失敗事例から学ぶ、ナレッジマネジメントとは?概要や事例紹介
ナレッジマネジメントとは、企業が持つ情報や知識と、個人が持つ経験やノウハウなどを共有・活用し、新たな知識を絶えず創造し続け、企業の経営にプラスの効果をもたらす経営管理手法です。本コラムでは、ナレッジマネジメントの概要や導入している企業の実例などをご紹介します。
このコラムを読んで分かること
- ナレッジマネジメントの概要
- ナレッジマネジメント導入における失敗と成功のポイント
- ナレッジマネジメントの必要性
【目次】
- ナレッジマネジメントとは
- 事例から学ぶナレッジマネジメント
- ナレッジマネジメントの効果
- まとめ
ナレッジマネジメントとは
ナレッジ(knowledge)とは直訳すると、ある特定のことについて知っていること、情報や知識を意味します。マネジメント(management)は直訳すると、経営や管理を意味します。このことから、ナレッジマネジメントは企業における情報共有・管理をイメージされがちですが、本来ナレッジマネジメントとは、情報共有・管理にとどめることなく、そこから新たな情報や知識を創造し続けることが重要です。
ナレッジマネジメントを進めるにあたっては、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏らが提唱するフレームワーク「SECI(セキ)モデル」による知識スパイラルにより、知識(暗黙知・形式知)を変換しながら新たなノウハウを蓄積していくことが広く知られています。
暗黙知と形式知
ナレッジマネジメントにより共有・活用する知識には、「暗黙知」と「形式知」の2つがあります。
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SECIモデル
SECIモデルには暗黙知・形式知を変換し、新たな知識を創造する様式(モード)が4つあります。それぞれの頭文字をとってSECI(セキ)モデルと呼ばれています。お客様へのプレゼンテーションを例にご紹介します。
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SECIモデルのポイント
プレゼンを例にご紹介しましたが、SECIモデルは単に個人によって暗黙知と形式知の変換を「サイクル」で回すのではなく、個人から組織の境界を越えて「スパイラル」に広げ進めていく(例.個人→チーム→課→部)ことで、最終的には企業の知識も向上する点がポイントです。
事例から学ぶナレッジマネジメント
実際にナレッジマネジメントを導入したものの、失敗するケースは少なくありません。はじめに失敗事例と改善ポイントについて2つご紹介した後、成功事例についてご紹介します。
【失敗事例1】適切な運用ルールを設けられなかったA社
ナレッジの蓄積が重要だと考えたA社は、ナレッジマネジメントツールを導入。複数の子会社も含めた全社員でナレッジマネジメントに取り組み順調にナレッジを蓄積していきました。そのため、経営層は「ナレッジマネジメントに成功している」と思い込んでいました。
しかし、現場からは「流れに従って入力しているだけ」「形式が統一されていないので、探したいデータを見つけられない」などの意見があがっていました。うまくいっているかのように見えたナレッジマネジメントへの取組でしたが、適切な運用ルールを設けずにスタートしたため、誰も参照できない無駄なデータが積み上がっている状態になってしまいました。
<改善ポイント>
ナレッジマネジメントツールの導入は業務を効率化する上で有効ですが、ツールの検索機能が乏しい場合は、A社のように形式だけのナレッジマネジメントになってしまう恐れがあります。失敗しないためにも、まずはデータの入力などの運用ルールを設け、社員に周知することが大切です。もしくは、形式が統一されていないデータの検索にも強いツールを選択するのが良いでしょう。
【失敗事例2】大きな費用をかけてナレッジマネジメントツールを導入してしまったB社
B社はDX推進部門があるほど、デジタルツールやシステムの活用に力を入れていました。ナレッジマネジメントの必要性も感じていたことから、大きな費用をかけてナレッジマネジメントツールを導入しました。
しかし、DX推進部門と経営層の期待とは裏腹に、現場からは「使い方がわかりにくい」「業務負担が増える」「今までのやり方のままでよかったのでは」など、多くの不満の声があがりました。
<改善ポイント>
ナレッジマネジメントの必要性を感じ、費用をしっかりかけてナレッジマネジメントツールを導入したことは、決して間違いではありません。ここで問題だったのは、いきなり大掛かりな取組をしてしまったことで社員の混乱を招いてしまったことです。スタートは小さめに、成功体験を重ねてから徐々に展開すると、社員からの理解も得られやすいでしょう。
【成功事例1】問い合わせ専門の部署を立ち上げたC社
C社では、社内に「なんでも相談センター」という営業からの問い合わせに応える部署を設置しました。この部署に所属している社員は、営業経験者かつ公募で自主的に申し込んだ人材であり、相談員は月に2,000件もの相談に答えるそうです。相談センターに寄せられる質問と回答は、50のカテゴリに区分されるようになっており、データベースにも保存されます。データベースには営業担当だけでなく、すべての社員がアクセス可能です。
<成功ポイント>
C社のナレッジマネジメントが成功した理由は、専門部署を設け、ナレッジの蓄積を専門部署だけで行ったことで、データの状態を高いレベルで登録できたことです。データベースも細かなカテゴリで分類されているため、困った時にすぐに参考になるナレッジを見つけることができます。全社に公開していることで、社員がキャリアアップに活用できることも成功の理由でしょう。また、相談員は営業経験がある社員のため、質問する社員に対してスムーズに回答できます。質問する社員が自分で調べるより相談センターへ問い合わせるほうが早く解決し、業務の効率化にもつながっています。
【成功事例2】イントラネットを活用しスモールスタートしたD社
D社ではイントラネットで社員同士がやり取りできるツールに着目しました。ファイル共有ができ、情報検索の性能が高いため、新たにシステムを導入せず、イントラネットを活用。まずはスモールスタートとして営業部門に限定して開始しました。プレゼン資料や営業ノウハウを共有しつつ、ベテランと若手社員が一緒に参加する研修会を定期的に開催。双方が教え教わり気が付いた新たな発見を、資料やイントラネットに反映し共有することで、受注件数がUPしました。
<成功ポイント>
情報共有することだけにとどまらず、研修会を開催したことがポイントです。さらに、研修会は若手社員への一方向な研修会ではない点もポイントです。ベテランと若手社員の双方向の研修会になることで、新たな気付きが得られ、それらをイントラネットへ反映するという好循環が生まれています。
ナレッジマネジメントの効果
失敗と成功事例をご紹介してきましたが、最後にナレッジマネジメントにはどのような効果があるのかご紹介します。
これまでの日本では終身雇用が一般的でした。しかし、働き方の多様化や経済状況の変化などにより、終身雇用が当たり前ではなくなりつつあります。人材の流動化が進む今、経験や知識を持った社員の退職により、いままで蓄積されたノウハウが企業からなくなってしまう可能性があります。しかし、ナレッジマネジメントを導入することで次の効果を得られます。
属人化によるリスク回避
個人が持つ経験やノウハウなどをナレッジマネジメントすることで、属人化した状態のまま転職や退職されることがなくなります。個人の暗黙知が企業の財産として蓄積されます。
業務効率化
例えば、共通的な業務はマニュアル化し情報共有する傾向にありますが、マニュアルが正しいものとして認識され、更新される頻度も少なく運用される企業が多いのではないでしょうか。ナレッジマネジメントにより、単なる情報共有にとどめることなく、目的に向けて何が正しいのかを個人から組織の境界を越えて検討し、マニュアルへ反映することで、より効果の高い業務効率化を図れます。
企業力の強化
ナレッジマネジメントにより、情報は個人による暗黙知とならず、組織全体で共有されます。お客様への対応は個人によって差が無くなり、適切な対応が可能となります。お客様からの評価が上がり、ナレッジマネジメントを行っていない企業と比べて企業力が高くなります。
まとめ
今回はナレッジマネジメントについて事例を交えてご紹介しました。
本コラムのポイントをまとめます。
<このコラムのPOINT>
- ナレッジマネジメントとは、企業における単なる情報共有・管理ではない
- ナレッジマネジメントとは、情報共有・管理にとどめることなく、そこから新たな情報や知識を創造し続けることが重要
- ナレッジマネジメントにより共有・活用する知識には、「暗黙知」と「形式知」の2つがある
- ナレッジマネジメントを進めるにあたっては、SECIモデルというフレームワークがある
- SECIモデルには4つのモード(共同化・表出化・連結化・内面化)がある
- SECIモデルは知識の変換(暗黙知と形式知)を回しつつ、組織の境界を越えて4つのモードをスパイラルに進めることが重要
ナレッジマネジメントとは、情報共有・管理にとどめることなく、そこから新たな情報や知識を創造し続けることが重要です。ナレッジマネジメントで企業力を上げ、コロナ禍による不確実性の高い今を駆け抜けましょう。
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