医療DXによる情報共有が地域医療における薬局と薬剤師の役割を広げていく

医療DXの推進によって医療分野のデジタル化が大きく前進しようとしています。医療DXの実現は、地域医療の重要な担い手のひとつである調剤薬局の事業にも変化をもたらすことが予想されます。薬局におけるデジタル活用の現状や、医療DXがもたらす変化について、早くからデジタル化に取り組み、オンライン資格確認や電子処方箋にもいち早く対応した広島の調剤薬局チェーンであるすずらん薬局を経営する株式会社ホロン 代表取締役社長の古屋裕一氏に伺いました。

在宅医療によって拡大する地域医療における調剤薬局の役割

株式会社ホロンは、広島市を中心にすずらん薬局を16店舗運営するほか、訪問看護事業と居宅介護支援事業を展開しています。全店舗で在宅医療に取り組んでおり、12店舗が厚生労働省の定める一定の基準を満たした「健康サポート薬局」、14店舗が「地域医療連携薬局」となっています。

株式会社ホロン
すずらん薬局グループ
代表取締役社長
古屋 裕一 氏

在宅医療への取り組みと地域医療における薬局の役割について古屋氏は次のように語ります。
「すずらん薬局では20年以上前から在宅医療に取り組んできました。最初は在宅医療における薬局の役割に疑問を持たれることが多かったのですが、困難な事例や高度な処方にも対応してきたことで、地域の医療関係者や患者様との信頼関係を築くことができました。在宅医療では、退院時のカンファレンスに参加し、私どもが訪問診療の医師や多職種に薬の情報などをお伝えしています。地域医療において薬局は情報共有の『ハブ』としての役割を果す必要があると考えています」

また、同薬局では地域住民の疾病や介護の予防につなげるために必要と考え、薬局内にコミュニティースペースを設けて様々なイベントを行うほか、自治体や医療機関、大学などと連携してデータに基づく保健事業や研究活動を実施してきました。例えば、特定健診やレセプトのデータから糖尿病の危険がある人を抽出し、希望者に対して講習会を実施、参加者のその後の状況を追跡調査して、対策の効果を測定するなどをしています。こうした活動も、薬局が地域医療と介護のハブとして機能することにつながっているといいます。

医療DXが実現するデータの一元管理と、素早い情報共有に期待

国が推進している医療DXでは、全国医療情報プラットフォームを構築することで、医療情報の一元化と共有を進めることが計画されています。この点について、古屋氏は薬局の立場から次のように話します。
「少子高齢化に伴う医療や介護サービスの担い手の減少は薬局でも危惧されており、限られた人材で医療の質をさらに向上させていく努力が求められています。国は医療DXにより効率化や生産性を向上させる他、災害時や感染症危機における情報共有なども、国が主導して全国的に展開していくとしています。私どももITやデータを活用した様々な取り組みを行っていますが、一企業でできることには限界があります。全国共通の医療情報プラットフォームを整備し医療DXを進めていくことで、生産性の向上を実現できるでしょう。また、災害時においても全国で情報が共有され、困っているところに必要な薬がすぐに届けられるような方向に進めば、非常にありがたいと考えています」

電子処方箋の概要
図2:電子処方箋の概要
出典:厚生労働省 資料「電子処方箋 概要案内」

電子処方箋では効率化に加えて共有できる情報が増える

すずらん薬局では、早くからデジタルツールの積極的な導入を行ってきました。同社のデジタル化に対する考えについて古屋氏は以下のように説明します。
「調剤薬局においてはミスの防止が最大のポイントとなります。デジタル化でも、ミスが起こらないようにすることを一番の目的にしています。それに加えて作業効率の向上や時間短縮につながるものであれば積極的に取り入れていきたいと考えています。また、薬剤師の経験の違いによる業務品質のばらつきを少なくするためにもデジタル化は有効です」
すずらん薬局では、医療DXの基礎となるオンライン資格確認と電子処方箋をすでに全店舗で対応しています。電子処方箋では、処方内容がデジタルデータとして取り込まれることで、入力の手間やミスが減るだけでなく、共有できる情報の種類が増えることで、薬局と薬剤師の役割が広がるといいます。

すずらん薬局を経営する
株式会社 ホロン
代表取締役社長の
古屋 裕一 氏と
古屋氏を支える
地域包括担当顧問の
石村 智加子 氏

「紙の処方箋の場合、薬局には患者様が持参した処方箋に書かれた薬の情報しか分かりません。電子処方箋になると今までよりも多くの医療情報を得られます。薬剤師はより的確な服薬指導を行い、患者様からのより踏み込んだ相談にも対応可能になります。これは薬剤師の役割拡大とモチベーション向上につながるでしょう。その分、責任も重くなりますので、私たちも知識や技術をレベルアップしていかなければなりません」(古屋氏)
今後、医療DXが広がるための課題として古屋氏は、インターフェースの標準化を挙げました。医療DXでは電子カルテ情報の標準化が推進されていますが、それ以外のツールについても標準化が必要だと語ります。
「現在は、電子お薬手帳やオンライン服薬指導などのツールの種類が非常に多く、互換性がないために導入に二の足を踏んでいる薬局が少なくありません。チャットなどのコミュニケーションツールも医師ごとに異なり、現場の負担になっています。こうしたツールに関しても国が一定の基準を定めることでデジタル化が進展すると思います。将来、医療DX が浸透した際には、AIによる分析で、薬を正しく服用した場合と服用しなかった場合の患者様の状態を予測するなど、様々なデータ活用が実現することを期待しています」

Profile

古屋 裕一(ふるや・ゆういち)氏
株式会社ホロン 代表取締役社長
2008年に株式会社ホロン入社。薬剤師として業務に携わる。2010年経営企画室室長、2017年代表取締役専務を経て、2019年に代表取締役就任。「ひとにやさしい薬局であり信頼される薬局でありたい」という創業以来の基本理念を継承しながら、薬に限らず、食生活などの生活習慣においてセルフメディケーション支援の中心的な役割を果たせる薬局を目指して経営を行っている。株式会社エス・ティ・ケイ代表取締役

記事について

この記事は、情報誌「MELTOPIA」No.265(2023年9月発行)に掲載されたものを転載しました。

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