高度プロフェッショナル制度とは?【2019年4月施行:働き方改革】
「高度プロフェッショナル制度」とは、2018年5月に衆議院で採決された労働基準法改正案の中でも、とくに注目を集めた制度です。
この制度に関しては、法案成立までにも様々な意見や問題点等が議論されてきましたが、制度の導入によって私たちの働き方にどのような影響があるのか、未だ把握しきれていない方も多いと思います。
そこで今回は、高度プロフェッショナル制度の概要や、制度を導入することによるメリット・デメリットをご説明すると共に、従業員の働き方が新制度の導入によって変わる可能性があるのか、最新情報を交えご紹介します。
高度プロフェッショナル制度とは?
高度プロフェッショナル制度とは、簡単に言うと賃金を「働いた時間」ではなく「成果」で決める制度のことです。
この制度が生まれた背景には、少子高齢化が進み労働人口が減少する中、従来通りの働き方では諸外国と比べて労働生産性が保てないという日本の現状があります。
この制度が適用された場合、企業は「時間外・休日・深夜労働に対する賃金」への支払い義務がなくなります。柔軟な働き方を促して生産性を向上させようという新制度の誕生は、 “新しい働き方”時代の幕開けと言えるでしょう。
しかし、この制度はすべての労働者に適用されるわけではありません。高度プロフェッショナル制度の対象者は「特定高度専門業務」と定められています。
対象者となる「特定高度専門業務」とは?
高度プロフェッショナル制度が適用される特定高度専門業務とは、「高度な職業能力を有する」労働者であるとされています。どんな業務が特定高度専門業務に該当するのかについて、法案成立時には具体的な対象業務は未定でした。
しかし、2018年12月26日に行われた厚生労働省の審議会にて省令案がまとまり、対象となる業務は「金融商品の開発業務」、「証券会社のディーラーといったディーリング業務」、「市場や株式などのアナリストの業務」、「コンサルタントの業務」、「医薬品などの研究開発業務」の5つに限定されました。また、対象者の年収は「1,075万円以上」となりました。
さらに、省令と同時に定める指針案では、制度を導入するためには「1年ごとに本人の同意を得ること」や、対象者となる労働者の健康確保策として「年104日以上かつ4週で4日以上の休日を確保すること」、「健康管理時間が一定時間を超えた場合は医師による面談指導を実施すること」、「インターバル措置」などを企業に義務付けることなど具体的に定められました。
裁量労働制との違い
高度プロフェッショナル制度は、「労働の成果に対して給与が支払われる働き方の自由度を高める制度」であることが特徴です。このことから、「裁量労働制」と混同されやすい制度でもあります。
裁量労働制も労働の質や成果によって報酬が決まるため、その点では高度プロフェッショナル制度との共通点が多いと言えます。しかし、対象となる業務や対象者の年収、残業代の有無に焦点を当てると両制度の違いが見えてくるでしょう。
高度プロフェッショナル制度 | 裁量労働制 | |
---|---|---|
対象となる業務 | ・金融商品の開発業務 ・証券会社のディーラーといった「ディーリング業務」 ・市場や株式などのアナリストの業務 ・コンサルタントの業務 ・医薬品などの研究開発業務の5つ |
「高度に専門的な業務を行う専門業務型(研究者・編集者・弁護士など)」と「企画を行う企画業務型(人事・広報・経営企画など)」の2種類で27業務(※)が対象 |
対象者の年収 | 1,075万円以上 | 条件はない |
労働時間の考え方 | 労働時間に関する規定は適用されない | みなし労働時間を定める(労働基準法により規制される対象) |
時間外・休日・深夜労働に対しての賃金 | 支払われない | みなし労働時間を8時間超に設定した場合、深夜勤務(22:00~翌05:00)をした場合や、法定休日に勤務した場合などは賃金を支払う義務あり |
労働時間や深夜労働に対しての賃金に関する考え方が違う点が、両制度の最大の違いと言えます。特に高度プロフェッショナル制度の場合は、労働時間に対し労働基準法の規定が適用されないため、昨今問題になっている長時間労働による健康被害や過労死を助長してしまうのではといった懸念や、長時間労働を是正する動きに反するという意見が出ていることも事実です。
では、高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリットについて詳しく見てみましょう。
高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリットについて
今までにない「新しい働き方」といえる高度プロフェッショナル制度。ここでは、企業側と労働者側それぞれの立場におけるメリット・デメリットについて見ていきます。
企業側のメリット・デメリット
■メリット
高度プロフェッショナル制度を採用した場合、労働者は「短時間で成果を上げよう」という高い意識をもって働くようになり、いわゆる「ダラダラ仕事」を改善することができるでしょう。また、残業代が削減された結果、企業にとっては収益が上がると考えられます。
■デメリット
成果に対する評価は企業によって異なるため賃金格差が生じ、労働者に不満が生じる可能性があります。優秀な労働者を流出させないためにも、企業として公正に評価される制度を検討する必要があるでしょう。
労働者側のメリット・デメリット
■メリット
労働者の立場から見た高度プロフェッショナル制度最大のメリットとして、「出勤時間や休暇を自由に決められる」という点が挙げられます。そのため、育児や介護などと仕事の両立ができ、ワーク・ライフ・バランスの実現に繋がります。
時間ではなく成果にともなって賃金が支給されるため、労働時間や年功序列による給与査定から生まれる不公平感がなくなることでしょう。
また、「本制度の対象となることによって賃金が減らないこととする」という内容が指針に明記される前提のため、今の給与より下がる心配がない点もメリットといえます。
■デメリット
アナリストや研究職のように短時間で成果が出ない業種の場合や、時間をかけて取り込んだ仕事から成果を上げられなかった場合、十分な賃金を与えられない可能性もあります。そのため、もし自身が高度プロフェッショナル制度を利用するとなった場合には、評価制度がどのように用意されているのか、きちんと見定めることが大切です。
また、労働者に最低限の休日と有給休暇を付与し、長時間労働を「合法的」に強いる企業も出現する可能性がある点にも注意が必要です。
まとめ
賃金を「時間」ではなく仕事の「成果」によって支払う「高度プロフェッショナル制度」。
給与が保障されているモチベーションの高い労働者が、時間を自由に使い能力を存分に発揮できたり、企業側はそれによって生産性が向上し収益が改善したりする可能性を秘めています。
2019年4月1日から施行されることは決定していますが、2018年12月26日に省令案がまとまったとはいえ、省令は国会の審議をせずとも変更が可能です。厚生労働省は省令案や指針案などをもとに、企業に周知を図っていくこととしていますが、内容が今後変わっていく可能性があるのかを含め、動向に注目する必要があるでしょう。
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高度プロフェッショナル制度は、労働の成果に対して給与が支払われる働き方ではありますが、労働時間を把握しなくても良いというわけではありません。
指針案でも「健康管理時間」を把握するために、在社時間(事業場内にいた時間)はタイムレコーダーによるタイムカードへの打刻記録や、パソコン内の勤怠管理システムへのログイン・ログオフ記録により、出退勤時刻又は入退室時刻を客観的に記録するための措置を使用者が講じることとされています。
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