介護施設における誤薬の危険性とは? 原因や対策を現役介護職員が解説
介護施設では、食事や排泄、入浴介助以外に、ご利用者に薬を提供する服薬介助を行ないます。
服薬介助には、薬の間違いや提供し忘れなど誤薬事故のリスクが伴います。誤薬は、ご利用者の生命に危険を及ぼすような事故に発展するケースもあるため、事前の対策が欠かせません。
そこで本コラムでは、現役の介護職員が介護施設における誤薬の危険性や原因、誤薬を防止する効果的な対策などを紹介します。誤薬対策に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
誤薬とは
誤薬は介護職員のミスや、ご利用者自身の行動が要因となり発生します。さまざまな要因により発生する誤薬は、ただ薬を間違えるだけではありません。主な誤薬の種類は、以下のとおりです。
- 薬を飲み忘れる
- 薬の種類を間違える
- 他の人の薬を飲む
- 薬がなくなる
- 薬が落下する
介護施設での誤薬は、介護職員が薬を提供し忘れたり、誤って他の人の薬を飲ませたりしてしまうことが想定されます。また、ご利用者に薬を渡して飲み込んだと思っても、飲み込めずに吐き出してしまう場合もあります。
誤薬はご利用者の生命に危険を及ぼすリスクがあることを理解した上で、責任感をもって服薬介助を進めていきましょう。
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介護施設における誤薬の危険性を事例で紹介
誤薬はご利用者の命にかかわる事故のため、発生させてはなりません。しかし、介護施設でさまざまな対策を講じても、誤薬事故はゼロになっていないのが現状です。
この項では、以下の事例を通して誤薬の危険性を理解していきましょう。
- 薬を飲み忘れた事例
- 薬の日付を間違えた事例
- 他の人の薬を飲んでしまった事例
薬を飲み忘れた事例
ある特別養護老人ホームのダイニングでは、昼食時に3名の介護職員が食事介助を担当。ご利用者のAさんが食事を済ませ、歯磨きのためにお部屋に戻ったため、職員の1人が手伝いに。その状況を見ていた2名の職員は「Aさんは薬を飲んだ」と勘違いしてしまう。
歯磨きに付き添った職員も、他の職員から「Aさんは薬を飲んだ」と聞かされて服薬が済んだと認識。Aさんはそのままお部屋で休まれた。その後、看護師が服薬ボックスを確認した際、Aさんの薬が残っていることに気づいた。
この事例でAさんが飲み忘れた薬は下剤のみで、幸いにも体に異変が起こりませんでした。しかし、薬の種類や服用のタイミングを誤ってしまえば、ご利用者が急に体調変化を起こしてしまうおそれもあります。
薬の日付を間違えた事例
ある介護老人保健施設では、2人の介護職員が夕食後に片づけをしていた。ご利用者Bさんの食事が終わったため、職員の1人が夕食後に服用する薬をBさんに提供。職員は提供時に薬袋の名前を読み上げ、Bさんの薬であることを確認していた。
その後、もう1人の職員が薬袋を確認すると、Bさんが前日夕食後に服用するはずの薬を翌日の夕食後に飲んでしまったことに気づく。日付が違うのみで提供した薬の種類や量は同じだったため大事には至らず、看護師に報告の上で様子を観察することに。
この誤薬の例では、日付だけの間違いでした。ですが、服用タイミングを確認せずに薬を提供してしまえば、朝食時に提供するはずの薬を夕食時に提供してしまう危険性があります。また、病院の受診後は薬の種類や量が変わる場合もあるため、ご利用者や薬の名前だけでなく日付や飲ませる時間帯の確認も徹底することが大切です。
他の人の薬を飲んでしまった事例
有料老人ホームの食堂では、介護職員1名が朝食の提供を担当。その日に勤務予定だった職員が欠勤したために、職員は朝から忙しく動き回ることに。朝食を提供していた職員も、時間に追われる中で焦りが見えていた。
普段は薬袋の名前や日付を読み上げて服薬介助を実施しているものの、その日は焦りや慣れで生じる油断から、しっかりと確認せずに薬を提供してしまう。職員は服薬介助をした直後に、ご利用者Cさんの薬をDさんに飲ませてしまったことに気づいた。
職員は直ちに看護師に連絡。間違えた薬が血圧降下剤(血圧を下げる薬)ということもあり速やかに医師に報告した。医師は「こまめに血圧と脈拍を測り、著しく数値が下がった場合は病院を受診するように」と指示。その後、Dさんに大きな体調変化はなく、大事に至ることはなかった。
この事例では、ご利用者に体調変化は見られませんでしたが、もし持病を抱えている場合は、血圧降下剤や血糖降下剤などの薬を服用してはいけない場合もあります。
過去には、上記と同様に降圧剤の誤薬が発生し、病院で入院患者が死亡したケースがありました。誤薬の危険性を施設・職員全体でしっかりと認識しておくことが大切です。
誤薬が起こる主な原因
誤薬はさまざまな要因が重なり合って発生します。誤薬が起こる主な原因は、以下の5つです。
- 意識の低さ
- 確認不足
- 人手不足
- 人員配置のミス
- 不十分なマニュアル
それぞれの要因について、介護現場が抱える問題点とあわせて解説するので、ぜひ参考にしてください。
意識の低さ
服薬介助は介護業務の中でも、相当な集中力が求められます。慣れにまかせて流れ作業のように進めてしまえば、思わぬミスを起こす恐れがあります。新人もベテランも関係なく、服薬介助に油断は禁物です。
誤薬はご利用者の命にかかわる事故で、絶対にミスが許されないという心持ちで取り組む意識が必要不可欠です。まずは確実にミスが起こらないように、服薬介助を進めていきましょう。
確認不足
確認は服薬介助の基本です。ひとつ確認を怠るだけで、誤薬のリスクは非常に高まります。経験や業務スキルに関係なく、服薬介助時の確認を徹底することが求められています。
服薬介助時の確認は、一度行えばいいわけではありません。何度もさまざまな職員が確認を繰り返すことで、誤薬事故を限りなくゼロに近づけられます。「慣れているから大丈夫」という気持ちは持たず、何度も薬の確認を実施してご利用者の命を守りましょう。
人手不足
介護業界は慢性的な人手不足で、職員一人当たりの負担が日に日に大きくなっているのが現状です。厚生労働省のデータによると、2025年には32万人以上の介護職員が不足すると予想されています。
人手不足が続くことにより介護職員の負担が軽減されなければ、職員一人ひとりがタイトな業務を求められ、誤薬を含めた介護事故のリスクは上がり続けるでしょう。
人材不足による業務量の課題解消は職員個人の努力だけでは難しいため、介護の魅力を伝える啓発活動や処遇改善による職員の確保や、ICT機器の導入による業務負担の軽減などが期待されています。
人員配置のミス
人手が足りていても適切な人員配置をしなければ、誤薬のリスクを下げられません。例えば、朝食時の服薬介助を夜勤者が担当する人員配置は、誤薬の危険性があります。なぜなら、夜勤明けに近づくタイミングは心身に疲労が蓄積されている場合が多く、職員の判断力が低下している恐れがあるからです。
そのため、勤務時間帯や職員の経験やスキルなどを考慮しながら、もっとも安全に服薬介助ができる人員配置にすることが大切です。適切な人員配置は施設によって異なるため、職員同士で話し合いながら決めていきましょう。
不十分なマニュアル
誤薬の多くは、職員のヒューマンエラーによって発生します。ヒューマンエラーは「次から気をつけよう」「確認をしっかりしよう」といった意識を変えるだけでは無くならず、完全に事故を防げません。
そのため、事故を防ぐための業務マニュアルが必要です。ただ、せっかくマニュアルを作成しても周知、徹底できなかったり、マニュアルを作ったまま更新せず状況に合った内容にできていなかったりする場合があります。業務に活かしていけるよう、職員間でマニュアルの内容を共有しながら、現場の意見を参考にマニュアルを適宜更新しましょう。
誤薬が発生したときの対応方法
誤薬が発生した際には、すぐに施設内の医師や看護師など医療スタッフに報告し、対応を依頼します。夜勤帯で施設内に不在の場合は、すぐに電話して状況を詳しく説明し、指示を仰ぎましょう。
報告と同時に、ご利用者に異変が起きていないかもあわせて確認することが大切です。例えば、普段は睡眠薬を飲まない方に誤って飲ませてしまった場合、歩行が不安定になり転倒するリスクが考えられます。
自分が誤薬をしてしまった場合だけでなく、もし他の職員が誤薬をしたときにも協力して対応しましょう。
なお、誤薬の発生後にご利用者への対応方法を決定できるのは医師のみです。現場の介護職員だけで判断せず、必ず医療スタッフに報告し医師の指示を待ちましょう。
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誤薬を防ぐ効果的な6つの対策
誤薬を防ぐには、原因を理解した上で対策を立てることが重要です。誤薬防止に効果的な対策は、主に以下の6つが考えられます。
- トリプルチェックの実施
- 薬の一包化
- 薬を粉末状にする
- 服薬介助専用のトレーを活用
- マニュアルの見直し
- 定期的に社内研修を実施
それぞれの方法や、どんな場合に効果的かなどを解説するので、ぜひ服薬介助にお役立てください。
1.トリプルチェックの実施
誤薬を防ぐためにもっとも重要なことは、確認の徹底です。十分な対策をとるために、今回はトリプルチェックの方法を紹介します。
<トリプルチェックの手順>
- まずは薬袋を自分で見て確認
- 他の職員に薬袋を見せて確認
- ご利用者に薬袋を見せて確認
確認する際には、必ず「薬袋に記載のある名前・日付・タイミング」などの情報を声に出して読み上げましょう。
声に出すことで自分への注意喚起になり、内容が間違っている場合に気づきやすくなります。何度も確認を重ねて誤薬リスクを減らすことで、誤薬からご利用者の命を守れます。
2.薬の一包化
薬の種類が多く薬袋が多いと、ご利用者に薬を渡す際に落としてしまったり、薬の提供を忘れたりと誤薬につながりやすくなります。こうした場合は、薬を一包化することで誤薬のリスクを軽減できます。
一包化とは、すべての薬をひとつの袋にまとめることで、薬の数や種類が多いほど効果的な対策です。一包化を希望する場合は、他の職員と意見交換しながら、医師や薬剤師と相談して許可を得た上で服薬方法を決めましょう。
そのほかにも、オブラートを使って一包化した状態を作り出すこともできます。ただし、薬の形状や服用方法を変更する場合は、医師や薬剤師の指示が必要なため、現場の職員だけで判断しないように注意してください。
3.薬を粉末状にする
錠剤を粉末状にすることも効果的な対策です。ご利用者によっては、錠剤を飲み込むのが難しい方がいます。また、以前は錠剤を問題なく飲めていても、飲み込む力の低下によって服薬しにくくなっている方もいるでしょう。
飲む込む力が弱いと、ご利用者が口の中に薬を含んでも飲み込めずに吐き出してしまう恐れがあります。錠剤を粉末状にすることで飲み込みやすくなり、服薬ゼリーにも混ぜて提供できるため、誤薬のリスク軽減につながります。
ただし、粉末状にできない薬もあるため、必ず医師や薬剤師と相談の上で対応しましょう。
4.服薬介助専用のトレーを活用
服薬介助の際には、服薬介助専用のトレーの活用もおすすめです。専用トレーには服薬介助時に注意すべきポイントや服薬手順を記載し、薬やコップなどを置く位置を指定することで、服薬介助時の動きをマニュアル化する狙いがあります。
専用トレーのサイズは、薬とコップを置いた上で、記載した服薬時の注意点や手順がわかるくらいのサイズがおすすめです。大きすぎず、コンパクトに持ち運べるものが便利です。
専用トレーの導入直後は手間に感じるかもしれませんが、使っていくうちに服薬介助時の動きが自然と身につくことで誤薬のリスク軽減に役立ちます。服薬マニュアルの徹底の面から考えても、効果的な対策といえるでしょう。
5.マニュアルの見直しや個別対応
誤薬の多くは、確認を徹底し服薬マニュアルを守りながら介助を進めることで防げます。ただ、ご利用者の状況や職員の配置は変化が予想されます。そのため、定期的にマニュアルを見直し、更新することが必要です。
また、介護施設のご利用者の状態は、短期間で著しく低下する場合もあります。基本的な服薬マニュアルだけでは対応が難しいご利用者には、個別の服薬マニュアルの作成を考えることが大切です。
ご利用者や職員など現場の状況変化に対して、定期的なマニュアルの見直しや個別対応を検討しながら、服薬介助に対する職員の意識を高めていきましょう。
6.定期的に社内研修を実施
マニュアルを作成・更新し業務で実践し、誤薬防止の意識を高めることは大切です。一方で、人間の意識は時間の経過とともに薄れていきます。そのため、マニュアルの整備の他にも、服薬に関する社内研修を定期的に開催することで、誤薬防止に対する職員の意識をアップデートすることが有効です。
さらには研修の講師を職員が順番に担当し、人に教える立場を務めることで、誤薬の危険性に関する知識を高めあえます。
研修は少なくても1年に1〜2回は行い、職員の服薬介助に対する意識を定期的に高めていきましょう。
誤薬を防ぐ服薬介助の正しい手順
誤薬を防ぐために、服薬介助の正しい手順を確認しましょう。
<正しい服薬介助の手順>
- 薬の内容を確認(名前、日付、タイミングなど) ※自分と他職員で2回実施
- 専用トレーに薬袋と水の入ったコップを置き、ご利用者のもとに持っていく
- ご利用者に声をかけ、薬の内容を再度確認 ※3回目のチェックを実施
- 薬袋から取り出した薬を、ご利用者の手に乗せる(落薬防止のため、必要に応じてスプーンの使用も検討)
- ご利用者のペースに合わせて薬を服用し、ご利用者の飲み込みを確認
- 必要物品を片付ける際、空の薬袋は捨てずに一時的に保管
- すべての服薬介助が終わり次第、空の薬袋を再度確認し飲み忘れがないかチェックする
- ※上記の手順はあくまで基本的な手順です。施設により適切な方法は異なるので、勤務する職場に適した手順で行いましょう。
- ※また、薬が飲みにくいご利用者には、必ず医師や薬剤師と相談の上で、服薬ゼリーやオブラートなどを活用して、薬を飲みやすくなる工夫をすることが大切です。
服薬介助支援ツールの活用
さまざまな対策を講じることで、誤薬のリスクを軽減することが可能です。しかし、現状は確認の徹底や意識改革など、施設で働く職員頼みの現状です。誤薬は、ご利用者の生命にかかわる重大な事故につながる恐れがあり、誤薬を防止するには対策の強化が必要です。
そこで、職員による人的な対策に加え、ツールを活用した誤薬対策を紹介します。
例えば服薬介助支援ツール「めでぃさぽ」は、ITを駆使して誤薬を未然に防ぐ画期的なアプリです。
「めでぃさぽ」には、以下のような特長があります。
- 服薬前に顔認証で本人確認が可能
- 「誰が、誰に、誰の薬を渡したか」をチェックできる
- 薬袋を撮影して文字認識するためQRコード不要で簡単に始められる
現在開発中の『めでぃさぽ』について、より詳しく知りたい方は、以下の紹介ページをご覧ください。
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まとめ
誤薬のほとんどは、介護職員によるヒューマンエラーが原因です。誤薬は人命に関わりかねない事故のため、リスクを認識しておきましょう。そのため、リスクを理解した上で服薬介助時の確認を徹底し、効果的な服薬マニュアルの立案などが求められます。
具体的な対策例として、服薬介助の専用トレーの導入や定期的な社内研修の開催などが挙げられます。
その他、本コラムで紹介した誤薬防止の効果的な対策の実施や、服薬介助支援ツール「めでぃさぽ」などツールの活用もぜひ検討してみてください。
著者プロフィール
津島 武志
介護系WEBライター
介護業界16年目の現役介護職。介護リーダーや管理職の経験もあり、現在は地方法人のグループホームに勤務。現役の介護職以外に、介護系のWebメディアにおいてのライター活動をはじめ、介護士さんを応援するメディア「介護士の転職コンパス」や「介護士の副業アンテナ」などの運営にも取り組んでいます。主な保有資格は、介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士。
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