年次有給休暇とは。概要から取得率を向上させる方法まで解説
2019年、従業員の労働環境の改善・整備を目的に、労働基準法の改正が行われました。その改正の一つに「年次有給休暇の年5日取得」という義務付けがあります。
政府は令和7年までに取得率70%を目指していますが、マンパワーが不足している中小企業やサービス業における取得率は依然として低く、課題となっています。
本コラムでは、法改正による義務化に沿った年次有給休暇の基本的な知識から取得率向上のための施策について解説します。
【目次】
- 年次有給休暇とは
- 労働基準法上の義務:年間5日の有給休暇取得
- 有給休暇の取得率
- 有給休暇取得率が向上しにくい理由
- 有給休暇の取得率向上のための取組
- 有給休暇を管理するにあたっての注意点
- まとめ
年次有給休暇とは
年次有給休暇とは、労働者の心身のリフレッシュやプライベートな時間の確保を目的とし、企業から付与される休暇のことです。一般的に「有給休暇」と呼ばれており、労働基準法第39条で認められた労働者の正当な権利です。
有給休暇の付与には一定の条件があり、これを満たした従業員には雇用形態に関わらず取得が可能となります。労働基準法では、勤務年数に応じて有給休暇の付与日数や年間で取得できる休暇日数を定めています。
なお、年次有給休暇は、本来当該日に存在する労働義務を会社が免除している日のことであり、同じ労働基準法で定められている休日(労働契約上、労働の義務が無い日)とは異なるものになります。
さらに、年次有給休暇の場合は休暇中でも賃金が支払われます。
有給休暇を付与する条件
労働基準法では、以下の条件を満たす従業員に対して有給休暇を付与するように定めています。
・半年間継続して雇用されている
・全労働日の8割以上出勤している
上記の条件を満たしていれば、正社員・パートタイムなどの雇用形態にかかわらず、有給休暇を付与しなければなりません。
年次有給休暇の付与日数
通常、従業員の勤続年数に応じて、半年から6年半以上ごとに年次有給休暇の付与日数が決められています。
【表1:通常の労働者の年次有給休暇 付与日数】
ただし、就業条件によって1週間あたりの労働日数が4日以下、年間の労働日数が216日を下回る場合、労働時間によって付与される日数が異なります。
【表2:週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数】
有給休暇の法定最大付与日数は年間20日ですが、1年間で20日間取得することが難しい場合もあります。そのため、消化しきれなかった分は翌年度へ繰り越す事が可能です。
仮に、繰り越し分と新年度に新たに付与される20日分すべて繰り越した場合、従業員は最大40日まで休暇日数を保有することができます。
なお、有給休暇の消化には期限があり、法定での請求権の時効は2年と定められています。つまり、法定基準では1年目に与えられた付与日数を消化しきれなかった場合、2年目に繰り越すことはできますが、3年目以降には繰り越しできません。
労働基準法上の義務:年間5日の有給休暇取得
2019年に労働基準法が改正され、企業は年10日以上の年次有給休暇が付与される管理監督者を含む労働者に対して年間5日の有給休暇を取得させることが義務付けられました。労働者が取得した有給休暇が年間5日に満たない場合、労働者1人につき30万円以下の罰金が課せられます。
義務化の背景には、長時間労働による過労死や心身の健康被害が社会問題になったことや、子育て・介護と仕事の両立の難しさなどがありました。労働時間の短縮や労働環境の改善が求められるようになったこともあり、労働者の心身の健康を保護し、働く人のワーク・ライフ・バランスを実現することを目的に義務化が決定されました。
有給休暇の積極的な取得は、ストレスによる休職・離職・生産性低下の防止、残業代などのコスト削減、企業のイメージアップなど、企業側にもメリットがあるといわれています。
有給休暇の取得率
法改正後、企業努力により有給休暇の取得率は上昇しており、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、令和4年(又は令和3会計年度)の有給休暇取得率は62.1%と過去最高の取得率を記録しました。
労働者1人あたりの平均取得日数は10.9日となっており、企業規模・産業別にみても年5日は満たしていました。しかし、政府は令和7年(2025年)までに「取得率70%」を目標として掲げており、これを考えると、取得率はまだ足りていないのが現状といえます。
~ちょこっとメモ : 有給休暇の取得率 計算方法~
有給休暇の取得率は以下の計算で算出することができます。
「有給休暇取得日数÷有給休暇付与日数(※)×100」
例)年間の有給休暇の付与日数が14日のうち、8日取得したケースであれば、
8÷14×100=57.1%
となります。自社における有給休暇の取得率を確認する際に、ご利用ください。
※分母となる有給休暇付与日数については、前年度繰越分は含めません
有給休暇取得率が向上しにくい理由
有給休暇の取得率が向上しにくい理由として、以下の3つの問題が考えられます。
・人手不足、業務量が多い
・有給休暇を取得しやすい環境作りが不十分
・有給休暇の取得状況が可視化されていない
厚生労働省が作成した「休み方改善取組事例集」には、年次有給休暇に関する労働者アンケート結果が掲載されており、「有給休暇の取得へのためらいがあるか」との質問に対し、約6割が「ためらいを感じる」と回答しました。その理由として「みんなに迷惑がかかると感じるから」「後で多忙になるから」「職場の雰囲気で取得しづらいから」などの声が上がりました。
では、さきほど挙げた3つの問題点について紐解いてみましょう。
人手不足・業務量が多い
企業規模・業種別に有給休暇取得率を比較すると、従業員数の多い大企業・中堅企業ほど取得率は高く、従業員数の少ない小企業ほど低くなる傾向にあります。
先程もご紹介した「令和5年就労条件総合調査」によると、労働者1人あたりの平均取得率は、従業員数1,000人以上の大企業が65.6%であるのに対し、100人未満の小企業では57.1%という結果が得られました。
また、業種では「電気・ガス・熱供給・水道業」が70%以上と取得率が高いのに対し、「宿泊業,飲食サービス業」は49.1%と最も低い状況にあることが分かっています。
従業員数の多い大企業などでは、有給取得時のサポート体制も徐々に構築されてきている一方で、時期や時間帯によって業務量のバラつきが大きい業種や小企業などにおいては、サポート体制を構築するための十分な雇用を確保することは難しく、なかなか取得率が上がらないことが想像できます。
有給休暇を取得しやすい環境作りが不十分
先程のアンケート結果からも、労働者の多くは有給休暇の取得にためらいを感じています。
取得をためらってしまう背景には、人材不足が理由となっているものも多く挙げられていますが、有給取得を促す企業の制度や環境作りが進んでいないことも原因のひとつといえるでしょう。
現在、計画的に休暇取得日を割り振ることができる「計画的付与制度」を導入している企業は、43.9%(令和5年就労条件総合調査より)と、決して高い数値ではありません。
計画的付与制度は、労働者がためらいを感じることなく、年次有給休暇を取得することができるという効果を期待して作られた制度です。労使協定を結ぶことが前提となっている制度ですので、企業が独断で休暇を取らせているというわけではありません。しかし、導入割合を見る限り、あまり期待した効果が得られていないと推測されます。
また、従業員の有給休暇の取得状況に応じて人事労務担当から取得を促す「休暇日数の通知制度」や「個別指定制度」を導入している企業もありますが、従業員個人の裁量に任せている企業も多いというのが現状です。
有給休暇取得状況が可視化されていない
企業が従業員の年次有給休暇取得状況を管理するため、年次有給休暇管理簿を作成することが義務付けられています。しかし、リアルタイムで自身の取得状況や有給休暇がどのくらい残っているかを把握できている企業は、多くはないのかもしれません。
従業員自身をはじめ、管理職が部下の有給休暇がどのくらいあるのか・いつまでに取得しなければいけないかの実態を把握できていない可能性があります。
気づいたら、年5日の有給休暇が取得できないまま期日を過ぎてしまい、罰則が科せられる可能性もあるでしょう。
取得率向上のため、罰則を科せられないためにも、労務担当を中心とした社内全体での従業員の有給取得状況の可視化は必須といえるでしょう。
有給休暇の取得率向上のための取組
生産性を低下させずに有給休暇取得率を向上させるには、企業において有給休暇を取得しやすい環境や雰囲気をつくる取組が必要です。
業務量に応じて柔軟な対応が可能な大企業に比べ、限られた人数で業務を行う中小企業ほど有給休暇取得によって業務に影響しない環境作りが重要になります。
具体的な取組をいくつかご紹介しましょう。
企業風土の改革
有給休暇取得率を向上させるには、まず従業員が有給休暇を取得しやすい社内風土を根づかせることが重要になります。
そのためには、経営者自らがワーク・ライフ・バランスの意義を伝えたり、メリハリある働き方を推奨したりすることが重要です。また、上司が率先して休暇を取る、休暇を取れていない従業員に声を掛けるなどの環境作りも行いましょう。
「休暇を取ることが悪いことではない」という環境・風土作りが、取得率の向上につながります。
具体的な取得目標を立てる
少ない人数で多くの業務をこなすことの多い中小企業の有給休暇取得率を上げるためには、まず計画的に従業員に休暇を取得してもらえるよう、具体的な取得目標を立ててみましょう。
自社の有給休暇取得率を全社・部門別などの単位で数値化し、「今年度は取得率○%を目指す」と労使間で定めてはいかがでしょうか。
もちろん、取得率向上を目指すための具体的なアクションとして、誕生日等に有給休暇取得を推奨する(有給休暇取得奨励日を設ける)ルール作りを行うなど、企業側から積極的な働きかけも行いましょう。
業務の適正化
業務の適正化により、従業員1人当たりの業務負担を軽減することも有給休暇取得につながります。
業務内容に応じてシステムの導入やマニュアル化を進めることで、「仕事が忙しくて休めない」「代わりの人がいないため休めない」などの属人化解消にも役立ちます。その結果、有給休暇の取得率向上のみならず、業務の効率化も期待できるでしょう。
有給休暇取得状況の可視化
従業員の有給休暇取得状況を可視化することも、取得率向上には欠かせません。
「総務に問い合わせないと、自身の有給休暇日数がわからない」、「部下の有給休暇取得状況が把握できていない」といった状況では、有給休暇の取得率向上は目指せないでしょう。
従業員の勤務状況の可視化は、有給休暇の取得率向上に限らず、業務負荷の平準化や効率化にとって重要です。特定の役職者だけ可視化されているのではなく、従業員自らが、自身の働いた実績や有給休暇の残日数がわかるようにしましょう。
従業員に労働時間に対する意識を高めてもらうためにも、有効です。
有給休暇を管理するにあたっての注意点
企業側が従業員の年次有給休暇を管理する上での注意点は以下の2つです。
1. 従業員ごとの有給休暇管理帳簿の作成と3年間の保管
2. 消化できなかった有給休暇の買取は原則不可
1.管理帳簿の作成と3年間の保管期間
法律では従業員の年5日の有給休暇の確実な取得を目的に、企業が従業員ごとに有給管理簿を作成し、取得状況を把握することを義務付けています。
管理簿に記載する内容は以下の通りです。
・基準日:従業員が有給休暇取得の権利を得た日
・日数:有給休暇の付与日数と残日数
・時季:年次有給休暇を取得した日を記載する
管理簿には保管期間があり、有給を与えた期間及び期間満了後3年間と定められています。
2.消化できなかった有給休暇の買取は原則不可
本来、有給休暇は心身の健康維持やリフレッシュのため、企業が従業員に付与すべき休暇であり、原則、従業員が消化しきれなかった有給休暇を企業側が買い取ることはできません。
1955年の労働基準局通達によると、有給休暇の買取は違法であると発表しているため、従業員から退職時に有給休暇の消化を求められた際、企業はそれに応じなければなりません。
ただし例外として、法律で定められた日数を上回り企業独自で付与している有給休暇や、時効により消滅してしまった有給休暇などの買取は可能です。
また、過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことによって、1か月に60時間以上の時間外労働を行った(50%以上の割増賃金を支払う必要がある)従業員に対して、割増賃金の代わりに代替休暇(有給休暇)を付与することも、法律上、認められています。
まとめ
年次有給休暇は、従業員の心身の健康やゆとりある生活を送るために法律で従業員に与えられた権利です。
大企業や一部の業種では有給休暇取得率が向上しているとはいえ、国が目標とする取得率70%までの道のりはまだ遠いといわざるを得ません。
少子高齢化が進むなか、今後、中小企業やサービス業が成長し続けるためには、従業員の労働環境改善につながる対策は避けて通れません。まずは自社の従業員の勤怠状況を適切に把握し、従業員が働きやすい環境の整備が直近の課題といえるでしょう。
<このコラムのPOINT>
- 年次有給休暇は従業員の心身の健康を守るための法律で定められた権利
- 人的資本経営は2019年の労働基準法改正により、年5日の有給休暇取得が義務付けられており、違反した場合は罰則が科せられることがある
- 有給休暇取得率は大企業を中心に向上傾向にあるが、企業規模や業種によっては差がある
- 有給休暇の取得率を向上させるには、従業員ごとの勤務状況を正確に把握する仕組み作りが必要である
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