製造業に影響を与えるCPS(サイバーフィジカルシステム)とは?概念から活用事例まで紹介

公開:2022年09月14日

様々な産業で注目されている「CPS(サイバーフィジカルシステム)」という言葉をご存知でしょうか?CPSは、現実世界とサイバー空間を融合し最適化を図るための仕組みです。このCPSの活用は製造業においても重要視されており、良い影響を与えると期待されています。
そこで本コラムでは、CPSの概要や活用のメリットを解説、併せて企業の活用事例もご紹介いたしますので、参考にしてみてください。

このコラムを読んで分かること

  • CPS(サイバーフィジカルシステム)の概要
  • 製造業でCPSを活用する3つのメリット
  • CPS活用の成功事例

【目次】

  • CPS(サイバーフィジカルシステム)の概要
  • 製造業におけるCPSの活用メリット
  • 製造業におけるCPS活用事例
  • 製造業以外におけるCPS活用の可能性
  • まとめ

CPS(サイバーフィジカルシステム)の概要

まずは、「CPS(サイバーフィジカルシステム)」とは何か、また、類似するIoTやデジタルツインについてご紹介します。

CPSとは

「CPS」とは、「Cyber-Physical System(サイバーフィジカルシステム)」の頭文字を並べた略称で、現実世界(フィジカル)で収集した様々なデータや情報を仮想空間(サイバー)で融合させ、分析や解析を行い、現実世界(フィジカル)へフィードバックすることで最適化を図る仕組みです。また、現実世界のデータや情報の一部を意図的に変更し仮想空間でシミュレーションを行うことで、問題点の原因究明や、最適な手法・手段・スケジュールの策定なども可能です。
このようにCPSは現実世界に必要かつ最適な答えを導き出します。

類似するIoTやデジタルツインとは

現実世界の情報やデータと仮想空間を相互的に作用させ活用するCPSですが、類似する言葉にIoTやデジタルツインなどがあります。CPSの概要理解のためにも、これらについても理解しておきましょう。

まず、「IoT(Internet of Things)」とは、「モノのインターネット」のことで、センサーを備えたスマートフォンや家電などのあらゆる「モノ」をインターネットに接続して、情報をやり取りします。IoT化する目的は、その伝達される膨大なデータの活用ですが、IoTには「モノ」をインターネット化する技術しかありません。そのため、IoTはあくまでも「モノ」を中心に考えるのが特徴で、インターネットを経由して「モノ」からデータを受け取ることに重点をおいています。つまり、CPSのファーストステップがIoTと言えるでしょう。

次に「デジタルツイン」とは、現実世界から集めた情報・データをコンピューター上の仮想空間に、双子(ツイン)のようにコピーを作成し再現する技術のことです。IoTなどのデジタル技術の革新により、現実世界の情報収集が容易になったことで、ほぼリアルな空間を仮想空間に再現可能となりました。
この詳細で正確なデジタルツインを活用し、CPSのセカンドステップ以降の作業であるデータの分析・解析、シミュレーション、そして現実世界へのフィードバックが実行されます。高度なシミュレーションが可能なデジタルツインはCPSに欠かせない技術の1つと言えます。

CPSが今注目される理由

さて、ここからは今CPSが注目される理由について解説します。
CPSの大きな特長は、データを定量的に分析して、フィードバックまで行えることです。これまでは人が作ったシナリオを基にシミュレーションを行うのが一般的で、現実世界に近い環境で再現されているとは限りませんでした。しかし、デジタル技術の進歩により膨大なデータをリアルタイムで収集し仮想空間で処理することが可能になりました。人の想定や仮定のない空間で現実世界のシミュレーションが実行できるようになったことで、CPSへの注目が一気に加速したと言えるでしょう。
CPSの仕組みは、特にこれまで経験者の知見と勘に頼ることも少なくなかった製造業においては特に、データをもとにした確かな技術を次世代に引き継ぐための基盤になるでしょう。そのほか、社会システムの効率化や新産業の創出、知的生産性の向上なども期待できるため、あらゆる産業でCPSが注目されているのです。

製造業におけるCPSの3つの活用メリット

製造業でCPSを活用することにより、様々なメリットが生まれると予想されています。ここでは、製造業におけるCPSの具体的な活用メリットを3つ紹介します。

1.生産ラインを最適化できる

CPSの活用メリットのひとつは、生産ラインを常時最適化できることです。
現実世界で収集したデータを仮想空間に取り込み、定量的に分析して最適な答えを導き出すCPSの特長を活用すれば、先を見据えた最適な人員計画や生産計画を立案したり、現実世界で起こるトラブルに予め対策を講じたりすることが可能になります。また、新製品導入時には、過去に製造した商品の加工履歴と現在のラインを照合し、事前に仮想空間でシミュレーションを行うことで、製造工程におけるリスクを把握することもできます。こうしたことがCPS上では短時間で実行できるため、常に生産ラインを最適化できるのです。

2.仮想空間に工場を再現できる

CPSは、現実世界と仮想空間を一体化させるだけでなく、仮想空間上に工場を再現できます。再現した仮想工場では、現実世界では困難かつコストがかかってしまうモデリングやシミュレーションが容易に行えます。
つまり、CPSを活用することでこれまでは諦めていたような試作ができ、現実世界であれば必要な原材料や工数、試作時間など様々なコスト削減も可能です。設備投資計画も立てやすくなるでしょう。

3.生産の自動化をハイレベルにできる

データを定量的に分析しフィードバックまで行えるCPSを活用することで、これまで経験や勘に頼って一部の人間だけしかできなかったことも、数値化し分析が可能です。「匠の技」と言われていたような見えない財産がデータによって導き出されれば、人間には不可能なことも産業用ロボットに代行させることができるでしょう。
また、データを基に品質異常を予測する、装置の故障を予兆することで保守や点検作業にかかっていた時間を大幅に削減することも可能となります。
つまり、CPSは生産性も品質も高めることができます。

製造業におけるCPS活用事例

ここでは、CPSを活用し成功している製造業の事例をご紹介します。ぜひ、自社での導入の参考にしてみてください。

新規製造ラインの人員や製品置き場の最適化にCPSを導入

家電製品をはじめ産業機器の開発などを行なっている大手電機メーカーでは、生産シミュレーターの活用や、生産ラインの見直しなど、様々なCPSの取組を行っています。なかでも大きな成果が得られたのは、同社の電池事業です。
製造ラインの効率化と製造コストの削減が急務となっていた状況下で、まず注目したのは無人搬送車(AGV)の活用です。AGVを導入しオペレーション設計を最適化するために、CPSを活用。スピーディーなシミュレーションにより、既に生産ラインがある工場であっても半年でAGVを導入することができたそうです。
また、新規の製造ラインの人員や製品置き場の最適化を図るためにも、CPSを導入。シミュレーションに要した時間は、CPS導入前と比べて10分の1の時間まで短縮できたといいます。

CPSを活用し生産ラインの「ちょっと先の未来」を予測

ネットワーク機器や装置、システムの製造を行う電機メーカーでも、自社工場でCPSを実践しています。
CPSに取り組むきっかけは、変種変量生産に臨機応変に対応できるようにするためでした。効率的な生産を行うには、工場の全工程のスケジュールや条件を、リアルタイムで最適化できる仕組みが不可欠だったのです。
そこで同社はCPSを活用し、現在のコンベアラインの状況と、次に加工される製品に関する過去の作業履歴をベースに、生産ラインの「ちょっと先の未来」を予測。ちょっと先の未来が可視化されたことで、生産スケジュールの乱れやライン停止の未然防止を可能にし、従来の18%も生産性を向上させました。

製造業以外におけるCPS活用の可能性

CPSは製造業だけでなく、様々な産業に多くのメリットをもたらす可能性を秘めています。ここでは、活用が期待されている、農業とファシリティ業界向けのCPSシステムをご紹介します。

農業に貢献するCPS

製造業と同様に、経験と勘が貴重な財産である農業。そのため経験が浅い人では安定的な生産が難しいとされています。また、そもそも農業の担い手が不足しているという問題も抱えています。そんな農業の世界で、CPSはどのような活用が考えられているのでしょうか。

ITソリューションを提供するある企業では、CPSを活用して作り手に必要な農作業を伝えるシステムを開発しました。具体的には、田んぼや畑などに設置した機器が気温や水温、湿度などの環境データを収集。インターネットを介して、データを見える化します。さらに、収集したデータはクラウド上で、植物科学の知見を取り入れたAI(人工知能)で分析。日中の気温が一定を上回った際などに作り手へ報告すると共に、対処方法を伝えてくれます。
CPSの活用によって、最適な栽培方法を提案し農業従事者を支援するだけでなく、品質向上・農作業の効率化なども期待されています。

スマートメンテナンスの実現にCPSを活用

安全が最優先される施設や設備等の維持管理・保全作業には、日々多くの人が関わる必要がありました。しかし昨今、ファシリティ業界は、故障や不具合の有無に関わらず定期的にメンテナンスを実施する考え方から、ICT・IoTを活用し必要な時にメンテナンスを実施する考え方へと転換しつつあります。

鉄道・建物・設備等の維持管理を行う企業では、CPSを活用しスマートメンテナンスを実現しています。具体的には、建物や設備の維持管理によって蓄積した様々なデータや、センサーから取得した温湿度やCo2濃度の情報、天気などの外部情報を全てクラウド上のプラットフォームに集約。AIやBIツールを活用しフロアの状況を可視化して、環境の改善を提案してくれます。また、過去の空調データを分析し、将来的にいつ負荷がかかるかを予測。より正確な予知保全を実現するだけでなく、設備運用の改善案をデータに基づいて導き出します。
限られたリソースを最大限に活用するための取組に、CPSが活かされています。

まとめ

今回は、CPS(サイバーフィジカルシステム)の概要や活用事例などについてお伝えしてきました。今回の内容を改めてまとめます。

<このコラムのPOINT>

  • CPSは、現実世界(フィジカル)と仮想空間(サイバー)を融合させて、一体化を図る仕組みのこと
  • CPSの特長は、現実世界のデータを仮想空間に取り込んで蓄積し、蓄積したデータを定量的に分析し、現実世界に必要かつ最適な答えを導き出せること
  • CPSを導入し、生産性を向上させた企業の事例も増えている

CPSと関連して、製造業の業務効率化や生産性向上を促進する「スマート工場」や「OODA(ウーダ)ループ」などについても詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。

「スマート工場(スマートファクトリー)において製造業が抱える課題とやるべきこととは?~事例とともにご紹介~」 を読む

「DX推進に必要なOODAループと貢献するソリューションとは」 を読む

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