2024年度の介護報酬改定|新要件となる生産性向上推進体制加算のポイント

公開:2024年10月23日

3年に1度行われる介護報酬改定。2024年に実施された改定のポイントは『生産性向上推進体制加算』の導入です。同加算では、介護サービスの生産性向上を目指した介護ロボットやICTの導入、および職員の役割分担を明確化する取り組みが評価されます。

介護業務の生産性向上は今後ますます求められ、働き方の改善や介護人材の採用など経営全体にも大きな影響を及ぼすでしょう。そこで、本記事では『生産性向上推進体制加算』の概要や算定要件をはじめ、同加算の取得に向けたポイントや期待される効果について、解説します。

生産性向上推進体制加算の概要

2024年に実施された介護報酬改定では『生産性向上推進体制加算』が導入されました。高齢化社会の進行、そして少子化から恒常的な人材不足に悩む介護業界において同加算は大きな役割を果たす可能性があります。まずは、概要について理解を深めましょう。

生産性向上推進体制加算が新設された背景

人口が減少局面を迎えた日本。2020年の総人口1億2,815万人(生産年齢人口7,509万人)から、2040年には1億1,284万人(生産年齢人口6,213万人)に減少する推計が発表されています。

65歳以上が全人口の35%と推計される中で、厚生労働省は『第9期介護保険事業計画』にて約240万人の介護職員を確保する必要性を打ち出しています。

厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」より引用
画像:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」より引用

<参照>
厚生労働省「我が国の人口について」
厚生労働省「介護人材確保に向けた取組」

加算の目的・意義

介護領域の人材不足を背景にして、厚生労働省は生産性向上推進体制加算の導入により、介護サービスの生産性を向上する各施設の取り組みを後押ししています。

同加算の主な評価ポイントをまとめました。

◆介護現場における生産性向上の推進
◆介護ロボットやICTなどテクノロジーの導入、および継続的な活用支援
◆利用者の安全ならびに介護サービスの質の確保、および職員の負担軽減に資する方策の検討
◆委員会の開催、および安全対策の実施
◆見守り機器などのテクノロジーを1つ以上導入
◆生産性向上ガイドラインの内容に基づいた継続的な業務改善
◆業務改善に効果を示すデータを定期的に提供

算定要件の詳細

生産性向上推進体制加算は『加算(Ⅱ)』の取得後、『加算(Ⅰ)』の取得を目指すように設計されていることが特徴です。ここからは算定要件の詳細について解説します。

※ちなみに、生産性向上推進体制加算の対象は
『短期入所系サービス』
『居住系サービス』
『施設系サービス』
となります。通所系および訪問系サービスは対象外です。

加算(Ⅱ)の要件

加算(Ⅱ)は月10単位。加算取得には以下の要件を全て満たす必要があります。

◆利用者の安全や介護サービスの質の確保、職員の負担軽減に向けた委員会の開催(3ヶ月間に1回以上)および安全対策の実施
◆生産性向上ガイドラインに基づいた業務改善の継続的な実施
◆見守り機器などのテクノロジーを1つ以上導入
・見守り機器
※見守り機器の運用については、事前に利用者の意向を確認し当該利用者の意向に応じて、機器の使用を停止するなどの運用は認められる
・インカムなどの職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器
・介護記録ソフトウエアやスマートフォンなど、介護記録の作成の効率化に資するICT機器
※複数の機器の連携も含め、データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る

◆1年以内ごとに1回、業務改善による効果を示すデータを提供
(提供が求められるデータ)
・利用者のQOLなどの変化(WHO-5など):5名程度
・総業務時間および当該時間に含まれる超過勤務時間の変化:介護機器を導入したフロアの介護職員
・年次有給休暇の取得状況の変化:介護機器を導入したフロアの介護職員

加算(Ⅰ)の要件

加算(Ⅰ)は月100単位。加算(Ⅱ)との違いは『算定単位数』『提供データの種類』『データ対象者の範囲』『テクノロジー機器の導入数』の4点です。

加算取得には以下の要件を全て満たす必要があります。

◆加算(Ⅱ)の要件を満たし、 加算(Ⅱ)のデータで示された業務改善の取り組みによる成果が確認されている。

なお、上記データに加え下記項目の記載も必要です。
・心理的負担感の変化(SRS-18など)
・機器の導入による業務時間(直接介護、間接業務、休憩など)の変化(タイムスタディ調査)
※データ収集の対象範囲は、加算(Ⅱ)での機器導入フロアとは異なり、加算(Ⅰ)では全ての介護職員となる

◆見守り機器などのテクノロジーを複数導入する
少なくとも加算(Ⅱ)で解説したテクノロジーの種類を全て使用することであり、その際、見守り機器は全ての居室に設置し、 インカムなどのICT機器は全ての介護職員が使用することとなる
※見守り機器の運用については、加算(Ⅱ)と同様に事前に利用者の意向を確認し、当該利用者の意向に応じて、機器の使用を停止するなどの運用は認められる

◆職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活動など)の取り組みを行っている

なお、加算(Ⅱ)から加算(Ⅰ)の取得を目指すには、テクノロジーの導入後に生産性向上の取り組みを3ヶ月以上継続した上で、当該介護機器の導入前後の状況を比較する必要があります。

<参照>
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について(P112、P113)」
厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1236」

生産性向上推進体制加算の取得に向けたポイント

生産性向上推進体制加算を取得するためには、下記5つのポイントを意識することが欠かせません。それぞれ解説します。

委員会の設置と運営

利用者の安全、並びに介護サービスの質向上や職員の負担軽減に資する方策の検討を目的として、委員会の設置義務があります。委員会の設置は、2024年(令和6年)から3年間の経過措置があるものの、加算の取得には委員会の設置が必要です。

委員会の設置に必要なポイントを下記にまとめました。

◆設置単位:法人全体、施設・事業所単位、近隣などの複数施設・事業所共同
◆開催形態:単独開催、他委員会と同時開催、他会議・ミーティングと同時開催
◆開催周期:月1回、複数月に1回
◆開催方法:オンライン、対面、オンライン・対面併用
◆参加職種と役職:介護職・医療職・その他(現場職員・リーダークラス・施設長・管理者など)
◆実施の流れ:現場からの意見収集、および検討結果の現場へのフィードバック
◆取り扱う議題:課題の見える化、役割の明確化、導入するテクノロジーの検討、教育・研修など

<参照>
厚生労働省「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会のポイント・事例集」

『生産性向上ガイドライン』の理解

厚生労働省は、施設系サービス・居宅系サービス・医療系サービス『介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン』を公開しています。その他、複数の参考資料も公開されているので必要に応じて目を通しておきましょう。

一例として、施設系サービスのガイドラインを参考に改善活動プロセスをご紹介します。

▼改善活動の準備:チームの立ち上げ、リーダーの決定、外部研修会の活用
▼現場における課題の見える化:時系列で施設・事業所の課題を観察し、管理者と職員が考える課題認識の差を把握
▼実行計画の立案:考えられる案を出し合い、課題解決までの道筋を描いて共有。成果を測定する指標を定める
▼改善活動の実施:まずは取り組み、トライ&エラーを繰り返す
▼改善活動の振り返り:取り組みに対する成果を可視化するために効果測定を行う
▼実行計画を練り直す:上手くいった点といかなかった点に分析を加え、改めて実行計画を立案

上記のサイクルを繰り返し、生産性向上を目指します。

<参照>
厚生労働省「介護分野の生産性向上 ~お知らせ~」
厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」

テクノロジーの選定と導入

委員会などを通じて可視化した現場における課題の解決を目指し、適したテクノロジー機器を選定します。

【生産性向上推進体制加算の対象となるテクノロジー機器】

◆見守り機器
◆インカムなどの職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器
◆介護記録ソフトウエアやスマートフォンなど、
 介護記録の作成の効率化に資するICT機器

業務改善効果の収集

生産性向上推進体制加算のうち『加算(Ⅱ)』の算定要件に「生産性向上ガイドラインにもとづいた業務改善を継続的に行うこと」とあります。上述した厚生労働省『生産性向上ガイドライン』に沿って改善活動のサイクルを回していきましょう。

【生産性向上推進体制加算に必要な業務改善効果のデータ】

◆加算(Ⅱ)

・利用者のQOLなどの変化(WHO-5など)
 :5名程度
・総業務時間および当該時間に含まれる超過勤務時間の変化
 :介護機器を導入したフロアの介護職員
・年次有給休暇の取得状況の変化
 :介護機器を導入したフロアの介護職員

◆加算(Ⅰ)

加算(Ⅱ)の内容に加え、
・心理的負担感の変化(SRS-18など)
・機器の導入による業務時間(直接介護、間接業務、休憩など)の変化(タイムスタディ調査)

※加算(Ⅰ)におけるデータ収集の対象範囲は、加算(Ⅱ)での機器導入フロアとは異なり、全ての介護職員となる

職員間の役割分担

加算(Ⅰ)の取得を目指す場合には、職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活動など)が必要です。

独立行政法人福祉医療機構による調査によると、特別養護老人ホームでは全体の61.3%で介護助手を配置しており、そのうち72.0%の施設では介護職員の負担感が減少したというデータがあります。

介護助手の活用は、介護職員の負担軽減に貢献すると考えられるでしょう。

<参照>
独立行政法人福祉医療機構「2023 年度特別養護老人ホームの人材確保に関する調査について」

生産性向上推進体制加算の導入で期待される効果

同加算により『利用者の安全性の確保』『職員の負担軽減』『経営面への好影響』を期待できるでしょう。それぞれのポイントについて解説します。

利用者の安全性の確保

数あるテクノロジーの中でも、見守り機器の導入は効果的と言えます。職員の定期訪室だけでは防ぎきれなかった利用者の転倒や状態変化に対して、予防および早期発見が期待できます。

厚生労働省による『介護現場でのテクノロジー活用に関する調査研究事業(結果概要)』でも、見守り支援機器導入時に感じられた効果として「ヒヤリハット・介護事故の防止(66.2%)」「ケアの質の向上(45.6%)」といった施設の声が上位です。

職員の負担軽減

見守り機器による訪室頻度の低下や、インカムによる職員間の円滑なコミュニケーション、介護記録ソフトウエアを活用したデータ入力の効率化など、テクノロジーやITを利用した職員の負担軽減を実現可能です。

先述した厚生労働省『介護現場でのテクノロジー活用に関する調査研究事業(結果概要)』調査でも、見守り支援機器導入時に感じられた効果として「職員の精神的・肉体的負担軽減(69.7%)」「業務の効率化(57.2%)」が上位回答として紹介されています。

<参照>
厚生労働省『(5)介護現場でのテクノロジー活用に関する調査研究事業(結果概要)(案)』

経営面への好影響

新たなテクノロジーの導入による生産性の向上は事業所全体のサービス品質を高め、新たな利用者の獲得にも寄与することでしょう。

また、職員の業務負担を軽減することで職場環境を改善し、離職率の低下も期待できます。事業所の評価が高まることで、事業所運営に好影響をもたらすでしょう。

まとめ

現場における生産性向上の目的は介護サービスの質の向上、つまり“より良い介護”です。利用者に向けた介護サービスの質向上はもちろんですが、職員にとって働きやすい職場づくりが“より良い介護”の提供に欠かせません。

生産性向上推進体制加算に関連する一連の取り組みに力を入れ、持続可能な施設を実現していきましょう。

        ◇    ◇    ◇

生産性向上推進体制加算の算定要件でもある『テクノロジー機器の導入』を踏まえて、次世代予測型見守りシステム『Neos+Care(ネオスケア)』の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

三次元電子マットと高性能のカメラを用いたシステムは極めて高い精度で、利用者の危険な動きを検知し転倒・転落事故を防止。ケアの質を確保しながら、業務負担の軽減も期待できます。

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著者プロフィール

梅木 駿太
合同会社Re-FREE 代表/経営パートナー/医療経営・管理学修士(MHA)

理学療法士として医療・介護の現場を経験したのち、管理職として部門運営を経験。その後、複数の介護事業所を有する医療法人の事務長として医療介護経営に従事。現在は特に50床以下の小規模病院・クリニック・介護事業所を中心に、経営支援を行っている。長期的な戦略に基づいた、実効性の高い支援内容に定評がある。

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