「2024年度のトリプル改定」による医療・介護業界の変革を考察
近年、医療・介護現場ではサービスの質や報酬の問題が注目されており、2024年度に実施のトリプル改定に、多くの医療・介護関係者や利用者が関心を寄せています。
トリプル改定の目的は、高齢化社会の進行による医療費の増大や医療・介護人材の不足などの課題解決です。その原動力となる医療・介護現場での適切な報酬分配や、それに伴うサービスの質向上も期待されています。
当コラムでは、トリプル改定の背景やポイント、調剤薬局や介護事業所が改定時にどう対応すべきかについて、詳しく解説します。
政府主導で推進するトリプル改定
2024年度に実施されるトリプル改定では、医療保険の診療報酬・介護保険の介護報酬・障害福祉サービスの報酬、3制度の改正が同時に行われます。
社会保障の制度は時代に合わせて定期的に改定が実施されますが、今回の改定はなぜ注目されているのでしょうか。この項では、制度改定の背景や注目が集まる理由について解説します。
定期的に実施される社会保障制度の改定
医療・介護における報酬制度の改定は、日本の社会保障制度を適切に維持・改善するために定期的に行われています。
これまでの改定では「財政的な持続性の確保」「保険制度の適切な設計」「地域包括ケアシステムの推進」という3つのバランスを維持しながら、日本の医療・介護の現状と持続的な社会保障の維持を考慮し進められてきました。
【1】財政的な持続性の確保
社会保障の原資となる国の財政の持続性を念頭に、医療・介護の予算削減や効率化を目指して議論が進められ、国の財政状況や人口動態の変化などを考慮した制度の見直しが図られています。
【2】保険制度の適切な設計
医療や介護が必要な人々に十分なサービスが提供されるよう、保険料の見直しや給付制度の改善、サービスの質向上を実現する保険制度の設計が検討されています。
【3】地域包括ケアシステムの推進
近年注目されている地域包括ケアの重要性を踏まえ、地域医療と介護サービスの連携および在宅医療・介護の充実、地域の特性やニーズに合わせたサービスの提供が議論されています。
2024年度の改定に注目が集まる理由
2024年度に予定されている“トリプル改定”は、診療報酬制度にとどまらず、介護報酬や障害福祉サービスなどの報酬改定も同時に実施されることが特徴です。
診療報酬・介護報酬・障害福祉サービスなどの報酬制度は、それぞれ診療行為、要介護者・要支援者、障害者や難病疾患の対象者へのサービス対価を決めるものです。
“トリプル改定”は6年に1回のペースで実施されるため、影響範囲の広さと重要性から多くの関心が寄せられます。
今回の改定では、医療側を代表する「中央社会保険医療協議会」と介護側を代表する「社会保障審議会介護給付費分科会」の両者が意見交換する「社会保障審議会」を2023年5月までに3回開かれ、各分野の専門家がそれぞれの意見や提案を共有しました。
医療と介護の連携強化、新たなサービスの提供方法についての議論を重ねており、利用者の利便性およびサービスの質向上が期待されています。
トリプル改定がもたらすメリット
医療・介護のサービスの質向上を目指す“トリプル改定”は、さまざまなメリットをもたらします。
【1】生涯現役社会の実現
75歳以上の後期高齢者が大きく増加する「2025年問題」と、生産年齢人口が年々減少し社会保障費の負担増となる「2040年問題」の解決を目指す厚生労働省は、高齢者が働きやすい社会を目指し「生涯現役社会」の実現を掲げています。
トリプル改定が進む過程では、高齢者の生活や労働と医療・介護サービス、ひいては地域社会がシームレスに連携することで、生涯現役社会の後押しを期待できます。
【2】医師の働き方改革
2019年4月に施行された働き方改革関連法。2024年4月には医師への適用を控えています。2022年度改定の際には「医師事務作業補助体制加算の見直し」など、他職種へのタスクシフトが進められました。
今回のトリプル改定では、医療機関における労働環境の改善や業務効率化が念頭に置かれています。医師および医療従事者の負担が軽減することで、医療サービスの質向上が期待できるでしょう。
【3】医療DXの推進
デジタル技術を前提としたビジネスモデルなどの変革を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)は、医療・介護業界でも進行中です。
全国医療情報プラットフォームの創設や電子カルテ情報の標準化など、医療DXの推進を目指す過程において、診療報酬もデジタル変革に対応した形での改定が実施されます。
トリプル改定の今後の見通し
2023年8月に行われた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会では、厚生労働省から提案された「例年4月1日に行われる診療報酬改定を、2024年度から6月1日に変更する」案が了承されました。
政府は、2024年度のトリプル改定に向けて議論を進めていますが、議論は今後さらに深まることが予想されます。そのため、未だ不確定要素が多い状況です。改定実施後には、調剤薬局や介護事業所の経営への影響など、新たな課題が生まれることも考えられます。
改定の方針や内容が固まった後も、迅速に対応できるよう、今後の情報更新を注視し対策をとることが大切です。
トリプル改定で求められる調剤薬局や介護事業所の対応
高齢化社会の進行と医療DX推進の過程において、医療・介護業界における事業所は経営および業務の変革を迫られています。
トリプル改定による変化への柔軟な対応が今後を左右するなか、調剤薬局や介護事業所を例に挙げ、改定時に対応すべきポイントを解説します。
調剤薬局に求められる対応
トリプル改定に伴い、調剤薬局や介護事業所には新たな対応が求められています。特に調剤薬局においては、厚生労働省が示す「患者のための薬局ビジョン」に基づき、対物業務から対人業務への転換が重要視されています。
対人業務の強化により、高度な薬学管理の実践や地域医療機関との連携が促進され、これにより付加価値の高いサービス提供が可能となります。
また、ICTの活用による対物業務の効率化は、調剤業務・監査業務・在庫管理業務など、現場における業務課題を洗い出すことで業務プロセスの見直し、利便性向上を実現し、より効率的なサービス提供を目指せます。
これらの取組は、トリプル改定の要請に応じ、より質の高い医療サービスを提供するための重要なステップとなります。
介護事業所に求められる対応
トリプル改定をきっかけに、介護事業所は事業の持続性を確保し、他の事業所との競争力を高めるために、サービスの提供内容や方法の変更をはじめ、さらにはサービスの質向上を求められています。
経営計画の見直しや効率的な運営方法の模索が必要不可欠な昨今、ここから紹介する3つのソリューションは、介護サービスの質と安心感を高めながら業務効率を向上させ、介護事業における経営・運営を確かに後押しするでしょう。
次世代予測型見守りシステム「Neos+Care(ネオスケア)」
「Neos+Care」は、介護者がリアルタイムで施設を利用する高齢者の安否を確認できるシステムです。随時データを解析して異常行動や危険の予兆を早期に察知するとともに、スマートフォンでも状況を確認できます。
AI×見守りサービス「kizkia-Knight(きづきあ-ないと)」
AI技術を利用して高齢者の生活を24時間見守る「kizkia-Knight」は、利用者が特に一人で過ごす時間の長い居室とトイレを、プライバシーに配慮しながら見守ります。異常が検出された場合には介護者にアラートを送信し、迅速な対応を可能にします。
見守り介護ロボット「aams(アアムス)」
「aams」は、高齢者の日常生活のサポートと安全確認を行うロボットです。利用者の身体にマット型のセンサーなどを装着することなく24時間の見守りが可能で、ストレスフリーな見守りを実現できます。
まとめ
「診療報酬」「介護報酬」「障害福祉サービス報酬」の各制度を一斉に改定する“トリプル改定”は、医療・介護現場での適切な報酬分配やサービスの質向上が期待されています。
医療・介護事業所は、トリプル改定に対応するための対策を講じる必要があります。厚生労働省ウェブサイトをはじめ、トリプル改定の最新情報を適宜確認してください。
また、ITソリューションの導入も有効手段の一つです。ITソリューションの導入過程では業務オペレーション見直し、業務負担の軽減や効率化が可能です。
調剤薬局や介護・福祉施設を運営されている事業者様は、情報収集と合わせてIT活用の可能性も検討しましょう。
▼調剤薬局総合ITソリューション はこちら
▼介護・福祉総合ITソリューション「MELFARE」 はこちら
著者プロフィール
杉山 義明
アアル株式会社(経営コンサルティング)代表取締役
中小企業診断士・薬剤師・MBA
事業再構築補助金、ものづくり補助金、事業承継・引継ぎ補助金等を活用した新規事業支援や、M&A支援を得意とし、経営戦略及び事業計画策定と業務のDX化の同時支援で、戦略レベルから生産性を高める事を目指したコンサルティングを実践している。
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