などのメリットがあるものの、利用環境が十分でない人の場合、オンラインでの選考に参加できず、就職の機会を失ってしまう恐れもあります。
災害・犯罪など緊急時の対応格差
台風や地震などの自然災害や、電車の遅延・運転見合わせ、事件の発生など、緊急事態が起きた際に速やかに対処するためにも、インターネットの利用は役立ちます。情報通信技術に関する知見を持ち、迅速に情報収集や事態の把握ができる人ほど、緊急事態への適切な対処が可能です。反対に情報通信技術を上手に活用できない人は、遅れをとってしまう恐れもあります。
IT人材の流出・不足
情報通信インフラが整った国・地域では、たくさんの人がインターネットの利用を通じて得られるメリットを理解しており、利用頻度も高まっています。利用することで自然にITリテラシーも身につき、結果的に優秀なIT人材の育成にもつながるでしょう。
しかし、優秀なIT人材は、IT技術・環境が整った国や地域に流れる傾向もあります。優秀なIT人材が流出してしまえば、国際競争力の低下にもつながりかねません。IT人材を流出、不足させないためにも、国としてのIT環境の整備とIT教育が求められます。
高齢者の孤立
情報通信インフラが整っていない地域で生活する人や、インターネットが利用できるIT端末を所有していない人の場合は、インターネットを使える人に比べて、有益な情報を得る手段が限られてしまいます。こうした傾向は、年齢を重ねるほど高くなります。そのため、特に高齢者の場合は限られた情報しか得ることができず、孤立してしまう恐れもあります。
デジタルデバイドを解消するための方法
デジタルデバイドが広がれば、教育格差や就職機会の格差など、今後の社会に大きな影響を与えるような問題に発展する恐れがあります。では、デジタルデバイドを解決するためにはどのような方法があるのでしょうか。具体的にご紹介します。
シニア層のICT活用を後押しする
年齢によるデジタルデバイドを解消するためには、シニア層に積極的にIT端末と触れる機会を作る、情報通信技術を活用する方法を教えるといったサポートが必要です。
これらを進めるべく、ある大手電気通信事業者では、シニア層をはじめスマートフォンの扱いに不安があるさまざまな世代に、スマートフォンの活用方法に関する各種セミナーを実施しています。地域に偏りがでないよう、全国各地の携帯ショップで実施しています。
また、高齢者でも使いやすい機器の開発、自治体が相談会を開くなども、シニア層のICT活用支援になるでしょう。
ICTを利活用することで、様々なメリットを得ることができることを知ってもらうための取組が、解決策の1つとなります。
無料利用できる端末を設置する
金銭的な理由から、IT端末やインターネット環境を持てない人も多くいます。そうした人たちのデジタルデバイドを解消するためには、無料で利用できるIT端末を市役所や図書館などの公共スペースに設置するのもひとつの方法です。
また、Wi-Fi環境やタブレットなどを自治体が家庭に貸し出すといった施策も有効です。
端末・コンテンツをユニバーサル化する
IT技術は日々進歩しているため、さまざまなハンデを抱えた人でも使いこなせるようなIT端末・コンテンツが開発されれば、年齢や障がいによるデジタルデバイドは解消されるでしょう。
現在でもAIアシスタント機能を備えたスマートスピーカーや、スマートフォンの機能の一部を体に着けられるスマートウェアラブルデバイスなど、多様なスマート機器が開発されています。そうしたスマート機器を使用すれば、デジタル機器の活用が苦手な方でも、容易に使えるようになるでしょう。
IT人材を増加させる
IT人材の流出や不足は、デジタルデバイドを広げる大きな原因として考えられています。そのため、IT業界全体の人材増加が急務です。
IT人材を増加させるには、都市部だけではなく、地方部にもITスキルが学べるスクールをはじめとした仕組みの確立が必要です。地方部でIT人材が育てば、周囲の方たちにスキルを伝えることで、さらなるIT人材の増加も期待できるほか、インフラ整備も進み、その地域へ進出する企業の増加も見込まれるでしょう。
情報を鵜呑みにせず、判断できるスキルを身につける
日常的にインターネットを利用している人でも、特定のSNSだけしか閲覧しない、TVや新聞といった別のメディアからの情報を見ないケースも考えられます。このような場合、自分にとってはプラスと思っている情報であっても、その情報は誤っている可能性もあります。また、偏った情報だけを信じてしまうということも起こりえます。
簡単に情報が発信できるということは、嘘や誤った情報も簡単に流れているということです。しかし、だからといってインターネットやSNSからの情報を遮断しては、有益な情報を得る機会を失ってしまいます。正しいかそうでないのかを理解し、情報を判断できるスキルを身につけることも、デジタルデバイドを生まない方法です。
デジタルデバイド縮小の鍵になる公立図書館
デジタルデバイドをこれ以上広げず、解消していく手段として、公共図書館の活用が期待されています。
実際に東京都の東久留米市では、公立図書館が情報格差を解消する役割を担おうと、図書館協議会の中で話し合いが進んでいます。令和2年度(2020年)に開催された「第2回東久留米市立図書館協議会」では、図書館におけるデジタルデバイド縮小のための方策が話し合われ、下記の通り提案が出されました。
「コロナ禍において、子どもたちのオンライン学習、テレワーク、諸申請等に際し、デジタル環境の有無がさらなる格差を生み出す可能性がある。これを少しでも解消(縮小)するために、図書館として実行可能な方策を検討することを提案したい。」
公共図書館として、無料インターネットの提供やマンツーマンのインターネット支援サービス、オンラインでの就職活動支援などを行い、問題解決に努めたいとも述べられていました。
現在は市立図書館各館の Wi-Fi 環境の増強や、学習環境の充実などを進めるだけでなく、デジタルデバイド縮小における図書館の役割を重要視した協議が継続されています。
まとめ
今回は、デジタルデバイドの概要や情報格差が誘発する問題、解決方法などについてお伝えしてきました。改めて本コラムのポイントをまとめます。
<このコラムのPOINT>
- デジタルデバイドとは、インターネットやパソコンのような情報通信技術を使える人と使えない人の間に生まれる情報格差のこと
- デジタルデバイド(情報格差)は、「個人間・集団間デジタルデバイド」、「地域間デジタルデバイド」、「国際間デジタルデバイド」の3種類に分類される
- デジタルデバイドが広がると、教育格差、就職機会の格差、災害・事件など緊急時の対応格差などが懸念される
- 所得などの理由によってIT端末を所有できず、情報格差が広がっていることから公共施設にIT端末の設置、Wi-Fi環境の整備などが期待されており、幅広い年齢の人が利用しやすい図書館は、デジタルデバイド縮小の鍵になるのではと期待されている
情報通信技術が進歩するとともに、デジタルデバイドの広がりも深刻化している今、「誰一人取り残さない」デジタル化の実現に向けて何ができるのか、企業や自治体などが積極的に取組を始めています。なかでも公立図書館がデジタルデバイドを縮小させる重要な役割として期待されています。問題解決に向けて日々協議が重ねられるなど、今後もデジタルデバイドの解決に向けた取り組みは動きが活発になるでしょう。ぜひ今後も動向を追ってみてはいかがでしょうか。
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