看取り介護加算改正と看取り介護について解説【2021年介護報酬改定版】
2021年の介護報酬改定に伴い、看取り介護加算が見直されました。今後日本は急速に高齢化が進み、多死社会が到来すると言われています。そのような社会背景もあり、政府は施設・居住系の介護サービス従事者が行う看取りを積極的に後押ししています。
今回のコラムでは、看取り介護加算や看取り介護について詳しく解説します。
- 看取り介護と看取り介護加算について
- 【令和3年度】看取り介護加算の改定内容
- 介護施設における看取り介護の課題
看取り介護・看取り介護加算とは
そもそも、看取り介護および看取り介護加算とは何なのか、基本的な概要から解説します。
看取り介護とは
「看取り介護」とは、病気などの理由により近い将来、死が避けられないとされた人に対し、本人または家族の了承のもとで積極的な治療を行わず、本人にとって理想的な最期を穏やかに迎えられるよう生活を支援することです。
終末期を迎えた患者の中には、病室で治療を続けるよりも慣れ親しんだ自宅で最期を迎えたいと希望する方も多くいらっしゃいます。本人の意志を尊重し、家族との有意義な時間を過ごしてもらうことが、看取り介護の最大の目的と言えるでしょう。
看取り介護と混同しやすい言葉として「ターミナルケア」がありますが、看取り介護は積極的な延命治療は行わず尊厳ある生活を支援するサポートのみを行うのに対し、ターミナルケアは終末期医療および看護のことを指します。
看取り介護加算とは
「看取り介護加算」とは、医師が回復の見込がないと判断した利用者に対し、本人またはその家族が看取り介護を希望した場合、その意志を尊重し、医師や看護師および介護施設が連携をとって看取りをする場合に算定される介護報酬です。
看取り介護加算は、2006年の介護報酬改定のタイミングで制度が開始されました。
日本では超高齢社会の進行に伴い、多死社会が到来すると言われています。
団塊の世代が平均寿命に達する2040年の予想年間死亡者数は、およそ170万人。これは2020年の死亡者数138万人と比較すると約1.2倍に相当します。
多死社会の到来により医療現場で問題視されているのが、入院ベッド数の不足です。終末期を迎えられる場所が不足し、現在のように病院の中で看取りを受けられるのは限られた患者のみになってしまう可能性が指摘されています。
また、自分らしい最期を迎えたいという人々の意識の変化、高まりが見られるようになっています。しかし、核家族化や単身高齢世帯の増加が進む昨今、住み慣れた家や環境で最期を迎えたいと願うけれど、現実的に難しいという現状もあります。
そのような社会的な背景もあり、介護施設での看取り介護への需要が高まったことから、看取り介護加算の制度が開始されました。尚、看取り介護加算の対象となる事業者は、以下の4事業者です。
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看取り介護加算の改定内容【令和3年度介護報酬改定版】
2021年4月に介護報酬改定が行われ、看取り介護加算のルールも変更されました。これまでとどのような点が変更となったのか、詳しい内容を確認していきましょう。
算定期間の拡大
改定前の看取り介護加算は、利用者が死亡した日からさかのぼって30日までしか算定期間に含められませんでした。しかし今回の改定によって、死亡日以前45日前からにおいても評価対象とする制度に変わりました。
介護施設の現場では、30日以上の長期にわたって看取り介護が行われるケースが珍しくありません。今回の看取り介護加算の算定期間拡大は、看取り介護に真摯に向き合う介護現場に、より実態に即した制度にする目的があります。
ガイドラインに沿った対応を算定要件に定める
厚生労働省では、看取り介護および医療のあり方について「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を定めています。この中では、看取りに関する基本的な考え方や判断のプロセス、最終的な意思決定の手続きについての指針が示されています。
看取り介護加算の算定にあたっては、このガイドラインに沿った対応を行うことも、今回の改定内容に含められました。
特に重要なポイントとしては、看取り介護を希望する本人およびその家族が看取りを選択した後も、本人や家族と医師・看護師・ケアチームが十分なコミュニケーションを図ることが求められる点です。また、その内容は必ず文書として残しておくこともガイドラインとして定められています。
介護付きホームの看取り期夜間の看護職員配置に報酬加算
介護付きホームについて、看取り期に夜勤または宿直により看護職員を配置している場合に評価する新たな区分が設けられました。看取り介護加算にこの評価分が上乗せされる形です。
これは、施設における夜間の医療体制を充実させる目的があります。
~ ちょこっとメモ:訪問介護における看取りへの対応の充実 ~
令和3年度介護報酬改定により、訪問介護についても看取りへの対応が充実されました。
具体的には、看取り期の利用者に訪問介護を提供する場合、2時間ルール(2時間未満の間隔のサービス提供は所要時間を合算すること)を弾力化し、所要時間を合算せずにそれぞれの所定単位数の算定が可能となりました。
看取り期に訪問回数が増えたという調査結果もあるため、訪問介護における負担増に即した改定と言えます。
介護施設における看取り介護の課題
介護事業における看取り介護への対応の重要性を感じる結果となった、今回の介護報酬改定。看取り介護加算が拡充したことで、介護スタッフが看取りに関わる機会は増えていくことが予想されます。
しかし、ここで考えておきたいことは、「介護職員・スタッフへの負担」への対処です。
介護職員・スタッフへの負担をどうサポートするか
介護施設を看取りの場として選択できるようになると、介護に従事する職員の負担は大きく増すと考えられます。ある調査によると、看取り介護に対応している施設の介護職員のうち、「精神的負担が大きい」と回答した人が80%以上にのぼることがわかりました。
不安に感じる点には、例えば「死そのものに対する漠然とした不安」や、「もっと何かできることがあったのではないか」という自問自答、「何かあったらどうしよう」という経験や知識不足からくるものなど様々あるでしょう。
このような不安に対し、以下のような取組をされてはいかがでしょうか。
- 「看取り介護」に関する理解や知識を深めるために、勉強会や情報共有の場を設ける
- 不安や悩みを一人で抱え込まないよう、チームとして支えあえる体制を作る
- 医療チームや本人、家族と情報を共有し、話し合いが重ねられる環境を作る
仮に何もサポートを行わなかった場合、看取りが辛く介護の仕事を辞めてしまうスタッフが出てくる可能性もあるでしょう。職員・スタッフの不安や負担を減らせるような配慮・支援を事業者としてできるか、施設側の積極的な取組が求められます。
まとめ
理想の最期を迎えるための「看取り」を希望する高齢者は、年々増加しています。本人の意志を尊重するためにも、病院以外の看取りの場を確保するための看取り介護加算は、重要な意味をもつ制度です。
深刻な超高齢社会の中で、看取り介護の重要性は政府も認識しています。介護現場の実態を反映すべく看取り介護加算が改正されたように、今後も随時内容が改正される可能性があるため、情報収集を継続していきましょう。
また、介護業界では看取り以外にも様々な理由によって職員が離職するケースが少なくありません。看取り介護を含め、介護業界全体で様々な問題や課題に対して向き合っていく必要があります。
そして介護事業所としては、増大する業務量を少しでも抑える取組を今のうちから進めることが大切です。
ひとつの方法として、ICT化による業務効率化が挙げられます。見守りセンサー導入や時間のかかる介護記録のIT化などを実現し、職員の負担軽減や職場環境の改善に役立てることも検討してみてはいかがでしょうか。
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