工程管理とは? 効率的な工程管理のポイントを解説
工程管理は、製造工程における"4M"のスケジュール管理と納期管理を指します。各工程で個別最適化されたファイルで管理されている場合は、各ファイル間の連携が図れない状況が発生しやすく、効率的に工程管理を進められません。そこで本コラムでは、工程管理の目的や課題を改めて考察し、DX推進のもとで活用できる工程管理のソリューションについて探ります。
工程管理の目的
工程管理の主な目的は、生産計画を実行する「製品の品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)」を最適化し、効率的に製造を進めることです。
その実現には、製造工程に必要な4M(Man:人、Machine:機械、Material:材料、Method:方法)と製造スケジュールの的確な管理が欠かせません。
こうした一連の管理状況や生産計画の関連情報を部署・チーム間でリアルタイムに共有することで、品質を維持・向上しながら作業の効率化を実現し、コスト削減が可能です。
まずは、工程管理が求められる背景について解説します。
工程管理の重要性
昨今では国内外を問わず、高品質の製品が次々に登場し企業間の競争が激化しています。そのため、低コストかつ品質の高い製品を納期の遅れなく納品することが必要不可欠です。
また、働き方改革が推進される状況では、製造拠点内での生産状況や従業員の動きをタイムリーに把握することが求められます。コンプライアンス遵守の観点からも、作業プロセスの透明化を図る必要があり、それぞれに工程管理が役立ちます。
工程の複雑化
近年、生産プロジェクトの複雑化が進む中では「少量多品種生産」や「多品種混流生産」が、主流の生産方式です。
一日の間に製造する製品が目まぐるしく変化する状況において、設備や部材の管理は複雑で高い精度が求められます。
そして、複雑な製造工程においては、製造ラインの完全な自動化は技術・コスト両面で難易度が高くなるため、人の手に依存する割合が大きくなります。そのため、業務負荷やラインバランスを考慮した人材の管理が重要です。
したがって、製品と4Mを中心にしたさまざまな視点を関連付けた「より即時性を高めた、粒度の細かい工程管理」による、スケジュール管理が必要となります。
生産管理との関連性
生産管理は受発注管理のほか、在庫管理や原価管理などサプライチェーン全体の管理が対象です。したがって、工程管理は生産管理に含まれます。日本における生産管理の枠組みは工程管理が主流です。
工程管理は特に製造プロセスの管理に焦点を当てており、生産目標を納期内に達成するために欠かせません。
工程管理のメリット
工程管理の目的である「品質の向上」「コスト削減」「納期厳守」によって、生産計画の達成に近づけます。
品質の向上
製品によって品質に差がある場合、生産量の低下が想定されます。不良品が発生すればコストが増し、万が一市場に出てしまえばクライアントやユーザーからの信頼を失いかねません。
適切な工程管理はそうした事態を防ぎ、生産量の増減および生産ラインの拡大が行われた場合にも、必要なリソースを確保できるため、製品の品質を担保できます。
コスト削減
工程管理によって製造プロセスや人員配置を最適化することで、製造原価などコスト削減につながります。また、原材料の種類や量を可視化し、在庫を保管する倉庫代などの費用も削減可能です。
納期厳守
工程管理を通じて在庫や製造リソースを的確に把握し、製造に要する材料やリソース不足が発生した際にも、速やかに対応できます。
最適な生産体制を実現
そのほか、品質および生産性向上を図る改善策を検討しやすい点もメリットです。工程管理を通じて得たデータに基づいて生産計画を立案し、計画通りに生産できたかを総合的に評価することで課題が明確になり、最適な生産体制の構築に近づけます。
また、ノウハウを蓄積し社内共有することで、計画立案にかかる時間を短縮でき、高速でPDCAサイクルを回せます。
工程管理の代表的な方法
工程管理は、主に紙・ホワイトボード・Excel(Googleスプレッドシート)・専用システムを通じて行われています。
紙・ホワイトボード
簡単に工程表を作成・修正可能で、目視ですぐ確認できます。
Excel(Googleスプレッドシート)
作業を自動化でき、情報を編集しやすい点がポイントです。Googleスプレッドシートはファイルを共有しやすい点が利点と言えるでしょう。
ガントチャート
スケジュール管理には、日時を横軸・作業内容を縦軸に配したガントチャートが用いられています。
プロジェクトを構成するタスクを洗い出して表示するガントチャートは、全体的なスケジュール感を視覚的に把握でき、立案したスケジュールに無理や無駄がないか確認しやすくなることがメリットです。
ExcelやGoogleスプレッドシートで使えるテンプレートもあり、手軽に利用できます。
専用システム
すべての工程を可視化し一元管理できるため、進捗状況を効率的に共有・把握可能です。アラート機能や権限設定もあり、作業効率を高められます。
工程管理の課題
工程管理にてしばしば用いられるガントチャートは、各作業内容の関連性の把握や変更時の更新・確認において、使いづらさを感じるかもしれません。
最初に作成されたガントチャートが更新・共有されないまま、結局は担当者間で個別にスケジュール調整を実施しているという話もしばしば耳にします。
現場における工程管理業務には、どんな課題があるのか見ていきましょう。
複数ファイルによる管理
工程管理にはさまざまな部署が関わります。それぞれの部署で個別最適されたスケジュールを組んでしまうと、工程管理全体のスケジュールとは別に個別スケジュールを記したファイルを同時に管理する必要が出てきます。結果的にリアルタイムかつ現況とのズレが生じやすくなり、的確な工程管理が難しくなってしまうのです。
ExcelやGoogleスプレッドシートは、その手軽さゆえにファイルを量産できるため、こうした事態に陥りがちです。また、ExcelやGoogleスプレッドシートでスケジュール表を管理する危険性として、内容を容易に変更できてしまう点やファイルを誤って削除してしまうリスクが挙げられます。
そのほか、Googleスプレッドシートを利用する場合は、情報漏洩を防ぐためにアクセス権限を適切に管理することが大切です。
属人的作業
工程管理においてスケジュール作成や関係部署間の調整を進める際、属人的に作業を進めてしまう場合があります。属人的な作業はミスが発生しやすく、誤った内容が前後工程に波及すれば、製造ラインの停止や納期遅延といった事態を起こしかねません。
特に、生産計画作成などの調整業務において、中小企業など担当者が固定されている場合は属人化しやすいと言えます。結果的に「その担当者しかわからない、対応できない」といった状況に陥りやすく、全産業的に人材不足が叫ばれる昨今ではBCP(事業継続計画)の観点でも大きな課題になるといえます。
メンバーの生産性は同一ではなく、仕事を進められるメンバーに作業が偏りがちです。作業の偏りを視覚化し把握できれば良いのですが、通常のガントチャートにはそうした機能がありません。特定メンバーへの作業が集中してしまえば、的確に工程管理を進められなくなってしまいます。
分析作業の限界
工程管理のプロセスには、ボトルネックの発見やリソースを適切に投入し工程を平準化するための分析・判断が含まれます。
ボトルネックの発見にはスケジュールの予定と実績のギャップを正確に把握する「予実管理」が必要ですが、少量多品種生産や多品種混流生産といった変化点の多い予実管理はかなり複雑です。こうした場合にガントチャート1つで管理するとチャート内の情報が煩雑となり、分析に必要な情報を思ったように得られません。
工程管理を効率化する専用システムの活用
脱属人化を実現する業務DXの一環として、工程管理の専用システムを導入する企業が増えてきました。
システムが受注情報や納期などの稼働状況を自動で計算し、工程を作成する自動スケジューリング機能によって工程作成時のミスを減少できる専用システムには、最適な工程管理を実現する複数のメリットがあります。
アラート機能
工程順の矛盾、前工程と次工程の近づき、納期遅れなどの問題点をガントチャート上で表示するアラート機能やエラー検索で問題点を速やかに確認可能です。
負荷グラフ機能
工程・設備・人員などに課された仕事量をグラフ化し、各項目の負荷状況をわかりやすく確認できます。工程をリアルタイムに修正でき、工程管理部署や担当者の負荷を可視化し、軽減可能です。
ガントチャートの並び替え、絞り込み機能
システムの導入により、計画変更が生じた場合の並べ替えが容易になり、期間の粒度を月単位や週単位などで切り替えられます。装置や仕向け先、納期など様々な軸でチャートの中から必要な情報を絞り込むなど、インタラクティブなスケジュール管理が実現できることもメリットの1つです。
生産管理システムとの連携
一般的な生産管理システムでは「いつまでにこの製品を何個作ってほしい」という指示を出すだけです。「この設備で、この順序で製造する」といった細やかな指示を出せる工程管理システムとの連携により、効率的かつ緻密な製造オペレーションが実現できます。
まとめ
工程管理は製品の納期をコントロールする重要なプロセスですが、属人化した工程管理には課題が多く、一つのミスや遅れが大きな問題となるリスクをはらんでいます。
こうした人的ミスを回避し、計画の変更やイレギュラー発生時にも対応しやすい工程管理システムの導入は非常に効果的で、チームパフォーマンスの改善、リソースの削減によるコストダウン、リードタイムや納期の短縮による顧客満足度の向上など、作り手側・顧客側双方にさまざまなメリットが生まれます。DX推進を意識された施策を検討している企業は、ぜひ工程管理システムの導入を検討されてはいかがでしょうか。
著者プロフィール
伊藤 慶太
技術士(機械部門) 専門:加工・FA及び産業機械
現在は情報機器メーカーの生産技術職として生産設備のIoT化やデータ活用に携わる、現役エンジニア。過去にはプレス加工企業でのNC加工機による部品加工や、産業向け機械要素メーカーでの工程自動化設備の導入計画、機械設計、電気設計、制御設計、製作、立ち上げ、量産導入、改善活動など製造業における自動化設備関連業務を幅広く経験。
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