介護報酬改定に伴い義務化されたBCP対策
2020年初頭頃より日本で流行し始めた新型コロナウイルス感染症の影響により、介護事業所の倒産件数は118件と過去最多(※1)となりました。また、介護サービスの利用を控える動きや、感染防止対策を取るための出費が増したことなどもあり、新型コロナの拡大前と比較して収支が悪くなった介護サービス事業所も多くある(※2)ことが、厚生労働省の調査で分かっています。
日本の経済や生活そのものを大きく変えてしまった新型コロナは、介護業界にも大きな影響を与えたことがわかります。
さらに、激甚化する台風や集中豪雨などの自然災害への備えも、多くの高齢者をサポートする介護施設・事業所においては重要な課題です。
こうした様々な状況もあり、2021年の介護報酬改定ではBCP(業務継続計画:Business Continuity Plan)対策に関する項目が追加されました。BCPとは、感染症対策強化・業務継続などを目指す計画であり、3年の経過措置期間つきで全介護サービス事務所がBCP策定に向けて取り組むよう義務付けられました。
そこで本コラムでは、介護事業所や介護従事者の方向けに、BCPの概要およびBCP策定にあたって重視すべきポイントについて解説します。
このコラムを読んで分かること
- BCP(事業継続計画)の概要と介護事業における重要性
- BCP策定時に押さえておきたいポイント
【目次】
- 介護事業になぜBCPが必要か
- BCP策定のポイント(感染症BCP・自然災害BCP)
- まとめ
介護事業になぜBCPが必要か
BCP(業務継続計画)とは、地震や感染症蔓延など不測の事態が起こっても重要な事業を極力中断させない、または短期間で事業を復旧させるための方針・対策・手順などを示すものです。
例えば、不測の事態には下記のようなケースが考えられます。
|
多くの一般企業で策定されている「防災計画」は、自然災害・事故発生時などにおける利用者や従業員の安全確保や、物的被害の軽減などに主眼を置いた計画です。
一方BCPは、不測の事態が起こった際にも、いかにして事業を継続させるかに重きを置いています。そのため、自社にとって直接的な人的・物的被害を引き起こさない事態にも対応できるように考えて作られる計画です。
介護に関わるサービスは、利用者へのケアやサービス全てを止めることができません。逆の意味では、有事の時こそ事業が続いていることが求められます。
介護施設や事業所が一丸となって不測の事態にどう対処するか、機能し続けるための準備が必要なのです。
介護事業におけるBCPで重視すべきこと
利用者やその家族にとって、介護サービスは生活に欠かせません。そのため、介護事業者は、不測の事態が起こっても一人ひとりが必要とする介護サービスを提供し続けられるよう体制を整える必要があります。
介護事業におけるBCPで特に重視すべきポイントは、次の通りです。
|
BCPは不測の事態が起こってから取り組むものではなく、普段から所内や施設内全体で取り組むことが重要です。しかし、日々の業務で忙しい介護施設にとっては、新たにBCPを作ること自体が負担となることも少なくありません。
このような場合、既に事業所にて防災計画が策定済であればそれをベースにしつつ、不足分を補う形でBCPを策定するとよいでしょう。
また厚生労働省では、介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修動画やガイドライン、ひな形(※)を用意しています。BCP策定に必要な最低限の情報が整理されているため、ゼロから作成するよりも効率的に作成が可能ですので、参考にされてはいかがでしょうか。
BCP策定のポイント(感染症BCP・自然災害BCP)
介護事業所で策定すべきBCPは、自然災害と感染症の2つに大別されます。ここでは、各BCPで想定される事態と、その事態発生後に目指すべき方針について見ていきましょう。
感染症BCP | 自然災害BCP | |
---|---|---|
想定される事態 |
|
|
方針 | 感染リスク、社会的責任、経営状況などを踏まえつつ、事業継続レベルを決める | 必要に応じてサービス形態変更などの対策をとりつつ、できる限りの事業継続・早期復旧を目指す |
感染症BCP | 自然災害BCP | |
---|---|---|
想定される事態 |
|
|
方針 | 感染リスク、社会的責任、経営状況などを踏まえつつ、事業継続レベルを決める | 必要に応じてサービス形態変更などの対策をとりつつ、できる限りの事業継続・早期復旧を目指す |
次に、それぞれのBCP策定のポイントについて解説します。
感染症BCP策定ポイント
介護サービス利用者の方の多くは、感染症への抵抗力が弱いと考えられます。そのため、慎重な感染症BCP策定が求められます。感染をいかにして防ぐか、そして施設内で感染者が発生した場合でも、サービスを継続しつつも感染拡大を防止する体制を作っていくことが大切です。
感染症の場合、流行に関する情報などを正確に入手し、その都度、的確に判断していく必要があります。また、当然ながら感染防止対策が重要です。そして、業務を継続するには、職員・スタッフのやりくりが問題になるでしょう。
感染症を想定したBCP策定では、平常時にすべき体制の構築と、緊急時(感染時)の対応、職員の確保、業務の優先順位の4点がポイントとなりますので、その4点を重点的にご紹介します。
体制の構築
感染症は、いつ自分たちの側までやってくるかわかりません。そのため、最新の情報を収集するとともに、感染を防止するための事前準備を行い、感染が発生した時に備えるための対策を立てておきましょう。
|
緊急時(感染時)の対応
利用者やスタッフが感染した場合、まず取るべきは報告と情報共有です。
責任者(管理者)へ報告するとともに、医療機関や利用者の家族など事前に決めておいた報告先に連絡しましょう。状況について施設内でも共有し、職員・スタッフが冷静に対応できるようにしておくことも大切です。
利用者から感染者・濃厚接触者が出た場合は、事前に策定したゾーニングや隔離方法に則って隔離し、感染した方を担当するスタッフとその他のスタッフの業務・行動範囲を明確に分けましょう。居室や共用スペースの消毒も行い、感染が広がらないように努めます。
また、利用者やスタッフの中に体調不良の方がいないか、いつも以上に目を配るようにしましょう。基礎疾患を持っている方や妊娠中のスタッフなどがいる場合は、慎重な対応が必要です。
職員確保
スタッフが感染や濃厚接触者となり、出勤できなくなった場合に備えて、関連する施設・事業所内・法人内における職員確保体制の検討をしましょう。国や地方自治体などに応援要請を行うことも検討します。
長時間勤務や感染への不安に悩むスタッフが増えると、休職・退職者が出て人員不足が深刻化する事態も起こりえます。スタッフ間のこまめなコミュニケーションや相談窓口の設置などを通じて、細やかなメンタルケアと共に過重労働にならないための対策を行いましょう。
業務の優先順位の整理
感染症蔓延時は、通常業務に加えて清掃や消毒、サービスを利用していただいている家族への情報提供などの業務が増えます。また、限られたスタッフだけでサービスを提供しなければならないケースもあるでしょう。
そのため、生命維持に直結する食事・排泄・服薬介助などは極力いつも通りに行い、緊急性の低いリハビリ・レクリエーション活動などは頻度や回数を調整するなど、業務の優先順位を整理しましょう。出勤率をイメージして「継続する業務、削減する業務、休止する業務」などに分けると、いざその状況になった場合でも、慌てることなく対応できます。
感染症BCPが完成したら、立てた計画通りに実行できるよう、全職員・スタッフに周知しましょう。また、訓練・研修を行い、定期的に見直しを図ることが重要です。
自然災害BCP策定ポイント
自然災害が発生した際、まず守るべきは利用者や職員・スタッフの安全です。その上で、サービスをどのような形で提供し続けていくかを考える必要があります。しかし、自然災害は事前予測が難しいものです。
感染症BCPと同様、情報収集や共有体制、情報伝達フロー等の構築が、いざ災害が発生した際に迅速に動けるポイントとなります。そのため、全体の意思決定者と、各業務の担当者を決めておくとともに、関係者の連絡先や連絡フローを整理しましょう。
体制が決まったら、次は平常時にすべき事前の対策と、緊急時の対応に分けてBCPを策定します。
平常時の対応
緊急時に備えて日頃からできる主な対策は、次の通りです。
|
緊急時の対応
実際に災害が発生してしまったら、どう行動するのかを定めましょう。
まず、「暴風警報発令時」「震度○以上の地震発生時」などのように、災害の種類に応じてBCP発動基準を決めます。次に、利用者や職員の安否確認方法、建物・設備の被害状況の確認方法など、初動対応を決めましょう。災害レベルによってどの業務を継続させ、どれを諦めるか、業務継続のための基準を決めておくことも重要です。
また、災害時の勤務シフトや復旧対応の手順も決めておきましょう。
災害発生時は、事前に決めておいた責任者がいない場合も考えられます。そのような事態に備えて、代替者も決めておくと良いでしょう。
他施設および地域との連携
万が一、施設に勤務する職員のみで対応できなくなった場合に備えて、近隣の施設やボランティアなどと連携体制を整えておくことも重要です。被災時の連絡方法や職員派遣方法などについて連携先と協議し、明記しておくと良いでしょう。
また、施設が無事であることが前提にはなりますが、施設がもつ機能を活かして被災時に地域へ貢献することも重要な役割となります。そのため避難所として利用できる場合を想定し、自治体と連携するための手順なども定めておくと良いでしょう。
自然災害を想定したBCPを策定する場合には、自治体のハザードマップなどを活用して想定される災害リスクを知っておくことも大切です。そして、作成したBCPは、スタッフ間だけでなく関係者と共有して訓練・研修を行い、適宜アップデートすることも忘れずに行いましょう。
まとめ
ここまで、介護事業におけるBCPの概要や重要性、BCP策定にあたって重視すべきポイントについて解説してきました。今回のポイントを改めてまとめます。
<このコラムのPOINT>
- 2021年の法改正によって策定が義務付けられたBCPは、自然災害や感染症蔓延などの事態になっても事業を継続させる、または短期間で復旧させるための計画である
- 介護事業者向けの感染症BCPでは、普段の感染予防対策や感染発生時の拡大防止対策などを策定
- 介護事業者向けの自然災害BCPでは、災害発生時の安全確保や外部支援を受けるまでの対応策などを策定
BCP策定については3年間の経過措置期間がありますが、コロナ禍はまだ収束しておらず、また、自然災害はいつ発生するかわかりません。サービス利用者や家族だけでなく、働くスタッフの安心・安全を守るためにも、BCP策定を進めることをおすすめします。
しかし、現実問題として人手不足や業務多忙を理由にBCP策定まで手が回りにくい事業所も多いでしょう。特に、毎日のルーティンワークである介護記録作成に時間がかかってしまい、利用者のケアにもっと多くの時間を割きたくても難しい…と悩む職員も少なくありません。こうした悩みを解消したい場合は、介護事業所向けICTがおすすめです。
当社、三菱電機ITソリューションズがご提案する介護・福祉総合ITソリューション「MELFARE」では、YouTubeチャンネルを開設しており、文例を選択していくだけで簡単に介護記録を作成できる介護AI入力予測ツール「記録NAVI」のご紹介動画などを公開しております。
また、BCP対策に関するセミナー動画も見逃し配信!セミナー動画は限定公開となるため、視聴をご希望の方は下記の問い合わせフォームで「BCP対策セミナー視聴希望」とご記入ください。
メールマガジン登録
上記コラムのようなお役立ち情報を定期的に
メルマガで配信しています。
コラム(メルマガ)の
定期購読をご希望の方はこちら