「介護のリスクマネジメント」2021年度の介護報酬・基準改定で考えるべきこと

公開:2021年06月09日

少子高齢化が進む日本において不可欠な存在である介護施設ですが、「介護」というサービスの性質上、他の業界に比べて事故やトラブルが起きやすい状況の中で、日々職員やスタッフは業務を行っています。
介護サービスを利用する側にとっても、介護サービスを提供する施設および介護職員・スタッフにとっても、事故やトラブルができるだけ発生しない状況で過ごしたい、と思うことは言うまでもありません。

そこで最近注目されているのが、「リスクマネジメント」です。

今回のコラムでは、2021年度の介護報酬・基準改定の情報なども踏まえ、リスクマネジメントについて詳しく解説します。介護施設の経営者様、マネジメント層、および介護サービスに従事する職員の方は、ぜひ参考にしてみてください。

このコラムを読んで分かること

  • 介護現場のリスクマネジメントとその重要性
  • 2021年の介護報酬・基準改定が介護現場のリスクマネジメントに及ぼす影響
  • 利用者・職員を守るために介護現場で求められること

介護現場のリスクマネジメントとその重要性

「リスクマネジメント」とは、企業活動の中で起こりうる様々な「リスク」を想定し、リスクが発生しないよう回避する、あるいは万が一リスクが発生した際に被害を最小限に抑える対策を講じるプロセス・管理手法のことです。どのような業種、職種においても、事業を営むうえでは適切なリスクマネジメントが必要です。その中で、介護業界ではどのようなリスクマネジメントが求められるのでしょうか。まずは、介護業界におけるリスクマネジメントの重要性と、様々なリスクの事例およびそれに対するアプローチ方法まで詳しく解説します。

介護現場におけるリスクマネジメントとは

介護という仕事の性質上、利用者が高齢であったり身体に障害を持っている方もおられるため、どうしても他の業界に比べて事故やトラブルが起きやすい状況といえます。そのような介護現場における「リスクマネジメント」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。

【介護におけるリスクマネジメント】

  • 介護中に起こりうる事故の原因や、発生する状況を予測する
  • 事故が起こらないよう、可能なかぎり予防するための対策を講じる
  • 万が一事故が起きてしまった場合の適切な対応方法を準備しておく

このように、サービスを利用される方を事故やトラブルから守ることを前提として考えますが、日々の生活の中だけでなく災害や泥棒、犯罪などが起きた場合についても備えておくことが必要です。また、プライバシーや個人情報の保護といったところにもリスクがあることを念頭においた対応・対策が求められます。

介護現場のリスクマネジメントが重要視される理由とは

介護サービスを利用される方の多くは高齢者です。加齢とともに身体の機能が低下するのは、誰しもやむを得ないところです。そのため、少しの不注意やミスによって事故につながる可能性があり、場合によっては利用者の命にかかわることもあります。また、仮に怪我をしてしまった場合、若い人に比べて治癒に時間がかかり、長期間にわたって寝たきりの状態になってしまうことも珍しくありません。筋力や体力が急速に衰えてしまったり、認知症が進行してしまうこともあるでしょう。
つまり、高齢者にとってはほんのちょっとした怪我や事故も、その後の生活を左右する大きなことなのです。

万が一、起きてしまった事故が職員の不注意や介護施設側の過失として認められた場合、介護事故の損害賠償として多額の賠償金を支払わなくてはなりません。これによって事業運営にも支障をきたし、最悪の場合、介護施設の倒産・閉鎖に追い込まれることも考えられるのです。

【実際に起きた介護事故により損害賠償が認められた事例】

  • デイサービス利用者が入浴中に転倒して骨折してしまい、830万円の損害賠償が請求された
  • 施設利用者がとろみのある食べ物を誤嚥したことで窒息死に至ってしまい、2,640万円の損害賠償が請求された

このようにリスクマネジメントは、利用者を守る観点だけでなく事業所を守るためにも必要であることがおわかりいただけると思います。

また、職員やスタッフなどサービスを提供する側を守るという観点からも、リスクマネジメントは重要です。例えば利用者さんがある行動をした際、それを見たスタッフが危険であると気づけるかどうかがスタッフの経験頼りだとしたらどうでしょうか。事故を未然に防ぐためには、職員やスタッフの経験に依存することなく統一した認識を持つことが必要です。また、誰でも「危険かもしれない」と気づくことができる対策を講じておくことが、リスクマネジメントには求められています。

そして、リスクマネジメントの別の側面としては、利用者やその家族からのハラスメントから職員やスタッフを守るという観点があります。実際に利用者から心無い暴言を吐かれた、暴力を受けたという事例もあります。再発防止に向けた対策が行われなければ、職員やスタッフの不安や不満が徐々に増し、離職につながってしまう可能性も考えられます。
少子高齢化が進む日本において、介護サービスの従事者を確保することは重要な課題です。介護サービスの利用者はもちろん、介護サービスを提供する側にとっても、徹底されたリスクマネジメントは最重要と言えるでしょう。

2021年の介護報酬・基準改定が介護現場のリスクマネジメントに及ぼす影響

介護業界におけるリスクマネジメントが重要視されていることを受け、2021年度の介護報酬・基準改定(※)ではリスクマネジメントの強化が反映されています。
これまでも指針の策定や事故報告、委員会の開催、従業者に対する研修の定期実施などが定められていましたが、今回は「安全対策担当者」を設置することが義務づけられました(6ヶ月の経過措置期間あり)。これらの基準を満たしていない場合には、「安全管理体制未実施減算」として1日あたり5単位が減算されます。
反対に、外部の研修を受けた担当者を配置し、組織的に安全対策を実施する体制が整備されている場合には、入所時に1回20単位加算されることになりました(安全対策体制加算)。

現時点でも、多くの介護施設ではリスクマネジメントの担当者を設置されているかと思いますが、実はその大半は一般の介護職員が担っています。法令に基づいてリスクマネジメントの担当者を設置することは、万が一の事故やトラブルが発生した際に、多くの責任がのしかかってくることも意味しています。当然ながら施設長や理事長といった立場の人も責任を負いますが、現場の責任者としてリスクマネジメント担当者にまで影響が及ぶ可能性も出てくるでしょう。
このような可能性を考えると、リスクマネジメント担当者の役割を進んで引き受けてくれる職員は、決して多くないはずです。また、仮に上司などから担当者への選任を打診された場合、立場上断りづらい職員も出てくると思われます。場合によってはハラスメントなどの問題に発展する可能性もあり、職場内で様々な軋轢を生じさせる原因にもなりかねません。

政府としても今後、リスクマネジメント担当者が法的な責任の重責を追わないよう、省令などで明確化する可能性もあるでしょう。しかし、今考えるべきは施設側としての姿勢や体制作りです。担当者さえ決めて終わりではなく、スタッフ全員で事故やトラブルを減らすという意識のもと、担当者をサポートする取組が重要ではないでしょうか。

利用者・職員を守るために介護現場で求められること

すでに様々な安全対策を講じている事業所がほとんどだと思いますが、業務に慣れてくると「このくらい問題ないだろう」と考え、油断や緩みも出てくる可能性があります。マネジメントする立場の人からすれば、「安全対策の徹底は当然のこととして分かっているだろう」と判断が甘くなっている部分もあるかもしれません。しかし、そのような慢心や油断が大きな事故につながることもあるはずです。

では、リスクマネジメントを正しく機能させるためには、どのような取組が必要なのでしょうか。

● 情報を報告しやすい、共有しやすい雰囲気つくり
リスクマネジメントの第一歩は、どんなリスクが考えられるかを洗い出すことです。そのため、職員、スタッフ一人ひとりが当事者意識を持ち、感じた点・気づいたことを気兼ねなく報告できる雰囲気作りが大切です。

● 情報は常にアップデートする
安全対策に関する指針や対応マニュアルなどは、一度作ったら終わりではなく常にアップデートをするようにしましょう。見直しを行うことで、ケアやサービスの質向上にも繋がるはずです。

● 正しく情報を伝える力を身につける
ヒヤリ・ハット報告書や事故報告書は、防げる事故であったかどうかを分析することができる重要な情報です。また、万が一の時に職員やスタッフを守るための証拠にもなります。そのため、正確に情報が伝わり、誰が見ても内容が理解できる報告書が書けるよう、書き方の統一や専門用語は使わないなどの取り決めをしましょう。良い書き方例・悪い書き方例を共有する、スタッフ同士でこんな書き方のほうが良いなど、意識を高めるための勉強会を開催するなども良いでしょう。

● 利用者、家族への理解を深める
事故防止を優先するあまり利用者の自由や意欲まで奪ってしまうことは、本当の意味でのケアでなくなってしまうはずです。利用者を尊重しつつも安全を守るためには、利用者やその家族に対し施設におけるリスクマネジメントの考え方や取組について理解を得ることが大切です。考えうる危険にはこう対処しているなど積極的に開示するだけでなく、日頃からコミュニケーションを取ることが信頼関係を深めることに繋がるはずです。

まとめ

年々注目されている、介護業界のリスクマネジメント。介護業界を取りまく環境の変化とともに、利用者やその家族だけでなく職員・スタッフのリスクマネジメントに対する関心も高まっています。リスクマネジメントに関する制度も見直されている中、安全かつ質の高いサービスを提供していくためのリスクマネジメントは、介護施設としての質を評価する基準になっていくかもしれません。
今回の介護報酬改正への対応をきっかけに、今一度リスクマネジメントのあり方について見直しをされてみてはいかがでしょうか。

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