「介護のリスクマネジメント」2021年度の介護報酬・基準改定で考えるべきこと

公開:2021年06月09日

更新:2022年03月23日

少子高齢化が進む日本において不可欠な存在である介護施設ですが、「介護」というサービスの性質上、他の業界に比べて事故やトラブルが起きやすい状況の中で、日々職員やスタッフは業務を行っています。

介護サービスを利用する側にとっても、介護サービスを提供する施設および介護職員・スタッフにとっても、事故やトラブルができるだけ発生しない状況で過ごしたい、と思うことは言うまでもありません。そこで最近注目されているのが、「リスクマネジメント」です。

今回のコラムでは、2021年度の介護報酬・基準改定の情報なども踏まえ、リスクマネジメントについて詳しく解説します。介護施設の経営者様、マネジメント層、および介護サービスに従事する職員の方は、ぜひ参考にしてみてください。

【目次】

  • 介護現場におけるリスクマネジメントとは
  • 介護現場のリスクマネジメントとその重要性
  • 介護事故により損害賠償が認められた事例
  • 2021年の介護報酬・基準改定が介護現場のリスクマネジメントに及ぼす影響
  • 利用者・職員を守るために介護現場で求められること
  • 介護のリスクマネジメントのまとめ
  • 関連コラムのご紹介

介護現場におけるリスクマネジメントとは

そもそも「リスクマネジメント」とは、企業活動の中で起こりうる様々な「リスク」を想定し、リスクが発生しないよう回避する、あるいは万が一リスクが発生した際に被害を最小限に抑える対策を講じるプロセス・管理手法のことです。

どのような業種、職種においても、事業を営むうえでは適切なリスクマネジメントが必要です。その中で、介護業界ではどのようなリスクマネジメントが求められるのでしょうか。

介護業界におけるリスクマネジメント
  • 介護中に起こりうる事故の原因や、発生する状況を予測する
  • 事故が起こらないよう、可能なかぎり予防するための対策を講じる
  • 万が一事故が起きてしまった場合の適切な対応方法を準備しておく

介護という仕事の性質上、利用者が高齢であったり身体に障害を持っていたりする方もおられるため、どうしても他の業界に比べて事故やトラブルが起きやすい状況と言えます。

そのため介護業界においては、サービスを利用される方を事故やトラブルから守ることを前提としてリスクマネジメントを行います。加えて、日々の生活の中だけでなく災害や泥棒、犯罪などが起きた場合についても備えておくことが必要です。

また、プライバシーや個人情報の保護といったところにもリスクがあることを念頭においた対応・対策が求められます。

介護現場のリスクマネジメントとその重要性

介護現場で起こるトラブルは、ときに利用者の人命を大きく左右します。また、利用者の家族や多くの職員を巻き込んで大きなトラブルへ発展することも少なくありません。
ここでは、介護現場においてリスクマネジメントが重視される理由を見ていきましょう。

事故やトラブルから利用者の命を守る

介護サービス利用者の多くは高齢者であり、個人差こそあれ加齢にともなう心身機能の低下は避けられません。そのため、小さな不注意やミスが重大な事故を招く恐れがあり、場合によっては利用者の命に関わることもあります。また高齢者のケガは若い人と比べて治癒に時間がかかり、寝たきりや認知症の進行の原因となることも珍しくありません。

介護施設における事故を防ぐためには、すべての職員が施設内の環境や利用者の行動にひそむ危険を理解すると共に、事故を防げるように行動・サポートすることが重要です。しかし職員の危機察知・回避能力は本人の経験などによって異なります。
リスクマネジメントをすることは、職員やスタッフの「気づかなかった」「分からなかった」を減らし、事故の発生リスクを下げることにつながります。

介護事故の高額訴訟リスクから事業所を守る

介護現場のリスクマネジメントは、介護事故による訴訟トラブルなどから事業者を守るためにも欠かせません。

施設内で発生した事故の原因が職員または事業者の過失として認められると、多額の賠償金支払いを命じられる恐れがあります。賠償金支払いがもとで事業運営に支障が生じると、最悪の場合は倒産・閉鎖や経営悪化に追い込まれかねません。倒産や閉鎖を免れたとしても、SNSなどでネガティブな噂が広まり新規利用者が集まりにくくなるなどの事態も起こり得ます。

職員のモチベーションを維持する

リスクマネジメントには、利用者や家族によるハラスメントから職員を守るという側面もあります。思うように体を動かせずストレスを感じている利用者や認知症が進行した利用者の中には、本人が意図していなくとも職員に暴言を浴びせたり暴力を振るったりしてしまう人も少なくありません。もし事業者がこれらのトラブルを放置すれば職員の不安や不満が溜まり、離職やサービス低下につながる恐れがあります。

少子高齢化が進む日本において、介護サービス従事者の確保は重要な課題です。介護サービス利用者はもちろん、サービスを提供する側にとっても、徹底されたリスクマネジメントは不可欠と言えるでしょう。

介護事故により損害賠償が認められた事例

下記では、介護事故に関して、事業者側の損害賠償が認められた判例をご紹介します。

〇入浴介助中の転倒事故

まず1つ目は、デイサービス利用者のAさんが入浴介助を受けている最中に転倒・骨折し、事業者に830万円の損害賠償が認められた事例です。

Aさんは日常生活における自立歩行が難しく、事故発生時は浴室で車いすに座っていました。介助担当職員はほかの利用者を介助する間、Aさんにそのまま座っているよう伝えたものの、Aさんは自力で立ち上がろうとして転倒し大腿骨を骨折しました。このケガがもとで、Aさんには後遺障害等級12級の後遺症が残っています。

裁判では、浴室の滑りやすさやAさんがある程度自力で動けることなどから事業者がより高度な注意を払うべきだったと判断され、損害賠償が認められました。
〇誤嚥による死亡事故

2つ目は、ショートステイを利用していたBさんが誤嚥により窒息死し、事業者に2,640万円の損害賠償が認められた事例です。

Bさんには難病による嚥下障害や言語機能の低下などがあり、日常生活全般に介護を要する状態でした。ある日、Bさんは夕食を摂っている途中に「もういらない」と介助担当職員に身振りで伝えました。職員はBさんに“むせる”などの症状がないことを確認して食事を切り上げたものの、しばらくしてBさんの容体が急変し、搬送先の病院で死亡が確認されました。なお、Bさんの死因は窒息死と診断されています。

誤嚥発生時の多くは急激なむせや息苦しさなどの症状が出るものの、気道の塞がり方によってはこれらの症状が出ないまま窒息や肺炎などに至ることもしばしばです。加えてBさんには言語障害があり、「苦しい」などと言葉で伝えることが難しい状況でした。これらのことから裁判では、Bさんの呼吸状態に対する担当職員の注意不足や事業者の注意喚起不足などが指摘され、損害賠償が認められました。

これらの判例は氷山の一角に過ぎず、裁判において事業者側の過失が認められた例は他にも数多くあります。
訴訟トラブルのきっかけとなった介護事故の多くは、事業者側の注意不足や連携不足などによって起こっています。これらの事実からも、介護現場におけるリスクマネジメントの重要性がうかがえるでしょう。

2021年の介護報酬・基準改定が介護現場のリスクマネジメントに及ぼす影響

介護業界におけるリスクマネジメントが重要視されていることを受け、2021年度の介護報酬・基準改定(※)ではリスクマネジメントの強化が反映されています。

これまでも指針の策定や事故報告、委員会の開催、従業者に対する研修の定期実施などが定められていましたが、今回は「安全対策担当者」を設置することが義務づけられました(6ヶ月の経過措置期間あり)。これらの基準を満たしていない場合には、「安全管理体制未実施減算」として1日あたり5単位が減算されます。

反対に、外部の研修を受けた担当者を配置し、組織的に安全対策を実施する体制が整備されている場合には、入所時に1回20単位加算されることになりました(安全対策体制加算)。

現時点でも、多くの介護施設ではリスクマネジメントの担当者を設置されているかと思いますが、実はその大半は一般の介護職員が担っています。法令に基づいてリスクマネジメントの担当者を設置することは、万が一の事故やトラブルが発生した際に、多くの責任がのしかかってくることも意味しています。当然ながら施設長や理事長といった立場の人も責任を負いますが、現場の責任者としてリスクマネジメント担当者にまで影響が及ぶ可能性も出てくるでしょう。

このような可能性を考えると、リスクマネジメント担当者の役割を進んで引き受けてくれる職員は、決して多くないはずです。また、仮に上司などから担当者への選任を打診された場合、立場上断りづらい職員も出てくると思われます。場合によってはハラスメントなどの問題に発展する可能性もあり、職場内で様々な軋轢を生じさせる原因にもなりかねません。

政府としても今後、リスクマネジメント担当者が法的な責任の重責を追わないよう、省令などで明確化する可能性もあるでしょう。しかし、今考えるべきは施設側としての姿勢や体制作りです。担当者さえ決めて終わりではなく、スタッフ全員で事故やトラブルを減らすという意識のもと、担当者をサポートする取り組みが重要ではないでしょうか。

利用者・職員を守るために介護現場で求められること

すでに様々な安全対策を講じている事業所がほとんどだと思いますが、業務に慣れてくると「このくらい問題ないだろう」と考え、油断や緩みも出てくる可能性があります。

マネジメントする立場の人からすれば、「安全対策の徹底は当然のこととして分かっているだろう」と判断が甘くなっている部分もあるかもしれません。しかし、そのような慢心や油断が大きな事故につながることもあります。

では、リスクマネジメントを正しく機能させるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

〇情報を報告しやすい、共有しやすい雰囲気つくり
リスクマネジメントの第一歩は、どんなリスクが考えられるかを洗い出すことです。そのため、職員、スタッフ一人ひとりが当事者意識を持ち、感じた点・気づいたことを気兼ねなく報告できる雰囲気作りが大切です。

〇情報は常にアップデートする
安全対策に関する指針や対応マニュアルなどは、一度作ったら終わりではなく常にアップデートをするようにしましょう。見直しを行うことで、ケアやサービスの質向上にも繋がるはずです。

〇正しく情報を伝える力を身につける
ヒヤリ・ハット報告書や事故報告書は、防げる事故であったかどうかを分析することができる重要な情報です。また、万が一の時に職員やスタッフを守るための証拠にもなります。そのため、正確に情報が伝わり、誰が見ても内容が理解できる報告書が書けるよう、書き方の統一や専門用語は使わないなどの取り決めをしましょう。良い書き方例・悪い書き方例を共有する、スタッフ同士でこんな書き方のほうが良いなど、意識を高めるための勉強会を開催するなども良いでしょう。

〇利用者、家族への理解を深める
事故防止を優先するあまり利用者の自由や意欲まで奪ってしまうことは、本当の意味でのケアでなくなってしまうはずです。利用者を尊重しつつも安全を守るためには、利用者やその家族に対し施設におけるリスクマネジメントの考え方や取り組みについて理解を得ることが大切です。考えうる危険にはこう対処しているなど積極的に開示するだけでなく、日頃からコミュニケーションを取ることが信頼関係を深めることに繋がるはずです。

介護のリスクマネジメントのまとめ

ここまで2021年度の介護報酬・基準改定の情報なども踏まえて、リスクマネジメントについて解説してきました。改めて、今回のポイントをまとめます。

<このコラムのPOINT>

  • 業務内容の特性ゆえに、介護業界は他業界よりもトラブルのリスクが高い
  • 介護のリスクマネジメントは、サービス利用者と提供者の両方を守るうえで重要
  • 介護報酬・基準改定により各施設に安全対策担当者の設置が義務付けられたが、担当者に任せきりではなく全職員が協力してトラブル防止に取り組むことが大切

年々注目されている、介護業界のリスクマネジメント。介護業界を取りまく環境の変化とともに、利用者やその家族だけでなく職員・スタッフのリスクマネジメントに対する関心も高まっています。リスクマネジメントに関する制度も見直されている中、安全かつ質の高いサービスを提供していくためのリスクマネジメントは、介護施設としての質を評価する基準になっていくかもしれません。
今回の介護報酬改正への対応をきっかけに、今一度リスクマネジメントのあり方について見直しをされてみてはいかがでしょうか。

関連コラムのご紹介

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