フレックスタイム制の改正内容と注意点について<後編>【2019年4月施行:働き方改革】

生活のニーズと仕事を両立させる「ワーク・ライフ・バランス」を図るという狙いで改正された、「フレックスタイム制」。今回の労働基準法改正により、最大3ヶ月という長いスパンで労働時間を調整できるようになったため、効率的に配分することが可能になった反面、時間外労働の算定が非常に複雑になりました。
労働時間を管理するだけでなく、従業員の健康を守るという重責を担う一員である人事労務担当者として、後編ではフレックスタイム制導入時の時間外労働の算定方法を理解していきましょう。

時間外労働時間の算定手順

前編でご説明した通り、フレックスタイム制の清算期間が延長されたことで、時間外労働の算定や清算方法がより複雑になりました。ここからは、時間外労働の算定手順をステップ毎にご説明いたします。

■例:清算期間を9月1日~11月30日の3ヶ月間、実労働時間が以下のようになった場合

表を横にスライドすると続きがご覧いただけます。

  9月10月11月合計
暦日数 30日31日30日91日
実労働時間 220.0時間180.0時間140.0時間540.0時間(A)
STEP1:清算期間における法定労働時間の総枠を算出

清算期間における法定労働時間の総枠は、以下の計算式から算出します。

清算期間における法定労働時間の総枠 = 1週間の法定労働時間(40時間)× 清算期間の暦日数 ÷ 7

今回の例では、暦日数の合計が91日となるため、

40時間 × 91日 ÷ 7 = 520.0時間(D)

となります。

STEP2:各月の週平均50時間となる月間労働時間数を算出

1ヶ月ごとに各月の週平均50時間となる月間労働時間数は、以下の計算式から算出します。

週平均50時間となる月間の労働時間数 = 50時間 × 各月の歴日数 ÷ 7日

月の暦日数ごとの結果は以下の表の通りです。

月の暦日数 週平均50時間となる月間労働時間
31日 221.4時間
30日 214.2時間
29日 207.1時間
28日 200.0時間

上記の表から、9月は214.2時間、10月は221.4時間、11月は214.2時間となります。

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  9月10月11月合計
実労働時間 220.0時間180.0時間140.0時間540.0時間(A)
週平均50時間となる月間労働時間 214.2時間221.4時間214.2時間 
法定労働時間の総枠    520.0時間(D)
STEP3:各月ごとの時間外労働時間を算出

STEP1、2にて時間外労働をカウントするための情報が揃いました。では、ここから時間外労働が発生したかを算出します。まずは、1ヶ月ごとに先程求めた「週平均50時間となる月間労働時間」を超えているか、チェックします。

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  9月10月11月合計
実労働時間(a) 220.0時間180.0時間140.0時間540.0時間(A)
週平均50時間となる月間労働時間(b) 214.2時間221.4時間214.2時間 
週平均50時間を超える労働時間(c=a-b) 5.8時間005.8時間(C)

今回の例では、「週平均50時間となる月間労働時間」を超えたのは9月のみであるため、9月に5.8時間分が時間外労働としてカウントされます。この分は割増賃金として、9月分の賃金支払日に支払います。つまり、このSTEP3のチェックは、毎月、勤怠を締めた後に行う必要があります。

STEP4:清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えた時間外労働を算出

清算期間が終了した後(清算期間の最終月の勤怠を締めたら)、清算期間を通じた総労働時間が法定労働時間の総枠を超えているか、チェックします。
超過しているかは、以下の計算式から算出します。

清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えた時間外労働(E) =
清算期間を通じた実労働時間(A)-各月において週平均50時間超過分として清算した時間外労働の合計(C)-清算期間における法定労働時間の総枠(D)

今回の例であれば、

540.0時間(A) - 5.8時間(C) - 520.0時間(D) = 14.2時間(E)

となり、この14.2時間は、清算期間の最終月(今回の例では11月)の時間外労働としてカウントし、11月分の賃金支払日に割増賃金を支払います。

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  9月10月11月合計
実労働時間(a) 220.0時間180.0時間140.0時間540.0時間(A)
週平均50時間となる月間労働時間(b) 214.2時間221.4時間214.2時間 
週平均50時間を超える労働時間(c=a-b) 5.8時間005.8時間(C)
法定労働時間の総枠    520.0時間(D)
法定労働時間の総枠を超える時間数(E=A-C-D)    14.2時間(E)
結果

以上により、各月における時間外労働時間数は以下の表の通りです。各月の賃金支払日に割増賃金を支払う必要があります。

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  9月10月11月合計
時間外労働 5.8時間0時間14.2時間20.0時間

ご紹介した算定例の詳しい解説については、厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」に記載されておりますので、そちらも合せてご確認ください。

フレックスタイム制導入時における疑問3点

フレックスタイム制導入を検討したい!しかし、「あれ?こんな時はどうしたら良いのだろう」と思う方も多いのではないでしょうか。厚生労働省では、改正労働基準法に関するQ&A(2019/4掲載)をサイトに掲載している他、個別の事案については所轄の労働基準監督署または、都道府県労働局に問い合わせることができます。
ここでは、特に気になる疑問3つについてお答えします。

(1)フレックスタイム制のもとで休日労働をした場合には?

フレックスタイム制を導入している事業場の従業員が、法定休日(※)に労働を行った場合は、どのように考えれば良いのでしょうか。

休日労働の時間は、清算期間における総労働時間や、時間外労働とは別のものとして取り扱う必要があります。よって、35%以上の割増賃金率で計算した賃金を、休日労働をした月の賃金として支払う必要があります。
なお、「時間外労働の上限規制」について考える場合は、最初にご説明した算定により求めた時間外労働と休日労働を合計し、その時間が「単月100時間未満」であるか、さらに「複数月平均80時間以内」であるか、この2つの要件を満たさなければなりません。特に「複数月平均80時間以内」であるかについては、清算期間とは関係なく1年を通してチェックする必要があります。そのため、清算期間を3ヶ月とした場合であっても、清算期間の間だけでチェックすれば良いというわけではないため、注意しましょう。

法定休日とは、労働基準法で定められている、少なくとも週に1回(あるいは4週間を通して合計4回)の休日のこと

(2)フレックスタイム制のもとで、年次有給休暇を取得した場合には?

2019年4月の法改正では、年5日の年次有給休暇も義務付けられました。フレックスタイム制を導入している企業では、年次有給休暇を取得した場合、どのように取り扱えばよいのでしょうか。

フレックスタイム制を導入する際には、労使協定の中で「標準となる1日の労働時間」を定めています。
この「標準となる1日の労働時間」とは、年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基準の基礎となる労働時間を定めたものです。
つまり、従業員が年次有給休暇を1日取得した場合は、「標準となる1日の労働時間」分を労働したものとして取り扱う必要があり、賃金清算時には実労働時間に「標準となる1日の労働時間」を加えて計算します。

(3)フレックスタイム制の清算期間中に、フレックスタイム制を導入していない事業場に異動した場合は?

これまで清算期間が3ヶ月のフレックスタイム制導入の事業場にいた従業員が、清算期間の途中でフレックスタイム制を導入していない事業場に異動した場合、取扱いはどのようになるのでしょうか。

今回のケースを以下のように仮定します。

  • 清算期間が3ヶ月のフレックスタイム制導入の事業場で2ヶ月間働いた
  • 3ヶ月目の初めにフレックスタイム制を導入していない事業場に異動した

この場合、働いていた期間の事業場の制度に則って賃金計算を行う必要があるため、前半2ヶ月間と後半1ヶ月間では算定方法が異なります。
つまり、1ヶ月目と2ヶ月目は、1ヶ月ごとに「週平均50時間となる月間労働時間を超えていないか」をチェックし、さらに、「2ヶ月間の実労働時間の平均が週平均40時間を超えていないか」をチェックしなければならず、超えた場合はその分の割増賃金を加算して支払う必要があります。3ヶ月目は、通常の労働時間制度に則って賃金計算をしましょう。

まとめ

今回の労働基準法改正により、労働時間の清算期間が延長されたフレックスタイム制。しかし、厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査の概況」によると、フレックスタイム制を採用している企業は全体の5.6%にとどまっています。勤怠管理・労務管理が複雑なため、人事労務部門に負担がかかってしまうほか、部署間や取引先との時間調整が難しいことによりコミュニケーションが図りにくいなどの理由から、採用する企業が少ないと思われます。
しかし、フレックスタイム制は繁忙期や閑散期、生活の事情などに合わせて労働時間を調整できるというメリットがあります。生活と仕事を両立し、多様な働き方を実現する手段の1つとして、フレックスタイム制導入を検討してはいかがでしょうか。

フレックスタイム制について、法改正内容のポイントと注意点をおさらいしたい方はこちらから

フレックスタイム制の改正内容と注意点について<前編>【2019年4月施行:働き方改革】 を読む

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