コンプライアンス教育で押さえておくべき3つのポイント
企業の不祥事がニュースなどで取り上げられる度、「コンプライアンスの遵守」という言葉を聞くと思います。定期的にコンプライアンス教育を行っているはずの大企業でも、アルバイトなども含めた全労働者に遵守意識を徹底させるのは、容易ではないということが分かります。
コンプライアンス教育にあたっては、いくつかのポイントがあります。今回は、法務担当者や総務担当者など「教える側」の立場の方に向けて、コンプライアンスという言葉の意味や重要性を改めて確認すると共に、教育にあたってのポイントをご紹介します。
コンプライアンスの意味と教育の重要性
まずは「コンプライアンス」という言葉について、ご説明します。コンプライアンスは一般的に、「法令遵守」という言葉に置き換えられます。国が定める法律や行政機関が定める法規、地方公共団体が定める条例や規則などが「法令」にあたるとされていますが、それ以外にも社会常識などの「社会規範」や「企業倫理」という行動規範の遵守についても、コンプライアンスの対象となる点に注意しましょう。
コンプライアンスは、一部の経営層や役職者が守れば良いというものではありません。全労働者が遵守して、初めて「コンプライアンス体制が構築できている」と言えるのです。例えば、大手コンビニエンスストアにおけるアルバイト店員の不祥事がニュースになったことがありましたが、それを見た世間の人は「アルバイトだからしょうがない」ではなく「あの会社の教育はどうなっているのか」と反応するのが普通です。
社会や取引先からの信頼を得るためには時間をかけて構築していく必要がありますが、信頼を失くすことは一瞬です。ささいなことがきっかけに、企業の社会的信頼やブランドイメージを著しく落としてしまうというリスクを避けるためにも、コンプライアンス教育は非常に重要であると言えます。
コンプライアンス教育の3つのポイント
コンプライアンス違反が起こるケースの原因を分析してみると、「無知による過失」と「無視による故意」の2つに大別されます。つまり、コンプライアンス違反と知らずに違反したパターンと、コンプライアンス違反(かもしれない)と知っていて違反したパターンです。このような「知らなかった」や「多分大丈夫だと思って」という考え方を変えるためには、全労働者にコンプライアンスの重要性や意識を浸透させるための、根気強い教育が必要です。しかし、ただ単に研修などの教育を行えば良いということではありません。そこで、法令遵守を全労働者に徹底させる教育のポイントについて、3つほどご紹介します。
ポイント1:立場や役職に合わせた教育を行う
「全労働者を対象に」とここまで述べていますが、教育のアプローチについては全労働者に対して均一の内容ではなく、立場や役職に応じた教育を受けさせることがポイントです。
全労働者に対しては、コンプライアンスの重要性や運用に関する自社の指針・姿勢を伝え、「どのような行動がコンプライアンス違反になるのか」を伝える必要があります。
役職者などのマネジメント層に対しては、上記に加えて部下からの相談に対する対応の指針や、問題が発生した際の一次対応についても教育する必要があるでしょう。
それ以上の階層、つまり経営層は、企業の経営責任を負う立場として全社的な観点でのコンプライアンス知識や判断力が問われます。自社の事業に関連する重要法令や全社的なリスクマネジメントの知識などを身につけた上で、コンプライアンス体制の構築や問題発生時の経営判断に活かせるような教育を行いましょう。
ポイント2:ディスカッションの場を設ける
コンプライアンス教育は基本的に座学が中心になりますが、聞いた知識を自分のものとして体得してもらうには「聞いて終わり」にするのではなく、参加者同士でディスカッションの場を設けるのがおすすめです。「このケースはコンプライアンス違反になるのかどうか」、「なぜ違反になるのか」などの問題について組織を跨いでパネルディスカッション方式で議論してもらいましょう。お互い意見を出し合うことで聞き手の参加意識を高めることができ、ただ話を聞いて終わるよりも記憶に定着しやすくなります。
コンプライアンスの研修はいわゆる「お固い」話になりがちで、参加する人たちが興味を引きやすい内容とは言えない部分も少なからずあります。参加形式や伝え方などに工夫を凝らすのも、ひとつのポイントです。
ポイント3:事例を紹介する
コンプライアンスの重要性を最も説得力のある形で啓蒙できるのが、事例の紹介です。可能であればなるべく身近に感じられるように、自身の会社と同等の企業規模・事業内容のコンプライアンス違反事例を探し、「こんなコンプライアンス違反があった」「違反したことでこのような被害を被った」ということを伝えてみましょう。自分の業務内容と照らし合わせながら考えることができるため、当事者意識を高めることにつながるでしょう。2つ目のポイントでご紹介したディスカッションと絡めて、「なぜ違反が起きたのか」、「防ぐためには何をすれば良かったのか」を議論するのもおすすめです。
コンプライアンス違反の事例
コンプライアンス違反のニュースは、定期的にと言ってよいほど発生しているのが現状です。事例を探せばいくつも出てきますが、ここでは代表例として3つほどご紹介します。
事例1:不正会計
コンプライアンス違反の代表例として取り上げられることが多いのが、不正会計です。
2015年、だれもが知っているような大手電機メーカーの不正会計が発覚したことで、世間を騒がせた時期がありました。決算書類において、利益を不当に水増しするような会計処理が行われていたこと、そして調査の結果、累計で1,500億円以上も水増ししていたことが分かりました。
不正会計の目的は赤字決算の回避、つまり当時の業況悪化であった状態を外部に見せないようにするために行われたことで、経営陣が主導する形での組織的な不正であったと第三者委員会は結論づけています。騒動の結果、当時の社長は辞任という形を取り、会社は東京証券取引所の1部から2部へと降格になりました。
事例2:違法残業
労働基準法に違反する違法残業も、コンプライアンス違反にあたります。
2015年、大手広告代理店に勤務する新入社員女性が、過労によって自ら命を絶ったという事件がありました。調査をした結果、実は会社側が勤務時間を過少申告するよう指示した上で、1ヶ月に100時間以上の時間外労働を行わせていたことが判明しました。
業界、ひいては日本の労働環境が疑問視されるという、「いち企業」の枠を超えた大きな影響を残したこの事件は、労働基準法違反として罰金刑が下され、当時の社長は辞任という形で責任を取りました。
事例3:個人情報流出
従業員が引き起こすコンプライアンス違反として分かりやすい例が、個人情報の流出です。
2014年、大手通信会社において同社が提供していたサービスのユーザー、約1,300人の個人情報が流出したという事件がありました。流出した原因は、サービスを運営していた委託会社の従業員が、個人情報の入っていたPCを紛失してしまった為でした。
前の2つの例と違う点は、大手通信会社の社員が意図的に流出させたのではなく、委託先の会社が起こしてしまったということですが、委託元には監督する義務があることを忘れてはなりません。
企業や個人の重要な情報が「データ」で管理されている場合、従業員が簡単に持ち出せるような環境にしてしまうと、ふとしたきっかけでこのような問題は起こりえます。幸いにしてこのケースでは情報が悪用された事実は確認されませんでしたが、場合によっては存続が危ぶまれるほどの損害賠償を支払わなければならないということもあり得ます。
ここまでご紹介した3つの事例はそれぞれに原因があり、事前防止策や再発防止策もそれぞれ異なります。そのため、なるべく多くの事例を知ることが、教育をするという点でも望ましいと言えます。
まとめ
民間の調査会社が毎年発表している「コンプライアンス違反が一因となった企業の倒産件数」は、ここ数年は毎年200件前後と、決して少ないとは言えない数字です。全労働者の法令遵守意識を高めるためには、まずは会社の模範となるべき経営層やマネジメント層の遵守意識を高める必要があるでしょう。経営者からアルバイトまで、会社にかかわる一人ひとりの意識や行動がその会社の社会的信頼を支えているということを念頭に、継続的な教育の取組を行うことをおすすめします。
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