給与計算業務が属人化するリスクとは? 解消方法と実務的な対策を解説
給与計算業務は専門性が高く、かつ個人情報を扱う業務です。そのため、特定の担当者に依存する「属人化」のリスクが高くなります。
属人化を防止し、状況を改善するには『発生要因の把握』と『適切な対策の実施』が必要です。本コラムでは、給与計算業務の属人化のリスクや解消方法、実務的な対策を解説します。
給与計算業務が属人化する理由
1955年から1972年頃まで続いた高度経済成長期では『新卒一括採用』『年功序列型の賃金体系』が一般的で、給与計算は比較的単純な計算方式でした。
しかし、労働関係法令、税法、社会保険制度など頻繁な法改正により、給与計算は年々複雑化しています。業務の専門性が高まるにつれ、給与計算に関する専門知識とノウハウを有する担当者に依存せざるを得ず、結果として給与計算業務が特定の従業員に集中しがちです。
一方でIT技術は進化を続け、給与計算システムを導入・運用している企業が大半です。紙・手計算からコンピューター・電子計算へと給与計算業務のIT・電子化が進み業務の正確性向上や効率化が進む一方で、属人化の問題を根本的に解決するには至っていません。まずは、その理由について触れていきます。
給与計算システムを導入・運用しても属人化する理由
なぜ、給与計算システムを導入・運用しても属人化は解消されないのでしょうか。主に考えられる3つの理由について、詳しく解説します。
複雑な計算ロジックと多様な例外ケース
給与計算業務は、基本給の支給にとどまらず、通勤手当の精算や欠勤控除、インセンティブによる手当の支給など、突発的にさまざまな処理が発生します。また、出向や休職、再雇用、退職時精算など、従業員の入退職や異動などの際に多様な対応が求められ、計算ロジックが複雑です。
導入・運用している給与計算システムによっては、これらの非定型・例外的なケースに対応できないことがあります。結果、Excelなど外部アプリケーションによる計算で対応するなど、業務や情報の属人化が生じやすくなります。
経験とノウハウの蓄積に依存する業務
給与計算では、関係法令の理解や届出手続き、賃金規定や退職金規定、就業規則の解釈など、専門的な業務知識が欠かせません。そのため、担当者の経験やノウハウに頼らざるを得ない状況が生まれやすくなります。
せっかく給与計算システムを導入・運用しても、経験豊かな担当者に業務が偏ってしまえば、属人化は解消できません。
システム操作の習熟度による業務の集中
給与計算システムは多くの機能が提供されており、業務効率化の実現に有用です。一方で、システム操作の習熟度が担当者によって異なり、対応できる担当者が限られてしまう場合があります。
給与計算システムの運用・操作を習得していない担当者は、マスタや実績データの設定・入力などの機能、どの機能をどの順番で実行するかなど業務ごとの手順を理解できておらず、結果的に給与計算ミスにつながる恐れがあります。
給与計算が属人化するリスク
給与計算業務の属人化による担当者の過重労働、担当者の不在時に業務が停滞するリスクが想定されます。
この項では、給与計算業務が属人化するリスクを詳しく解説します。
担当者の過重労働
給与計算は、月次の定例業務だけでなく、賞与計算や年末調整など、時期により業務が集中します。複数名で業務をフォローする体制がなければ、毎年特定の担当者に業務が集中し、過重労働を引き起こす原因となるでしょう。
計算ミスなどなんらかの不備があった際には、賃金の未払い・過払いにつながる場合があるなど、給与計算は高いストレスを伴う業務です。
過重労働や高いストレスは、肉体的・精神的に大きな負担となるため、担当者が過重労働にならないよう対策を講じる必要があります。
担当者不在時の業務停滞
特定の担当者に裁量的判断を任せている組織の場合、担当者不在の際に業務が停滞するリスクがあります。給与計算は、毎月必ず行わなければならない重要業務の1つです。もし担当者不在により給与が支払われないような事態が発生すれば、労働基準法に抵触するおそれがあります。
また、大地震や感染症のまん延など、不測の事態が発生した場合にも「給与の支払い」は最優先で継続しなければなりません。『事業継続計画(BCP)』の観点からも、給与計算業務の属人化は高いリスクを伴います。
個人の解釈や判断に依存
給与計算をはじめとする労務業務は、法令や企業の各種規則・規定の解釈を適切に行なうとともに、適時対応が求められます。
しかし、給与計算業務が属人化された状態では、担当者個人のノウハウによって判断されている場合が考えられ、担当者の誤った解釈によって運用されている可能性を否定できません。
個人の解釈や判断が介在すれば、結果として給与計算ミスや未払・過払賃金の発生リスクを伴います。属人化の解消は、コンプライアンス上の問題発生リスクを最小限に抑えるために必要不可欠です。
実務的な属人化の防止対策
給与計算は特定の担当者に依存しやすい業務で、属人化した状況はすぐに解消できません。そのため、属人化を防ぐさまざまな対策を講じる必要があります。
ここでは、すべての企業が実務的に実行できる4つの対策をご紹介します。
業務マニュアルの作成(業務プロセスの標準化・ルール化)
給与計算の属人化を防止する有効な対策のひとつが、業務マニュアルの整備です。給与計算業務の手順を文書化し、業務フローや作業工程、システムの操作方法など、業務を「見える化」することで、業務の属人化を防ぎます。
規定の解釈や例外ケースへの対応など、できる限り具体的な事例をもとに文書化することで、グレーゾーンへの対応ルールが策定できるでしょう。
こうした業務マニュアルの整備により、給与計算の業務プロセスの標準化やルール化を図れるため、担当者不在時にも他の従業員がフォローしやすくなります。
給与計算のチェック体制の確立
給与計算システムを導入・運用している場合でも、一部の作業では手入力による金額や従業員情報の変更が避けられません。そのため、担当者以外のメンバーにもチェックする仕組みを設けるなど、複数人によるチェック体制の構築が大切です。
複数人によるチェック体制を整えることにより、給与計算のミス防止につながります。チェック担当者も基本的な給与計算方法や変更の根拠を理解する必要があるため、給与計算業務を理解するメンバーの増加につながり、属人化防止対策としても有効です。
なお、給与計算システムによっては、前月と当月の変更事項を表示するなどチェック作業のサポート機能を備えている製品もあります。現在、導入・運用している給与計算システムの機能を理解し、活用しながらチェック体制を確立しましょう。
給与計算の定期ミーティングを行い、情報を共有する
給与計算業務は、毎月の変動事項を漏れなく確認し、適切に処理することが大切です。例えば、基本給の変更や扶養家族異動による手当の変更、欠勤控除の有無など、給与に影響する情報を確実に収集する必要があります。
しかし、情報収集を担当者一人に任せきりにすると、変更事項の見落としが生じるおそれがあります。そうした事態を回避するために有用な対策が、定期的なミーティングの実施による複数人での情報共有です。
定期的にミーティングを実施することで、変動事項の確認はもとより、参加メンバー全員が給与計算の情報を把握できます。その結果、他の従業員でも項目の変更を担えるようになれば、担当者不在の場合にも適切に給与を支給する体制づくりを実現できます。
給与計算業務の作業分担
給与計算は勤怠確認や通勤手当の精算、欠勤控除の計算など、多岐にわたる作業が伴います。作業を分担して給与計算を行うことで属人化を防ぐとともに、業務を効率的に進めるアイデアが生まれる可能性があります。
例えば『給与計算と社会保険手続きの業務分担』もひとつの方法です。社会保険の手続きは、基本的に従業員の給与情報を共有していなければ書類は作成できません。給与計算担当者が社会保険手続きを行なっている場合、分担して作業すれば給与計算の情報を必然的に共有できるようになります。
給与計算業務の分担は、従業員数が増えるほど必要な取り組みです。情報共有を推進する有力な手段の1つが、給与計算システムの活用です。
給与計算システムには、給与計算や社会保険手続きに必要なあらゆる情報が一元管理されています。給与計算を業務分担する際には、業務担当者に権限を付与することで情報共有が可能です。給与計算システムの活用は、作業分担や属人化防止につながる効果的な対策と言えるでしょう。
属人化を防ぐ給与計算システムの特徴
もし、給与計算システムを導入・運用しても業務が属人化する場合は、システムの運用方法の見直し、もしくは自社に合うシステムへの入れ替えを検討しましょう。
ここでは、どのような給与計算システムが属人化防止につながるのかを詳しく解説します。
直感的に操作でき扱いやすい
システムの操作が複雑だと、どうしても特定の担当者のみがシステムを扱うようになりがちです。担当者の習熟度は深まるものの、その分、業務が属人化します。
属人化を防ぐには、直感的に操作を理解でき、誰もが扱いやすいシステムが有用です。操作しやすいシステムを新たに導入・更改することで、システムに苦手意識のあるメンバーも抵抗なく使用でき、複数人でシステムを扱えるようになります。
給与計算システムを選ぶ際には、高機能だけでなく、優れた操作性も重視すると良いでしょう。
複雑な計算にも対応しシステム内で給与計算が完結できる
給与計算システムを選択する際は、自社で起こり得る例外的な計算に対応できるか確認しましょう。システム外で作業することなく、システム内で給与計算を完結できれば属人化を防げます。
また、給与計算システムは計算ロジックが可視化されているため、業務の透明性も高まるでしょう。
データの取り込みや外部連携が可能
外部データの取り込みが可能な外部システム連携機能を備えている給与計算システムは、勤怠や各種手当の情報などの各種データを自動的に取得でき、業務を効率化できます。
また、データの連携方法をはじめとした業務フローの明確化により、属人化の防止にも役立つでしょう。
勤怠管理システムや人事管理システムなど、他のシステムと連携ができる給与計算システムを導入・更改することで、業務の生産性や安全性が向上します。
まとめ
給与計算業務は、専門的な知識やスキルが求められるため、特定の担当者に属人化する傾向にあります。
何らかの原因で担当者の不在が続いて給与計算が滞れば、最悪の場合は給与が正しく支払われず、コンプライアンス違反となるおそれがあります。
このようなリスクを解消するには、作業手順のマニュアル化など社内体制の整備のほか、自社に合う給与計算システムの導入や更改が有効です。
給与計算システム『ALIVE SOLUTION PR supplied by GrowOne給与SX』は、優れた操作性と幅広い機能連携により業務の属人化リスクを排除し、生産性向上を支援します。
また、同商品は計算式を柔軟に設定でき、さまざまな手当の計算を自動化できるため、自社に最適な給与計算システムが構築可能です。
新たな給与計算システムの導入・更改を検討されている際には『ALIVE SOLUTION PR supplied by GrowOne給与SX』を候補にしてみてはいかがでしょうか。
著者プロフィール
北 光太郎
社会保険労務士
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。勤務社労士として計10年の労務経験を経て「きた社労士事務所」を設立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わずWebメディアの記事執筆・監修を行いながら、自身でも労務情報サイトを運営している。
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