介護における服薬介助の極意|賢く管理し、正確に支援するためのポイント
日本社会は急速に少子高齢化が進み、介護現場では介護職員の不足や多剤服用への対応、さらには利用者の認知状態などに影響する服薬拒否など、職員にとって服薬介助は課題の多い業務となっています。一方で、正しい服薬支援は利用者の健康を支え、生活の質を保つために不可欠です。
本コラムでは、介護職員が直面する服薬介助の悩みを解決する実践的なアプローチについて、筆者の体験も交えながら考察します。
服薬介助とは
服薬介助は、利用者に処方されている薬について「どの薬を」「いつ飲むか」「何回飲むか」という種類やタイミングなどをすべて介護士や看護師が把握し、服薬の手助けをするプロセスです。
服薬介助を行う際には、医療行為に当たらないかどうか注意が必要です。
服薬介助の範囲
服薬介助にあたる行為は、一包化された薬の準備、服薬の声がけ、飲み残しが無いかの確認が認められています。
一方で、医療行為に該当する行為は、薬の一包化、利用者の状態に合わせた薬量の調整、誤嚥のリスクがある方など医療的な知識が伴う介助を医師や看護師からの指示なく行うこと、シートから薬を取り出すことです。
特に訪問介護の現場においては、利用者や家族から医療行為に該当する行為を頼まれる場合もあるため、注意が必要です。
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服薬介助の必要性
正確な服薬管理は、治療の成果を最大化し、利用者の生活の質を高める効果があります。また、広く考えると不必要な医療費の抑制にも直結します。そのため、薬の種類・個数・時間帯を正確に把握する服薬管理が欠かせません。
服薬管理の効果
介護を要する利用者は複数の疾病を抱えている場合が多く、一度の服薬時に非常に多くの種類の薬を服用することも珍しくありません。薬を飲み忘れたり飲みすぎたりと、健康に影響を及ぼすリスクが高まります。
こうした事態を避けるためには、介護職員が薬剤の効果・副作用・禁忌を正しく理解し、利用者に向けて適切に介助することが極めて重要です。服薬管理は利用者の健康を守り、生活の質の向上に役立ちます。
服薬介助のミスを防ぐために
服薬介助のミスは利用者の体調悪化を招き、最悪の場合には命に関わる事態になりかねません。こうした事故を防ぐためには、服薬前の準備が必要です。
服薬介助の際には、利用者が確実に内服できるように、手順を守って落ち着いて対応しましょう。利用者が服薬する薬の種類や分量などの事前確認、利用者が確かに服薬できたかをしっかり確認しましょう。
誤った服薬介助の事例
誤った服薬介助は利用者の健康を左右します。ここでは、以前に直面した実際の事例をご紹介します。
服薬介助の際に、担当者は薬袋の氏名を確認することなく、利用者の服薬を介助しました。すると、数時間後に利用者に異変が発生。意識が朦朧としていることに気づいた介護職員が血圧を測定すると、利用者は重篤な低血圧を引き起こしていました。
原因は、別の利用者の内服薬(降圧薬)が配薬されていたことによる誤投薬です。利用者の入所施設では対応できないため、速やかに救急車を要請して近隣の病院へ搬送。昇圧剤の投与により低血圧は改善し、利用者は一命を取り留めました。
いかがでしょうか。介護実務に関わる方ならば、きっと心当たりのある事例かと思います。誤投薬は適切な服薬管理により避けられる事故であり、正しい知識と確かな手順により服薬介助を実践すれば事故のリスクを最小限に抑えられます。こうした事例から学び、服薬介助のプロセスを適宜見直し、改善するよう取り組みましょう。
服薬介助の手順
服薬介助のプロセスには、利用者の正確な特定から薬剤の準備、適切な投与、服用確認に至るまでの一連の手順が含まれます。これらの手順を守り、適切に実行することで利用者の安全が確保されます。
介護職員は服薬介助の手順を深く理解するとともに、毎回確実に進めていくことが求められます。
標準的な服薬介助プロセス
【1】内服薬の内容と氏名を確認 【2】決められたタイミング(食前、食直前、食間、食後、眼前、起床時)に、原則水もしくは白湯と内服薬を用意し、利用者のもとへ持参 【3】利用者に声がけし、内服の了承を得る(服薬してよい状態かを確認する) 【4】利用者の手に内服薬を渡す(自力で内服できない場合は、了承を得てから口に入れるまで介助) ※落薬に注意。 【5】利用者に焦らず飲み込むよう促し、確実に飲み込めたかを確認 【6】物品を片付けた後、介助の内容を記録 ※施設によって方法は異なる場合があるため、ご自身が働く施設に合わせて実施。 ※内服後、利用者に状態の変化がないかを確認。 |
利用者への説明方法と服薬支援
利用者への明確な説明と適切な支援は、服薬介助に欠かせません。十分な情報提供により、利用者自身が治療に積極的に参加することを促しましょう。情報提供の際には、薬剤情報を視覚的な資料やデジタルツールを用いて提供することも有効です。服薬支援を実施する際の工夫として、以下に具体例を示します。
内服前
薬の名前と利用者が一致していることを確認し、その場で日付や利用者のお名前を声に出すことで、介助者と薬を服用する利用者でダブルチェックができ、間違いを防げます。
薬剤の種類による支援方法のポイント
▼錠剤やカプセルの場合
1つずつ舌の上に乗せることで落薬を防止できます。
▼舌下剤の場合
唾液で溶かして吸収させるため、かみ砕いたり飲み込んだりしないように注意が必要です。
▼液体の場合
容器を振って中身を均一にして、コップや吸い飲みで少しずつ服用を促します。
▼粉薬や顆粒剤の量が多く、かつ利用者の飲み込む力が弱い場合
服薬する際にオブラートに包み、何回かに分けて服用します。
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服薬介助時の注意点
1.適切な飲み物の選定
薬剤を服用する際に使用する飲み物の種類は重要です。多くの場合で水が推奨される理由は、薬剤との相互作用を避けるためです。そのため、基本的には水での服用が推奨されます。
また、服用しやすくなるようにぬるま湯に温める、むせやすい方にはとろみをつけた水で対応する場合もあります。利用者がどうしても水での服用に抵抗がある場合は、カフェインの少ないお茶や麦茶、玄米茶などでも対応できます(必ず医師に事前確認を行いましょう)。
薬剤には、牛乳やグレープフルーツジュースなど、特定の飲料と一緒に服用すると効果が変わってしまうものもあるので、こうした飲料による服用は避けましょう。
服薬時に使用する飲料の知識は、服薬介助を行う上で基本的かつ重要な事項の一つです。
2.誤嚥防止策
高齢者の場合、誤嚥はしばしば起こり得ます。誤嚥を防ぐためには、飲み込む力が衰えている利用者に対して、薬を細かく砕いたり、水やほかの飲料で服用しやすくしたりするなどの配慮が必要です。
薬を服用する際には、利用者の体を起こすことも基本です。ベッドで服用する場合は角度を45度以上に調整するか、利用者の姿勢を横向きに変える。椅子や車椅子で服用する場合は足を床にしっかりとつけてやや前傾の姿勢にし、顎をひいた体勢をとるなど、服薬しやすい姿勢をとれているか確認することが、誤嚥を防ぐ重要なポイントです。
3.日付・名前確認による誤投薬防止
先にも触れたように、服薬介助の際に日付と利用者の名前を必ず確認することは、誤投薬を防ぐための最も基本的なプロセスの一つです。特に、多くの利用者を抱える施設では、個人を特定するための厳密な確認作業が不可欠です。
以下に日付・名前を確認する一般的なプロセスをご紹介します。
【1】利用者の氏名と薬袋に書かれた氏名が一致しているか必ず事前確認する。他の利用者の薬と取り違えないように気をつける。 【2】複数人を介助している場合も、薬袋は1回に1人分だけを扱うことを意識しておくと服薬介助の正確性がアップする。 【3】後述する「お薬カレンダー」の活用も検討する。 【4】ただし、食堂など利用者の氏名が書かれていない場所で配薬する場合は、顔と名前を一致させる手順が必要。適宜、職員間で連携を図りながら対応する。 |
4.飲み込み確認の重要性
利用者が薬剤を確実に飲み込んだと確認することは、服薬介助の中で特に重要なプロセスです。介護職員は、利用者が薬を飲み込んだことを目で見て確認し、必要に応じて口腔内を確認することが求められます。
利用者がうまく薬を飲み込めない場合は、その原因として嚥下障害の可能性と誤嚥のリスクがあるため、医師や看護師に相談しましょう。また、服用後の変化も確認し、もし利用者の状態に変化が起きた場合は医師や看護師に報告し、指示を仰ぎます。
5.服薬記録の管理
利用者の服薬記録は、その後のケアの質を決定づける重要な情報です。服薬の時間、日付、薬剤名、量など、正確な記録を持つことは利用者の健康管理において必要不可欠です。
しかし、服薬介助は食事時間と並行する場合が多く、誤薬事故などを起こしやすい状況となります。多忙な業務の中では職員間の情報共有が図れず、確実に服用介助を実施できたか曖昧になってしまう場合もあるでしょう。
利用者が服用する薬剤には、下剤や血圧降下剤など、利用者の状態に合わせて内服を判断する薬や、服薬後の副作用に注意が必要な薬もあるため、服薬に関係する情報はすべて記録し、職員間で確実に共有できる仕組みを作ることが重要です。
具体的には、服薬記録をひとつの媒体で行い、簡単に閲覧できるタブレット端末を利用するといったICT化が有効です。
服薬管理のポイント
1.一包化による服薬ミスの低減
薬剤の一包化は、服薬ミスを減少させる上で有効です。利用者ごとに日付と時間帯に分けて個別包装されることにより、包装材から取り出す手間を省けるため、誤投薬のリスクが減少します。さらに、利用者自身が自己管理を行いやすくするため、利用者自身による服薬を支援する効果もあります。
ただし、介護士自身は一包化ができないことに注意が必要です。一包化を実施したい場合は看護師や薬剤師に必ず相談し、対応してもらいましょう。一包化するために費用が発生する場合には、事前に利用者や家族に確認をとることも必要です。
2.「お薬カレンダー」の活用
「お薬カレンダー」は、利用者が自身の服薬を管理しやすくする実用的なツールです。日付が書かれた透明なウォールポケットにより、薬を日付や時間で区切って整理できるため、薬を服用するタイミングが一目でわかります。
薬の飲み忘れを防ぎ、飲み忘れた場合(薬の取り出し忘れ)も一目でわかるため、活用することを積極的に検討しましょう。また、朝晩のみの服用で昼は服用なしの場合など、服薬が不要な場合は「薬なし」と分かるように記載することがポイントです。
技術の活用:服薬介助支援ツール「めでぃさぽ」の紹介
服薬介助に欠かせない主なポイントは、誤薬防止と服薬記録です。誤薬防止では利用者の氏名を間違えないように目視で確認する、服薬記録は紙で残したり、あとからその情報を介護記録システムに入れたりして管理している場合が多いです。
しかし、ここまでに触れてきた通り、服薬介助はスタッフの記憶を頼りに行われる場合があります。そのため、施設での勤務歴が浅い職員が担当した際には利用者の顔と名前を覚えきれていないなどによって間違いが起きやすく、また経験のある職員がフォローするにも業務状況により限界があります。
例えば、服薬介助支援ツール「めでぃさぽ」は、顔認証によって本人確認を確実に行うことで服薬介助を支援するツールとして有用です。簡単に導入可能で、めでぃさぽで登録した結果は服薬実績として記録が登録されます。そのため、服薬介助の際に「誰が、誰に、誰の薬を渡したか」の情報をチェック可能。薬は薬包を撮影して文字認識するため、QRコードなど薬局との調整が不要ということも特徴です。また安全性が高まるだけでなく、配薬業務が誰でも可能になることで、介護職員の精神的な負担の軽減も期待できます。
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まとめ
高齢者は歳を重ねるにつれ1度に数種類の薬を服用することが増え、体の状態により介助が必要になる場合があります。薬の影響は体に出やすく、服用方法を一歩間違えると最悪命に関わることを常に考慮しなければなりません。そのため、服薬介助は施設のルールを守りながら細心の注意を払って実施することが求められます。
近年は、ICTの活用により服薬介助時の安全と効果を高められるようになりました。日々、実務に取り組む介護従事者の思いや努力を支えるためにも、こうしたツールの導入を積極的に検討されることをおすすめします。本コラムが利用者との長期的な関係構築に役立ち、介護者がもつ責任と貢献を果たすための参考になれば幸いです。
著者プロフィール
梅木 駿太
合同会社Re-FREE 代表/経営パートナー/医療経営・管理学修士(MHA)
理学療法士として医療・介護の現場を経験したのち、管理職として部門運営を経験。その後、複数の介護事業所を有する医療法人の事務長として医療介護経営に従事。現在は特に50床以下の小規模病院・クリニック・介護事業所を中心に、経営支援を行っている。長期的な戦略に基づいた、実効性の高い支援内容に定評がある。
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