2020年度診療・調剤報酬改定から見る今後の薬局・薬剤師の在り方とは

令和2年(2020年)3月に告示され、4月より施工された診療・調剤報酬改定。2020年度の診療報酬改定にあたっての基本的な方針として、
「1.医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」
「2.患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」
「3.医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進」
「4.効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上」
の4つが掲げられました。
中でも、「患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」という項目については、かかりつけ機能の強化や薬局の対物業務から対人業務への推進などが挙げられており、調剤報酬改定に大きく関わる内容となっています。
そこで今回は、診療・調剤報酬改定から見えてくる「薬局・薬剤師の今後のあるべき姿」について考えていきたいと思います。

薬局・薬剤師を取り巻く現在の状況とは

今後のあるべき姿を考えるために、まずは薬局や薬剤師を取り巻く現在の状況を確認しましょう。厚生労働省 中央社会保険医療協議会 第424回(2019年9月25日開催)資料「調剤報酬(その1)」および、平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況「3 薬剤師」をもとに、現在の状況をご説明します。

薬局の数

薬局数の推移を見ていただくとわかる通り、平成18年(2006年)は約52,000店舗ほどであった薬局の数は、年々堅調な伸びを見せており平成29年(2017年)時点では約59,000店舗ほどまで増えました。11年間で約7,000店舗ほど増えた計算です。内訳を見ると、個人薬局や1店舗のみの法人薬局の割合は減少傾向にあります。その代わり割合として増えているのが20店舗以上の法人であり、平成25年(2013年)時点で17.6%であった割合が、2017年時点では28.3%まで増えました。このことから、大手・中堅の法人薬局のシェアが強まっていることが伺えます。
調剤だけでなく日用品や一般医薬品も取り扱う大手ドラックストアのように、お薬を受け取るだけでなないプラスアルファのメリットがないと、生き残ることが難しい現状になっている可能性が示唆できます。

[第424回(2019年9月25日開催)資料「調剤報酬(その1)」薬局数の推移ならびに同一法人の薬局の店舗数の推移(厚生労働省 中央社会保険医療協議会)]
薬剤師の数

次に、薬剤師数を見ていきましょう。平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況によると、平成30 年(2018年)12月31日時点における全国の届出薬剤師数は、約31万人です。そのうち、約30万人の方が何らかの形で従事されています。従事する施設の内訳を見てみると、薬局の数が増えるのと比例するように「薬局に勤める薬剤師の割合」が大きく増加し、約57%と半分以上を占めています。
薬局数の増加や超高齢社会へとシフトしている日本の状況を見ると、今後も薬剤師の需要は高いように思われます。
しかし一方で、AIの導入やICTの発展などにより環境が変わることで、雇用が飽和する危険を感じている声も少なからずあります。「今後生き残るため」という視点で考えた場合、薬剤師・薬局の在り方にも変化が必要となってくる可能性は高いと言えるのではないでしょうか。

調剤医療費の推移

2017年度の概算医療費が約42.2兆円であった中で、調剤医療費は約7.7兆円と全体のおよそ18%を占めています。内訳を見ていくと、約5.7兆円が薬剤料、約1.9兆円が技術料となっています。さらにこの技術料を詳しく見てみると、調剤料の占める割合が50%を超える状況が10年以上続いているという結果でした。
この数字から、現時点で薬局・薬剤師は「対物業務」中心であることが伺える状況だとわかります。対人業務の評価がさらに増す方針であることから、今後、この割合がどう変わるかが、国としても注目している点であると考えられます。

[第424回(2019年9月25日開催)資料「調剤報酬(その1)」調剤医療費の推移(厚生労働省 中央社会保険医療協議会)]
[第424回(2019年9月25日開催)資料「調剤報酬(その1)」技術料に占める調剤基本料、調剤料、薬学管理料(点数ベース)の割合(厚生労働省 中央社会保険医療協議会)]
~対物業務と対人業務について~
「対物」業務とは、処方箋の受け取りや保管、秤量・混合・分割などの調製、報酬算定、薬剤監査・交付、在庫管理といった「薬中心」の業務を指します。
一見、対物中心の業務には何の問題もないように見えます。実際、上記で説明した業務は、患者さんに安心して薬を服用してもらうため、必要不可欠なものです。しかし、対物業務に比重が傾き過ぎると、「薬を服用する患者さん自身のメリットが少ない」つまり、「薬局はただ処方された薬を貰うだけの場所」と思われてしまうのです。
例えば、「残薬を減らすにはどうしたらいいのか」、「副作用が生じない飲み方を知りたい」と患者さんが疑問を持っても、対物中心業務のままであればその疑問を解消する機会は限られていました。
こうした対物中心業務に代わる業務として注目されてきたのが、「対人」業務です。対人業務とは、重複投薬や飲み合わせといった処方内容チェック、医師への疑似照会、服薬指導、在宅訪問における薬学管理、副作用・服薬指導のフィードバック、残薬解消など「患者さん中心」の業務を指します。
対物業務にシフトすることにより、患者さんや地域から評価され、本来の薬剤師の職能が発揮されると考えられています。

診療・調剤報酬改定に関する論点とは

現状は対物業務中心である・・・とご紹介しましたが、そのような状況を踏まえた結果が今回の診療・調剤報酬改定です。「患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」という視点のもと、対物業務から対人業務への転換をどのように推進していくかという点が、内容に反映されていると言えます。

そもそも対物業務から対人業務への推進は、初めて出た話ではありません。厚生労働省は2015年から患者本位の医薬分業の実現と、かかりつけの薬剤師の活躍に向けて推奨してきました。実際、厚生労働省が2015年に策定した「患者のための薬局ビジョン」の中で対物業務から対人業務への転換を推奨しています。しかし、依然として対人業務への理解や推進がなされていないのが、現状です。
対物業務中心で今までずっと成り立っていたという中で在り方を変えるには、対人業務に転換することの意義を薬局・薬剤師自らが理解する必要があるでしょう。今回施工された診療・調剤報酬改定に込められた薬局・薬剤師への「期待」を、重く受け止めるべきではないでしょうか。

まとめ~薬局・薬剤師の今後の在り方とは~

ここまで対物業務と対人業務についての話を中心に、「薬局・薬剤師の今後のあるべき姿」ついてご紹介しました。かかりつけ薬局・薬剤師を推進し、対物業務から対人業務を中心とした業務への転換を推進する目的は、「患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」であることです。

今までの処方箋の受け取りから調製、報酬算定、薬剤監査・交付、在庫管理といった「薬中心の業務」が評価されていた時代から、重複投薬や飲み合わせといった処方内容チェック、医師への疑似照会、服薬指導、在宅訪問における薬学管理、副作用・服薬指導のフィードバック、残薬解消などの「患者中心の業務」が評価されるようになることが予想される中で、薬局・薬剤師の在り方も変わっていくことでしょう。

そのような変化の中で、薬局・薬剤師に求められる基本的な考え方は、

  • 最適な薬物療法を提供する医療の担い手としての役割
  • 地域に密着した健康情報の拠点としての役割
  • 医療機関等との連携によるチーム医療への積極的な取組
  • 治療歴だけでなく、生活習慣も踏まえた全般的な薬学的管理への責任

などが挙げられます。

経済的な利益の追求や効率性にのみとらわれることなく、医薬分業における自身の役割を果たして患者へ貢献し、「患者にとって身近で安心・安全で質の高い医療」を実現することが、これからの薬局・薬剤師には望まれています。

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