マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?情報科学やAIが材料開発の未来を変える!

日本が誇る"ものづくり"を支える「素材」。素材や材料の進化は、製品の性能を飛躍的に向上させるだけでなく、新たな活用方法を生み出すことが可能です。そして今、素材や材料開発の分野で注目されているキーワードが「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」です。
本コラムではマテリアルズ・インフォマティクスの概要や導入企業の事例、課題や将来性などについて詳しくお伝えします。

このコラムを読んで分かること

  • マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の意味・ニーズが高まる理由
  • マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の推進を成功させるポイント
  • 日本政府が考えるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の取り組み

【目次】

  • マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の概要
  • マテリアルズ・インフォマティクス(MI)に取り組む企業の事例4選
  • マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の発展に向けた課題
  • マテリアルズインフォマティクス(MI)の今後はどうなる?
  • まとめ

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の概要

始めに、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の概要や従来の開発プロセスとの違い、歴史などを紹介します。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは、機械学習などの情報科学(インフォマティクス)を用いて、有機材料、無機材料、金属材料など様々な材料開発の効率を高める取組です。AIなどのデジタル技術の発展に伴い、膨大な実験や論文のデータを解析できるようになったことから、注目されています。求める性能を満たす材料の組み合わせや、製造方法を予測できるなどの効果が得られることから、化学薬品や石油などを原料として製品を製造するプロセス系製造業での応用が拡大しつつあります。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)と従来の開発プロセスとの違い

これまで材料開発の過程は、研究者の経験や知識、スキルに頼っていました。求められる条件を満たす材料を開発するため、何度も研究と実験を繰り返す必要があり、ときには一つの材料開発に数十年の期間を要することもありました。
しかし、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)では、材料開発の過程を、情報科学や計算科学の力によって加速させることができます。例えば、コンピューター上で原子配列の特質を計算したり、過去の論文データを機械学習で分析させ素材の組み合わせを導き出したりすることが可能になりました。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)のはじまりと歴史

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)が世界的に注目されるようになったのは、2011年にオバマ米大統領(※当時)主導で始まった国家プロジェクト「マテリアル・ゲノム・イニシアチブ(MGI)」です。マテリアル・ゲノム・イニシアチブは、大量のDNAデータをコンピューターで解析し、生命科学を変革したヒトゲノム計画を手本にした材料革新プロジェクトのことです。

このプロジェクトをきっかけに、世界中でマテリアルズ・インフォマティクスに関する研究開発プロジェクトがスタートしました。日本でも国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)が実施するイノベーションハブ構築支援事業の一環として、2015年に発足した「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI 21)」が、日本のマテリアルズ・インフォマティクスを進める大きなきっかけとなりました。

日本でマテリアルズ・インフォマティクス(MI)のニーズが高まる理由

世界的にもニーズが高まっているマテリアルズ・インフォマティクス(MI)ですが、日本でも重要視されている理由は何でしょう。
それは、貿易大国である日本の輸出産業を支える一つが、工業素材であることが挙げられます。工業素材は日本の輸出産業の約20%を占めており、世界市場で過半数のシェアを占めるマテリアル製品も多数存在しています。
しかし、各国がマテリアルズ・インフォマティクスを利用して短期間に材料開発を進めるようになれば、従来の長期的な研究開発を続けることが難しく、日本は不利な状況になってしまうでしょう。
こうした背景から日本でも材料開発の過程のスピードアップを図るべく、マテリアルズ・インフォマティクスのニーズが高まっているのです。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)に取り組む企業の事例4選

ここからは、実際にマテリアルズ・インフォマティクス(MI)に取り組んでいる企業の事例を4つご紹介します。

総合化学メーカー

ある大手総合化学メーカーでは、デジタル変革の取組の1つとして2017年にマテリアルズ・インフォマティクスのPoC(概念検証)を開始、なんと翌年の2018年には高性能な触媒の開発に成功しました。また、新型コロナ禍の中でも在宅勤務中にマテリアルズ・インフォマティクスを使い、材料開発の組み合わせを探索。出社できるようになった後、いくつかの候補を実験したところ、すぐに求める物質の構造にたどり着くことができました。
同社では、マテリアルズ・インフォマティクスを推進する部門を設置し、2019年から2021年までの3年で、MI技術を習得する人材育成の強化にも取り組んでいます。これらの取組から研究者の部門を超えたコミュニティーも生まれ、切磋琢磨するだけでなく社内全体で支え合う風土ができつつあるようです。

総合素材メーカー

総合素材メーカーでは、独自のマテリアルズ・インフォマティクス(MI)データベースと、解析ツールを開発、2022年6月から社内で本格利用を開始しました。日々の実験計画や結果をノートのように記録することで、MIに活用するデータが自動で蓄積される仕組みです。
2020年より開始した試験導入では、スマートフォンなどに用いられる化学強化ガラスの強度が最大になるような組成の発見や、自動車用ガラスの高機能コーティング材料設計のスピードアップなど、様々な効果が実証されています。
今後はデータを活用できる人財を育成し、MIによる新規素材開発をさらに加速させていくそうです。

石油・石炭製品業の大手企業

有名な石油・石炭製品業の大手企業では、実験、シミュレーション、AIを融合させることで、再生可能エネルギーや潤滑油などの分野における物理・化学法則と統計解析の提案を目標にマテリアルズ・インフォマティクスに取り組んでいます。特に、国際課題である低炭素社会の実現に向けて、MIを用いた材料研究の加速と研究開発の革新に挑戦しています。

そのひとつが、ITのスタートアップ企業と協業し、独自のAI技術を活かした「汎用原子レベルシミュレータ」の開発です。これにより分子や結晶などの構造やその他物性を素早く計算でき、従来よりも広い範囲で新素材の探索が可能になりました。

大手化学メーカー

合成繊維・合成樹脂をはじめとする化学製品や、情報関連素材を取り扱っている大手化学メーカーでは、マテリアルズ・インフォマティクスを活用して「炭素繊維強化プラスチック」を短期間で開発しました。
「炭素繊維強化プラスチック」は、優れた難燃性と力学特性を持っており、航空宇宙分野での用途を前提に開発された次世代の素材です。しかし一方で金属に対しては、難燃性・力学特性以外の機能面で不利があることがわかりました。
そこで、これを補う付加的な材料、工程を見つけるべく、これまで集めてきたデータとデジタル技術を活用し、マテリアルズ・インフォマティクス技術を「炭素繊維強化プラスチック」設計へ導入。合わせて必要な特性から材料設計を抽出する逆問題解析手法に、大学と共同研究で導入した「自己組織化マップ」を活用しました。
結果的に、少ない実験回数で求めるレベルに達する設計に成功し、短期間で材料開発できる技術も確立できたそうです。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の発展に向けた課題

さて、多くの企業で推進されるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)ですが、発展に向けた課題もいくつか存在します。ここからは、どんな課題があるのか、課題解決につながると想定される対策も合わせて紹介します。

データ量の不足・低品質

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を導入するためには、膨大な過去の実験結果や論文データ、素材に関するデータが必要です。しかし、企業によっては、過去の実験データが保存されていないケースや紙ベースで保存されていて、解析可能な形式に統一するのが難しいといったケースがあります。また、データがあっても記録されている項目が属人化しており、バラバラであるということもあります。
こうした課題を解決するためには、結果にかかわらず実験・研究のデータを蓄積しておくことが重要です。また、実験の手順や条件、データを記録する項目を標準化しておきましょう。
実験に失敗した際のデータも、マテリアルズ・インフォマティクスにとっては重要な学習データになります。

データサイエンティスト不足

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の導入以前に、材料開発には、材料に対する詳しい知識と理解、データサイエンスの知見を持った人材が必要です。しかし、国内でデータ分析を学習できる教育機関が少ないこと、また、多くの企業でマテリアルズ・インフォマティクスの導入が検討されていることから、データサイエンティストのニーズが高まり、需要が供給を上回ると懸念されています。
こうした課題を解決するためには、公的機関・研究機関が主導となり、大学での講義プログラムを拡充したり、専門団体と連携したカリキュラムを開発したりする必要があるでしょう。また、事例でご紹介した「総合素材メーカー」のように、社内でマテリアルズ・インフォマティクス人材を育成することもひとつの解決策といえます。
さらに、データ分析をAIで自動化し、利用できる人材の幅を広げるという動きもみられます。人材確保に向け、様々な対策が取られはじめています。

解析技術の開発

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)において、データの蓄積と同様、不可欠なのが解析技術です。精度向上に向け、機械学習技術のさらなる情報処理能力の引き上げが必要です。
今後、解析技術の性能を高めていくためには、公的機関・研究機関による「AI技術開発」への助成制度の整備や、民間企業との協業開発の推進が必要でしょう。

マテリアルズインフォマティクス(MI)の今後はどうなる?

日本政府は、今後のマテリアルズ・インフォマティクス(MI)への方向性について2030 年を見据えて推進すべき取組を4つ掲げています。

  1. データを基軸としたマテリアル研究開発のプラットフォーム整備
  2. 重要なマテリアル技術・実装領域の戦略的推進
  3. マテリアル・イノベーションエコシステムの構築
  4. マテリアル革新力を支える人材の育成・確保

これらは、文部科学省及び経済産業省が設置した「マテリアル革新力強化のための戦略策定に向けた準備会合」の中で取りまとめられました。
今後、産学官が一体となって、マテリアル研究開発のデジタルトランスフォーメーション(DX)を一気に加速したいと述べています。

まとめ

今回はマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の概要や取り組む企業の事例、政府の動きなどを紹介してきました。
本コラムのポイントを改めてまとめます。

<このコラムのPOINT>

  • マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは、機械学習などの情報科学(インフォマティクス)を用いて、様々な材料開発の効率を高める取組
  • 従来の開発プロセスとの違いは、これまで技術者が膨大な時間を使っていた材料開発の過程を情報科学や計算科学の力によって効率化できる点
  • 「データ量の不足・低品質」「データサイエンティスト不足」「解析技術の開発」などの課題解決に向けて、日本政府は産学官一体となった取組を始めている

化学メーカーなど材料開発を行うプロセス系製造業企業の発展と、高効率化が期待されるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)。政府のサポートも加われば、今後さらなる進化が見込まれるでしょう。
SDGs達成には、マテリアルの革新が不可欠であるとも言われています。日本が得意としてきた工業素材の研究開発力が社会課題解決に貢献していくことを期待し、今度も動向をチェックしていきましょう。

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