デジタル化の波~調剤薬局の電子処方箋対応とその課題
近年、医療分野におけるデジタル化が急速に進展しています。特に、調剤薬局における電子処方箋の導入は、医療の質の向上と効率化を推進する革新的な施策です。この記事では、電子処方箋の導入が進む背景や、調剤薬局が電子処方箋を導入する際の課題や、その解決方法を具体的に解説します。
電子処方箋の導入が推進されている背景
厚生労働省では、医療機関と薬局間での情報共有および活用による“医療の質向上”および“重複投薬防止”を図るため、電子処方箋の導入を推進中です。
実際に令和6年度の診療報酬改定では「医療DX推進体制整備加算」が新設され、電子処方箋対応による加算が増えるなど、導入を促す動きが加速しているといえます。
電子処方箋は医師から薬局への情報をスムーズに伝えるとともに、紙の処方箋の紛失リスク減少により保管のコストを抑えられます。さらに、医師により発行された処方箋を薬局がコンピューターに再入力する手間が省けるため、入力ミスの回避や業務効率化による人件費削減も期待できます。
昨今、さらなる業務効率化やコスト削減が求められている薬局にとって、電子処方箋は有効な手段となるでしょう。
出典:厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要【医療DXの推進】』
リアルタイムの情報交換による業務効率化
電子処方箋の導入により、患者・医師・薬局間の情報交換をリアルタイムに行えるため、処方に疑義がある場合の確認作業が軽減されます。また、オンライン服薬指導による処方箋画像送信が徐々に普及するなど、患者にとっても診察や薬の受け取りにかかる負担が着実に軽減されている状況です。電子処方箋の活用により、処方箋の受け渡しにかかる手間や時間のさらなる短縮が期待できます。
オンライン診療とオンライン服薬指導、電子処方箋の活用を推進することで、患者は薬を処方されるまでの時間やコストの削減が期待でき、医療提供者は窓口対応負担や医療情報を取得する手間が軽減されるために、より必要とされる医療サービスに集中でき、医療の質向上にも寄与します。
電子処方箋導入への課題
一方で、電子処方箋の導入を加速させるためにはいくつかの課題も存在します。想定される3つの課題をそれぞれ解説します。
導入コスト
電子処方箋システムの導入には、ハードウェアの購入やソフトウェアのバージョンアップなど初期投資やシステムの改修が必要です。厚生労働省の補助金や都道府県による追加補助など、導入に向けた助成金が整備されておりますので、これらの活用も視野に入れ対応を検討しましょう。
操作性と教育
電子処方箋システムの効率的な運用には、薬剤師や薬局スタッフの研修や運用ルールづくりが欠かせません。特に運用初期には、新たなシステムへの適応に時間がかかる場合も想定されるため、事前の対策が欠かせません。
セキュリティとプライバシー
患者情報を含む電子処方箋の管理には、強固なセキュリティが必要不可欠です。データの漏洩や不正アクセスを防ぎ、サイバー攻撃からプライバシーを守る対策が求められます。
電子処方箋導入の課題解決策
電子処方箋導入時の課題を解決する、3つのポイントをご紹介します。
コスト負担の軽減
電子処方箋の導入タイミング次第で、政府や自治体による補助金制度を活用できる場合があります。
現在は、
【1】医療情報化支援基金(電子処方箋)
【2】電子処方箋の機能拡充の促進事業
【3】都道府県による追加補助(※)
により、医療機関・薬局に対する費用補助が実施されています。
導入を検討する製品が各制度に該当するか調べることで、コスト負担が軽減する方法が見つかるかもしれません。補助金制度については実施期間と補助率、また補助対象についてしっかりと調べておきましょう。
出典:厚生労働省『電子処方箋 5.補助金』
※【3】都道府県による追加補助については、都道府県により実施の有無が異なります。詳しくは厚生労働省ホームページをご確認ください。
継続的な研修とサポート体制の構築
メーカーや販売代理店による電子処方箋の初期導入時や法改正時の研修、オンラインでのサポート体制をうまく利用するなど、電子処方箋を導入するための施策を通じて、スムーズに実際の運用へと移行する施策が必要です。
導入時には、経験豊富なスタッフを新規システムの導入計画における店舗内リーダーに置くなど、店舗ごとのルールに沿ったマニュアル作成や内部研修を実施することで、スムーズな移行を促進します。
セキュリティ・プライバシー対策の強化
電子処方箋のセキュリティ面は、オンライン資格確認のシステム回線を利用するため、一定の安全性は担保されています。
しかし、薬局内では定期的なセキュリティチェックや、情報管理研修などの従業員教育が欠かせません。厚生労働省は、2023年10月に「薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」と「薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストマニュアル~薬局・事業者向け~」を公開しました。
まずは、こうしたチェックリストとマニュアルを活用しながらセキュリティの強化を図り、医療情報システムの安全管理に関するガイドラインに適応した体制を構築し、情報漏洩のリスクを最小限に抑えましょう。
こうした施策の推進により、安心・安全かつ患者本位の薬局サービスを提供でき、信頼を集めることで“選ばれる薬局”になります。
出典:
厚生労働省
『令和6年度版 薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト』
『令和6年度版 薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストマニュアル~薬局・事業者向け~』
まとめ
電子処方箋の導入は、調剤薬局にとっていくつかの検討事項がありますが、医療DXを推進する好機となり得ます。事前準備と適切な対策により、そのメリットを最大限に活用できるはずです。
一連の取り組みでは、どのようなレセプトコンピューターや電子薬歴システムを選択すれば良いか悩むこともあるでしょう。
システムの選択基準は、充実のセキュリティで安全性をしっかりと確保しながら、電子化した情報を薬局内の調剤、服薬指導にとどまらず、他店舗との情報共有や薬品の発注・在庫管理、会計まで一貫したソリューションを提供していること。
これら薬局における一連の業務をトータルに対応できるソリューションを選ぶことで、経営と現場の連携がスムーズになり、良質なサービスを届けられます。
■「調剤薬局総合ITソリューション」
https://www.mdsol.co.jp/melphin/
■「調剤Melphin/DUO」
https://www.mdsol.co.jp/melphin/products/melphin-duo.html
■「AnyCOMPASS」クラウド版電子薬歴サービス
https://www.mdsol.co.jp/melphin/products/melphin-commu_product-outline/
DXに代表されるデジタル化の波に乗ることで、調剤薬局はより安全で効率的で良質な医療サービスを提供できるようになるでしょう。
著者プロフィール
杉山 義明
アアル株式会社(経営コンサルティング)代表取締役
中小企業診断士・薬剤師・MBA
事業再構築補助金、ものづくり補助金、事業承継・引継ぎ補助金等を活用した新規事業支援や、M&A支援を得意とし、経営戦略及び事業計画策定と業務のDX化の同時支援で、戦略レベルから生産性を高める事を目指したコンサルティングを実践している。
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