「人手不足」が叫ばれる介護福祉業界の実態を探る

日本は今や「高齢化社会」の一途をたどり、内閣府が発行した「令和元年(2019年)版高齢社会白書」によれば、65歳以上の高齢者は3,558万人となり、全人口中28.1%という高い割合です。さらに、2065年には約2.6人に1人が65歳以上、そして約3.9人に1人が75歳以上になるとも言われており、介護人材のニーズはますます高まっていくことは既知の事実です。
しかし、高齢者の増加にもかかわらず、いま日本では介護人材が圧倒的に不足しています。このコラムでは「人手不足」が深刻化する介護福祉業界の実態に迫ると共に、国が行っている対策についてご紹介します。

介護施設の67.2%が人手不足!?

2019年8月に介護労働安定センターが公表した「平成30年度 介護労働実態調査結果」によると、回答した9,102事業所の実に67.2%が「人手が足りないと感じている」という報告がありました。5年連続で介護事業所における人材の“不足感”が増しているとも報告されており、介護施設における人材確保が急務であることが窺えます。[※1]

[平成30年度 介護労働実態調査結果:増加する介護人材の不足感(事業所調査)より(公益財団法人 介護労働安定センター)]

この人材不足の波は、介護業界だけにとどまる話ではありません。
日本商工会議所が2019年6月に公表した「人手不足等への対応に関する調査結果」によると、全国の中小企業2,775社のうち、人員が「不足している」と回答した企業は66.4%にのぼりました。前年の調査結果(2018年度:65.0%)よりも約1.4ポイント上昇しており、深刻な人手不足の状況が続いていることが分かります。また、「今後数年後(3年程度)の人員充足の見通し」については、全体の半数以上52.1%の中小企業が「不足感が増す」と回答しており、「現在と同程度の状況」と回答した企業も43.2%であることから、今後数年間は人手不足の状況が続くことが窺えます。[※2]

今、日本は介護業界だけでなく日本全体で働き手を取りあっている状況であり、採用自体が難しいことをご理解いただけたかと思います。しかし、これからますます高齢者が増え、介護人材の需要は高まる一方のため、状況を打開するためにも何らかの対策が急務といえます。

介護労働者の労働条件について

日本全体が人材不足に悩まされる中、介護業界での採用がとかく困難である理由の本質は、一体何でしょうか。先程もご紹介した介護労働安定センター公表の「平成30年度 介護労働実態調査結果」によれば、「採用が困難である」と回答した事業所が挙げた「困難な理由」の第1位は「同業他社との人材獲得競争が激しい(56.2%)」であり、「他産業に比べて、労働条件等が良くない(54.9%)」が続いて第2位でした。ここで注目したいのが、介護労働者の“労働条件等”という点です。同調査による「労働条件・仕事に関する悩み」の結果を見てみましょう。

[平成30年度 介護労働実態調査結果:労働条件・仕事に関する悩みの上位項目(労働者調査)より(公益財団法人 介護労働安定センター)]

第1位はやはり「人手が足りない」でしたが、「仕事内容のわりに賃金が低い」と回答した方も多くいます。介護労働者の所定内賃金は平均で234,873円と年々増加してはいるものの、厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査結果」によると全産業の平均月給が306,200円であることから、介護業界全体の賃金が低めであることがわかります。働きがいや、人や社会の役に立ちたいという思いから様々な資格を取得しても、給与が低いために介護職を離れてしまう人も、少なからずいるのが実態ではないでしょうか。

また、有給休暇など福利厚生面の不満も挙がっています。休暇が取りにくい背景には人手不足が大きく関係しており、負のスパイラルに陥っているのが現状です。働きやすい環境の整備は介護職員の定着だけでなく、他の事業所との差別化にも繋がるため、事業所側としては意識して改善したい項目といえます。
さらに、6位の「業務に対する社会的評価が低い」は、労働条件とは少し違う視点ではありますが、介護職に抱く一般的なネガティブイメージが原因と考えられます。残念ながら、体力的や精神的にきついといったイメージが介護職に就いたことの無い方にもあり、それが人材採用にも悪影響を及ぼしていると推察されます。これでは人材不足も解消されないどころか、介護職に就いている方たちのモチベーションの低下にも繋がってしまうのではないでしょうか。

国が行う処遇改善加算の方向性は?

こうした状況を打開するために、国は2012年度の介護報酬改定で「介護職員処遇改善加算」という制度を設けました。
介護職員処遇改善加算とは、介護施設で働く人のためにキャリアアップの仕組みを構築したり、職場環境の改善を行ったりした事業所に対して、介護報酬を加算して支給する制度です。算定するための要件の見直しや加算額を上乗せするなどの対策を行いながら現在に至っていますが、残念ながら「今の介護報酬ではまだまだ不十分であり、人材の確保・定着のために十分な賃金を払えない」と運営面の不安を感じている事業所も多くいるのが現状です。

そこで国はさらなる打開策として、「介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定処遇改善加算)」を創設しました。この特定処遇改善加算は、2019年10月に行われた消費税率の引き上げに合わせたもので、経験や技能を有する介護職員の更なる処遇改善を行うことを目的としています。
取得するためには要件を満たす必要がありますが、リーダー級の介護職員(勤続年数10年以上の介護福祉士が基本)に、月額平均8万円相当の処遇改善がなされることになります。これにより、リーダーとしての役割を担う優秀で経験豊富な介護職員に対し、ほかの業種に劣らない賃金水準を実現することができると期待されています。

事業者側の立場としては、一朝一夕で労働環境や条件を変えることは、そう簡単なことではありません。しかし、処遇や労働環境の改善に向けて、以下のような支援策があります。

  • 国による人材採用・開発を支援する助成金:キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金
  • 国による介護福祉機器導入に活用できる助成金:人材確保等支援助成金(介護福祉機器助成コース)
  • 福祉人材センター・福祉人材バンクや介護労働安定センターによる人材支援や職場作り支援

これらの様々な支援策を活用することも、検討されてはいかがでしょうか。

まとめ

どんな業種・業界であっても、「働きやすい職場」、「ずっと働きたいと思える職場」であることが、人材の確保と雇用の継続にとって必要な要素です。介護をする立場の職員が、みな笑顔でイキイキと働く施設に、利用者の方もお世話になりたいと思うことでしょう。
人材不足は事業者にとって常に頭を悩ませる問題ではありますが、制度を上手に活用し、職場や処遇の改善に積極的に取り組む姿勢が、最終的には自身の事業所を救うことに繋がるのではないでしょうか。

1 出典:平成30年度「介護労働実態調査結果」(公益財団法人 介護労働安定センター)
2 出典:「人手不足等への対応に関する調査結果」【2019 年6月6日】(日本商工会議所)

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